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うちの卒業生になら診てもらいたい」と自分自身が思えるくらいの教育をしていきたい。

2012年8月8日掲出

医療保健学部 理学療法学科 菅原 仁 准教授

医療保健学部 理学療法学科 菅原 仁 准教授

学生時代に陸上競技をしていたことから、スポーツ選手をサポートする理学療法士を目指していたという菅原先生。スポーツ分野で活躍の後、高齢者を対象とした理学療法に専門を移し、現在は物理療法と運動療法の併用について研究されています。今回は、間もなく臨床現場での試用段階に入る研究についてお話しいただきました

日本物理療法学会大会長講演

■先生のご研究について、お聞かせください。

理学療法の治療手段には、大きく分けて「運動療法」と「物理療法」の2つがあります。運動療法は、関節や筋肉を動かすなど運動によって治療する方法のことで、物理療法は物理的な刺激、例えば温水・冷水の熱や電気、光線、超音波などを用いて治療を展開していく方法のことです。私が専門としているのは、後者の物理療法ですが、研究では物理療法と運動療法を併用することで、どのくらい効果が得られるかということについて考えています。例えば、皮膚を冷やすという物理的刺激を加えることで、低い負荷でも筋肉トレーニングの効果を得られるということの検証に取り組んだ研究があります。一般的に速く、大きな力をだす筋肉である速筋をトレーニングする場合、高い負荷が必要です。しかし、高齢者や障害を持って入る方にとって、高い負荷は危険が伴います。そこで、低い負荷でも、速筋をトレーニングする方法が必要になります。これまでの研究で、皮膚を冷やすことで低い負荷でも速筋を働かせることができることがわかっています。つまり通常10kgの重りを持ち上げないと速筋が働かないとすると、皮膚を冷やすことで5kg程度の重りでも働くようになるというわけです。そこで30040歳くらいの方を対象に、それが本当かどうか検証してみたところ、実際に筋力が上がるとわかりました。今はいよいよ本来のターゲットである高齢者や障害を持つ方を対象に検証を始めようという段階にまで来ています。
この方法で大切なことは、筋肉を冷やすのではなく、皮膚を冷やすという点です。冷やし過ぎると筋肉まで冷えて、その動きは鈍くなってしまうので、あくまでも筋肉の上の皮膚を冷やすということが重要になります。そこで皮膚温度が25度以下にならない「冷パット」、いわゆる保冷剤のようなものを開発して、実験に用いています。この冷パットを鍛えたい筋肉の上に装着し、そのまま20分程度の筋力トレーニングや、歩く、掃除といった日常生活をしてもらいます。それだけで、本来なら重いものを持ち上げたりしなければ鍛えられない速筋を優位に働かせることができるのです。

冷パットの着用テスト

■速筋を鍛えることで、高齢者にはどういうメリットがあるのですか?

高齢者の場合、速筋を鍛えることで転倒しそうになったときに足がパッと出せるとか、出した足に力を入れて踏ん張るといった素早い動きができるようになります。先ほども話しましたが、そういう筋肉(速筋)を鍛えるには、負荷の高いトレーニングをする必要があったので、高齢者の方にはかなり難しかったんですね。そこでこの冷パットを着用して皮膚を冷やし、歩くことや掃除などの日常生活にある動作をするだけで、効果的に速筋を鍛えられるようにしようと考えているのです。毎日、筋力トレーニングすることは難しくても、立ったり座ったり、軽いものを持つといった日常の動作を利用すれば、楽に筋力トレーニングにすることが可能となるわけです。
ここ数年、世界的に見てもこういう皮膚感覚刺激を与えるトレーニングの方法は注目を集めています。特に脳卒中で運動麻痺を持つ方に対して、皮膚感覚刺激を加え状態でトレーニングすると、回復にすごく効果が高いということが言われ始めているんです。ですから恐らく今後、日本でも皮膚感覚刺激を取り入れたトレーニングが非常に増えてくるのではないかと思います。

講義風景

実験風景1

■では、授業ではどんなことを教えているのですか? また教える際に工夫していることはありますか?

