東京工科大学 HOME> トピックス> 2016年のトピックス> デザイン思考で人間中心の新たなサービスを開拓し、それを学問として体系立てたい!

トピックス

Topics

デザイン思考で人間中心の新たなサービスを開拓し、それを学問として体系立てたい!

2016年2月12日掲出

コンピュータサイエンス学部 澤谷 由里子教授

日本IBMに勤めていた時代にサービスサイエンス研究に携わったことがきっかけでその分野の重要性に気づき、学問として取り組もうと大学での研究を始めた澤谷先生。「サービスをデザインする」とはどういうことか、お話をうかがいました。

■先生の研究テーマはどのようなものでしょうか?

 私はもともと日本IBMでソフトウエアの研究開発や研究所でThinkPadやPCサーバーを含むPersonal Systemsのマネージャーなどをしていたのですが、2004年に会社自体がPC事業から撤退し、PCを使ったサービス提供へとシフトしたのを機にサービスサイエンス研究に関わるようになりました。

 「サービスサイエンス」というのは、現場の人間が勘や経験則で回していることが多い「サービス」をきちんと研究し、体系立てていこうという学問です。「サービス」をシステムとして捉え、お客様が抱えている問題を研究者が開発した技術を使って解決していく。そのシステムがうまく働いたとき、技術が重要だったのか、それともお客様の現場の知識が重要だったのか、ということを調べてみると、実はその間を上手く結びつける「サービスデザイン」が大切であるということがわかりつつあります。ところがそのデザイン手法は、まだ学問として体系立ててまとめられていない。そこで実践しながら「サービスデザイン」をきちんと理論化して手法としてまとめたいと思ったのが、私が大学で研究しようと思ったきっかけであり、現在の研究テーマでもあります。

 これまで企業が新たなサービスを生み出す際には、戦略室のようなところで現場とは離れた人たちが大量のデータを集めて計画を立てていました。けれど現代はデータで将来が捉えにくい時代になっているうえ、データでわかるようなことは既に誰かが気づいて実践していることも多い。これからは「データ中心」だけではなく、実際に顧客の現場に行き、そこで新しいコンセプトを見つけてくる「人間中心」のサービスをデザインする力が求められているのです。


現場との価値共創を特徴とする研究開発行動モデル

■「サービスデザイン」の具体的な例などがあれば教えてください。


Live | Workのロンドン事務所

 「Live | Work(http://liveworkstudio.com/)」という、2007年の設立時からサービスデザインだけを手がけてきたコンサルティング会社があります。彼らが自分たちの経験を書いた本が昨年、日本でも翻訳されたのですが、そのなかにある保険会社の事例が出てきます。

 保険には生命保険や車の保険、家財保険など、さまざまな種類の商品があります。その会社ももとは数百種類の商品を扱っていたそうです。数が多いということは、顧客にとってはどの保険を選べばいいのかがわかりにくく、さらに選んだ保険がどんな場合に適応されるのかということもよくわからない場合が多いでしょう。一方の従業員側も、それだけ商品が多いとどれを勧めるべきかの判断が難しくなります。そこで「Live | Work」が顧客と従業員の両方から聞き取り調査をして作り上げたサービスデザインは、なんと商品を2つに絞るというものでした。ひとつはその人が持っているもの全てを保証する保険。もうひとつはその人の家族を全て保証する保険。数百種類あった商品をたった2つにしたのです。そして普通は20~30ページほどあって、細かい字でいろいろなことが書かれている契約書も、見開き一枚にまとめました。この保険会社はその後、成功してきているそうです。これぞまさしく人間中心のサービスデザインの好例といえるでしょう。

 この「Live | Work」は、もともとフィンランドやノルウェーを中心に活動していましたが、イギリスにもコンサルティングファームを作り、いまはアジアへも進出してきています。たとえばタイでは交通会社と組んで「新しい経験を与える交通システムを作る」というコンサルティングを提供していたりもするのです。デザインというとどうしても「モノのデザイン」をイメージしてしまいますが、問題を見いだし、それを解決するための手法をそこにつなげる「プロセス」もまたデザインできる。新しいビジネスモデルもデザインの対象です。サービスデザインにも影響を与えているさまざまな問題を分野横断して解決していく「デザイン思考」は、これからのイノベーターにはとても重要な能力といえるでしょう。

■日本ではその研究はどの程度進んでいるのですか?

