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空間デザインや工業デザインに関わる2つのSDGs目標に絞って、新たな取り組みを展開していきます!

2019年3月8日掲出

デザイン学部 本郷 信二 教授

本郷 信二教授

 東京工科大学では、2015年に国連が採択した17のゴール、169のターゲットから成る持続可能な開発目標「SDGs(エス・ディ・ジーズ)」を意識した教育や研究を推進しています。今回はデザイン学部での取り組みについて本郷先生にお話しいただきました。

■デザイン学部では、SDGsをどのように捉えていますか?

背負える防災用品収納箪笥

 デザイン学部では、SDGsの17の目標のうち、目標11「住み続けられるまちづくりを」と目標12「つくる責任つかう責任」という2つの目標に絞って活動を推し進めていこうと考えています。目標11は視覚的または空間的なアプローチができますし、目標12はモノづくり、工業デザイン、プロダクトデザインが関わるものですから、その2つに目標を絞って活動した方が、目的がより明確化できるだろうという考えです。
 とはいえSDGsが掲げられる以前から、デザイン学部ではそれに関連するような取り組みをいくつもしてきました。例えば、すでに完結した取り組みですが「防災用品開発プロジェクト」というものがあります。これは5名ほどの教員がそれぞれの専門分野から防災用品を提案するという取り組みでした。私も参加していて、「背負える防災用品収納箪笥」をつくりました。多くの家庭で防災用品は準備されていると思いますが、押し入れや物置にしまったままというところが多いと思います。その場合、いざという時に、どこにしまったかと探すことになったり、保存食を入れていると賞味期限のチェックが面倒になったりすることがあると思うんです。そういう問題に着目して、常に部屋の中、特に玄関先などに置けて、中に防災用品を入れておき、いざというときは背負って避難所まで逃げられるというものを考えました。普段から印鑑などを入れておいて、小物用引き出しとして使うこともでき、簡単に持ち運べるというものです。
 これは材料に桐という軽い木を使っているので、見た目以上に軽量です。また、桐には防虫効果があるほか、燃えにくいという性質もあります。防災用品袋は化繊だったりプラスチック製だったりしますが、木製のものがあっても良いのではないかということで提案しました。


地域観光プロジェクト

 それから「地域観光プロジェクト」という取り組みもあります。蒲田キャンパスのある大田区の観光PRプロジェクトで、3年前から本学部の伊藤丙雄先生が中心になって取り組んでいる現在進行形のものです。これは大田区を訪れる人やそこに住む人を結びつけるためのコミュニケーションデザインを提案するということで、視覚デザインや映像デザインを活用して、新しいコミュニケーションをつくり出すという目的で進められています。現在、3年生の視覚デザインコースの課題テーマにもなっているので、このプロジェクトには学生も参加しています。そういう形で授業との関連性を持たせるようにしているのです。
 これらのプロジェクトで得られた成果は、SDGsの理念に沿っていて、それを発展させることができる可能性を持っているので、今後、本学部におけるSDGsの活動として、さらにブラッシュアップさせた新たな展開ができるのではないかと考えています。
 また、最初は教員がプロジェクトのベースをつくる形になると思いますが、デザイン学部に大学院ができたこともあり、大学院生にも積極的に関わってもらう形にできたら良いなと、個人的には思っています。

■授業でもSDGs関連するような取り組みをされているそうですね。

 3年生の工業デザイン専攻の演習課題では「ヒトや環境に配慮した新しいプロダクトを提案する」、空間デザイン専攻の演習課題では「20年後の東京を想像し、ものとヒトが作り出す魅力的な生活空間を提案する」というテーマで制作に取り組んでもらっています。
 例えば、工業デザイン専攻の学生の課題作品に、「出かけたくなる車いす」というものがあります。車いすでの行動範囲は非常に限られていますが、新しい形を提案することで、未来社会では、その範囲を広げられるかもしれないというアイデアです。この作品は、車いすで車道が走れるようなイメージになっています。今はまだ実現が難しいかもしれませんが、10年後、20年後には、本当にこういうアイデアが実現しているかもしれません。見方によっては荒唐無稽なアイデアに思えても、未来は今とは違っているはずですから、私はとても斬新でユニークな提案だと非常に感心しました。
 また、空間デザイン専攻の学生の課題作品では、今、日本が直面している少子高齢化を問題に取り上げ、未来の生活スタイルの提案をしたものがあります。このアイデアは、色々な世代がひとつのコミュニティの中で生活していこうというもので、4世帯が1集落になっていて、農園を中心にその周りにそれぞれの家があるという提案になっています。
 このように、単なる工業デザインや空間デザインにとどまらず、地球環境を考えたり未来社会を意識して捉えたりした課題を通してSDGsに関心を持ってもらうようにしています。

