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ミトコンドリアを活性化する成分を探索し、 長寿のメカニズムを解き明かしたい!

2016年10月7日掲出

応用生物学部 佐藤拓己 教授

佐藤拓己 教授

 細胞の生死を決定するミトコンドリアの働きを活性化させ、長寿を実現するためのメカニズムを研究している佐藤先生。「ミトコンドリアと共に生きる!」がスローガンの佐藤先生に、ミトコンドリアと長寿の関係について詳しく伺いました。

■先生の研究テーマについて詳しく教えてください。

 私の研究テーマは、このミトコンドリアのエネルギー代謝を活性化させるケトン体やピルビン酸などの有機酸の細胞レベルでの機能を解き明かすことです。
 特に神経細胞を保護する作用を解明することを目指しています。ケトン体や有機酸は直接ミトコンドリアを活性化することができ、これが神経細胞を保護することにカギとなります。またこの機能は寿命を延長するためにも重要です。
 細胞というのは、細胞質とミトコンドリアという2つの場所でエネルギーを作っています。細胞質でのエネルギー代謝経路は、主にブドウ糖を分解して体内で使いやすいエネルギー源に作りかえていく「解糖系」と呼ばれるもの。
 ところがこのルートは代謝効率があまりよくありません。ブドウ糖の一部が分解の途中で乳酸に変化し、完全に酸化されないからです。それに対してミトコンドリアのエネルギー代謝はとても効率がいいのです。特にケトン体やピルビン酸という化合物はミトコンドリアに直接届き、完全に酸化されてすべてがエネルギーになります。このエネルギー効率の高いミトコンドリアを如何にして使いきるのかというのが健康長寿のカギとなります。ですからミトコンドリアに直接働く有機酸やケトン体を研究対象にしています。
 ミトコンドリアというのは細胞内にある小器官なのですが、もともとはバクテリアだったためDNAを持っています。そしてミトコンドリアのエネルギー代謝が悪化すると、細胞を死に誘導する因子が放出される。ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っているのです。ですからミトコンドリアが活発に働く状態であれば、細胞も活き活きとして、アンチエイジング効果が見込まれるというわけです。
 最近テカンジャーナルで研究が紹介されていますので、以下のサイトをご覧ください。

■Tecan Journal テカンジャーナル
http://www.tecan.co.jp/news_event/tecanjournal/a-modern-elixir-of-life.html

■ミトコンドリアが活性化すると寿命も延びるのでしょうか?

 結論から言うと、延びます。寿命研究の実験によく使う線虫という生物がいるのですが、線虫の場合、ミトコンドリアを活性化させるピルビン酸やオギザロ酢酸を添加すると数10%も寿命が延びます。
 逆に解糖系を活性化するブドウ糖や果糖を添加すると寿命が短くなります。ですから解糖系を使うよりも、ミトコンドリアを使ったほうがずっと健康長寿でいられます。
 寿命というのは実質臓器がダメになるよりも、よりもむしろ血管がダメになって尽きることが多い。たとえば脳溢血も狭心症も、臓器そのものではなく血管がダメになって起きる疾患です。ですから私は血管さえ老化させなければ少なくとも寿命は100歳まで伸ばせるのではないかと思っています。
 そして先ほど説明したようにミトコンドリアが活性化すると細胞も活性化すると血管は若く保たれるため、「人はミトコンドリアと共に生きる」というのが私の研究と人生の持論なのです。 ミトコンドリアを活性化させるものには、先ほど述べた有機酸の他にケトン体というものがあります。
 ケトン体というのは、主に「β−ヒドロキシ酪酸」という物質なのですが、これは食材には含まれておらず、中性脂肪を原料に肝臓が創りだすものです。通常、人間の体は食事で摂取した糖質を分解してエネルギー源として使いますが、それがなくなると体内の脂肪を分解し、ケトン体を生成します。ですからケトン体は糖質を多く摂取しているとなかなか生成されません。糖質制限が体にいいというのは、糖質が下がることでケトン体の濃度があがり、それがミトコンドリアでエネルギー源となって代謝効率が良くなる。すなわちミトコンドリアが活性化するからなのです。 そのためエネルギー源として摂取するならば、ミトコンドリアの働きを鈍らせる糖質よりも、直接ミトコンドリアを活性化させるものを取ったほうがいい。果物には有機酸が多く含まれているので、砂糖を摂るよりは遥かにいいですね。
 実は脳というのは「脂肪7割、たんぱく質3割」でできています。しかも「脂肪7割」の半分はコレステロール。コレステロールが不足すると脳の伝導も悪くなります。実際に総コレステロール値が150以下の人は、うつ病や認知症を発症しやすいという研究結果も出ていますよ。ですからコレステロールはむしろ積極的に食べるべきものと考えます。

