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理学療法士という仕事の幅広さとポテンシャルの大きさを授業を通して伝えていきたい!

2016年12月9日掲出

医療保健学部 理学療法学科 中山孝 教授

医療保健学部 理学療法学科 中山孝 教授

人間の体幹の動きの解析に取り組まれている中山先生。理学療法士としての臨床経験も豊富な先生に、研究テーマと理学療法士という仕事の可能性についてお話しいただきました。

■現在、先生が取り組んでいらっしゃる研究はどのようなものでしょうか。

 「体幹の動き」を解明することが私の主な研究テーマです。「体幹」とは、頚椎から胸椎、腰椎までの脊椎が連なっている部分、簡単にいえば人間の身体の頭と手足を除いた胴体部分のことです。最近では「体幹トレーニング」を取り入れているスポーツジムも増え、健康な人でも怪我など身体の障害を予防するために体幹を鍛えることが大切だと言われて久しいのですが、実は体幹の動きはまだ完全には解明されていません。腕や足などの動きに比べて、体幹の動きというのは、なかなか捉えにくいのです。
そこで私は主に三次元の動作解析機を使った体幹の動きの解析を行っています。具体的には、身体に反射マーカーを付けて動きを測定し、さらに体幹の上部と下部をセグメント(文節)でわけて、それがいろいろな動作をしたときどのように動いているかを調べるという手法です。
  たとえば学生と一緒にやった実験のひとつに、バックパックを背負った時の体幹の動きを調べるというものがあります。バックパックの中に入れるおもりの位置が上方の時と下方の時とでは、身体の動きがどのように変わるか。あるいは普通に背負った時と、前に回して持った時とではどう違うか、といったことを調べました。バックパックを背負ったときの姿勢への影響が解明できれば、どういう風に持てば身体への負担が少ないかがわかりますし、身体にいいバックパックの開発などにもつながるかもしれません。

■先生がそのテーマに興味を持たれたきっかけはなんですか?

 もともと私は動物が好きで、なかでも脊椎動物の進化や、人間の身体がどんな風に変化していったのかということに非常に興味がありました。横になって生活していた生物が立ち上がると、骨盤の長さが短くなっていきます。そうしないと身体を支えられないからで、人間の身体はそういう変化のなかで腰部と股関節の距離が近くなっていきました。立位になってもう500万年ほど経ちますが、実は人間の身体はまだ不完全なのです。その弱点は、大きな上体を受け止める腰部。背骨が適度なS字カーブでたわんでショックを吸収したとしても、その背骨を支える筋肉が充分に発達していないので、どうしても腰に大きな負担がかかり、腰痛が起きてしまうのです。それほど脊柱というのは重要なのだなあということを知り、体幹の動きに興味を持つようになりました。
 また、私は最初に理学療法士として勤務したのがリハビリテーション病院で、そこで脊髄損傷や頚椎損傷の患者さんを看ていたのですが、身体が麻痺してしまった人というのは、残っているところの機能をうまく使って動かないはずの身体をなんとか動かそうとするんです。たとえばCの7番、8番という頚椎を損傷すると通常なら身体は全て動かなくなってしまうのですが、横隔膜は頸髄の3,4番で支配されているので呼吸はできる。また広背筋という背中の筋肉は骨盤にもつながっているので、骨盤を動かすこともできる。そんな風に自分たちの身体は、たとえ麻痺があっても分断されずにつながりをもって動くことができる。仕事を通してその凄さを感じたことも、きっかけのひとつです。

■臨床の現場から教育する側へ軸足を変えたのはなぜですか?

 私は本学で「マニュアルセラピー」と「マニュアルセラピー実習」という授業を担当しています。「マニュアルセラピー」は日本語では「徒手理学療法」といい、手を使った理学療法の基本手法です。いまから15年ほど前、私は2年間、オーストラリアでこの「マニュアルセラピー」を学んできました。そこで理学療法士という仕事に関して、日本とオーストラリアのギャップにとても驚いたのです。日本では理学療法士は医師の指示に従った治療を行うことが法律で決められていますが、オーストラリアやカナダやアメリカでは理学療法士も治療士として認められているため開業権があり、自分でクリニックを開くことができます。教育制度に関しても、アメリカでは理学療法士は既に4年で終わる学部教育ではなく、ほとんどがドクター教育です。
 こうした外国とのギャップは、日本の理学療法士協会も非常に問題視しています。というのも実は世界で一番理学療法士の数が多いのは日本で、全世界で30〜40万人いる理学療法士のうち、10万人以上が日本人。けれど、あくまでも医師のサポートという位置づけのせいで、なかなかレベルがあがらない。私自身もそこが非常に歯がゆくて、少しでも日本の理学療法のレベルをあげるためには、まずは教育レベルをあげていかなければいけないだろうと考えるようになりました。そこでオーストラリアで学んできたことを日本の理学療法士の卵である学生さんたちに伝えたいと思い、帰国してからずっと教員として教えています。

