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コンピュータの世界では「何をつくるか」を考え出す力が大切。実践的な開発プロジェクトを通じて、その力を養おう!

2015年3月13日掲出

コンピュータサイエンス学部 田胡 和哉 教授

今や主流となったクラウド・コンピューティングをいち早く授業に導入し、そのシステム開発を学生に経験させるなど、常にコンピュータサイエンスの最先端を教育に取り入れてきた田胡先生。2011年には、学内に「クラウドサービスセンター」を設立し、センター長として学生に実学の場を提供しています。今回は、変化の激しいコンピュータ分野で、コンピュータサイエンス学部が目指す方向について、お話しいただきました。

■コンピュータの世界は、すごいスピードで変化している分野だと思います。そういう世界で活躍する学生を育てるために、コンピュータサイエンス学部(以下CS学部)では、今、どのような教育を用意しているのですか?

 まず、前提として知っておいてほしいことに、コンピュータサイエンス分野やコンピュータビジネスの世界において、どこが主導権を握り、何を勉強しておくと有利になるのかということです。そこが日本では、なかなか理解されていないところなのです。では、実際に誰が主導権を握り、何が一番重要とされるのかというと、次に「何をつくるか」を決める能力を持つ人だとされています。この「何をつくるか」を考え出すことは、人間の能力のほぼすべてを動員しないとできないような、非常に難しいことです。というのも、それができる人は、まずビジネスに精通していないといけませんし、当然、技術についても知っていないといけない。一番わかりやすい例では、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ。彼らは、元々はエンジニアです。ビル・ゲイツは、昔、日本の某大手メーカーにソフトウェアを売り込みに来て、それが動かなくてビルの廊下で一生懸命、プログラムを直していたという逸話があります。スティーブ・ジョブズにしても、長距離電話を無料にする怪しい装置をつくって販売し、大儲けをしたけれど、最後は銃で脅されて販売をやめたという話があります。ですが彼らは、いつまでもエンジニアのままではなかった。ある時点で、技術そのものは他の人に任せて、自分は“何をつくるか”を考えることに専念しはじめたのです。つまり、コンピュータ分野を動かしているのは、そういう人たちであり、優れた人材はマーケットを理解し、そこに対してどう先進技術を使ったらマーケットが動くかということを考えるところに投入されているわけです。日本では、この事実はもとより、「何をつくるか」を考える“プロダクトプランニング”という言葉さえ、ほとんど知られていません。

■つまり日本は、コンピュータの世界で最も重要とされるプロダクトプランニングのスキルが弱いということでしょうか?

 その通りです。たとえば、日本の電気電子産業は、少し前までは非常に好調でした。テレビなどの電化製品もよく売れていましたよね。それが今や赤字分野に転落しています。その理由は、決して基礎技術の研究で負けたのではなく、何をつくったらよいのかを考えつかなかったからです。日本は、素材や基礎技術を考える能力は非常に高いのですが、それらを実社会でどう価値にしていくかということを考え出す力は、残念ながら欧米に比べて弱いです。外資系の企業で、最も優秀な人はプロダクトプランニングをする部署に配属されます。それはさっき言ったように、次にどんな製品をつくるかを考えられる人が最も重要だからです。そしてそれができる人は、明らかに研究者や技術だけを知っている人ではなく、マーケットや利用者のことを理解していて、利用者たちがどんなものを喜ぶか、しかもそのプロセスからどう収益を引き出すかまで全て考えられる人です。

 具体的には、製品イメージに関するインスピレーションを持つとともに、どの技術をどの程度開発したらいいか見積もれるだけの技術理解力、社会全体に関する冷静な現状認識、戦略的思考、説明能力等、多くの能力が必要となり、各個人では手に負えません。したがって、そういう人材を育成できる大学というのは、今後、非常に重要になってきます。だからこそ東京工科大学のCS学部では、プロダクトプランニングができる優れた人材の育成を目指そうと、取り組んでいるのです。

■具体的には、どのような形で教育に反映させているのでしょうか?

 基本的に、難しい技術をきちんと理解して使いこなすことはベースとして必要ですが、それだけではなく、それを使いこなして価値を提供するという体験を大学でできるようにしています。言うなれば、ベンチャーですよね。ベンチャーは最初から成功しているわけではなく、何度も試行錯誤して挑戦し、失敗を繰り返すことで、ようやくヒットする商品を生み出して成長していくわけです。しかし日本には、それをトレーニングする場がありません。ですから大学を、そのトレーニングの場にしようと考えているのです。

 もちろんそれを実現することは簡単なことではありません。これまでの日本の大学制度とはまるで違う視点の教育ですから。ただ、東京工科大学には大きな強みがあって、ここはこれからの社会のためにすべきこと・必要なことに対して、柔軟に自分たちを変化させて、取り入れてきた歴史があります。ですから、この大学のCS学部なら、プロダクトプランニングを担う人材、技術とビジネスの両方を理解し、次の提案ができる人材を育てることができると考えています。そのために、まず私たちが取り組んだのが、2011年春の「クラウドサービスセンター」設立です。

■それはどのような施設なのですか?