 「サービスデザイン」は、ヨーロッパでは主に社会問題解決のために、一方アメリカではITの世界で新たなサービスを作るために発展してきました。最近ではそれらが融合し、さらにそこに私たちのようなサービスサイエンスの研究者たちも混ざって、新しい学問領域が生まれつつあります。

 ところが日本ではサービスにおけるITの活用がまだまだ進んでいません。たとえばサービスサイエンスのプロジェクトを公募してみても、ITを使ったものはとても少ない。また、最近ではIoT(Internet of Things)というキーワードをよく聞きますが、そこでもIoTはまだ「HOW」なんです。インターネットにこのデータをつないでどうやって使うか、ということしか考えていない。そもそも何が問題で、それをどう解決すればいいかを考える前に、既存のものをどう使うかの問題になってしまう。本当に必要なのは「ビジョン」なんです。「どんな将来にしたいのか」というビジョンを描くこと。若い人にこそそれをやってほしい。そしてそれを考えるにあたっては、まずは人間中心に考えてほしい。データを見ているだけでなく、実際に生活がある現場に行って問題を探してくることが大切です。

 私自身は、ITをベースにもっと新しいタイプのサービスを作っていきたいと思っているので、学生たちがかなりITを使いこなしている本学のコンピュータサイエンス学科で教えることはとても面白いです。ここで育った彼らが考えることに、とても興味があります。


サービスサイエンスの進展

■先生の研究室ではどのようなことを学んでいるのですか?


過去と未来をつなぐ発展曲線

 基礎的な知識を学ぶことはもちろん大切ですが、最終的にはそれを何のために使うのかというビジョンを身につけて欲しい。そしてそれはいくらデータを見ていてもわからなくて、生活がある現場に行って探してくることが大切。

 そこで始めたのが「八王子秘密基地プロジェクト」です。私の研究室を「八王子秘密基地」として、地元の人と一緒になにか新しいことをするための相談場所にしようというプロジェクト。その活動の一環として、先日はフーズフーという本学のカフェスペースで、誰でも参加できるオープンなアイデアソンを行いました。そもそもこれを思いついたのは、私がこの学校に赴任してきてフーズフーへ行ったのがきっかけです。八王子にある学校なので地元で採れた野菜のサラダバーがあるとか、何か八王子ならではの美味しいものがあるんじゃないかと期待していたのですが、実際に入っているのは全国どこにでもあるお店でした。しかも天井が高くて見晴らしもよく居心地のいい場所なのに、お昼の時間にちょこっと人がいるだけであとはガランとしていることも多い。一方、学生たちに聞くと、教室にはたくさん人がいてもそこで新しい知り合いはできにくいし、サークルなどに入って友人ができても授業の合間になんとなく集まっておしゃべるするような場所があんまりない、というんですね。そこで学生たちが話し合って出してきたのは、閑散としているフーズフーがもっと活性化して人が集まって交流できたり、新しいプロジェクトが生まれる場所にならないかな、ということ。たとえばここでフードフェスタをしてみるとか、そういったアイデアがもっと多く出てきたら面白いなと思って、学生たちが主体となってアイデアソンを実施しました。

 また、研究室の改装も「空間デザインプロジェクト」として学生たちと一緒に行いました。無印良品のパルプボードボックスをパワープレスデザインの杉の木で作った棚に収めて本棚にしたり、壁一面に大きなホワイトボードを作ったり、学生たちのアイデアも取り入れながら、自分たちで体を動かし、居心地の良い研究室が出来上がりました。


学生プロデュース八王子秘密基地!

■最後に、今後の展望についてお聞かせください。

 近年、サービスの本質として「価値共創」という言葉が使われるようになってきています。昔は研究開発の場から技術が生まれて、それが現場で応用されるという方向が主流でしたが、今はそうではなくむしろ問題を持っている現場の方がとても重要。そこで研究開発の場と使用の現場が共同プロジェクトという価値共創の場を持つことで、現場からは解決すべき問題があがってきて、それに対して研究者は新しい技術を提案する。その流れがうまく回れば現場には新しいサービスシステムが生まれ、研究者は新たな問題分野を発見して、新しい研究領域を作ることが可能になります。このように研究者と現場がうまく結びついて共同プロジェクトを進めていくために、その間に立って技術を統合し、現場のプロセスにうまく埋め込んでいくのがサービスデザインの仕事。価値共創の場を介した研究者と現場の関係性をうまく回していくためにも、そこをつなぐデザイン手法を明確にすることを目指しています。


未来を描くプロトタイプ

■コンピュータサイエンス学部WEB:
http://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は3月11日に配信予定です。