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「疑問と好奇心を持って、多方面で活躍できる臨床工学技士を目指そう!」

医療保健学部 臨床工学科 水島岩徳 助教

医療保健学部 臨床工学科 水島岩徳 助教

長年、臨床工学技士として、医療現場で活躍してきた水島先生。今回は、その豊富な臨床経験をもとに、学生に学んでほしいことや臨床工学技士のやりがいなどを語っていただきました。

■先生は、本学科でどのようなことを教えているのですか?

現在はフレッシャーズゼミと基礎医学実習を担当していますが、来年からは3年生を対象とした専門科目の実習を担当する予定です。実習の内容は、生命維持管理装置や生体計測装置、医用治療機器などの医療機器の操作法や保守・点検法について指導する予定です。生命維持管理装置というのは、人の呼吸、循環、代謝を代行したり補助したりする装置で、人工心肺装置や人工呼吸器、血液浄化装置などのことを言います。また生体計測装置とは、心電図や心拍数、血圧、動脈血の酸素飽和度など様々な情報を測定する装置のことです。医用治療機器というのは、手術の時に使う電気メスや不整脈を治療する除細動器などのことを言います。実習では特にこれらの装置の基本的な性能を工学的に評価する方法や、患者さんに対してはもちろんですがこれらの装置を使う医師や看護師さんに対しても安全性が保たれているかどうか評価する方法などを重点的に学んでもらいます。

■学生には、どういう点をしっかり学んでほしいとお考えですか?

今、ちょうど1年生が基礎的なところを学んでいる最中ですが、現場ではその基礎の部分がいかに大事であるかを痛感することが非常に多いです。ですから、何よりも基本をしっかり学んでほしいですね。医学分野では人体解剖学や生理学が重要になりますし、工学分野では電気・電子工学が重要だと思います。その土台があっての応用です。応用については大学でも講義はありますが、臨床工学技士の分野は非常にバラエティに富んでいるので、そこは必要に応じて自分で勉強していくしかありません。また、私たちが扱う装置や技術は日々進歩していますから、いま大学で学んだことも何年か経てば使われなくなるかも知れません。ですから臨床工学技士を目指す学生さんは、生涯勉強だと心得ておいてほしいですね。学習の仕方としては、まず人の身体に興味を持つことが第一歩だと思います。臨床工学技士の仕事は、呼吸、循環、代謝の働きを代行する装置を操作・保守点検するというものですから、身体の中でも特に心臓の働き(循環)、肺の働き(呼吸)、腎臓の働き(代謝)という3つの臓器を中心に学び、そこから興味の範囲を広げていってほしいと思います。どこかひとつ、例えば心臓なら心臓に絞って、構造や働きを知るところから出発するという手もあります。そこから少しずつ興味の範囲を広げていって、知識を深めてみてはどうかと思います。

■臨床工学技士のやりがいとは、どんなところにあるのでしょうか?

現場でやりがいを感じるときは、やはり自分が携わった患者さんが元気になって退院される姿を見たりしたときですね。本当に良かったと思います。特に私が担当していた集中治療室では意識のない患者さんが多く、その中で私たちは人工呼吸器や血液浄化装置などを使って治療に携わるのですが、その意識のなかった患者さんの意識が回復して一般病棟に移り元気になって退院されると聞くと、やはり臨床工学技士をやっていてよかったと思うと同時にやりがいを感じます。