■自分の体内のミトコンドリアが活性化しているかどうか、わかる方法はありますか?

 日々幸福感に満たされ、仕事が楽しければ、「ミトコンドリアと共に生きる」という状態なのです。なぜならそれは脳が最高の状態にあることを示しているからです。脳は最もエネルギーを消費する組織であり、体のなかでもっともミトコンドリアの機能の影響を強く受けるのは脳です。
 生物が持つ24時間周期のリズムを「概日周期」(あるいは体内時計)といい、通常、体内では朝から夜へ向かう時間軸に沿って、朝はセロトニンが多く、夜はメラトニンが多く分泌されています。メラトニンは睡眠物質で、セロトニンは幸福物質。その分泌量のバランスが睡眠と覚醒のリズムを司っているのです。この概日周期に従って脳と体が働くことは脳のミトコンドリアの働きぶりによって決まるのです。
 セロトニンがきちんと分泌されて脳の働きが正常であれば、午後の2〜3時くらいまでは幸福感に満たされていて仕事もはかどるのが普通の状態。ですから午前中に頭がよくまわらないという人は、セロトニン経路が充分に働いていない。すなわちミトコンドリアが活性化していないということになりますまた、セロトニンが減るとうつ病になりやすいので、落ち込みやすい人も要注意です。自分の気分で、ミトコンドリアの状態もわかるというわけです。
 セロトニン経路は興奮系のシナプスなのでエネルギーを大量に消費します。そのためにはミトコンドリアに十分な栄養が必要です。脳は、車のハイブリッドエンジンに例えることができます。ハイブリッドエンジンの車の燃費がガソリン車に比べて高いのは、ガソリンと電気を両方使い分けているからです。脳もブドウ糖とケトン体のハイブリッドエンジンであるのが最も効率がいい状態です。このブドウ糖とケトン体のハイブリッドエンジンで駆動されるセロトニン経路は最高の働きをし、人間に強い幸福感を与えます。脳がうまく働いていないなと思ったときには、「甘いものを摂る」ことより「ミトコンドリアを活性化させる」有機酸を含む果物などを食べるほうがいいのです。

■先生がミトコンドリアに興味を持たれたきっかけはなんですか?

 大学時代は農学部の畜産獣医学科で学んでいました。そのころ研究したいと思っていたテーマは細胞内の情報伝達。当時はまだカルシウムとCキナーゼとサイクリックAMPという3つしか情報伝達物質が見つかっていませんでした。それらは全てノーベル賞の対象になっていますから、もうひとつでも新しい情報伝達物質を見つけられれば、それは大きな仕事だなと思い、その研究ができる薬理学の研究室へ進んだのです。
 細胞内の情報を伝えるホルモンを「ファーストメッセンジャー」、それらの情報を変換するために新たに生産される情報伝達物質を「セカンドメッセンジャー」と呼びます。ファーストメッセンジャーとしてはさまざまな物質が知られていましたが、セカンドメッセンジャーはまだわずかしか知られておらず、しかもとても単純な経路で情報伝達が行われているというのが当時の仮説でした。そのシンプルな図式に惹かれたのです。複雑さをつきつめる研究ではなくて、こういうシンプルな図式が描けますよという研究がしたかった。けれどその後、新たにいくつものセカンドメッセンジャーが発見され、伝達経路もそれほど単純ではないということが明らかになっていきました。
 研究というのは、人とは違うオリジナリテイーを示さなればいけません。私も、なんとか役に立つ化合物を見つけたいと思っていて、神経細胞死を止める化合物(NEPP11)を発見し、その研究を開始したのが35歳の頃でした。それからずっと神経細胞死の研究を中心に行っています。
 さきほどからお話ししているケトン体には、ミトコンドリアを活性化させるのと同時に神経細胞死を抑制する働きも持っているのです。認知症や脳虚血の原因になる細胞腫を止める。すなわち脳を保護するという働きですね。この研究ならトップレベルになれるかもしれないと思い、研究を続けています。

