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より速く、より安全・安心なネットワークをつくって、社会をもっと便利に!

2012年11月9日掲出

コンピュータサイエンス学部 上田 裕巳 教授

コンピュータサイエンス学部 上田 裕巳 教授

本学に赴任される前は、NTTでネットワークシステムの研究実用化に取り組んできた上田先生。かかわったシステムの多くがNTTのネットワークに導入され、社会で広く使用されてきました。こうした研究の業績から2005年に電子情報通信学会のフェロー、2008年には米国電気電子学会(IEEE)のフェローを受賞。そんな上田先生に、研究室での取り組みや研究の魅力についてお話しいただきました。

■先生のご研究について教えてください。

今、私たちの生活では、電話、携帯電話、メール、インターネットと、通信ネットワークなしには成り立ちませんよね。私の研究室では、そういう通信ネットワークについて幅広く研究をしています。中でも特に力を入れているのは、NTT時代から研究してきた光アクセスネットワークです。光アクセスネットワークというのは、インターネットなどのブロードバンドサービスを行うために、光ファイバを用いてユーザ宅と通信事業者ビル(電話局)を接続するシステムのことです。現在、NTTなどの通信事業者が使っている光アクセスネットワークは、PON(Passive Optical Network)というもので、通信事業者ビルに設置されたOLTという装置と、電信柱の横に設置された光スプリッタという素子を光ファイバで繋ぎ、その光スプリッタから多数の光ファイバを分岐させてユーザ宅に設置されたONUという装置と接続しています。ですからOLTからユーザへ送られる光信号は、光スプリッタで分岐されてユーザ宅に伝送される形になっているんです。研究室では、こうした光アクセスネットワークを、より速く、より安全・安心で、より安くするにはどうすればいいかということについて研究しています。

ブロードバンドサービスを提供している光アクセスネットワークPON

■実際に研究室で取り組んだ研究例では、どのようなものがありますか?

例えば、光スプリッタの代わりに光スイッチを用いた、新しい光アクセスネットワークの研究があります。PONで使用されている光スプリッタは、先ほどお話ししたように、光信号を複数のユーザ宅に伝送できるよう均等に分配しています。光信号を分けるということは、その分、1ユーザに対して届く光の量は減るので、光のパワーが弱くなり、それだけ伝送距離が短くなるんですね。これを解消するために、光スプリッタの代わりに光スイッチを用いたらどうなるかという研究に取り組みました。光スイッチは、光信号をユーザごとにスイッチで切り替えて送るので、必要な人のところに必要な信号だけを届けることができます。ですから光スプリッタのように、分岐する必要がないので、光の量は減りません。またPONでは、OLTから光スプリッタに送られてきたデータを、そのままユーザに転送しています。つまりAさん宛、Bさん宛、Cさん宛のデータすべてが、AさんにもBさんにもCさんにも届けられるのです。そのため、データにはONUごとに暗号がかけられていて、Aさん宅のONUではAさん宛のデータのみを抽出し、暗号を解いて、不要なBさん宛、Cさん宛のデータは廃棄しています。しかし光スイッチを用いれば、AさんにはAさん宛のデータしか送りませんから、暗号は不要になります。研究室では、この光スイッチを使った検証実験を行い、その有効性を実証しました。

光スイッチを用いた光アクセスネットワークの実証実験

さらに、光バースト信号の受信特性を向上する方法の研究にも取り組みました。OLTから光スイッチに送られる光信号は連続信号ですが、光スイッチで宛先ごとに信号をスイッチしますので、光スイッチからONUへ送られる光信号はバースト信号といって、信号と信号の間に何もない期間のある信号が用いられています。こういうバースト信号を受信するときは、信号があるとき、ないときをきちんと検出してあげなければなりません。ただその検出に時間がかかると伝送効率は悪くなります。そこで受信部を工夫して信号のあるなしの検出を速め、伝送効率を上げる方法を考え出しました。実際、研究室ではその方法でどのくらい改善できるかシミュレーションで検証し、それを実現するための回路構成も明らかにしました。

■他にはどんな研究に取り組んでいますか?

