東京工科大学 HOME> トピックス> 2014年のトピックス> 生物や人間の脳や神経系をヒントに、コンピュータの情報処理をもっと柔軟なものにしたい!

トピックス

Topics

生物や人間の脳や神経系をヒントに、コンピュータの情報処理をもっと柔軟なものにしたい!

2014年9月12日掲出

コンピュータサイエンス学部 長名優子 准教授

コンピュータサイエンス学部 長名優子 准教授

人工知能の分野で、コンピュータが新しいことを学習していく方法について研究している長名先生。研究室では、生物からヒントを得た情報処理の特徴をコンピュータで実現しようと取り組んでいます。今回は、研究室の軸となる2つの研究について、お話しいただきました。

コンピュータの得意なこと・苦手なこと
コンピュータの得意なこと・苦手なこと

■先生の研究室では、どのような研究に取り組んでいるのですか?

 ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムに関する研究に取り組んでいます。ニューラルネットワークとは、生物や人間の脳や神経系で行われている情報処理を真似して、コンピュータの情報処理に使おうという方法のことです。生物や人間は、割と柔軟な情報処理ができて、決まり切ったことだけでなく、いろいろな状況に対応する能力を持っていますよね。そういう能力は、脳や神経系の情報処理によって実現されていると考えられています。そこで、それを真似てコンピュータに用いることで、コンピュータがあまり得意ではない柔軟な情報処理を実現しようというのが、ニューラルネットワークの分野になります。私の研究室でも、その方法を使って、コンピュータがあまり得意ではないことを上手にできるようにすることを目指しているところです。

 では、コンピュータがあまり得意ではないこととは何かというと、あいまいな情報処理が苦手だと言えます。たとえば、人に画像を探してほしいと頼むとき、「こんな感じのもの」と例を見せれば、頼まれた人はなんとなく似たものを探してくれますよね。ですがコンピュータに、同じことをさせようとするとできません。コンピュータには、「こんな感じ」がどんな感じかわからないのです。その辺のことを、ニューラルネットワークで解決できないかと研究しています。

 具体的な研究例としては、「タッチの類似性を考慮したイラスト検索」というシステムの開発をしています。これまで画像の中でも写真検索の研究については、いろいろとなされてきているので、私たちはイラストを対象に、イラストのタッチが似ているという部分で検索しようと取り組んでいるところです。たとえばパワーポイントで資料をつくるとき、使用するイラストに統一感があるものを用いたいなんていう場合に役立つよう、ひとつの基準となるイラスト例を検索システムに入れたら、それと似たようなタッチのイラストをコンピュータがライブラリーの中から探してきてくれるというものになっています。
 ただ、コンピュータに基準のイラストと似たようなタッチのものを見つけさせることは、そう簡単ではありません。逆に人は、言葉で理由を説明できなくても、なんとなく似た画風みたいなものを捉えることができますよね。そこで人は無意識的にイラストの何を見て、画風が似ていると判断しているのかという部分に着目し、それを使って検索することを考えました。たとえば色の使い方が似ているとか、どういう種類の色がどのくらい使われているといった観点、あるいは輪郭線の特徴で見分けるといったことですね。そういう特徴によって検索するシステムを開発したところ、現状、似ているイラストをだいたいは探せるようになっています。

 仕組みとしては、まず脳の神経細胞の働き方を真似した“ニューロン”と呼んでいるもの1つ1つに、イラストの特徴に対応するよう学習させ、それらをプログラム中に入れておきます。そして、たとえば色や形などの特徴を数値で表したものをシステムに入力すると、最初に入力した基準となるイラストの特徴に似たものを表すニューロンが「これだよ」と反応するんですね。それをもとに、似ているイラストの候補を挙げていくという形になっています。

タッチの類似したイラスト
タッチの類似したイラスト

■このイラスト検索システムで、今、課題となっていることとは何ですか?

 識別がうまくできる画像と、まだ混乱してしまう画像があるというところです。時々、「なぜこんなものを類似していると認識するんだろう?」というような画像を、コンピュータが候補として出してくることがあります。ですから、なぜそのイラストを似ているとコンピュータが判断しているのかという理由をいろいろと考えてみてはいるんですが、まだ明らかにはなっていません。ちなみに、コンピュータが混乱しやすい例には、輪郭線が太くて黒いといった線に特徴があるもの、あるいは配色に複数の色が使われているデザイン的なイラストが捉えにくいようです。人が見ると、言葉では説明できなくても、「こういう感じ」と共通点を見つけられますが、コンピュータにはそれがうまくできないんです。だからこそ、人が無意識的に見て判断している基準が何なのかというところに一層注目して、それを一生懸命、学生と探していくしかないと思っています。とはいえ将来的には、その部分もコンピュータで自動的に見つけられるようになったら、面白いなとは思っているのですが。