■先生の研究室では、どのような研究をしているのですか?

 「アンチエイジングフード研究室」という名前の通り、ミトコンドリアに直接取り込まれて活性化し、アンチエイジングに効果を持つさまざまな食品成分を探し、その機能について研究しています。 特にミトコンドリアを活性化する有機酸とケトン体の神経細胞の保護作用を研究しています。

 また、テルペノイドという物質の一種である「ゾナロール」が潰瘍性大腸炎を抑制することを突き止め、現在は食品会社と連携しながら、臨床試験の実施を目指しています。
 「ゾナロール」は、日本や台湾の北西太平洋に分布する「シワヤハズ」という褐藻類にしか含まれていません。2008年に東京海洋大学の先生と藻類の持つ抗炎症作用に関して共同研究を始め、約150種類の藻類を試していくなかで、もっとも抗炎症作用が強かったのがシワヤハズ。そしてそこにふくまれているテルペノイドが「ゾナロール」だったのです。
 この研究成果は2014年に論文として科学雑誌に掲載され、その後、特許が2つ、論文も2つ出ています。現在は人への応用を目指して、シワヤハズの乾燥粉末を使った研究を進めていて、いずれは医薬品や健康食品として市場へ送り出したいと思っています。

■今後、なにかチャレンジしてみたいことなどはありますか。

 質量分析を用いたメタボロームという新しいシステムを使った研究を進めたいですね。これは細胞内にある100種類くらいの化合物を一度に測定できるシステムで、それを使って食材の分子の作用点がどこかを測りたいと思っています。これまでの生化学では、まず細胞から目的の化合物を抽出し、それを個々に計測していたのですが、メタボロームならそれが一気にできます。単純に時間が短縮できるだけでなく、細胞の働きを一度に知ることができるので、それらの関係性からなにか見えてくるものもあるでしょう。
 私はもともと薬理学からスタートしているので、細胞に対する薬理作用からすべての思考が始まります。細胞の全体像が見えることで、新しい物がいろいろ見つかるだろうと思っているのです。寿命延長のメカニズムを知るために、メタボロームを使った研究を進めていきたいです。 すなわちメタボロームを使って、細胞の働きをまとめて知ることを目指したいです。

■最後に学生へのメッセージをお願いします。

 若い学生さんたちには、「食べ物」をちゃんと考えてほしいですね。さらに「食べ物」が寿命をなぜ伸ばすのかに興味を持っていただけると嬉しいです。さきほど説明したようにセロトニンがきちんと分泌され、日々幸福感を感じるのは、ニューロンのミトコンドリアが働いていれば当たり前のことです。多くの人が、落ち込みがちなときは、その理由を人間関係やストレスなどの問題に求めがち。けれど私はそれよりもむしろ「食」がおかしいのではないかと考えます。
気分が乗らないときにはストレスや人間関係といった外的要因を考えるだけではなく、食を改善してみるのもひとつの手だと思います。一言で言うと、ミトコンドリアを活性化させる食事を心がけてみましょう、ということです。
 精神と身体の好循環がないと健康な長寿は実現できないのです。脳と体は一体。あるいは、ミトコンドリアと精神は一体、と言えるかもしれませんね。 セロトニンをきちんと働かせて、それにより幸福感を感じる人生を歩むこと、これこそが必要なのです。食を正すことで、脳のミトコンドリアにエネルギーを供給する人生を歩む、ということです。人の本来の姿を大事にする。これが「ミトコンドリアと共に歩む」という意味です。

・次回は11月11日に配信予定です。