大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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「子どもたちと取り組む“直感的な空間”づくりが、ものづくりの手法や新しい発想を与えてくれる」

デザイン学部 宮元三恵 准教授

デザイン学部 宮元三恵 准教授

知覚や体験をテーマにした空間を子どもたちとつくったり、それを共有するプログラムを考えたりしている宮元先生。近年では芸術活動に積極的な幼稚園などからワークショップの依頼を受けるなど、その活動は広く知られるようになっています。今回は、これまでに取り組んだ研究活動と、その成果について語っていただきました。

■先生のご研究について教えてください。

私は、子どもと一緒に空間をつくるプログラムを組み立てて、その空間を実際に子どもたちとつくるという研究活動をしています。今、研究テーマにしているのは、“直感的な空間”です。子どものほうが経験や既成概念がない分、より感覚的に制作できるのではないかという考えから、小学校に入る前の未就学児童とよく一緒に作品づくりをしています。
例えば、2008年には、色に囲まれた空間づくりをテーマにした「いろいろともだち」というワークショップを行いました。どのワークショップでもそうですが、最初は絵本を使ったり私が絵を描いたりして、子どもたちにどういうものをつくるのか説明するところから始まります。「いろいろともだち」のときは、色をテーマにしていたので、最初に『あおくんときいろちゃん』というレオ・レオニの絵本の読み聞かせをして、イメージを伝えました。そのあと耐水の白い紙のうえに伸縮性のある白い布を重ねたキャンバスみたいなものを部屋の床一面に敷いて、スポンジと布でつくった“てるてる坊主”のようなものに絵具をしみ込ませて、子どもたちに絵を描いてもらいました。絵を描くというよりは、布のうえに座って自分の周りに色を塗ってもらうというかんじですね。できあがって絵具を乾すと、絵具が糊がわりになって下の紙と上の布がくっつくので、今度はそれを子どもたちに体を使って潜るようにしてはがしてもらって、紙と布の間に空間をつくってもらいました。下の紙にも上の布にも絵具が転写され、同じような絵がついているので、空間がまじりあったようなものができあがります。そこからさらに子どもたちには、布の好きなところに穴をあけていってもらって、内側と外側がまじりあったような空間をつくり、その中で遊んでもらうということをしました。

「いろいろともだち」より、作品制作の様子

「みるきいうぇい」より、天の川のトンネル

■とても楽しそうなワークショップですね。“直感的な空間”という意味が、理解できる気がします。

感覚的・直感的な空間というのは、例えば光とか影とか、触れられないもの、建物の空間に作用するようなものですね。そういうものに興味を持っています。去年、岐阜県にある幼稚園で取り組んだ、「みるきいうぇい」という天の川をテーマにしたワークショップもその良い例です。このときは、子どもたちに星座の話をするところから始めました。星座図を子どもたちに渡して、そこにトレーシングペーパーという透ける紙を重ね、その上から自分の好きな星の位置にシールを貼ってもらい、自分なりの星座を発明してもらいました。その次は、みんなで大きな段ボールに棒をさして、たくさん穴をあけて、その段ボールでトンネルをつくって、天気の良い日に園庭に置くという活動をしました。穴から入るいくつもの光で、段ボールの中に星が落ちてきているように見える状態をつくったんです。そして最後のメインとなる活動では、私が前もって星に見立てたポールを子どもの数よりちょっと多めに園庭に立てておいて、星をつないで星座をつくるというイメージで、子どもたちにポール同士を銀色のテープで結んでもらうということをしました。このときは、園庭いっぱいを使って完成した天の川に、布のトンネルを張って、子どもたちに中に入って遊んでもらう夜のイベントも行いました。このプログラムは、最初は星座図という“絵”だったものが、次に穴をあけた段ボールのトンネルという“空間”になり、最後は屋外で、みんなで天の川をつくるという3段階を経て空間をつくる試みでした。

■こうした作品づくりを通して、どんな発見がありましたか? また研究の面白さとは?

一番大きな収穫は、大人のように図面を見せて説明できない相手、つまり子どもたちへの伝え方です。例えば「みるきいうぇい」のワークショップのように、段階を踏みながらつくっていくことで伝えるとか、言葉での説明はもちろん、それ以外の方法として絵本を見せたり実演したりすることとか。それというのも、子どもは、したくないことは、してくれないからです(笑)。大人は多少疑問に感じていても、理解して取り組もうとする気持ちが強いですが、子どもは自分のやりやすい方法を発明していってしまう。こちらの思惑に反して、勝手に始めてしまうのですが、だいたいそういうときは子どもたちのほうが正しいんですよね。だから、子どもと一緒に作業することで、例えば自分の感覚では、絵を描く道具には筆が良いだろうと思っていたところ、実はそうではなく、さっきのてるてる坊主みたいな身体的に使える道具のほうが良かったとわかることがあります。根底にある、つくりたい空間のイメージは、自分の中に変わらないものとしてありますが、それをつくる方法は子どもたちと一緒に作業することで、すごく明確になってきているんです。ですから、子どもたちだけではできないことを、私が介在することでできるようにするという意味では、私も彼らに何かを教えてあげることができますが、逆に私が子どもたちから学ぶこともすごく多いんです。そこがこの研究の面白いところだと思います。

「みるきいうぇい」より、作品制作の様子(左)夜のイベントの様子(右)

■では、授業ではどんなことを教えているのですか?

今は1年生の「つくる」という授業で副担任をしています。この授業では、水族館に行って、自分の好きな海の生物をひとつ探し、それをどんな方法でも良いので、紙を使ってつくるということをしています。この授業の狙いは、立体的なものをつくる機会があまりなかった学生たちに、まずは自分のイメージを立体にする経験をしてもらうという点だと思います。私はその中でも、特につくり方やノウハウを教えています。例えば、どうしたら紙を立体的にくっつけられるかといったノウハウは、手を動かしてみて初めてわかることです。ですから今は、ひとまず“つくる”ことそのものを教えている段階ですね。それに慣れてくれば、自分のイメージを形にしていくことに力を入れられると思います。

■最後に今後の展望をお聞かせください。
これまで私が取り組んできたプログラムで完成した作品は、長期間、保てるものではありませんでした。ですから今後は、しばらく保てるような作品をつくってみたいです。これまでの研究で得た成果や手法を使って、建築とまでは言えなくても、ある種の建物、空間をつくってみたいと思っています。そういう作品づくりを、学生と一緒に研究活動として取り組んでいけたら良いですね。特にキャンパスのある蒲田近隣でそういう活動ができれば、学生にも参加してもらいやすくなるので何よりです。
また、本学の学生はすごく感覚が素直で、偏ったフィルターみたいなものがかかっていない分、何でもスポンジのように吸収してくれています。将来は、新しいデザインの職業分野を開拓していってくれるのではないかと期待しています。デザインが関われる分野や関わったほうが良い分野は、まだまだありますから。いつか卒業生が差し出した名刺に、今まで見たこともないような肩書きが書かれているようになったら、うれしいです。
[2010年10月取材]

・次回は2月11日に配信予定です。

2010年12月10日掲出