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癌を抑制するRNAを見つけ出し、癌治療に有効な核酸医薬の開発に結びつけたい!

2013年7月12日掲出

応用生物学部 杉山友康 教授

応用生物学部 杉山友康 教授

医薬品開発や環境浄化に役立つ遺伝子を見つけ出し、それを実際に活用しようと研究されている杉山先生。再生能力の高い生物プラナリアの再生に関わる遺伝子を探索するなど、興味深い研究をされています。今回は、プラナリアに関する研究の進展や新たな研究についてお話しいただきました。
過去の掲載はこちらから→ https://www.teu.ac.jp/interesting/016353.html

■前回の取材では、プラナリアの再生に関わる遺伝子の研究について伺いましたが、その後、どのような進展がありましたか?

 実は、間もなく研究成果を世の中に発表できるという段階まで来ています。前回もお話ししましたが、プラナリアという無脊椎動物は、脳を取り除いても、また自分で脳を作り出したり、細かく切り刻むと、切った数だけプラナリアができたりするくらい再生能力の高い生物です。その再生に関わる遺伝子を見つけ出そうと研究を進めてきたわけですが、現状、ひとつ有力な遺伝子を見つけることができています。しかもそれが生物の細胞エネルギーの生産に欠かせない補酵素“コエンザイムQ”の合成に関わる遺伝子であることも突き止めました。つまり、プラナリアの再生とコエンザイムQの合成には、関わりがあると考えられるのです。その遺伝子に何らか異常があれば、プラナリアの場合、再生する機能に不具合が生じることがわかっています。このことをきちんと発表できるように、今はデータを揃えているところです。


プラナリアの研究

■では、新たにスタートした研究や進展のあった研究はありますか?

 プラナリア以外にもうひとつ進めてきた研究があるので、今日はそれをご紹介しようと思います。研究テーマは「核酸医薬」。癌細胞を抑制するような核酸医薬を見つけようと、2006年頃から取り組んできた研究です。この研究を始めたきっかけは、ちょうど2006年に、核酸であるRNA分子がRNA分子を壊す「RNA干渉」という現象の大発見に対して、ノーベル賞が授与されことにあります。それを聞いたときに、医薬品として使えるのではないかというアイデアを持ったことから、この研究に着手しました。具体的な話をすると、癌細胞には、それが作り出しているタンパク質やRNAがあり、それらがあるからこそ、その細胞は癌細胞らしくなっています。ということは、癌細胞が作り出したRNAを壊すことができれば、癌を抑制できるかもしれないのです。また、RNA干渉は特異性が高く、狙ったRNA分子だけを壊すことができるとわかっています。そこで、癌細胞が作り出すたくさんのRNAの内、特定のものを狙い撃ちして壊すことができるRNAを見つける技術を開発し、それを核酸医薬に利用しようと研究をスタートさせました。
 当研究室がターゲットにしているのは、ここ40年で死亡率が5倍にもなった大腸癌です。目標は核酸医薬で抗癌剤と同等の効果を出すこと。今、お話ししたように核酸医薬には特異性があるので、もし薬にすることができれば、抗癌剤のように健康な細胞まで攻撃せずにすみ、癌治療の副作用軽減が期待できます。そういう研究を、製薬会社系財団からの奨励を受けながら進めているところです。

■研究には、具体的にどういうことから着手されたのですか?

 まずは、色々な種類のRNAをつくるところからスタートしました。色々な種類のRNAを簡単につくり、その中から癌を抑制するRNAを見つけようという試みです。実際、当研究室では、癌を攻撃するかもしれない特殊なRNA(shRNA)を理論上、4兆種類も合成する手法の開発に成功しました。ループ・ステム・ループDNAというすごく変わった形のDNAをつくることにより、色々な種類のshRNAを合成することができたのです。これほどの数のshRNAを合成することは、他では真似できない、この研究室独自のオンリーワンの技術になっています。その分、この手法の開発には、かなり苦労しました。
 4兆種類のshRNAを合成できるようなったら、今度はそれらの内のどれが癌細胞に作用するのかを探す方法を考えなければなりません。できるだけ簡単で、しかも効率的な手法を考えた結果、私たちは“蛍光”を使った評価方法を採用することにしました。具体的には、4兆種類あるshRNAを約1万種類ずつにまとめた、「shRNAライブラリー」というものをつくります。そのライブラリーを、用意した1万~10万個くらいの癌細胞に一気に入れます。すると、投入したshRNAによって癌細胞の中には、何らか変化を起こすものがあるかもしれません。変化というのは、投入したshRNAのいずれかによって癌細胞内のRNAが壊され、癌細胞の活性酸素が増減したり、アポトーシスという細胞死や細胞の老化の徴候を見せたり、ミトコンドリアというエネルギーをつくる部分でエネルギーがつくれなくなったりといった徴候を見せることです。その変化が起こって、最終的に癌細胞の増殖は停止します。ですから、何らか変化の起きた癌細胞を特定するために、変化が起きたものだけを蛍光するようにしたのです。しかも、調べる細胞の数は膨大ですから、1秒間に約1000細胞を一気に解析する方法を考え出しました。その方法を用いれば、1分間に約6万細胞を解析できるため、あっという間に評価ができます。また、そこにさらなる工夫を加えて、蛍光したものだけをはねのけ、回収する仕組みを採用しました。回収した癌細胞は、解析にかけていきます。現状、研究はこの段階にあって、大学院生を中心に、shRNAライブラリーの中から癌細胞に変化を与えたものを見つけてこようと取り組んでいるところです。学生には「もし最初の1個を見つけることができたら、君の名前をつけていいよ」と言って、がんばってもらっています(笑)。
 また、最初の1個を見つけることができれば、次の展開としては、その1個の細胞の中からDNAだけを取り出して、増やします。そして増やしたものを、もう一度、癌細胞の集まりの中に入れてみるのです。そうすると、今度はほとんど効果のあるshRNAだけを入れていることになるので、半数くらいは反応がでてくるだろうと期待できます。

ループ・ステム・ループDNA

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 プラナリアの研究では、コエンザイムQが重要だとわかってきました。そのコエンザイムQは、年齢とともに体内で生産されにくくなることが人を対象にした研究で明らかになっています。そこで、例えばどんな食べ物や薬で、それを回復させられるのかといった研究をプラナリアで研究してみたいと考えています。コエンザイムQに関しては、まだわかっていないことが多いのです。そもそもなぜ、年齢とともにコエンザイムQが体内で生産できなくなっていくのかというメカニズムはわかっていません。もし体内で増やすことができる方法があるのなら、多くの人に役立てられるはずです。そういう視点からもプラナリアの研究は、続けていきたいと思っています。
 核酸医薬の研究では、とにかく癌細胞に変化を与えるshRNAを1個でも見つけ出したいですね。今のところ、手ごたえのある状態ですから、研究が順調に進めば、近い将来、よいご報告ができるだろうと思います。また、研究室では用意した4兆種類の shRNAすべてを調べようとは考えておらず、1万種類ずつ調べていくなかで、すごく効果の高そうなものが出てくれば、その時点でそれに焦点を当てた研究にシフトするつもりです。そうしていち早く、癌を抑制できるかどうかの研究に取りかかり、死亡者数の多い癌という病気に対して、何らか提案ができればと思っています。また、それを実現させるためにも、今後の研究の進展によって、癌の専門家と共同で研究を進めていければと願っています。

研究・信条

■機能性RNA工学(杉山友康)研究室
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=6

■応用生物学部WEB
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html

・次回は8月7日に配信予定です。