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大学の学びはこんなに面白い

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「夢はサッカーボールの再発明!? 面白くて新しい“遊び”を創造しよう」

コンピュータサイエンス学部 准教授 松下宗一郎

■先生の研究室では、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

ゲームやアニメーションなどのコンピュータエンタテインメントを幅広く研究しています。目標はゼロから何かを創り出すことですが、ルールはエンターテインメント(遊び)を追究することとコンピュータを使うことくらい。あとは取り組んでいる本人が面白いと思え、かつ新しいと思えることなら何でもアリという研究室です。例えば、ウェアラブル(身体装着型)コンピュータ、通称「ガンダマイザー」。これはなんと装着した人がガンダムになるという装置です。ヘッドセットに取り付けられたセンサーが装着者の身体特徴を捉え、その運動を察知して、ガンダムの効果音を出すというもの。ですから一歩踏み出せば、ガンダムが歩くときの、あの重厚な機械音がしますし、腕でパンチを繰り出せばビームライフルの発射音が出ます(笑)。これは私が東芝で開発者として働いていた頃、「ブルートゥース」とういう無線通信技術の開発中につくったものです。私なりの遊び心ですね。また、同じセンサーや原理を使って「平衡感覚機能評価装置」というものも開発しました。もともとは医師との共同研究で開発しはじめた装置で、装着した人のバランス感覚を数値化するというものです。任天堂の「Wii Fit」に“バランスWiiボード”という体重計のようなものがありますが、そのヘッドホン版だと思ってください。本来の目的は、病院の耳鼻科で術後の観察用装置として開発しています。平衡感覚機能は耳が司っていますから、それを測定することで患部の位置や薬が効いているのかどうかなどを調べられるのです。ただ、私の研究室ではこの装置の別の使い方を発見していました(笑)。健康な人にこの装置を取り付けると、心の動揺がわかるのです。退屈な会議で長時間座っているときは、身体がじっとしていないとか、翌日に発表を控えている学生は、前日でも身体が揺れているという結果が出ました。心の動揺が身体の揺れに繋がっているかどうかはわかりませんが、少なくとも心拍数や血流では把握できない心の状態をこの装置はキャッチしているわけです。ですから今後はこれを「ゲームにどれだけはまったかセンサー」として開発しようかと考えています。試作品のゲームをプレイしてアンケートに答えるだけでなく、このセンサーによって心の動きも調べてみようかと(笑)。今まで心の評価は、アンケートに答えるといった主観評価でしかできませんでしたよね。だけど人間はそれほど正直ではありませんから、他の指標も必要だと思います。そういう研究につなげていければと思っています。

ガンダマイザー

■いずれもユニークで、本当に面白そうな研究ですね!

私にとって“面白さ”というのはキーワードですね。研究室の学生たちにも好きな研究をしなさいと言っています。ただしここは大学ですから、それが学問かと問われたら、自信を持って学問だと反論できることが重要です。ですから学生には「自分の研究しようとしていることが“新しい”と思うなら研究しなさい」と伝えているんです。ただ、それが新しいかどうかは社会を知らなければわかりません。当然ながら学生はそれほど社会を知らないわけです。では、人から「そんなものすでにあるよ」と言われたらどうするのか。そこで反論できる武器を学生はひとつ、持っています。「自分はそうは思わない」という自分の価値観です。いくら他人が既存のものだと主張しても、自分の感じ方は違うと思うならそう主張しなさいと伝えています。取り組んでいることにどんな意味があるのかは、後でわかるものです。ですから私は研究室の最初の時間に「自転車を再度、発明しても構わない」と話しているんですよ。自転車はなぜタイヤが2個? なぜタイヤは丸い? なぜタイヤは黒い? そんな疑問を持つことから新しいものは生まれるのだと思います。

ヘッドホン型バランス感覚測定器

■研究室に所属している学生たちは、今、どんな研究をされているのですか?

任天堂のWiiリモコンの先を行くという研究として、所属している17名の学生のうち8名が自作のWiiリモコンを完成させています。Wiiリモコンの性能をはるかに超えるスペックで、回路図からプログラムまですべて学生が個々につくっています。こちらから条件を指定することは一切ありませんから、リモコンの特徴もそれぞれです。それでもほとんどの学生がWiiリモコンの初期動作ができるところまで、3ヶ月足らずで到達していますよ。

次世代ぬいぐるみ型リモコン

■学生たちも楽しんで取り組んでいるからこその結果ですね。

そうですね。私は何でも挑戦してみて、間違っていれば途中で修正すれば良いという考え方です。だから学生たちに勉強して基礎を積んでから、したいことをしなさいなんて悠長なことは言いません。「まずは走り出せ!」という方針です。これは持論ですが、私は「意味のない難しさは生き残らない」と思っています。無駄に難しいものは必ず淘汰されていきます。大学は難しいことを学ぶところではありません。難しいことは本質ではないのです。本質の上に、必要に応じて工夫を重ねてきたのが今の世の中です。20世紀の間に、科学は人が一生かかってもすべての基礎を学べないだけの何かを成し遂げてしまいました。ですから全科目の基礎を勉強していく時代はもう終わっていると考えています。そこでこの21世紀に必要となるのが3つの「C」です。ひとつめは「Communication(対話)」です。自分ひとりではすべてを究めることはできません。それなら、わからないことは他者に聞くしかありませんよね。ただ自分ばかりが「教えて、教えて」では相手にされません。そこで何かひとつ自信のあるもの、いわば自分の必殺技を持って、それをみんなに提供する。これが「Contribution(貢献)」です。そうしてゼロからみんなで「Creation(創造)」する。何か新しいアイデアを思いついたとき、もし足りないものがあったとき、聞ける仲間が何人いるかが、新しいものを形にしていくための鍵となるはずです。

■では最後に今後の展望をお聞かせください。

ひとつはWiiリモコンの先を行くゲームコントローラの開発ですね。Wiiリモコンはコントローラをゲーム好きの人だけでなく、年配の方でも直感的に操作できるものへと近づけました。ただ、まだ完成されてはいません。ですからもっと直感的に操作できるものをいち早く開発したいと考えています。また、生涯を捧げる研究としては「サッカーボールを再発明したい」と思っています。コンピュータゲームは、クリエーターの掌の上でユーザーが踊る遊び。最初に想定された遊び方の枠を越えられません。けれどもサッカーボールは、どう使って遊ぶかなんて子どもたちの勝手です。私はコンピュータのあるべき姿がそうなると予測しています。ですからコンピュータが遊び場に加わることで、遊びが発展的に生まれていくようなものを研究したいですね。例えとして「空き地に投げ込まれたボールひとつ」と表現しています。ボールに意思はなく、制作者の意図もありません。丸くて転がるという直感的な属性が与えられただけ。でもそこから遊びが発生して、世界はつくられていきます。コンピュータがそこに還れたら、素晴らしいなと思っています。
[2009年1月取材]

■CSエンターテイメント(松下 宗一郎)研究室
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com_science_spc/149.html

・次回は3月13日に配信予定です。