タッチの類似性を考慮した検索結果
タッチの類似性を考慮した検索結果

オフィスレイアウトの自動生成
オフィスレイアウトの自動生成

■では、もうひとつのご研究である「遺伝的アルゴリズム」についてお聞かせください。

 これは生物の遺伝子のメカニズムを真似して、情報処理に使おうという発想のものです。ですから、これもニューラルネットワークと同様、生物からヒントをもらっている分野になります。この遺伝的アルゴリズムは、たくさん答えの候補がある中から、一番よい解とまでは言えないけれど、それなりによい解を探しだすということを得意とする方法になります。たくさん答えがあるというのは、たとえば、オフィスなどの室内のレイアウト。これをコンピュータで自動的に複数、提案してくれるシステムを、この研究室で研究開発しています。

 オフィスでは、ひとつの部屋の中に複数の机や棚を置くわけですが、いろいろな置き方ができるので、レイアウトを考えるのが面倒ですよね。そこで部屋の形や机・棚のサイズと数、何人の部署がいくつ必要かといった条件を入れると、コンピュータが自動的にレイアウト案をつくってくれるというシステムの開発に取り組んでいます。この場合、机や棚の置き方、レイアウトはさまざまですから、答えがひとつではないですよね。こういうことを考えるときに、遺伝的アルゴリズムが利用できるのです。このシステムを使えば、いくつかコンピュータが提案してくれたレイアウト案の中から、最終的に一番よいと思うものを人が選べばよいわけです。また、レイアウト案は、2Dだけでなく3D表示もできるので、実際に机などを置いた中を歩いているような様子も画面で確認できるようになっています。

 今のところ、このシステムは1つのフロア内であれば、複数の部屋があっても問題なくレイアウトを考えることができます。ただ、フロアが複数に分かれている場合に対応するものは、まだつくっていないので、今後はその開発にも着手したいと考えています。

■先生がこの研究分野を専門にしたきっかけとは? また研究の面白さとは何ですか?

 正直なところ、大学3年で研究室を決める時期になるまで、まったくこの分野に興味はなかったし、考えてもいませんでした。ただ、研究室を選ぶときに、少しでも興味のある研究室を片っぱしから見学してまわって、そのときに初めて、この分野を研究している研究室と出合って、話を聞いて面白いなと思ったんです。この分野が生物にヒントをもらっているというところから考えてみれば、確かに私たち生物は、ものすごくいろいろなことができるなと再認識したわけです。また、当時はマルチメディアということがあちこちで言われていた時代だったのですが、ある意味、生物や人間は究極のマルチメディアを使えるものだなとも思って。そんなことを考えているうちに、生物からヒントをもらうって面白いかもと興味がわいてきて、この分野の研究室を選んだという感じです。

 また、研究でコンピュータを相手にしていると、いかに人や生物がすごいかということに気づかされます。そこがこの研究の面白さだと思いますね。先ほどのイラストの話もそうですが、人が無意識にしていること、説明できずにしていることを、いざコンピュータにさせようと思うと、ものすごく難しいですから。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 今日、お話しした研究では、人がどのように物事や画像を判断しているかを人間である私たちが一生懸命考えて、プログラムという形で実現していたわけですが、そういう人が捉えている特徴などもコンピュータで自動的に見つけ出せるようにできたらと思っています。たとえば画像を入れるだけで、どういうところに人が着目しているのかを含めてコンピュータが学習し、そこから情報を取り出すことができるシステムをつくれないかと。それを実現するための方法を、これから見つけたいですね。

 また、それが実現できれば、私たち人間のことをコンピュータが教えてくれるなんてことも起こりえます。ニューラルネットワークや人工知能の分野の研究には、そういう側面もあるんです。人からヒントをもらって何かする一方で、逆に人がしていることを知ることもある、つまり私たちがまだ気づいていない私たち自身のことをコンピュータが教えてくれる。そういうところに繋がっていくと面白いだろうと思います。

 それからコンピュータサイエンスの世界は、女性の数がそう多くはありません。とはいえ、本学部も少しずつ女子学生の数が増えているようです。私自身は、研究をするうえで女性であることを特に意識したことはありませんが、分野によっては、女性だからこそ気づけることや、女性ならではの視点や発想が研究に活かせることもあると思います。ですから女性にもどんどん、コンピュータの世界に飛び込んできてほしいですね。

■コンピュータサイエンス学部WEB
http://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は10月10日に配信予定です。