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独創的なカリキュラムを経て、産業界をリードするゲーム開発の研究成果や人材が、メディア学部から続々と誕生しています。

2015年3月13日掲出

メディア学部 三上 浩司 准教授

映像、アニメーション、ゲームなど幅広い分野を対象に、新しい技術や開発方法、それを生み出す環境について研究してきた三上先生。今回は、その中でもメディア学部におけるゲーム開発教育をピックアップし、現状をお聞かせいただきました。

過去の掲載はこちら→ http://www.teu.ac.jp/interesting/011540.html

■前回の取材から7年ほど経ち、ゲーム開発の環境は大きく変わったように思いますが、先生のご担当されているゲーム制作に関する授業や教育にも変化はありましたか?

 確かにゲームを取り巻く環境は、ずいぶんと変わりました。今はスマートフォンにダウンロードして遊ぶアプリケーションのゲームが盛んになるなど、家庭用ゲーム機に依存しないゲームが人気を博しています。そんなふうにゲームを取り巻く環境は変化しましたが、実は私たちの教育基盤に大きな変化はないんです。というのもメディア学部のカリキュラムは、何かのツールやソフトウェアに特化して、その使い方を覚えようという教育ではないからです。逆に道具は何を使っても構わないので、今のマーケットやユーザーに響くものをつくろうというスタンスで進めてきたので、ツールや環境が変わっても学び自体に変わりはありません。


東京ゲームショウ2014の様子

 たとえば、前回の取材でもお話ししましたが、メディア学部の特長的な学びに1~3年生対象の「プロジェクト演習」という授業があります。これは学生が自分の希望するプロジェクトに自ら手を挙げて参加し、実践を通して能動的に経験を積んでいく授業になります。私が担当する「プロジェクト演習(インタラクティブ・ゲーム制作)」では、学生たちが3年間かけて、東京ゲームショウに出展するゲームの開発に取り組んでいます。そのとき学生たちが目標とするのは、東京ゲームショウの来場者に新しいゲームの可能性を感じてもらうことです。ですからスマートフォンが流行り始めたら、それをターゲットにしたゲームをつくりますし、逆にスマートフォンのゲームばかりでつまらないとなれば、別の新しいデバイスを考えてみようという進め方をしています。つまり、あるツールやデバイスが変化しても、それそのものを学んだり、特定のジャンルのものをつくったりすることを目的にしていないので、環境の変化に柔軟に対応できるのです。もちろん、学ぶ対象というか、目的を実現するための手段は技術の進歩につれてどんどん増えていきます。

 その一方で先を見据えて、いち早くカリキュラムに取り入れた技術も少なくありません。たとえば、汎用的なゲームエンジン「Unity(ユニティ)」は、2010年~2011年頃に注目を集め始めたものですが、メディア学部ではそれ以前の2009年度にカリキュラム化し、2010年度から「Unity」を取り入れた本格的な教育やプロジェクトが始動しています。

■ゲームエンジンとは、どのようなものですか?

 ゲームエンジンというのは、ゲームを動かすための統合的な開発アプリケーションのことです。これを使うと比較的簡単に、ゲームをつくることができます。皆さんがよく知る有名なゲーム会社は、このエンジンを独自に開発したうえでゲームの開発をしていますし、ゲームタイトルごとにエンジンをゼロから作り直すこともしています。同じエンジンという意味でかんがえると、これは自動車で言えば、それぞれの車種に、それぞれの専用エンジンを開発して搭載しているのと同じことですね。一方、いろいろなゲームに利用できる汎用的なゲームエンジンを使えば、一つのエンジンからいろいろなバリエーションのゲームができます。同じく自動車で考えれば、一つのエンジンをいろいろな車に搭載する考え方に似ています。

 一方、アメリカでは2000年頃から、汎用的なゲームエンジンの開発、提供が進んでいて、そのエンジンを活用して、自分たちの発想で好きにゲームをつくってくださいという考え方が出てきます。私自身、その頃からゲームエンジンに注目していて、その開発研究を手がけていました。しかし、当時は汎用的なゲームエンジンはそれほど性能や汎用性が高くありませんでした。そのため、当時の日本のゲーム業界は、自社のこだわりが詰まったエンジンを開発して、今までにないゲームをつくるという以前からの考え方が根強くあり、自社開発ではないゲームエンジンを受け入れる土壌はまだ生まれていませんでした。それが2010年頃に、大きく変化します。先ほどお話しした「Unity」という汎用性が高く、使い勝手がよく、無料で使えるゲームエンジンが登場したのです。こうしたゲームエンジンの普及によって、独自の開発環境の整った、経験豊かなゲーム開発会社でなくても、誰でもゲームをつくれるようになってきたのです。

