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今より一歩進んだAIの使い方を確立して、“空気が読めるロボット”をつくれたら面白い!

2018年3月9日掲出

工学部 電気電子工学科 坪川 宏 准教授

坪川 宏教授

 スマートフォンやセンサ、IoTデバイスとそれらのネットワークに関する研究に取り組んでいる坪川先生。今回は、今、東京工科大学が全学的に力を入れていて、学生の興味関心も強いAI(人工知能)に関わる研究を中心にお話いただきました。

■先生のご研究についてお聞かせください。

 私自身の研究テーマは、IoT(Internet of Things)とネットワークが混ざった分野で、コミュニケーション支援をメインにしています。例えば、スマートフォンやパソコンを使って、高齢者や障碍者の方たちの暮らしをいかに快適で不便のないものにするかというテーマで取り組んでいる研究があります。具体的には、高齢者の見守りのひとつとして、表情や声からその人の状況や気持ちをAI(人工知能)で分析して知ることができないかという研究です。現状、すでにAIを使って表情や声からその人の状況を読み取るというものはあるのですが、この研究室では「今」の状況ではなく、その「先」を予測しようと挑戦しています。
 例えば、人には何かしらの癖がありますよね。困っているときに鼻の下を触るとか、イライラしているときに腕を組み始めるとか。また、怒るときは急に心拍数が上がるのではなく、怒りが増すとともに徐々に上がっていきます。そこである感情になる前に、兆候として表れるその人の癖や心拍数の変化から、数分後に訪れる可能性のある感情の変化を予測できないかと研究しているのです。
 現状、カメラやセンサがひとつになったシステムを使って、人の表情や仕草、心拍数を捉え、どういう感情がどのくらいの割合あるというところまでは、わかるようになりました。今後は、この研究の主題である数分後の未来の感情を予測するという部分の検証に入る予定です。AI自体は人の表情から喜怒哀楽を判定することは得意なので、今度はその感情の表情になる以前に起きた仕草からその表情が出るまでに要した時間などの情報を取って、それを自動的に学習していく機構をAIに組み込もうと考えています。また、将来的には、研究成果を活かして、“空気が読めるロボット”のようなものができないかと考えています。例えば、ペット型ロボットが高齢者を見守っている方に「今からこういう感情になりそうだ」ということを伝えるなんてことができるかも知れません。

 AI関連では、他に個人情報を守るための研究もあります。今、スマートフォンやセンサ、カメラなどの機器は、小型化、高性能化してきていますが、それに伴いセキュリティの問題も発生しています。例えば、スマートフォンで写真を撮って、SNSなどのネット上で公開している方はたくさんいると思いますが、そこに何気なく映った手の平から指紋情報が読み取られる可能性が指摘されています。これはカメラの高性能化による弊害ですね。そこで私たちは、写真の中から指紋の部分を取り出して、そこだけ解像度を下げて、使われないようにするという研究に取り組んでいます。これも従来からあるAI、具体的には機械学習と呼ばれているものですが、それを使えば指先部分の画像を取り出すことは可能です。ただし、指先が顔や他の肌色の部分と重なると、非常に精度が落ちるという問題があります。そこで最近のAIを活用して、顔と指先が重なっているかどうかを識別させるというテーマに取り組んでいるのです。現状、9割くらいは肌色の重なりを正しく判定して、指先の指紋部分の解像度だけを落とすことができました。ただし、これは顔と指先が重なる場合に対しての検証だったので、それ以外の肌色の部分で本当に有効に働くのかはわかっていません。今後はそこを含めて、研究を進めていきたいと思っています。

■他には、どういうご研究がありますか?

 研究室のメインとなるもうひとつの研究に、災害時や非常時にスマートフォンをいかに有効に使うかというものがあります。2011年の東日本大震災では、スマートフォンを持っている方はたくさんいましたが、インターネットに繋がらなくて、宝の持ち腐れになったことがありましたよね。特に被災者の方たちは、避難所に何が足りないのか、今、何をしてほしいのかといった情報を共有できるツールがあると便利だったはずです。そこでIoTやネットワークを使って、そういう非常時の不便解消に繋がる研究を行っています。
 例えば、インターネットに繋がっていなくても、ごく限られた範囲内であれば、スマートフォンで通話をしたり、画像情報を送ったりすることは可能です。というのも通信機器には、基地局やアンテナがないところでも繋がることができる機能が搭載されているからです。身近な例では、子どもたちが通信対戦しながら遊んでいるニンテンドーDS。あれは「アドホック通信」というもので、ネットを介さずに端末同士が直接繋がって、同じゲームをそのグループ内で行っています。実はスマートフォンにもそれと似たような機構が搭載されているので、災害時に複数人でネットワークをつくることは可能なのです。ただし通信できる範囲は周囲100mほどが限界なので、地域コミュニティなど限られた範囲内での使用になります。そういう技術をベースに、スマートフォンやIoT機器で情報共有できるシステムを実現しようと取り組んでいます。

■今後の展望をお聞かせください。

 研究では、現状のAIの活用方法からもう一歩進んだ使い方ができるようにしたいと思っています。例えば、最初に話した“空気を読む”といった予測にうまく活用できるようにしたいですね。
 また、教育者としては、起業する学生を輩出できたらうれしいです。そのための下地を、この学科や研究室でつくってあげられたらと思っています。私の学生時代とは違い、今は身近にあるスマートフォンやIoTデバイスを使って、アイデアさえあれば、自分の考えを形にできる時代です。特にハードウェアとソフトウェアの両方を学ぶ電気電子工学は、それができる分野です。あとは失敗してもやってみようという挑戦心みたいなものを、学生にうまく持たせてあげられるように指導していきたいですね。

■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 皆さんの中には、AIは将来の職を奪うという危機感があって、進路決めに悩む人もいると聞きました。自分の夢みた職業が「将来、AIにとってかわられる職業ランキング」の上位に出てくると、それ以外の方向に進もうと考える人もいるようです。AIに対しては、そういう見方ももちろんできると思いますが、逆に人が辛くてできない仕事にAIを活用できる可能性もあって、それを開発する人の新しい職を生むことになるという面もあります。ですから失うばかりでなく、創り出すこともできるということをうまく理解してほしいですね。
 今は、エンジニア不足の時代ですが、AIが必要とされればされるほど、一層、エンジニアは必要とされます。坪川研究室ではAIをうまく使いながら、高齢者や障碍者の方たちの役に立つようなハードウェア、ソフトウェアの開発や個人情報を守る方法、IoTデバイスを活用する方法を研究しているので、ぜひ皆さんに協力してもらいたいですし、ここから未来のエンジニアを目指してもらいたいです。

・次回配信は5月を予定してます。