■理学療法士という仕事をする際に大切なことは何でしょうか。

 理学療法士は人間の身体の動きの仕組みを解明して、患者さんが負ってしまった障害を治癒の方向へ持っていくのが仕事。そのために、まずは自分の身体をよく知っておくことが重要です。いいコンディションのとき、悪いコンディションのときにそれぞれ自分はどう感じているか。また、いいときと悪いときの差を自分でモニタリングすることが大切です。そうすると、自分の身体をいい状態に持って行くにはどうすればいいかがわかります。治療に際して、患者さんに「こうやってください」と伝えるためのサンプルとして、まずは自分のボディメカニズムを自分でわかっていることが重要だと思います。
 普段から自分の身体に対するセンサーを研ぎ澄まし、少しでも調子が悪いと思ったら、これはどういうことだろうと自己分析をする。いわば、自分の強さと弱さを知っておくということですね。これは理学療法士を目指す人以外の誰にとっても役に立つと思います。自分の身体の動かし方の特徴やクセを知っておけば怪我などの予防にもなりますし、自分の身体をうまく動かすことの条件にもなりますから。 また、患者さんはひとりひとりが異なるという難しさもあります。たとえば我々は、患者さんが100人いたら95人くらいの人にはこの方法がいいですよ、という統計学的な処理をして「いい治療法」を選んでいくわけですが、残りの5%の人にとっては、それがいい方法にはならないことがある。臨床の場では、そういう人たちのことまで考えなければいけません。ですから本当に大切なのは、目の前にいる人をきちんと見ること。そしてそこでどのような考え方ができるか、ひょっとしたらこういう方法はどうか、といった引き出しをたくさん持っていることが重要ですね。

■理学療法士という仕事の可能性についてお聞かせください。

 最近は、理学療法士としてスポーツ関連の仕事に就く人も増えています。たとえばオーストラリアなどでは、アマチュアスポーツクラブのなかにチーム専属の理学療法士がいたりもします。最近は日本でもプロ野球やサッカー、バスケットなどのチームに理学療法士が配置されるようになり、選手の健康チェックや障害ケアといったトレーナー的な仕事をやっています。
実は私自身も2000年ころからウィルチェアラグビーの選手たちの身体能力レベルを点数付けする「クラシフィケーション」という仕事をしています。彼らは車椅子の操作やボールを扱う能力(障害のレベル)によって、0.5点、1.0点、1.5点、2.0点、2.5点、3.0点、3.5点の7クラスに分類され、競技中のコート上の選手の持ち点の合計が8.0点を越えてはいけないというルールがあります。障害のレベルによってできることが違ってきますから、それを揃えるための仕組みですね。
 選手達を間近で見ていて感じるのは、彼らが究極のパフォーマーだということです。自分の身体の残っている部分、使える部分を完璧なところまで鍛え上げ、ありとあらゆる機能を最大限に活用してベストパフォーマンスを出そうとしている。そういうところにすごく美しさを感じますね。
また研究者としては、こういう障害を負った人は別のこういう機能でカバーしているんだなとか、車椅子を漕ぐ時の身体の動きはこうなっているんだな、といった障害者の方々の身体機能に関する研究も始めてします。いい選手と悪い選手の違いはどこで、どうすればいいパフォーマンスができるかどうか、といったことを考えるきっかけになればと思います。

■最後に、学生へのメッセージをお願いします。

 理学療法士の魅力は、なんといっても幅の広さだと思います。医師のもとでしか仕事ができないという制限はありますが、それは逆に考えると少し責任が軽いということ。そのため幅広くいろいろなことに挑戦できるので、広がりが大きい仕事なのです。医療に携わるだけでなく、先ほどお話したようにスポーツの分野にも仕事の幅は広がってきています。
学生の皆さんには授業を通して、理学療法士というのはこんなにも海原の広い分野で、大きなポテンシャルを持っているんだということを伝えていきたいです。理学療法士という仕事に夢を持って挑戦してほしいし、実際にそういう世界に羽ばたいていって欲しい。僕らはそれを少しサポートしていければいいなと思っています。

■医療保健学部 理学療法学科WEB:
http://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/pt/index.html

・次回は2月10日に配信予定です。