PON関連の研究で、最近、取り組みはじめたものがあります。先ほど説明したように、現在のPONでは信号を伝送するとき、信号を時間的に重ならないように多重化して送っています。要は、Aさん宛、Bさん宛、Cさん宛の信号が衝突しないように、時間をずらして信号を送っています。この方式で速く信号を送ろうと思うと、ユーザ宅にあるONUが高速に動作する必要があります。つまり、それだけ性能のよいものを使う必要があり、装置の値段が高くなってしまうんです。そこで研究室では、信号を時間ではなく周波数で多重化しようと試みています。例えばラジオでは、何kHzと番組に設定された周波数がありますよね。番組ごとに周波数が違うから、番組の周波数を抽出しさえすれば、その番組が聞けるわけです。それと同じように、各ユーザから送られてきたデジタル信号をそれぞれ異なる周波数に変調して、多重化しようと取り組んでいます。Aさんのデジタル信号はこの周波数、Bさんのデジタル信号は別の周波数とすれば、信号がぶつかることはありません。今、そういうことをシミュレーションで検討していて、少しずつ成果が出つつあるところです。

アイパターンとコンスタレーション最近研究をはじめた新しいPONのシミュレーション結果

それ以外にも、光アクセスネットワークにおいて高速なサービスを行う際、ユーザ側の機器の消費電力をいかに減少させるかという研究や、インターネット関連では、TPC/IPの新しい方法についての研究も行っています。また、学生たちには、実際の通信機器がどのように動作するかを理解してもらうために、ルータやスイッチでネットワークを構成して実験を行い、それらに流れる制御信号やデータ信号を見て、分析してもらっています。これには通信機器の動きの理解に加えて、それぞれの機能をどのように検証するかという検証方法を考えてもらうという狙いもあります。

電話線ケーブルと光ファイバーケーブル

■先生がネットワークの研究を始めたきっかけとは? また、その面白さとは?

大学時代は、電子工学科に所属していたので、電気回路、電子回路、電子計算機(当時はそのように呼んでいました)、応用数学や半導体などを勉強しました。卒論や修論で取り組んでいた研究は、学問的に大変おもしろいものでした。そして、大学院修了後はこれまでに学んだことを基本にして、社会の役に立つことができるところへ就職しようと思ったんです。それでNTTに入り、ネットワークの研究と実用化に携わってきました。
研究は、常に工夫しなければ前に進めません。逆に、自分が工夫したことや考え出したことが形になるからこそ、面白いのです。形となって、動いて、しかもそれが社会で利用されるようになれば、なおさらうれしいものです。そこが研究の醍醐味ですね。

学生とともに研究をする様子

■最後に、今後の展望をお聞かせください。

ひとつは、これまでお話ししたような研究室で取り組んでいる研究を発展させていくことです。それから、学生に幅広い学びを提供するためにも、今後、新たに無線の技術についても研究を始めたいと考えています。
また、教員としては、学生と一緒に研究できることを非常に楽しく思っています。研究を進めるに従って、学生たちが成長していく様子を見ることがとてもうれしいのです。その成長を学生自身も実感できるように、研究室では毎年、何人かの学生に学会で研究成果を発表してもらっています。これまでに、国際会議で「Best Paper Award」(最優秀論文賞)を受賞した学生がいます。また、昨年度は、学会の研究会で優秀な論文を発表した若手の研究者に贈られる奨励賞を受賞した学生もいます。こういう経験は、学生に自信を与えます。自信をつけて社会に羽ばたけることは、非常に喜ばしいことです。私としては、今後も研究室からそういう学生をたくさん輩出したいと思っています。

■ブロードバンドネットワーク研究室(上田研究室)
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com_science_dep/43.html

■コンピュータサイエンス学部WEBサイト
http://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は12月14日に配信予定です。