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「世の中のしくみのほぼすべてがセキュリティ技術とは切り離せないものです。」

コンピュータサイエンス学部 宇田隆哉 講師

コンピュータサイエンス学部 宇田隆哉 講師

本人確認のシステムや電子的な証拠を残すしくみの研究を手がけている宇田講師。研究室では、情報セキュリティ分野に限らず、興味がある研究テーマを学生が自分で見つけるように指導しています。そして、そのテーマの中にセキュリティとの繋がりを見いだします。そうした方針から昨年度もユニークな研究がいくつも行われました。今回はそれらの中から3つの研究を取り上げて、取材しました。

赤外線照射器

■最近、研究室で取り組んだ研究には、どのようなものがありますか?

昨年度、研究室で学生が取り組んだ研究を紹介したいと思います。ひとつめは「赤外線を用いた屋内向け撮影妨害システムの提案」。これは国立情報学研究所の越前功准教授らが開発した、映画館における映画の盗撮防止技術をベースに、その問題点を解決しようと取り組んだ研究です。越前准教授らが開発した技術は、映画館でスクリーンの裏側から赤外線を客席に照射するものです。赤外線は人の目には見えませんが、市販されているほとんどのカメラに映ります。この性質を利用することで、観客に影響を与えることなく盗撮しているカメラを妨害できるのです。ところが、安価な赤外線カットフィルターをカメラにつけるだけで、その妨害効果をほぼ消せてしまうのです。強い赤外線を照射すればフィルターの上からでも妨害できるのですが、客席全体に強い赤外線を照射しますと消費電力も相当なものになるでしょうし、何らかの影響もありそうです。そこでこの研究室ではこの問題点を解決する研究を行いました。まず、客席をなぞるように赤外線を照射し、反射光の特性から盗撮カメラの位置を把握します。その後、距離による減衰を考慮して、盗撮を妨害できる強さになるようにそのカメラにのみ赤外線を照射するようにします。こうすることで、少ない消費電力で有効に盗撮を妨害できます。

■消費電力以外の違いはありますか?

この研究を発表したシンポジウムに越前准教授が参加されていました。越前准教授らの方式では、スクリーンの裏側に赤外線照射器のみを設置していますが、我々の方式では反射光を読み取るカメラも設置する必要があります。一般的な映画館では、追加の機材をスクリーン付近に設置する場所がないとのことでした。確かにご指摘の通りで、我々の方式では全ての映画館に機材をそのまま設置することは難しそうです。逆に我々の方式の優位点としては、コンサートなどのライブ会場でも使用できることが挙げられます。ライブ会場では、舞台上でのパフォーマンスを撮影し、正規のビデオ映像として販売するため、撮影スタッフが入っていることが多いです。一方で、携帯電話などを利用し、禁止されていても勝手に撮影を行い、その映像をインターネットに公開する人もいます。越前准教授らの方式では、全てのカメラに対して撮影を妨害しますので、正規に撮影している撮影カメラも妨害を受けてしまいますが、我々の方式では、正規に撮影しているカメラを除外して、盗撮しているカメラのみを妨害することができます。ライブ会場には機材を設置する場所も十分にあります。この研究の発表をフジテレビの方が聴講しに来ていまして、この利用方法に強い関心を示してくださいました。

カメラの反射光を画像解析する様子

振込用QRコードの作成

■他には、どのような研究がありますか?

