大学の学びはこんなに面白い

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信頼できる情報は、どうすれば手に入る?

 
2024年3月8日掲出

教養学環 鈴木 万希枝 教授

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劇的な変化を続けるメディア環境において、人々がどのような影響を受けているのか、情報の信頼性とは何かといったことをテーマに研究している鈴木先生。今回は、先生がご担当されている授業と研究についてお聞きしました。

■まずは先生がご担当されている授業「アカデミックスキルズ」について教えてください。

「アカデミックスキルズ」には、前期の「アカデミックスキルズⅠ」(以下、「Ⅰ」)と後期の「アカデミックスキルズⅡ」(以下、「Ⅱ」)があります。「Ⅰ」はレポートライティング、「Ⅱ」はプレゼンテーションの技術習得を目的とした課題解決型のアクティブラーニング授業です。これらは大学生が必要とする基礎的なスキルであると同時に、社会人になっても必要なスキルとして、社会人基礎科目群の必修科目に位置付けられています。履修の対象は、八王子キャンパスにあるコンピュータサイエンス学部、応用生物学部、メディア学部の2年生の学生です。
また、「Ⅱ」では一つの試みとして、自分とは異なる興味関心を持つ専門領域の学生と交流する場になるように、学部を混ぜたクラスにしています。3学部を混ぜる形にしたかったのですが、時間割りの都合で現在は応用生物学部とコンピュータサイエンス学部の2学部ミックスで実施しています。

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具体的な授業内容を説明すると、レポートライティングを中心にした「Ⅰ」では、社会的な課題をテーマに学生たちがグループでリサーチし、中間発表を経て、最終的に個人でテーマを掘り下げたレポートを書きます。テーマは学生が自由に設定できます。例えば今年度、私が担当したクラスでは、日本における安楽死問題をどうするか、プラスチック問題などの環境問題をどう解決するか、性的マイノリティの方々が暮らしやすい社会をつくるにはどうしたらよいか。あるいは今年度は生成系AIの問題を扱う学生も非常に多く、著作権の問題や教育に及ぼす影響を取り上げた学生が多数いました。
グループの分け方は担当教員によりますが、学生の興味や取り上げたい社会的課題を尊重しています。1グループの人数は、3~5人ほどです。
また、グループワークの進め方も「アカデミックスキルズ」の大きなタスクになっています。ですからグループワークをうまく進めるには、何に気をつければよいかといったことを、最初にレクチャーしています。例えば、自分の言いたいことは必ず言うとか、相手の意見は否定せずに「Yes and」の姿勢で対応するといった基本的なところを押さえていきます。というのも、学生の中には自分の意見を言うことが苦手な人もいるからです。特に自分の意見が他の学生と違うとき、きちんと自分の意見を表明することが苦手な印象があります。そういうときもしっかり発言することや、普段仲良くしている友達ではない人と一緒に協働で何かに取り組むという経験をすることも、この授業の重要な目的の一つです。

もちろん、レポートの書き方も教えています。まず、書く前のリサーチで、信頼性の高い情報を集めるところからスタートします。学生はとりあえずネット検索をして一番上にある情報を採用したり、自分が分かりやすいと思うものを無批判に利用したりすることが多いです。それではいけないということを知ってもらい、信頼性の高い資料を集める方法を学びます。また、資料も一つの意見だけでなく、色々な意見や視点が得られるよう、多様な発信源から信頼できるものを集めるよう指導しています。
そうして集めた情報を自分なりに再構成して、人に分かりやすく伝えるために自分で咀嚼してレポートにまとめてもらいます。正しい日本語で分かりやすく人に伝えるために、章や節、項の立て方といったレポート全体の構造についても学びます。第一章はテーマの提示、第二章はそのテーマの概要として知っておいてほしい基本的な情報を紹介するというように、どこの部分で何を書くかを伝えています。また、できるだけ学生にとって書くことが苦痛にならないよう、少し努力して書けばクリアできる程度のレポート枚数を設定しています。ですから、まずは書いてみようという感じですね。
また、「Ⅰ」では、ピアチェックという仕組みを導入していることも特徴です。これは学生同士がお互いにレポートを添削し合うというものです。気をつけるべきポイントの一覧表を用意し、それに基づいて相手にどこをどう直せばよいか、どこが分かりにくいかといったことをコメントし合う形で進めています。実際、人に教えたり、人の書いたレポートをチェックしたりすると自分の能力も上がるという仕組みが非常に有効に機能している印象です。

■では後期の「アカデミックスキルズⅡ」では、どのようなことに取り組むのですか?