 今、スマートフォンのゲームがかなり勢いづいているのも、ゲームエンジンの普及が大きく影響しています。スマートフォン用のゲーム開発は、それまでの家庭用ゲーム機のゲーム開発のように数年間をかけて数十人場合によっては数百のスタッフでつくるという大規模な進め方とは違い、数週間から数ヵ月という短期間に、十人以下のスタッフという小さい規模で、きちんとしたアウトプットを出さなければなりません。そういうときに、ゼロからゲームエンジンを開発していたのでは、間に合いませんよね。そこで、公開されている便利なゲームエンジンを使うという選択肢が出てくるのです。また「Unity」は、スマートフォン用のゲームから家庭用ゲーム機のゲームまで幅広くつくることができるので、今や誰でもそれを使ってゲーム開発をすることが当然の時代になってきています。

 こうした流れを受けて「Unity」は、ゲーム業界はもとより産業界からも注目され、活用されるようになっています。というのも「Unity」は、いろいろなプログラムのハブになれるので、たとえばセンサと組み合わせてメディアアート作品をつくることもできるし、3D・2Dのグラフィック制作として建築や医療、企業広報や会社案内用のマテリアル、プレゼンテーションツールなどへの応用も可能だからです。これまで大学におけるゲームやメディアの研究分野は、どうしても産業界を後追いする面があって、産業界が導入しているツールや技術を使えるように、大学教育に組み込むパターンはよくありました。ところが「Unity」をはじめとするゲームエンジンは、先に大学側が未来のゲーム開発方法として重要になるはずだと注目し、カリキュラムに取り入れてきていたので、結果的にゲームエンジンを利用したゲーム開発では大学が産業界をリードする形になったわけです。そして現在では「Unreal Engine」という新たなエンジンも登場していて、大学でもカリキュラムを構築しました。

■では、カリキュラムには、どのようにゲームエンジンを取り入れているのですか?
 授業では、3年生の必修科目「メディア専門演習」で「Unity」を使用しています。「Unity」は短期間のゲーム開発に向いているツールですから、半期という短い時間で制作に取り組む大学の授業には最適です。ただ、最初にお話ししたように、この大学ではツールを教える授業はしないので、「Unity」自体の授業はありません。ですから「メディア専門演習」では「Unity」を用いますが、その技術を教えることはしていません。では、どうするのかというと、すでに大学で独自に作ったカリキュラムにのっとったテキストのほか、「Unity」に関する書籍はたくさん出版されていて、それらを読めば、ある程度は使うことができるようになるので、学生には自分たちで学んでマスターしてもらっています。メディア学部の3年生であれば、プログラミング技術は一定レベルに達しているので、自分でマスターしてゲーム開発に使うことは十分可能ですからね。

 また、「プロジェクト演習(インタラクティブ・ゲーム制作)」では、どんなツールを使ってもよいことにしているので、「Unity」を使うこともあります。ただ「プロジェクト演習」の場合は、3年という長い時間をかけてゲーム開発ができますから、基本的にはゲームエンジンを使わずに、ゼロから自分たちでつくろうという姿勢で進めています。やはり本学は“工科”と名のつく大学なので、ゲームエンジンそのものを生み出すことや次のエンジンに必要なものは何か、今のエンジンにない機能をどうしたら実装できるかというところに行きつかなければなりません。ですからゲームエンジンの利用はしますが、最終的に育成したいのは、ゲームエンジンの使い手ではなく、つくる側の人間なのです。実際に本学の渡辺大地先生が、ゲームエンジンと呼んでも過言ではない、グラフィックライブラリ「FK」を開発しています。「FK」は自分で開発すればいくらでも拡張できますので、独自のアイデア具現化のために採用するというチームも多くあります。また、高いグラフィック性能を利用するために「Unreal Engine」という別なゲームエンジンを選択するケースもあります。


チームでのゲーム開発の様子

 それから本学が会場のひとつとなっている、ゲーム開発イベント「Global Game Jam(GGJ)」でも、「Unity」を使ったゲーム開発をしています。GGJは、プロアマ問わず、そこに集まった人たちでチームを組んで、48時間のうちにゲームの企画から開発、公開までするというチャレンジングなイベントです。これに私が担当する「プロジェクト演習(インタラクティブ・ゲーム制作)」の学生やメディア学部の学生、大学院生、日本工学院の学生が毎年、参加しています。「プロジェクト演習(インタラクティブ・ゲーム制作)」の学生をGGJに参加させることにした背景には、東京ゲームショウへの出展で得た気付きに対するアクションというものがあります。学生たちは3年という時間をかけて、ゲームショウに出すためのゲームを頑張って開発し、ゲームショウに来場して実際に遊んだプレーヤーからダイレクトに評価をもらいます。当然、それは良いものばかりではありません。来場者やプロの方から「もっとこうした方がよい」といった貴重なアドバイスをもらえる機会でもあるわけです。その結果、ゲームショウ後は、大抵の学生が「もっとこうすればよかった」という気づきを得るんですね。それを次に活かしてほしいという思いがあって、そのための場としてGGJを活用しようと、本学部もイベントに参加することにしたのです。

■GGJへの参加を通して、学生はどんなことを学ぶのでしょうか?

