大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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「肌のトラブルが起こるメカニズムを解明する」

応用生物学部 芋川玄爾 教授

■先生の研究室では、機能性化粧品に関連した研究をされているそうですが、具体的にはどのようなことに取り組んでおられるのですか?

さまざまなことを行っていますが、基本的には皮膚の老化に関連するトラブルの原因究明です。皮膚の老化の原因は、自然老化もありますが、多くは紫外線によるところが大きいです。特に紫外線が当たりやすい顔の皮膚には、トラブルが多いですよね。シミ、シワといった光老化。また、繰り返し紫外線に当たることで皮膚の代謝の営みが乱れ、乾燥しやすくなったり、ざらざらになったりと、皮膚の表面上のトラブルが起きてくるわけです。そうした肌のトラブルがどういうメカニズムで起きているのかを調べることが、私の研究室の一番大きな役割です。実際に化粧品をつくるわけではありませんが、それに役立つ重要な研究を行っているのです。
研究の目的は、あくまでも肌のトラブルを防ぎ、老化の進行を遅らせることをめざしているわけですが、そのメカニズム解明のためには皮膚の病気の範囲も研究対象としています。典型的な例ですと、老人性色素班や老人性疣贅(ゆうぜい)。それらの細胞と健康な皮膚の細胞との違いを調べています。また、アトピー性皮膚炎のメカニズムを解明することで、乾燥肌や敏感肌のメカニズムを知ろうと試みています。こうした細胞レベルでの実験を繰り返し、メカニズムを知ることができると、そのメカニズムに沿って効果を発揮する素材についての研究を行います。素材は研究室で用意することもありますし、化粧品メーカーや医薬品メーカーから持ち込まれ、委託研究という形で請ける場合もあります。

■最近では、どういった素材の研究をされているのでしょうか?

非常に強い抗酸化力を持つ、アスタキサンチンという物質があります。これはイクラや鮭、エビやカニなどの赤色の色素の一つです。これまでは食の方面からアプローチした研究が多かったのですが、私たちの研究室では皮膚という面から研究をはじめ、それを塗れば皮膚の老化にある程度の効果があるという発見をしました。もう少し具体的に話すと、紫外線にはUVA(A波)、UVB(B波)、UVC(C波)という三つの分類があります。この中でC波はオゾン層でブロックされるので地球上には届きません。B波は、皮膚の表面にある表皮に届きます。そしてA波は、真皮といって血液が循環している皮膚の奥まで届くのです。このA波が真皮にまで届くと、真皮の中でつくられていたコラーゲンを壊す酵素が出てきます。コラーゲンが減少すると皮膚のたるみなどに繋がります。それを防ぐのにアスタキサンチンは有効で、また紫外線に当たった後でもそれを投入すればコラーゲンの減少を防げるということを突き止めました。こうした研究を踏まえて、9月末に開催されたアスタキサンチン研究会では本研究室の大学院生が発表を行い、奨励賞を頂戴しました。

■先生は、どういう経緯でこうした皮膚の研究をはじめられたのですか?

私はもともと花王生物科学研究所にいて、化粧品の開発をしていたのです。また、皮膚科の医学博士でもありますから、皮膚の基礎的・生理的な働きに着目し、そこから皮膚にとって良い作用のあるものやトラブルを防ぐようなものを考えていこうと取り組んできました。例えば、研究開発した製品には、ビオレという洗顔料やキュレルといった乾燥性敏感肌のための製品があります。いずれもセラミドという皮膚の角質層の重要な成分を守る工夫がされた製品です。こうした製品を生み出した背景には、私がセラミドの働きを発見したことが大きく関係しています。随分若い頃の話ですが、腕にアセトン/エーテルという溶剤を1分間ほど当て、皮膚上にある皮脂を取って、皮脂分泌量を測定するという実験をしていました。ところが研究室の誰かが間違えて、1分で良いところを30分近く、腕に当ててしまったのです。そうすると肌が荒れてしまった。それまでの理論では、アミノ酸や水溶性の成分が水を抱えていて、皮膚の保湿が保たれているのだと考えられていました。実験に用いたアセトン/エーテルは脂分しか取り出せません。ですから水溶性成分を皮膚から取っていないのに肌が荒れたのはなぜだろうとなったわけです。詳しく調べてみると、セラミドが皮膚からたくさん抽出されていたことが分かりました。次に、なぜセラミドが減ると、皮膚の水溶性成分が減るのかを調べたところ、セラミドは非常に水と馴染みやすく、水と一緒になって液晶構造をつくっていることが明らかになったのです。こうした研究からセラミドがすごく各層の保湿に大事な役割をしているのだと分かりました。研究というものは、こんなふうにアクシデントから成功する場合が少なくありません。私もそうして発見をした一人というわけです(笑)。

■では、先生にとって研究の魅力とは、どういうところにあると思われますか?

ひとつの分からないこと、不思議だと思うことが、だんだん分かってくること。つまり、真理の探究ということですね。そこが面白いのだと思います。また、企業の場合ですと、最終的には商品に繋がるわけです。自分のつくったもの、発見したものを使うことによって、シミやシワ、育毛で悩んでいる方やアトピー性皮膚炎で悩む患者さんにも喜ばれる。それはやはりうれしいことではありますね。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

今、ちょうど面白い研究に取り組んでいるところです。私の研究室では、学生にどういう研究がしたいかを尋ねるようにしているのです。もちろん、皮膚のシワ、シミ、乾燥といった大きなテーマの流れはあるのですが、その中で、ある学生がヘアダイ(髪染め)を研究したいと言い出しまして。ただヘアダイは、染色の研究になるため、皮膚を扱う私の研究室では方向が合わないわけです。そこでよくよくその学生に聞いてみると、髪を染めることよりも髪の色に興味があるというのです。それならばと、ヘアダイを使わずに髪の色を変える研究をしてみようと提案しました。そうすれば、頭皮や細胞が関わってきますからね。この研究は、非常に難しいとは思いますが、決して夢物語ではありません。欧米人の多くは生まれたときから黄色い髪や金髪ですから、その髪の色をつくるメカニズムさえ分かれば、実現可能なのではないかと思います。白髪を黒色に戻すことも可能かもしれませんし、何かをふりかけるだけで髪色を自由に変えられる時代がくるかもしれません。このように、一言で皮膚といってもさまざまな角度からユニークな研究に取り組んでいます。今後、どんな研究ができるのか、またどんな結果が得られのるか、学生たちも私自身も楽しみにしながら研究を続けています。

[2008年11月取材]

■機能性化粧品(芋川玄爾)研究室
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio_dep/143.html

・第14回、第15回は12月12日に配信予定です。