出かけたくなる車いす

■続いて、デザイン学部の教育の特徴のひとつ「感性演習」についてお聞かせください。

 1年生の「感性演習」では、平面的表現を学ぶ「描く」と立体的表現を学ぶ「つくる」で構成されていて、基礎造形力を養います。2年生になると今度は「関係づける」「伝える」を学び、少しずつデザインに特化した内容が入ってきます。ものともの、ものとヒト、ヒトと空間というように、色々なものを関係づけて捉えたり、自分の提案やアイデアをわかりやすく第三者に伝えたりということを、課題を通して学んでいきます。
 例えば、私が担当している1年生の「つくる」の授業では、将来、デザインの仕事をしていくうえで必要となる立体的・空間的なものの見方や考え方を、課題を通して身に付けていくことを目的に進めています。自分の手と頭を使って、課題ごとに自分で発想を広げていき、自分の手で立体的な表現につなげてもらうことが狙いです。ですから、上手にものをつくることが目的ではありません。
 具体的には、最初に「工作紙で立方体をつくり、それを任意に2分割する」という課題に取り組んでもらいます。分割の仕方は、直線と平面で分割するという条件以外は自由です。学生は自分で方眼紙に図面を描いて、工作紙を切り、組立てて…ということをしていくのですが、紙の厚みまで計算して、正確に丁寧につくらないといけない作業なので、なかなか大変です。また、図面で描いた印象と、実際に立体にした印象とは違うので、つくりながら微調整を繰り返していきます。
 この課題は非常にシンプルですが、学生が100人受講したら100通りのアイデアが出てくるような、発想力を鍛えられる課題になっています。ある学生は、とても立方体とは思えないような、対角線上に線をつないでいって星のような形で分割しましたし、立方体の中から形を取り出すという発想で分割した学生もいました。また、工業デザイン専攻の学生には形の勉強になり、空間デザイン専攻の学生には、空間的な視点が学べます。そのほか、デザインやモノづくりに必要な忍耐力や集中力といったものも、制作を通して自然と身に付けてもらえます。この課題をつくるのに、12時間はかかりますからね。
 また、この立方体の課題が幾何学的な形のトレーニングだとすれば、もっと有機的な形のトレーニングとして、曲線、曲面を要素にする課題もあります。他にもリンゴをよく観察しながら粘土を使ってそっくりそのままつくるという模刻の課題にも取り組みます。ですから幾何学的なもの、有機的なもの、自然物と、色々なテーマで授業を構成しています。
 そして「つくる」の授業の最後は、段ボールを素材にして、座る形を提案するという課題にグループワークで取り組んでもらいます。8人1グループに分かれ、最初は8人で話し合って色々なアイデアを出し、そこから方向を絞り、アイデアがまとまったら今後はメンバーそれぞれの特性を活かす形で作業を分担します。例えば、構造や強度を計算するのが得意な学生はそれを担当しますし、プレゼンテーションで使うパワーポイントデータを担当する学生もいますし、CGが得意な学生はCGを担当するという感じです。そういう形で、学生が社会に出て、実際に仕事をしていくうえでの流れなどを実感してもらえたらと思っています。

感性演習
感性演習

■では、デザイン学部の教育のもう一つの柱「スキル演習」ではどのようなことをするのですか?

 「スキル演習」は2年と3年で履修する演習です。この演習では1年生で学んだ基礎造形力をベースにしつつ、2年で学んだデザインの基礎も活用しながら、アイデアを形にするための勉強をしていきます。簡単に言えば、デザインの仕事で活用する様々なコンピュータのソフトウェアを習得するということになります。例えば、スキル演習の課題には、スケッチブックに描いたアイデアを3DCGソフトで具現化していくというものがあります。また、Adobeのイラストレーションやフォトショップといったデザイナーには必須のソフトも学びます。もちろん単なる習得だけでなく、自分でテーマに沿ったアイデアを出し、それをデザインすることを課題としています。
 また、スキル演習には、他にWebデザイン、映像、アニメーション、イラストレーション、基本製図、CADと色々なものがあって、3年生で選択する専門に合わせて必要と思われるものを自分で選んで学んでいく形になります。

■最後に受験生・高校生にメッセージをお願いします。

 繰り返しになりますが、今の若い人たちは、アイデアも柔軟で面白い提案ができるので、本当に感心させられます。ただ、本学部の学生も色々な課題に取り組む中で、良いアイデアが浮かばないと悩むことがあります。アイデアは、色々な経験や体験があって、それと結びついて出てくるものですから、若いみなさんには難しいところがあるのも当然です。
 では、どうしたらアイデアが出やすくなるかというと、いかに経験や体験を増やし、自分の頭の引き出しを増やすかということに尽きます。ですから、自分の足を使ってどんどん外に出かけ、五感を使って色々なものを感じ取ってください。なにも自然の中に出かけなさいということではなく、人工的な空間でも出かけた先々で目に入るもの、触れるものに興味を持ってみようということです。例えば、何の変哲のない教室でも、天井に目を向ければ、照明器具や火災報知器、エアコンがありますよね。その時、「もっとこんな形の照明器具があったら面白いのに」とか、「火災報知機の形でもっと面白いものがあっても良いのでは?」と自分ならどうするかを自然と考えられる習慣が身に付けられると良いのではないかと思います。

・次回は3月29日に配信予定です