後期は、担当教員ごとにテーマを設定していて、あらかじめ学生にどのクラスに入りたいか希望調査をしています。必ずしも希望のクラスに入れるわけではありませんが、できるだけ希望に沿う形でクラスの配属を決めています。 今年度の後期のテーマとしては、例えば私の担当クラスは「サイエンステクノロジーと社会」をテーマにしていました。それ以外のクラスでは、「働き方と日本社会」や「学校と私」、「地方から日本社会を考える」、「噂や都市伝説が流通する仕組み」、「文化遺産と地域社会」など、多数のテーマが用意されています。これらの中から、学生は3つ選んで希望を出し、割り振られるという形です。

大きなテーマごとのクラスに分かれると、その中で3~5人ほどのグループをつくり、グループワークに取り組みます。どういうテーマで取り組むかは、各グループで話し合って決定してもらいますが、一応、最初の希望調査のときに、大きなテーマ以外にサブテーマ例も提示しています。例えば、先ほど私は「サイエンステクノロジーと社会」というテーマを立てていると言いましたが、そのサブテーマとして「クローン技術を用いた絶滅種の復活」や「ゲノム編集技術によるデザイナーズベイビーの問題」、「ハプティクス技術で楽しむゲーム」、「生成系AIによる作品の問題」といったものを示しています。もちろん、学生はこれらとは違うテーマを立てても構いません。

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テーマが決まると、まずグループごとにテーマ発表をし、その後、本格的にリサーチを始めて中間発表します。その際、クラスメイトや教員からコメントをもらい、修正をした後、最終発表としてパワーポイントを使った20分間のプレゼンテーションと質疑応答を行います。「Ⅱ」ではプレゼンのスキルを習得していきます。例えば、スライドに文字ばかり詰め込まないとか、どこかのサイトなどから引用するときは、必ず出典を明示しなければならないといったことです。また、図表や画像、動画などのビジュアル要素の活用についても学びます。
プレゼンテーションの上手・下手は、最初は個人差が色濃く、もともと得意な学生もいれば、人前で話すことが苦手な学生もいます。ただ、プレゼンはライティングと同様に、知識に加えて経験値を上げることが大きな効果を発揮します。まずは中間発表をしてみてコメントを受けて修正し、最終発表では指摘された部分に気をつけて発表すると、全員がかなりスキルアップします。そういう意味では、プレゼンを経験する機会がたくさんあることは大事で、「アカデミックスキルズ」に限らず、在学中に何度も経験していくうちに、必ず上手になっていくはずです。「Ⅱ」の授業でも、最初は原稿だけを見て、うつむいてしゃべっていた学生が、プレゼンの上手な学生の発表をお手本にしたり、教員からのアドバイスを参考にしたりしてチャレンジするうちに、ぐんと成長することがあります。失敗するチャンスも含めて、どんどん経験を重ねてほしいですね。

また、何かを書いたり発表したりするためには、まず自分で考えて、その内容を自分自身がきちんと理解しておく必要があります。リサーチで集めた資料を自分なりに咀嚼し、それをどう伝えたら相手が理解できるか、分かりやすくなるかを考えることが重要です。読み手や聴き手を意識する経験をしてもらうことも、この授業の狙いの一つです。

■先生が取り組んでいるご研究についてお聞かせください。

専門分野は、メディア心理になります。その中のトピックスの一つに、情報の信頼性があります。色々な意見はありますが、新聞やテレビといったマスメディアは制度的に、あるいは法的な規定により、ある程度、その情報の信頼性が担保されていると言えます。ところがインターネットやソーシャルメディアが発展してきた現在は、誰でも情報発信者となれるため、何が「信頼できる」情報なのかを判断することが非常に重要になってきました。そういう中で、情報の信頼性評価の問題、あるいは個人のメディア利用パターンの影響に注目して研究しています。

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最近は、新聞やテレビなどの伝統的メディアが、今までになく影響力を失ってきています。特に若い世代においては、それが顕著です。また、多少の世代間差はありますが、今、マスメディアにのみ接している人は、ほぼいないでしょう。昔は帰宅したら、みんながテレビをつけて同じニュース番組を見て、多くの人が同じような情報に接していました。ですから、今の社会で何が重要とされているのか、どう考えられているのかということを、大勢の人がなんとなく共有していた面があったのです。
ところが今は、接している情報が多様化しています。さらに、一人の人が接している情報源は非常に偏っています。例えば、Aさんは毎日XやYouTubeで特定のインフルエンサーの発信を見ているけれど、Bさんは全く違うインフルエンサーから情報を得ているということがあります。昔のようにみんなが見ているニュース報道番組や娯楽番組のような存在はなくなり、マスメディアが人々に大きな影響を及ぼすことは難しくなっています。
また、今は自分の好みや態度に合う情報だけに接する「選択的接触行動」が強まっています。この概念自体は非常に古くからあるものですが、ここ最近のメディア環境の変化によって再注目されています。例えば、SNSを使って特定のコンテンツを見ると、次々と同じような情報ばかりが流れてくるようになりますよね。それにより自分の好みや関心に合うものにはたくさん接することになりますが、それ以外のものには一切接しないという状況が起きてくるのです。