ATMでの振り込みの際に、事前に振込用紙を作成できるようにするという研究があります。銀行やコンビニのATMは、すごく混雑していますよね。とくに振り込みをするときは、色々と操作をしなくてはならず、時間がかかります。また、セキュリティの観点から言えば、暗証番号を覗き見される問題もあります。ひどいものではATMに盗撮カメラを設置して、入力している暗証番号を読み取る手口もありました。そこまでしなくても、場所によっては背後から覗き見ることが可能です。そこで、振り込み先の口座番号や金額など必要な情報を事前に自宅などの安全な場所で入力し、それをQRコードにして紙に印刷もしくは携帯電話のカメラなどでそのQRコードを撮影して保存し、ATMに読み取らせるというシステムを開発しました。この方式を使えばATMで入力する操作がない分、振り込みの完了までの時間が短縮できますし、ATMに暗証番号を入力しませんので覗き見られる心配もありません。ひとりの振り込み時間が短くなれば設置するATMの台数も減らせるので、銀行にとってもメリットがありますね。この方式では、事前の入力作業を自宅のパソコンで行います。パソコンがウイルスに感染して暗証番号などが盗まれないように、CDからOSを起動できるLive CDを利用して、振り込み用の専用ソフトウェアを起動します。このLive CDには、QRコードをつくるソフトウェアとそれを印刷するためのプリンタを設定するソフトウェアなど必要なものだけが入っていて、ネットワーク接続ができないようにしてあります。また、このCDには、その利用者以外が理論的に作成できない情報を毎回異なる値で出力する機能が組み込まれていて、その値が暗証番号の代わりとして使われます。暗証番号とは異なり、その値は一度しか使えませんので、悪い人がそのQRコードをコピーしても無駄です。QRコードが印刷された紙を落としてしまったら心配だと思う人がいるかもしれませんが、拾った人は利用者の代わりにその振り込みを行うことしかできませんので、問題はありません。
それから、AR(Augmented Reality)という技術を使った研究もあります。ARとは、コンピュータがつくりだした仮想物体や情報を現実の世界に重ね合わせて見えるようにする技術のことです。これを利用して迷子探索システムの開発に取り組んだ学生がいます。現在すでに迷子を探すサービスが提供されていますが、そこには問題があります。例えば、保護者が持っている携帯電話の画面に地図が表示され、子どものいる位置が示されるというNTT DoCoMoのイマドコサーチ。この場合、よく知っている場所では問題ありませんが、旅先やイベント会場など初めて訪れた場所だと地図を見ても自分がどこにいるのかすぐにはわかりません。周囲に目印となるものがない場合や夜間の場合には迷子を見つけることがさらに難しくなります。そこで我々はARの機能を利用して、保護者が小型端末のカメラを実際の空間に向けると、迷子のいる場所を画面の映像に重ねて表示するというシステムを開発しました。端末の画面には、肉眼で見ている風景と同じものがそのまま映し出されますし、その映像に迷子がいる場所が矢印で示されますので、矢印のところに向かって歩いていくだけで迷子を見つけることができます。直感的に操作できるので、地図を使って迷子を捜すよりも早く見つけられます。また、立体的な構造の場所では、迷子がいる場所と自分がいる場所との上下の位置関係も把握できますので、効果が上がるのではないかと思います。

迷子探索システムを使った実験

■最後に教員としての抱負をお聞かせください。

1年生の授業をしていると、セキュリティに興味があるのだが本学のどのコースに進んだらよいかという質問を学生からたびたび受けます。わたしは、どのコースに進んでもセキュリティと関係があるものを学べると答えています。逆に、セキュリティと一切関わらずにコンピュータ関係の職業に就こうとしても無理だとも説明しています。世の中のしくみのほぼすべてがセキュリティ技術とは切り離せないからです。学生には、「セキュリティ」というタイトルが付けられている教科書には載っていない技術にも目を向けるようにしてほしいと思っています。例えば、昨年度、大学院のセキュリティに関する授業で、データベースを専門とする研究者がデータベースについて記述した研究論文を取り上げました。昨年、韓国で開かれた国際会議においてお茶の水女子大学の渡辺知恵美講師らが発表したもので、暗号化されたデータベースを検索するという研究です。通常、暗号化されているデータは内容が読めず比較できませんので、検索対象にはできません。渡辺講師らの技術では、ブルームフィルタを用いることでそれを可能にしています。今、クラウドコンピューティングが流行っていて、自分のところにサーバを持たず、クラウドのサービスを提供しているところにサーバを借りることが多くなってきました。確かにサーバ管理の手間からは解放されますが、クラウドのサービスを提供している側に自分たちの大切なデータを見られる可能性はあります。ですから、データベースのデータを暗号化でき、なおかつ暗号化されたデータを検索できれば、非常に便利になります。これは大変面白い研究でした。選択制にした課題の中に、この技術を実装してくるという課題も混ぜたところ、多くの学生が興味を持ってこの課題を選び、取り組んでくれました。データベースの研究をしていても、どこかでセキュリティの問題にぶつかるということもわかってもらえたはずです。大学の学部では、3、4年次に専門科目について学びますが、その分野の教科書ベースの学習が基本です。ですからぜひ大学院でこういう他分野の話題に触れ、知識を増やしてほしいと思います。
[2011年4月取材]

■情報セキュリティ研究室(宇田研究室)
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com/dep.html?id=121

・次回は6月10日に配信予定です。

2011年5月13日掲出