「物理療法演習」や「物理療法実習」などを担当しています。例えば、どんな種類の温めがあるのかとか、温めたときにどんな危険なことがあるのか。冷やす場合や電気刺激の場合も同様です。そうした物理療法について教える際に気をつけているのは、教科書に出てくる細かい数字を丸暗記させるのではなく、その意味を理解してもらえるように教えるということです。例えば、電気刺激の場合、教科書には何ミリセカンドに設定しなさいとか、何アンペアくらいに設定しなさいといった細かい数字が出てくるんですね。けれども、それは「なぜその数値で施術しなければならないのか」という理論がわかっていれば、覚える必要のない数字なんです。温度帯も同じで、温めるときに38度がよいのか39度がよいのかという細かい数字ではなく、火傷をしない、かつ温かいと感じられる範囲内で、温度が高い方ではどういう効果があるのか、逆に低い方ではどういう効果があるのかを理解する方が重要になります。ですから、そういうことがわかるような教え方を出来る限りしようと思っています。また、私だけでなく、教員はみんな同様に考えていると思いますが、やっぱり自分が脳卒中で倒れたり骨折したりしたときに、「うちの大学の卒業生になら診てもらいた」と思えることが、一番素晴らしいと思うんです。そういう思いから学生を厳しく指導している面はありますね。「うちの卒業生なら大丈夫だ」と私たち教員自身が思えるように、教えていこうと頑張っているのです。

実験風景2

■学生にはどんな理学療法士になってほしいとお考えですか?

一番は、患者さんの顔色、表情や様子をきちんと見ることができる理学療法士になってほしいです。例えば、トレーニングをしているとき、患者さんは面白くないと思いながらしているかもしれません。そういうとき、トレーニングが必要であったとしても、果たして絶対にしなければならないことなのかどうか、理学療法士が患者さんの様子を見て判断しなければなりません。また、先日、学内の実技試験で筋力の検査を行ったのですが、そのとき学生は筋力ばかりに注目していました。でも見てもらいたいのは、それだけでなく検査されている人の顔色はどうかという部分です。相手が力をうんと出していると、息こらえをしている可能性もあります。健康な人の息こらえは何てことありませんが、患者さんによっては、それがいけない場合もあるんです。ですから人の顔色や様子を見て、頑張り過ぎていないか、きちんと注意を向けてほしいのです。それはつまり患者さんがどう思っているかを、きちんと見て、感じ取ってほしいということです。そうすれば相手が望んでいることが何なのかもわかると思います。これは臨床の現場だけでなく、例えば普段の友達関係の中でもトレーニングできることですから、日常的に習慣づけてほしいですね。

イギリス発表

■最後に今後の展望をお聞かせください。

これまでは皮膚を“冷やす”ことで、速筋をうんと働かせるという目的の研究に取り組んできましたが、今度は“冷やす”ではなく、皮膚を“こする"ことで、筋肉にどういう作用をもたらすのか研究し始めています。例えば、洋服と皮膚がこすれて皮膚に刺激を与えた際に、筋肉はどんな反応を示すのかということを確認しています。まだはっきりした裏付けは取れていませんが、今のところ、どうも冷やす場合と反対の結果が出ています。つまり冷やすと速く動くとか強い力を出す筋肉には非常に有効ですが、こすると筋肉自体は活動を抑えようとし、逆に普段、弱い力を出す筋肉がうんと働きだす傾向にあります。つまり指先を動かすといった細かい運動をするような動作訓練をするときには、こするような刺激が良いのではないかということが、現段階でわかってきているのです。これからもう少し色々なことを見ていかないとわかりませんが、運動麻痺のある患者さんで、うまく動作できない方の場合、弱い力を出す筋肉を鍛えたいということであれば、こするという方法を使うとよいのではないかと思っています。また、こする際にどんな素材が適しているのかについても、これから確認していかなければならない課題のひとつです。

■医療保健学部 理学療法学科 菅原 仁 准教授 個人ページ
http://www.teu.ac.jp/info/lab/teacher/medical_dep/320.html

・次回は9月14日に配信予定です。