 ひとつは、幅広い年齢層とコミュニケーションを取りながら、プロジェクトを進める経験ができるということです。大学の授業は、基本的に同学年の学生と受けますが、GGJの参加者は年齢もまちまちですし、プロアマ不問で募集していますから、幅広い年齢層や立場の人とチームを組んで開発に取り組んでいきます。それは大学のカリキュラム内では、なかなか実現できないことです。また、いきなり初めての人と顔を合わせて、ゲームをつくれと言われても、学生が何もできないと困るので、GGJの大会前に学内で48時間のゲーム開発に取り組む演習を3ヵ月間、実施しています。48時間を1ヵ月に振り分けて、各自で作業時間をコントロールし、混成チームでゲーム開発に取り組んでもらいます。これを実施して良かったことは、学生が自分の作業時間を予測できるようになったことです。制作できる時間は48時間しかないのですから、逆算して何にどれだけ時間をかけられるか、自分の力だとどのくらい作業時間が必要かということを、考えなければなりません。そんなふうにシビアな時間管理を覚えるきっかけとして、事前の演習は役立っています。それができると、GGJの本大会でも自分ならこの作業をこのくらいの時間でできると、チームメイトに言えるようになりますから。


グローバルゲームジャム2015の様子

 また、GGJでのチーム編成は、ゲーム開発のプロや中心的な役割を担いそうなメインプログラマーが1つのチームに集中しないように、各チームに分散されています。ですから、どのチームにもプロや技術のある人が数名は入るようにしているのです。そういう環境も学生にとっては、貴重です。プロは自分のプライドをかけて挑戦しに来ているので、同じチームになった学生を決してお客さん扱いしません。学生は、プロと同じ環境、同じプレッシャーの中で、48時間のゲーム開発に取り組むわけですから、当然、身につくものは大きくなります。プロが現場でどんなことを考えて、何を大事にしてゲームをつくっているのかを生で見られるわけですからね。

 一方で、GGJは学生だけでなく、プロにとってもメリットの多いイベントになりつつあります。もともとGGJが始まったきっかけは、ゲーム開発が大規模化して、作品をつくるというより、キャラクターが履いている靴のモデリングや看板の文字だけをひたすら描くといったゲームの部品をつくる形に作業が細分化されてしまったことにあります。それでは本来のゲーム開発で体験するはずの開発プロセスやその面白さ、大変さを経験しない作り手が増えて、結果的に業界に良い結果をもたらさないだろうと。そこで自分の手で企画から開発、リリース、評価を受けるまでの一連のプロセスを体験する取り組みをしようと、GGJがスタートしたのです。そういう経験は、学生だけでなくゲーム開発に携わるプロにとっても、とても重要なものだと言えます。社外の人と一緒に開発に挑戦することで、社内だけで通用していた用語や仕事の仕方に気づいたり、今まで自分が知っていた知識について、もう一度考えてみたり、勉強し直すきっかけになったりもしますからね。今、企業の人たちは、GGJのそういう利点に非常に注目していて、社内研修に活用するところも出てきています。こういうところからも、大学での先端的な学びが業界の学びにも影響したことがわかります。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 前回の取材で「ゲーム業界に入った卒業生に『自分の作品』だと胸を張れるゲームをつくってほしい」という話をしたのですが、ある意味でこれは叶いました。ゲームなどのコンピュータエンタテインメントの業界団体であるCESAが主催する「CEDEC(セデック)」というゲーム開発者向けのカンファレンスがあって、そこでは新技術や新しい作り方を取り入れたゲームをピックアップして、最新事例として発表するといった技術交流が行われています。私は2010年頃からその運営委員をしているのですが、そのカンファレンスの壇上にスピーカーとして、メディア学部の卒業生が立つようになってきているのです。これは非常に大きな成果だと思います。なぜなら、業界の人たちが聞きたがる事例を話すことができる人を、本学が生み出せるようになってきたということですから。それは、本学の教育が社会や産業界の発展に役立っているという証明でもあると言えます。そういう業界をリードする人を何人も輩出できているということは、メディア学部にとって、大変喜ばしいことです。

・次回は4月10日に配信予定です。