大学の学びはこんなに面白い

大学の学びはこんなに面白い

研究・教育紹介

東京工科大学 HOME> 大学の学びはこんなに面白い> 「食感という角度から、美味しい冷凍食品を追求する」

「食感という角度から、美味しい冷凍食品を追求する」

応用生物学部 梶原 一人 教授

■先生の研究について教えてください。

食に関する様々な研究をしています。ゲル食品の研究もやってきましたし、はちみつの研究などもしています。このところ、冷凍食品の商品開発の研究もしています。これについて話せば、わかりやすい例をあげると“冷凍食品の揚げ物を、どうしたら揚げたてのようにサクサク感が出せるか”といった美味しさの追求をしています。食品の研究っていうのはいろいろな切り口があって、最近流行っている機能性食品も良い研究題材になりますし、化学成分や味もそうですが、けっこう大事なのは食感なんですよね。もともと僕は物理化学が専門なのですが、食感というのはまさしく物理化学的な現象なんです。パリパリッとしているとか、サクサクしているとか羊羹みたいな噛みごたえだとか。食感がすごく物理化学的な現象であると同時に、食品にとって大事な性質なので、何かできることはないかと思って、この研究を始めました。冷凍食品を製造している企業である某水産会社からも相談を受け、“食感が悪くなる原因”などを探ってきました。

■揚げ物の食感が悪くなる原因は、わかったのですか?

そうですね。例えばコロッケを考えてみましょう。じゃがいもに挽肉といった中だね、中だねの表面を覆う小麦粉や卵でつくられたバッター層、そしてその外側にパン粉がありますね。つまり揚げ物とは、中だね・バッター・パン粉から出来ていて、この3つのバランスが非常に重要なんです。サクサク感がなくなるということは、パン粉とバッター層の問題であって、この2つがフニャフニャになるともうダメです。フニャフニャになる原因はいろいろありますが、まずは時間の経過というところがあげられるでしょう。冷凍食品でなくても、揚げ物は時間をおくとサクサクではなくなります。それは中だねから水分がバッター層やパン粉に移行する、あるいは大気中の水蒸気をパン粉が吸うということで、ひとつの原因は水にあります。企業がどうやって水についての対策をしているかというと、いろいろ方法はあるのですが、その一つとして中だねの周りに油の層をつくって、水が移行しないように防いでいるようです。でも、もうひとつの原因は、どうやら油自体にありそうなんです。そこでずいぶん油の研究をしてきましたが、結論的に言うと炭素数16の脂肪酸であるパルチミン酸を含んだ油が、特に影響を及ぼすようなのです。これまでわからなかったことなのですが、油の種類も影響するということで、水を抑えただけではどうにもならないという話です。油の種類も選ばないと美味しい冷凍食品はつくれないということが、わかりました。

コロッケの構造・電子顕微鏡によるパン粉表面の構造(500倍)

■食感を良くするのも、大変なことなのですね。

サクサク感を出すのは、結構難しいですよ。サクサク感というのは、あれは小さいもののクズレみたいなものがつくりだします。そしてバッター層を噛んだときには、また違う食感があって、中だねにたどりつく開放感みたいな食感があるんです。いわゆるパン粉のサクサク感とバッター層の開放感の2種類を測定しています。結果はそう単純でもないようで、中だねの性質も関係してくる。例えば、魚の白身フライの冷凍食品が食感としてあんまり美味しくないのはなぜか。それは、白身フライがバッター層より硬いからです。噛んだときにバッター層より硬いと、どうやら美味しくないようです。機械で測定したデータと、実際に食べてみてのパネル試験で判断しています。本来は最終的に人が食べてどうかという話ですので、機械は補助的な手段にしか過ぎませんが。ただ、パネラーが訓練をうけていない学生なので、そのへんが痛いところではあります(笑)。もちろん某水産会社には、ちゃんと訓練を受けたパネラーさんがいらっしゃいます。

パン粉のレオメータによる破断強度測定

■企業と組んでの研究だと、成果が商品に反映される可能性もあるのですか?

そうですね。研究としては方向が見えてきたかなというところですが、実際はまだまだこれからですが。冷凍食品は年々需要が伸びてますし、今後より美味しい冷凍食品をつくっていくことには大きな意味があると思っています。某水産会社の研究所に卒業生が入っていることもあり、ずっと密に連絡を取り合っていますので、これからもこの研究は大事にしたいです。

■研究をしていて面白いと感じるところはどこですか?

基本的に面白いのは、誰しもそうだと思いますが、原理がわかってくると面白くなってきますね。普段、食べるときはあまり考えないと思いますが、研究をするとどういうところが美味しくて、何が原因でどうなっているのかということを考えるので、食べながら実感できる。これが研究のひとつの面白みです。美味しくない原因がわかれば、どう対処すればいいかがわかってくるので、そんなこともわかるとまた二重に面白いのだと思います。

■そもそも先生が、この分野に興味をもった理由を教えてください。

まあ食べることが好きだからですかね。せっかく食べるなら美味しく食べたい、と。本格的にではないですが、僕は自分で料理もするんですよ。けっこう料理は化学実験と似ているんです。煮たり焼いたりでしょう? 化学実験とよく似てるなぁと思いますね。調味料を入れる量を計るのも、試薬を入れる感じですし(笑)。醤油を小さい瓶に注ぐのも、硫酸を注ぐのに似ているなぁと(笑)。ああいうのすごく得意なんです。料理と化学実験は、ある意味近いですよね。

■今後の展望をお聞かせください。

食品は美味しくないと話にならないので、食感の方向から美味しさを追求したいなと思っています。食もどんどん進化してはいますが、もっと進化させていきたいですね。研究室としても、正確にわかりやすく、研究結果がどういう意味をもたらすのかも、社会に発信をしなくてはならないと思ってます。題材にもよりますが、応用研究だけでは大学の存在価値がないような気がするので、基礎研究に重点をおいた上で、応用研究をしっかりしていくというスタンスで、やっていきたいなと僕は思っています。
[2009年9月取材]

■高機能性食品(梶原一人)研究室

https://www.teu.ac.jp/interesting/016796.html

・次回は11月13日に配信予定です。

2009年10月9日掲出