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大学の学びはこんなに面白い

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「科学の力で“おいしさ”に迫る!」

応用生物学部 高柳 勉 教授

応用生物学部 高柳 勉 教授

4月からスタートしたばかりの「食品フレーバー科学研究室」を率いる高柳教授。この新しい研究室で学生たちとどんな研究に挑んでいるのか、また先生ご自身がこれまでに取り組んできた研究について伺いました。

高柳研究室 研究風景

■「食品フレーバー科学研究室」では、どんな研究を行っているのですか?

ワイン、茶、果実を対象に、その“おいしさ”を調べる研究に取り組んでいます。食品にとって、おいしいかどうかは大きな問題ですよね。おいしさは食べる喜びの重要なポイントです。この研究室では、大きく分けて3つの研究分野を軸に、“おいしさ”を探究していこうと考えています。ひとつめは、食品の味や香りをつくり出す化学物質の構造を調べる食品化学的研究。これは有機化学的な研究アプローチです。

ふたつめは、センサリー評価といって、鼻や舌など人間の感覚で分析する研究。これは研究の最初の一歩です。というのも、実際に食品のにおいや味を感じてみて、「この香りは、どこから来るのだろう?」「おいしいと感じるのは、どの香りに由来しているのだろう?」という疑問から、その物質を探り当てる化学的追究がはじまるからです。この研究には心理学や統計学の知識が必要になります。3つめは、果実の成長や食品製造中にどのような物質ができてくるのかを調べて、香り・味の生成機構を明らかにする研究。これは酵素学、微生物学、植物生理学的なアプローチになります。こうした研究をもとにして、最終的には食品製造法の改善や新商品の開発につなげていければと考えています。

実験結果の解析

また、味や香りを形成する物質の化学構造を特定できたら、それらと“おいしい”と感じる人間の感覚とが、どう関係しているのかを明らかにしたいと思っています。つまり化学成分とセンサリー評価をつなぐ方法を開発したいのです。香りのバランスやハーモニー、心地よい香りをつくるにはどういう組み合わせが良いのかという化学物質と人間の感覚をつなぐような研究を行っていきたいのです。さらに、おいしさにかかわる物質で、健康にポジティブな効果をもつものについても調べていきます。良い香りや味を持つ物質は生理的にも健康に良いものが少なくありません。味や香り物質の生理作用も含めて、ワイン、茶、果実をテーマに研究を進めていければと思います。

■“おいしさ”の研究で、難しいところはどういう点でしょうか?

「蓼食う虫も好きずき」と言いますが、おいしさもまさにそうです。例えばワインの場合、一般的に「ワインにカビ臭があってはいけない!」と言っても、私がその臭いが好きだと言えばそれで話は終わってしまいます(笑)。そこが「おいしさのサイエンス」の難しいところですね。とはいえ、多くの食品でコンクールが存在するように、長い歴史の中でこういうものがおいしい、こういうものが好まれるという共通要素はあるわけです。そこを明らかにしていきたいと思っています。人間が生まれつき、あるいは経験を通して好きだとかおいしいと感じる共通要素は必ずあります。その理由を探ることが重要だと思います。

■これまで先生は、どういう研究をされてきたのですか?

本学に赴任する前は、ワインの研究を行っていました。なじみのない言葉に聞こえるかもしれませんが、「ワイン科学」とよばれる学問分野です。その中でも、私は「おいしいワインをつくるには、どうブドウを育てたら良いのか」ということを生理学的に研究してきました。例えば、ワインにとってすごく重要な“香り”。これはブドウ果実に由来する香りです。ワインには他にもアルコール発酵したときに酵母がつくる香りや、樽に入れたり貯蔵したりする間にできる香りがあります。分析機器を使って測定すると、香りを持つ可能性の高い揮発性化合物が最も多くできるのはアルコール発酵の段階です。それならばアルコール発酵さえすれば、どんなブドウを使っても同じ香りのワインがつくれるのかというと、そうではありません。含有量はごくわずかであっても、ブドウ果実自体が持つ香りの物質が、ワインの香りにものすごく影響を与えているのです。そこで私は、香りの物質がブドウでどのように合成されるかについて研究してきました。

■現在、研究室では、どのような研究に取り組んでいるのですか?

主に、ワイン、紅茶や緑茶、果実などを対象に、その味や香りに関する研究をしています。具体的なテーマの例として、ワインの味に関する研究を挙げてみたいと思います。味の基本要素として、甘味、酸味、苦味、塩味、うま味が知られています。ワインにも、これら基本味のいくつか(甘味、酸味、苦味など)を感じることができます。ワインには、これらの味のもととなる成分が含まれています。甘味、酸味、苦味のもととなる成分は一種類ではなく複数種類存在します。そして、それらの味は、相互に影響し合っています。
私たちの研究室では、味の相互影響の研究の第一段階として、二種類の味の相互影響をセンサリー評価(官能評価)により調べています。味を調べるために、人の感覚を用いたセンサリー評価を行います。研究室では、味の強さを測定する分析型のセンサリー評価を用いて、二種類の味が同時に存在する時、一方の味が他方の味にどのように影響するかを調べています。将来は、ワインに近い多成分系で、それぞれの味成分がワインの味に寄与する仕組みを解析したいと思っています。
 さらに、異なった食品の間における味の相互影響も研究しています。一般に、食品には相性があると言われています。例えば、赤ワインには肉料理が合うなどです。もちろん、個人の好みの違いもあり、あくまで一般論としての相性の良さということになりますが、食品の間の相性の良さを、それらの味の相互影響と関連づけて解析しています。食品の相性として、よく話題になるチーズとワインの関係もこれに関連したテーマの一つです。チーズを食べた後に、ワインの味の感じ方がどのように変化するかを評価し、相性との関係を解析しています。

■最後に、今後の研究の展望についてお聞かせください。

研究者としては、自分の技術を世に送り出したいという気持ちがあります。とはいえ「おいしさ」は非常に複雑で、奥が深いものです。物質科学だけでなく、心理学や生理学など、さまざまな科学が関わってきます。そういうものを統合し、リンクさせて、「おいしいとは何か」ということに少しでも迫りたいというのが私の夢です。「おいしさって何だろう?」「みんながおいしいと感じるものは何だろう?」ということを知りたいのです。おいしさの基礎となる研究を企業と共同で行い、いずれはワインなどの食品を商品化できると良いなと思っています。企業に「こんなふうに栽培して、こんなふうに造れば、おいしい食品ができる」といった技術提供をして、新商品の開発につながればと思っています。
[2010年4月取材]

・次回は6月11日に配信予定です。

2010年5月14日掲出