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「そのプログラミングが何の役にたつの?」という問いに きちんと答えられる人材を育てたい!

2016年6月10日掲出

コンピュータサイエンス学部 亀田 弘之教授

 近年、コンピュータの分野で注目されているキーワードのひとつに「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」があります。パソコンやスマートフォンだけでなく、いろいろな「モノ」がインターネットにつながり、情報交換することで広がる可能性。そこで今回は、コンピュータサイエンス学部長の亀田先生に、コンピュータサイエンス学部が取り組む「医療IoT」プロジェクトに関するお話をうかがいました。

■ 学部として、IoTに関連するどのような研究を行っているかお聞かせください。

ひとことで「IoT」といっても対象となる範囲はとても広いもの。そこでコンピュータサイエンス学部では、応用生物学部や医療保険学部との連携のもと、スマートメディカルケアやスマートヘルスケアの分野を中心とした「医療IoT」プロジェクトを立ち上げました。
 現在、動き出している共同プロジェクトのひとつは、蒲田キャンパスのある大田区と連携した「区民参加型の運動プログラムとリハビリ・介護支援機器の開発プロジェクト」。これは地元の高齢者や障害者の方々が元気に過ごせるための段階的目的達成型運動プログラムや支援機器の開発を目指すというものです。最終的には参加者の健康状態や運動量などのデータを集め、分析してプログラムなどにフィードバックすることができるネットワークを作っていこうというのが狙いです。
 もうひとつ、「医療IoT」の代表的なプロジェクトが「日常生活活動分析システムの研究開発」です。実は当学部でセンサ工学を専門に研究されている松下宗一郎先生が、腕時計型のウェアラブルな運動解析デバイスを開発されました。わかりやすくいえばモーションキャプチャーのようなものですね。しかもそれを小型軽量なうえ安価で作ることができるようになりました。このデバイスを使って日常生活の活動を計測し、そこから発生する様々なデータをネットで収集して健康促進に役立てていこうとするプロジェクトです。

 また、それらとは別に私の研究室で行っているのが「介護ロボット」の開発。介護ロボットというと、移動を介助したりパワースーツ的なものだったり、物理的に介護を支援するものを想像しがちですが、私が力を入れているのは「コミュニケーションのケア」「心のケア」をしてくれるロボットの研究です。いろいろな測定機器を使って集められ、蓄積されたバイタル情報をもとに相手と対話することで、人間の側の気持ちや思い、状態を理解する。いわば「他者理解するロボット」を目指しています。たとえば最近話題のPepperなどは、彼ら自身が「感情を持ったロボット」であり、人間の側の感情を理解して対応してくれているわけではありません。私が作りたいのは、人間側の気持ちを理解して対話できるロボット。現状の目的は「癒し」ですが、さらに発展させて認知症の患者さんの早期発見などにもつながるのではないかと思っています。

■ 医療IoTの研究において重要なのはどのようなことですか?

 特に医療IoTにおいて、最重要なのは「ネットワークの安全性」です。
 バイタル情報など、究極の個人情報を扱うため、絶対に安全でなければネットワークにつないではいけないという大きな制約があります。「ネットを介して情報を集め、それらのビッグデータを人工知能の手法を使って分析してフィードバックする」という実践の前段階として、まずは安全なネットワーク作りが求められるのです。
「医療に特化した安全なネットワークの構築」という研究テーマはまだ始まったばかりですが、まずは医療に関する情報をネットワーク上で安全に流通させるための技術の仕組みと、それを支える社会制度作りを目指した研究がスタートしています。

 またリアルタイムで健康状態をモニタリングすることで、体に異常があったときの対応がすぐにとれるというのも医療IoTの大きなメリットです。たとえば心臓の人工弁などは、風邪をひいただけでもすぐに入院しなければならなかったり、下手をすると命に関わるほど敏感なもの。ですからネットワークにつながることで大きな安心が得られます。
 ところが反対につながっているために生まれる危険もあります。たとえばサイバー攻撃。実際にはまだそこまでたどりついてはいませんが、将来的に人工心臓もIoTでネットにつながるようになったとき、いずれサイバー攻撃を受けるかもしれない。そこで攻撃を受けないようにするためには、あるいは攻撃を受けても命に関わらないようにするためにはどうすればいいか。そういう問題提起もあり、実際に現在、医療IoTの側面から見たサイバー攻撃に関わる研究なども進めています。

■ 医療IoTに関わる人材に求められるものなどはありますか?

