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世の中のさまざまな仕組みを情報技術という言語を使ってクリアにしていきたい!

2016年3月11日掲出

工学部 電気電子工学科 黒川弘章 准教授

ニューラルネットワークや情報処理システムなど電気電子の知識を使って、さまざまな現象を解き明かす研究に取り組んでいる黒川先生。今回は研究室で実践されている研究テーマを中心に、この分野の可能性についてお話しいただきました。

■先生の研究室ではどのような研究をされているのでしょう。


 「生体情報工学研究室」という名前の通り、生体の情報処理のしくみを取り入れた情報技術やシステムの提案をしています。研究内容には、身体の機能や仕組みを真似て情報処理をするシステムをつくりましょうという方向と、反対に情報処理技術を使って身体の仕組みを追求していきましょうという両方向があり、たとえば前者の例としては、猫の視覚野のモデルとして使われるネットワークを応用した画像検索システムの研究があげられます。最近はGoogle画像検索などで画像データから似ている画像を非常に高い精度で探しだすことができるようになりましたが、画像の特徴量を元に類似の画像を探しだす技術は、要素技術の一つとしてまだまだ開発の余地があると思っています。

 一方、後者の研究例としては「遺伝子制御ネットワークの推定」があります。体の中では遺伝子の情報を元にたんぱく質が生成されますが、どのタイミングでどのたんぱく質が作られるかは複雑な遺伝子間の相互関係によって決まります。この相互関係は生物が生命活動を維持していくための重要なシステムです。ところが何万種類もある遺伝子がさまざまな相互関係のもとで促進しあったり抑制しあったりして起きる発現は、ひとつひとつ実験で確認していくには膨大過ぎます。そこで数式モデルに実験データをあてはめて遺伝子制御の仕組みをネットワークで表し、その働きを推定しようという研究です。

 とはいえ、基本的に学生たちは自分の興味があるテーマを選んで研究をしています。たとえばスマホに付いている照度センサーを利用して部屋の明るさの変化をデータとして集め、生活サイクルを推定する研究をした学生もいましたし、最近、面白かったのは、紙に文字を書くときに生じる音を録音して、その音から書いている文字を推定するという研究。きちんと書けば、意外にちゃんと推定できるものなんですよ。

■先生ご自身が取り組んでいる研究テーマについて教えてください。

 もともと大学時代に研究していて、最近再び取り組みはじめたのが「ニューラルネットワーク(神経回路網)」です。これは「人間の脳神経系を模擬して新しいことができるようになったシステム」と説明されることが多いのですが、たとえば手書きの崩れた文字を見せてあげると、それがなんという文字なのか認識できるというような、従来のコンピュータにはちょっと解くのが難しい問題を比較的簡単に解くことができる計算モデルです。先ほど紹介した「遺伝子制御ネットワークの推定」の研究でも、数式モデルの関数を推定するときにはニューラルネットワークの手法を使ったりしています。

 ネットワークで表せるものって、実は世の中にたくさんあるんです。たとえば人と人のつながりだったり、社会システムだったり。よくわからないけれど動いているものを、ちゃんと数式で記述できるような形にしたい。遺伝子制御ネットワークと同じで、それを一から構築するのは難しいけれど、数式モデルやニューラルネットワークを用いた手法を使って推定することができるんじゃないか、というのが今、考えていることですね。このような技術は複雑化している電力ネットワークなどの設計にも活かせるかもしれません。


■研究の面白さ、魅力的な部分を教えて下さい。

 たとえば「遺伝子制御ネットワークの推定」というと生物学っぽく聞こえますが、実際の研究にはかなり汎用性の高い手法を使っています。仕組み的には対象が遺伝子ネットワークから別のなにかに置き換わっても使える手法なのではないかと期待しています。我々の手法で用いているニューラルネットワークというのは電気電子分野の考え方が強く反映されている仕組みですので、このような手法を考えるにあたって電気電子的な考え方はとても重要です。「生体情報工学」というと、いわゆる電気電子学科の学びとは少し遠いように思えるかもしれませんが、電気電子の技術・知識とはかなり太い線でつながっているのです。また、さらに遠く見えるなにかにつながる線を見つけることができるかもしれません。

 少し抽象的な言い方になってしまいますが、我々の研究は「言葉を作っている」といえるでしょう。数学者は「数学という言葉」で事象をあらわすための表現方法を考えている。私たちの研究もそれに近くて、現象を記述するための言葉をシステムやネットワークを使って推定したり作ったりしている。そう考えると、また面白く感じられるのではないでしょうか。

■先生はどのような経緯で現在の研究を始めたのですか?

 なんの気なしに電気工学科に入って、何の気なしに研究室に行ってみたら先輩でニューラルネットワークを研究している人がいたので、ちょっと面白そうだなと思ってはじめた、という感じです。僕が大学に入ったころは、コンピュータというと今のようなPCではなくて、大きな計算機というイメージでした。当時はインターネットの黎明期で、特に僕がいた大学はインターネットを積極的に取り入れていてたので、インターネットやネットワークがとても身近にありました。

 今の自分が最終的に目指しているのは、未知のシステムや統制のとれていない生のデータを情報処理技術を使って推定すること、なにかもやもやっとしたものから決まり事を抽出してクリアにしたい、ということなのですが、それは大学時代にコンピュータが物事や社会のシステムを変えていく姿を間近に見ていたことに影響を受けているのかもしれません。

■今後の展望についてお聞かせください。

 本校の工学部には「サステイナブル」というテーマがあります。人によって「サステイナブル」の捉え方は違うと思いますが、僕自身は「人の活動を犠牲にしないエコロジー」だと思っています。すなわち「サステイナブル」というのは、人間が我慢することなしに社会や経済がうまく回って、地球環境にも優しいしくみを探す分野。そこでは僕らが研究しているような、いろいろな現象をシステムやネットワークを使って記述したり推定するということも役に立つ部分は多いと思います。そのような視点で、どのような課題に取り組んでいくか、今後はそうしたことも考えていきたいです。

 「世の中のしくみについて考える」というと政治学や社会学、あるいは経済学的な分野のように思えますが、工学的な側面から「世の中のしくみを解き明かす」という方法もあります。そしてそこには電気電子工学という方向からのアプローチもある。この分野に興味がある人には、ぜひそのことを知って欲しいと思います。電気電子工学というのはそれくらい汎用性の高い技術なのです。

・次回は5月13日に配信予定です。