「クラウドサービスセンター」では、約8000人に及ぶ本学の学生や教職員らが利用できる、最先端技術を使ったさまざまなサービスを提供しています。たとえば、出席管理システムの構築・運用や、講義資料・動画教材・学生が手がけたコンテンツやプログラム作品など、学内の教務コンテンツをシステム上で一括管理し、学生や教員が情報共有できるような仕組みを提供しています。また、この「クラウドサービスセンター」が提供するサービスやそのために必要となるソフトウェアの企画・開発・運用は、学生の研究の一環になっていて、学生は研究を通して、実際に人に提供する付加価値の高いサービスの開発を経験できるようなっています。ですから同センターの主な機能は、学生が作っていると言えるわけです。そういうことをしている大学は、国内でもほとんどないと自負しています。

 たとえば、CS学部の3年生がコンピュータ技術の開発をプロジェクトベースで実践的に経験する「プロジェクト実習」という授業があります。この授業は通年で、前期はJava・PHP・JavaScript+Ajax・SQLといった、グーグルやヤフーなどが提供しているメールや検索などのサービスを構築するためのプログラミングを練習します。後期は、前期に習得したスキルを使って、チームごとに実際のビジネスとして提案するサービス企画の立案に取り組みます。こんなサービスを提供したら、喜ばれるのではないかという企画を考えてもらうわけです。もちろん単なるアイデア出しではなく、事業計画の作成や収益予測、システム設計やコスト計算、プロトタイプを開発して、最後はベンチャーキャピタル(ベンチャーに投資する会社)の方の前でプレゼンテーションを行うところまで経験してもらいます。学生は、アイデアとしては良いものを考えますが、それをうまく説明するプレゼンテーション能力や、それがどのくらいの利益を見込めるのかとかという観点から技術を見る経験をしたことがないので大変ですが、七転八倒しながら一生懸命取り組んでいます。また、その「プロジェクト実習」で必要となるプログラムを構築する環境やプロジェクトを支援するための情報共有ツールを「クラウドサービスセンター」のメンバーである大学院生が開発して提供しているのです。(ページ末のコラム参照


プロジェクト実習の様子

 今回、「プロジェクト実習」で使うツールを開発したのは修士2年の大学院生ですが、彼にとってもソフトウェアをつくって、人に使ってもらうことがいかに大変なことかを体験できる良い機会となったと思います。コンピュータのサービスは、理屈の上で動くものをつくったとしても、ユーザーが使いにくければ、全く使ってもらえないということもあり得ます。さまざまなユーザーの意見をヒアリングしてみると、思いもよらない指摘を受けることもありますからね。ですから大学院生もシステム開発に取り組み、「プロジェクト実習」の学部生に使ってもらって意見のフィードバックを受け、修正・改善していくという経験を「クラウドサービスセンター」を通じてしているわけです。

 コンピュータサイエンスは、人に使ってもらえるものをつくらないと価値がないと言っても過言ではない技術分野です。社会に投入して初めて、自分の研究や開発した製品、技術が良かったのか悪かったのか評価される性質のものですからね。そういう経験ができる場として、自分たちの研究を評価してくれる社会の縮小版を大学内につくらなければ、正しい技能の習得はできないと考えています。また、これからのコンピュータサイエンスは、技術者や研究者の知識とビジネスのセンスの両方を持った人でないと太刀打ちできないと思います。そういう人を育むために設立したのが「クラウドサービスセンター」です。また、CS学部においては、コンピュータサイエンスのコア技術を研究する研究者に加え、アントレプレナーといってビジネスを立ち上げる専門家たちも同じ学部に所属し、ともにCS学部の学生を教えるという教育体制を採っているのも、そのためです。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 大学は、これからどうなるかわからない未知の未来にどう立ち向かっていくか、どう自分の頭で考えて、不透明な未来に道筋を見出していくかということを訓練する場だと思います。そのための力をつけるための場所であり、それをつけるには、繰り返しになりますが、何度も失敗する必要があります。その経験を学生に積ませるために、私たちは「クラウドサービスセンター」や「プロジェクト実習」などの場を用意したわけですが、次のステップとして、今度はそれを大学院で導入しようと計画しているところです。そこではもっとITを大々的に使うことを考えています。具体的には、社会人をターゲットに、彼らが失敗できるプロジェクトの場をつくろうと考えているんです。社会人の場合、会社の利益はもちろん、自分自身の人生もかかっていますから、プロジェクトの失敗は許されません。しかし、そういう人たちにも、失敗を経験することで学ぶ場が必要でしょう。そこで大学院を社会人にとっての失敗できる場にできないかと考えています。また、社会人は仕事で忙しいですから、いちいちキャンパスに足を運んで、授業を受けている時間はありません。ですからインターネットを使って、大学側から学習内容を提供し、座学は各自オンラインで事前に済ませてもらい、ディスカッションするところだけ大学に来てもらうようにしたいと考えています。そのサービスは、もちろん「クラウドサービスセンター」が提供します。また、大学院で扱う研究の中身は、相当、実践的なものにしていくつもりです。学部から大学院に進学した学生にとっては、社会人と一緒に机を並べて研究できるので、多くのことを学べますし、社会人にとっては大学院を思い切り失敗できる“実験の場”にできるわけです。そういう役割を大学院に持たせつつ、「クラウドサービスセンター」がカバーするIT環境をそこでどんどん活かしていこうと考えています。