 ネットワークのセキュリティ強化には、こうした技術面の進歩だけでなく運用する人間の倫理感を高く保つことも重要です。現実的には、おそらく技術面だけで完璧に安全なネットワークを作り上げることは無理でしょう。そこで運用の仕方なども含めていかに安全性を高めるかということを考えていかなければなりません。そこで医療IoTにおいては、運用する人間の倫理教育もとても重要視されているのです。
 実際、厚生労働省が関わる医療IoTのプロジェクトに参加するにあたっては、「この研究者は倫理教育を受けていますか?」というチェックが入ります。eラーニングなどできちんと学び、それを修了していないと研究メンバーには入れないのです。そこで当学部では、まずは先生方にもeラーニングで倫理関連の講義を受けてもらっています。
 このように、セキュリティの技術だけでなく、高い倫理感をもった技術者を育てる教育を目指した取り組みを始めています。IT技術だけでなく倫理面についても学べるというのは、普通の技術系の大学とはすこし違っているかもしれませんね。

■ コンピュータサイエンス学部ならではの医療IoTとの関わりはありますか?

 IoTに関してはセキュリティと同時に、その「複雑なシステム」をどう作るか、どう守るか、ということも大きなテーマです。
 現在、大きな社会基盤に関わるようなソフトウェアのプログラムは、だいたい1億行くらいある巨大なものになっています。たとえば自動車で1億行、携帯電話で7~8000万行。仮にプログラムをロール紙に印刷すると70~80メートルくらいの長さ、と考えてもらえばその大きさが実感できるでしょう。ちなみに昔のWindows2000のプログラムは50万行。私たちは日常生活のなかでその百倍以上の大きさのプログラムを普通に使っているというわけです。その、ただでさえ巨大なプログラムがIoTの導入によってネットワークにつながれば、どれだけシステムが複雑になってしまうかは想像に難くないでしょう。
 そして、そこのどこかに間違いがあると、事故が起きる。仮に事故が起きなくても、ここを修正して欲しいとか、この機能はいらない、あるいはこういう機能を追加してくれ、というようにプログラムをいじらなければいけないことがあります。プログラムが大きくなればなるほど、それが原因でエラーが起きることが多くなるのです。長い作文を書いていることを想像してみてください。途中の一部をいじると文章のつながりがおかしくなって、最終的には全体を見直さなければいけなくなりますよね。プログラムもそれと同じで、どこかをいじるとつながりがおかしくなって、うまく動かなくなってしまう。ですから、どこかをいじっても、全体がおかしくならないプログラムをいかに作るか。それは「複雑なものを、どう安全に設計するか」ということでもあり、IoTの発展において重要なテーマです。

 そこでコンピュータサイエンス学部では、複雑なシステムを構築する力をつけるため「プログラミング教育」の強化を図っています。授業数も授業時間も増やすと同時に、質の面でも、できるだけ誰も落ちこぼれないようなものに作り変えようとしています。学生からは「難しい」「作業の量が多い」という意見とともに、「でも楽しい」という声も多く聞こえてきて安心しているところです。

■ 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

 数年前にオバマ大統領が「アメリカの国民は全員がコンピュータサイエンスを勉強しよう」と発言しました。実際、アメリカでは小学生くらいから授業でプログラミングを学びはじめます。私は日本でも、なるべく早い時期からプログラミングを学ぶべきだと思っています。
 それは単純にプログラマーを養成したいということではありません。もちろんプログラミングができることも大切なのですが、むしろ重要なのはそれを通して思考能力を鍛えること。物事を論理的に考え、論理的に表現する。思考能力を高めるようなプログラミング能力を身につけ、最終的にはプログラミングの基となる「システム構築」ができること。それが本学部のプログラミング教育の大きな目標です。

 本来、プログラミングというのは社会の役に立つものです。ですから学生の皆さんには、ただプログラミング技術を身につけるだけでなく「プログラミングが何の役にたつの?」ということを考えて欲しい。そのためには世の中のいろいろな人や物事と関わって、世の中を知ってください。そして「それが何の役にたつの?」という問いに答えられるような人になって欲しいと思っています。

■コンピュータサイエンス学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は7月8日に配信予定です。