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大学の学びはこんなに面白い

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「血液を採らなくても糖尿病が診断できる検査機器を実現させたい」

応用生物学部 教授 後藤 正男

■先生の研究について教えてください。

いろいろと手がけているのですが、メインは医療関連の研究です。大きく分けて二つのテーマを扱っていて、そのうちのひとつは糖尿病検査機器の開発です。簡単に言うと、糖尿病にかかっているかどうかをチェックするためのセンサーを開発しています。糖尿病を診断する際に目安とするのは、血液中に含まれている4種類の生体成分の量です。一つは血糖。それから1,5AG、フルクトサミン、そしてHbA1c(ヘモグロビンA1c)。私の研究室では、この4つの生体成分を計測することに取り組んでいます。なぜ、4種類も検査しなければならないかというと、一つひとつの目的が違っているからです。血糖というのは、血液検査をするその場で血糖値が高いかどうかを見るものです。ですから健康診断のときは、前日の夜は食事を早く済ませるとか、朝食は食べてはいけないなどと言われますよね。それは何かを食べるとすぐに血糖値に影響が出てしまうからなのです。ですから、これだけで糖尿病かどうかを判断することは難しい。そこで残り3つの生体成分の計測が必要になってくるわけです。1,5AGは、2週間くらいの血糖値の状態を表します。フルクトサミンは、3週間くらい。そして一番有効なのはHbA1cで、これは2~3ヶ月くらいの血糖値の状態を教えてくれるのです。ただ、問題はこれらの生体成分を計測するとき、常に妨害物質があるということです。妨害というのはつまり、血糖だけの値が欲しいのに、別のものが同じようにセンサーに反応してしまうということです。そこで私の研究室では、センサーの素材にカーボンナノチューブという選択性に優れた材料を用い、ほしいデータだけを正確に測定する機器をつくろうとしているのです。血糖の測定はほとんど完成しています。あとは残り3つの生体成分のセンサーをなんとか実用化できるように研究しているところです。

■これまでにそうした生体成分を測定する方法はなかったのでしょうか?

いえ、あることはあります。血糖値を測定するキットというものは販売されています。ただ、値段が高く、計測するのに時間がかかるという難点があります。ですから、私の研究室では、低コスト、短時間で計測できるものの開発をめざしているのです。例えば、従来のキットですと、結果が出るまでに10分くらいかかっていました。しかし私の研究室では、血糖の測定ですと10~20秒くらいでできるようになっています。残りの3成分も、30秒くらいで測定できるようにしようと考えています。

■残りの3成分の測定で課題となっているのは、どのようなことですか?

いくつか問題はあるのですが、分かりやすいものですと酵素の問題があります。例えば血糖値を測定する血糖計というものは、小さな針で指先に穴を開けて血液を出し、使い捨てのバイオセンサーに血液を付着させ、そのセンサーを血糖計本体に差し込んで血糖値を測るという仕組みです。そのバイオセンサーの一部にカーボンナノチューブの素材を用いているわけですが、それだけではなくセンサーには酵素をつけています。この酵素が血糖に応答する酵素だとか、1,5AGに応答する酵素だとか、それぞれ違うのです。血糖に反応する酵素は非常に強くて、普通に机の上などに置いていても問題ありませんし、1年間くらいは使えます。ところが他の3成分に反応するそれぞれの酵素は、弱くて管理が大変なのです。そういったことも克服していかなければなりません。

■では、もうひとつの医療関連の研究とは、どういうものですか?

脳波の研究として、α波とβ波の割合を測定しています。α波はリラックスで、β波は緊張を表す脳波です。実験の方法としては、学生が取り組みやすいように、アロマテラピーの効果を数値化しようと試みています。アロマオイルの香りを嗅いだとき、人の脳波はどうなるのだろうかということを調べているのです。よくハーブやアロマオイルはリラックスに有効だとか、医療関連で効果があると言われていますよね。確かに効果はあるんでしょうけれど、明確なエビデンスはないわけです。それを定量的に数値化して表して、調べてみようということをしています。今、研究室では学生たちが植物から精油や色素をつくることに取り組んでいます。これが結構、大変で(笑)。かなり植物の量が必要なんですよね。オレンジの皮から精油を抽出しようと思ったら、60個くらいオレンジを潰して、そこからやっと1ml取れるかどうかという感じです。ただ、せっかく理科系の研究室にいるのですから、精油や色素などの植物成分を抽出するところから取り組んでもらって、分析機器や実験器具の操作方法などを覚えてもらえればと思っています。

■先生は、こうした研究のどんなところに魅力を感じておられますか?

面白さでもあり、大事にしていることでもあるのですが、とにかく“形にする”というところでしょうね。さまざまな研究の仕方があって、基礎的な部分を研究していくことも非常に大切なことですが、私の場合は最終のゴールは必ず形にするというところに置いています。ですから糖尿病の検査機器も実用化をめざしていますし、アロマオイルの方も脳波の測定に留まらず、抽出した精油や色素を製品にしようと取り組んでいます。せっかく研究しているのだから使えるものまでもっていこうと、学生にも指導しているのです。東京工科大学には先端食品コースや先端化粧品コースがあるので、その方面にもこれらの研究が応用できればと考えています。

■最後に、今後の展望をお聞かせください。

まずは、糖尿病を診断するセンサーを仕上げることですね。4つの生体成分を測定できる機器を仕上げられるとうれしいです。あとは糖尿病関係ですと、血液を採らなくても糖尿病が診断できる検査機器を実現させたいと思っています。これには、今、研究室に所属している修士課程の学生が取り組んでいます。かなり難しい研究ですが、これは昔から多くの研究者が狙ってきたテーマで、私もその一人です。本当に実現できればと思っています。
[2008年11月取材]

・次回は1月9日に配信予定です。