[コラム] クラウドを使って「プロジェクト実習」の支援ツールを構築

■コンピュータサイエンス専攻 修士課程2年(取材時) 古谷 文弥さん


2015年4月から「クラウドサービスセンター」で業務を引き継ぐ3年生(取材時)。
左から、木村 純平さん、谷川 寛明さん、長沢 凌さん、吉田 裕一さん

 CS学部3年生の「プロジェクト実習」を支援するツールとして、ミーティングでの議論内容、ホワイトボードのメモを撮影した画像、スライド資料、動画などを、日付ごとに一覧で見渡せるコンテンツ管理システムを、「HTML5」技術を用いて構築しました。このシステムの特長は、一ヵ所に情報を集約できることと、一緒にプロジェクに取り組むトチームメイトや先生が掲載された情報にリアルタイムにアクセスし編集できること、それからスライド資料内などの文字情報から簡単に検索ができる点です。また、検索機能としては、機械学習(コンピュータが自動的に学習する技術)を用いた「あいまい検索」をすることも可能です。

 このツールを開発するに至った経緯は、「プロジェクト実習」でのミーティング後、学生たちが自分のすべき課題を忘れてしまったり、そもそもミーティング内容を振り返る機会がなかったりしたからです。そこで実習の全ての記録を残し、それをみんなで共有することで、グループワークの効率化を図ろうと考えました。

 実際、使用した学生の感想としては「ドラッグ&ドロップで操作が簡単だった」「情報が共有できるので、チームメイトと授業外でのコミュニケーションが取りやすくなった」と好評を得ています。また、重い動画ファイルをアップロードした際に、処理の進行がわかりづらいという指摘を受け、タスクの進行状況がわかるようにプログレスバーをつけて解決したところもありました。
このシステムは、これで完成というわけではなく、まだまだサポートできることはたくさんあります。来年度、クラウドサービスセンターの業務を引き継ぐメンバーには、より使いやすいサービスになるように、がんばってもらいたいですね。

■「プロジェクト実習」のプロジェクト例


チーム「knuckle(ナックル)」
左から谷川 寛明さん、曽我 謙二さん、小室 勇太さん、菊池 武志さん


地図共有アプリ「ピクディア」

飲み会や食事会で、お店の場所を相手に伝えるとき、現状は地図の写真を送ったり、グーグルマップなどに集合地点をポイントしたURLを送ったりすることが多いと思います。それをもっとスマートに、便利にできないかと、私たちは同じ地図を複数の人で共有・編集できるアプリケーション「ピクディア」というものを開発しました。

 スマートフォン上でアプリを起動して地図を表示し、目的地にタッチして印をつけると、仲間が見ている同じアプリ上の地図にも、それが反映されるというものです。基盤としているのはグーグルマップで、そこに自分たちでプログラムを組み込んでマーカー機能を応用したり、コメント機能を追加してコメントを書き込めるようにしたりしています。また、グーグルが持っている飲食店のデータベースを使って、表示されている地図の200m圏内の飲食店を検索表示する機能も入れました。表示された飲食店の中から行きたいお店をタッチすれば、食事相手に簡単にその店の情報を送ることができます。これによって、従来のように検索したマップのURLをわざわざメールなどに貼りつけて送る手間が解消できます。

 間もなく、このアプリをベンチャーキャピタルの方の前でプレゼンテーションする予定です。どんな評価を得られるか、不安もありますが楽しみでもあります!

■コンピュータサイエンス学部WEB
http://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は4月10日に配信予定です。