■では、先生が取り組んでいる研究について教えてください。

人工膵臓(STG-22日機装社製)と人工膵臓の構成

生命維持管理装置のひとつに、あまり知られていませんが人工膵臓という装置があります。この人工膵臓を集中治療領域で臨床応用する研究をしていました。人の膵臓には血糖値を正常に保つ働きがあって、健康な人では血糖値が高くなるとインスリンという血糖値を下げるホルモンが分泌されます。ところが、例えば糖尿病の人は膵臓の機能が低下してインスリンが分泌されにくくなったり、インスリンが分泌されてもそれをうまく利用することができなくなったりして血糖値の高い状態が続き、様々な合併症を生じます。もともと人工膵臓は患者さんの血糖値を測って、その血糖値に対してどれくらいのインスリンを投与すれば目標の血糖値を維持できるかを調べるための装置です。ただ、血糖値が高くなるという症状は糖尿病の患者さんに限ったものではありません。私が働いていた集中治療室には、重症の患者さんや大きな手術を受けた後の患者さんがたくさんいらっしゃいます。そういう方々はもともと糖尿病でなくても強いストレスのために血糖値がぐんと上がり、一時的に糖尿病と同じような状態になってしまうことがあります。血糖値の高い状態が続くと免疫機能が低下して抵抗力が下がってしまったり、傷の治りが悪くなったりするので良い状況とは言えません。そういう患者さんに対して私のいた施設では人工膵臓を積極的に用いて適正な血糖値に維持することで、早期治癒と救命率を上げることに取り組んでいました。従来は、看護師さんが定期的に患者さんから採血して血糖値を測り、インスリンの投与量をあらかじめ決められたルールに従って決めるという形が取られています。ですから、看護師さんによる手作業なんですね。この場合、インスリンを投与した直後は血糖値が下がりますが、次の検査までに時間があるため再び血糖値が高くなり、血糖値の変動幅が非常に大きくなってしまい、患者さんに負担をかけてしまいます。人工膵臓を用いることで、安定した血糖値のコントロールができるようになりました。

人工膵臓による血糖管理の記録

また、臨床工学技士は動作中の装置にも注意を払わなければなりませんから、患者さんに人工膵臓が装着されている間はそれがきちんと動いているかどうかを評価する必要があります。特に人工膵臓に表示されている血糖値が正しいかどうかを評価することは、重要なことです。血糖値を測るセンサは非常に繊細にできているため、長時間にわたって精度を維持するのが非常に難しいのです。もし不具合があれば医師との相談の上、装置をはずすこともあります。どのようにすれば精度を維持できるかを工学的に検討する事が臨床工学技士としての仕事です。

現在は、東京女子医大の冨澤先生と本学科の武田先生を中心に理学療法学科の河西先生、武藤先生、また業者の方とプロジェクトを組ませていただいて、手術器具の人間工学的研究にも取り組んでおりまして、日本人の女性外科医が使いやすい自動縫合器の開発のお手伝いをさせていただいているところです。例えば、大腸がんでがんの部分を切除した場合、腸管と腸管の端を縫合する(縫い合わせる)必要があります。そのときに自動縫合器が用いられるのですが、この縫合器が海外製のため日本人女性の手の大きさではレバーが握りづらく、確実な縫合を困難にしているという問題があります。そこで、その“握りづらさ”を様々な測定器を用いて定量的に評価しようとしているところです。

圧力センサを取り付けた自動縫合器

■学生には、どのような臨床工学技士になってほしいですか?

まず臨床工学技士は医療従事者であることを忘れないこと。常に患者さんの立場に立って患者さんの痛みのわかる臨床工学技士になってほしいです。臨床工学技士の仕事は多岐にわたりますが、分野にこだわることなく、貪欲に学んで、多方面で活躍できる臨床工学技士になってほしいと思います。それから、今はチーム医療の時代ですから、チームの一員として、必要なときにきちんと責任を持って臨床工学技士の立場で意見が言える臨床工学技士になってもらいたいです。また、ここは大学ですから、現場で即戦力として活躍するほかに、研究開発の方面でも力を発揮できる人材を輩出したいと思っています。今ある装置の問題点を見つけて改良していくことや、まったく新しい原理にもとづく計測装置や治療機器を開発することも必要なことです。そのためにも「なぜ?」という疑問を常に持ち、ちょっとした変化にも気づけるような目を持ってほしいと思います。好奇心ですね。何事にも好奇心を持って、取り組んで行くことが第一だと思います。
[2011年7月取材]

・次回は9月9日に配信予定です。

2011年8月12日掲出