さらに、例えば「アカデミックスキルズ」の授業を受けた学生は、情報の信頼性について学び、どうしたら信頼できる情報が手に入るかを知識としては知っていますが、レポートを書くとき以外の日常生活でその知識を活用するかは別問題です。例えば何かのお店を探すときに時間をかけて調べ、精査するのではなく、自分がインスタグラムでフォローしている人が良いと言っていた情報を信頼しがちです。これは若い人に限ったことではなく、多くの人がそういう「社会的な」判断基準を利用しています。
加えて、最近では人には様々な認知バイアスがあって、情報の信頼性評価の問題は一筋縄ではいかないことも分かってきました。人は自分の態度に合う情報だけを信じる傾向にあるのです。例えば、自分の好きな推しのアーティストを褒めている情報には飛びつくけれど、少しでも批判しているものはスルーします。また、人は自分の態度や意見に反する情報に接したとき、自分の態度を変えるのではなく、自分の態度に反する情報を否定して、自分の態度はさらに強固なものになるということが色々な実験で明らかになってきています。これらは、確証バイアスやバックファイアー効果と言われるものです。
ですから人は常に合理的に、正しい方法でシステマティックに情報の信頼性を検証しているわけではないのです。その方法を知っていても、実は誰かがおすすめしているからとか楽しそうだからといった、経験則や先入観、直感で情報を利用し、決断しています。だからこそ、今、何が社会にとって重要なことなのか、何を知っておかないといけないのか、あるいは正確な情報はどこにあるのかということを、今まで以上にきちんと考える必要があり、そういうことを自ら考える習慣や力を持たないといけない時代になってきたと言えます。

■では現在、力を入れている研究にはどのようなものがありますか?

最近は、先端科学技術とメディアとの関わりが、人々にどんな影響を与えるのかということに関心があり、研究をしています。そのきっかけとなったのが、iPS細胞です。ノーベル賞を受賞し、メディアでも非常に肯定的に報道されましたよね。色々と調査してみると、例えばゲノム編集技術や様々な先端技術がある中でも、iPS細胞に対しては、人々は「世の中を良くしてくれる」といったポジティブなイメージを持っています。他のバイオ系技術に対しては、不安があるといったネガティブなイメージも多いですが、iPS細胞に限ってはとても良いイメージです。実際には様々な課題が出てきていますが、いったん好意的な態度が形成されると、無条件に素晴らしいとなりがちなのです。それには、報道や情報の伝わり方、認知バイアスの影響があるのではないかと考えています。

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そして、最近行った調査では、先端科学技術に関して新聞を信頼していない人ほどソーシャルメディアを利用することや、年代が低いほどマスメディアの科学報道を信頼していないことが明らかになりました。大学生のみなさんのような20代は、テレビや新聞といったマスメディアの科学報道に対して最も懐疑的なのです。普段利用するメディアによって先端科学技術イメージは大きく変わることも分かっているので、これからの科学技術政策を担う若い世代が、どのようなメディア利用行動をしているのか、具体的にどのような情報に接しているのかは気になるところです。
特にゲノム編集技術やAIなど、その使い方で大きく社会が変わるような科学技術は、最近いくつも出てきています。そういうものに対して、私たちはどうすれば、きちんと考えられるのだろうかというモチベーションで、今、研究を進めているところです。

■先生が現在の研究分野に興味を持ったきっかけとは? また、どんなところに研究の面白さを感じていますか?

私はもともと、マスメディアの影響研究に関心がありました。特にオピニオンリーダーといって、いわゆるインフルエンサーに興味があって。テレビや新聞といったマスメディアから様々な情報がたくさん提供されているけれど、必ずしも人々はそれを利用して、何かを決めたり選択したりしているわけではなく、同じ情報でもインフルエンサーが提供すると耳を傾けたり実行したりするという、マスメディアとそのオーディエンスを繋ぐ存在のようなインフルエンサーに非常に興味を持ったのです。
人は自分の好きな人や信頼している人の話は聞くし、自分の分からないことを分かりやすく説明してくれる人の話は聞いたり読んだりしますよね。それが面白いなと思って。私の学生時代もそういうことは言われていましたが、今のメディア環境では、ますますその重要性が増しているように感じています。

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研究の面白さという点では、単純に不思議に思っていることが少し分かるということがありますね。例えば、ある調査によると、SNSを情報源として信頼していないにもかかわらず利用している割合は、若年層ほど高いのです。50歳以上でSNSを信頼していないのに利用しているのはわずか6%ですが、高校生や大学生のような若い世代、16歳から29歳では4割弱が信頼していないのにSNSを利用しています。
これは、人は合理的に判断してメディアを利用しているのではなく、先ほどお話しした認知バイアスやメディアの利用習慣が大きい影響力を持っているからです。なぜ人は信頼していないメディアをこんなに利用するのか、なぜそれに影響されてしまうのか。そんな素朴な疑問が研究によって少し腑に落ちる、知識が深まるという楽しさがあります。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

今、若い世代は「タイパ(タイムパフォーマンス)」にこだわると言われています。例えば、大学でも専門科目ではない授業は無駄な時間だからと、授業中に他の授業の課題をしている学生がいます。とはいえ単位は取得しないといけないので、授業中にノートは取っていないけれど、試験前にネットで検索して勉強するという学生がいて驚いたことがあります。

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大学はその分野の専門家が責任を持って、しかも学生に分かるようにカスタマイズした情報を提供してくれる場です。数少ない、信頼できる、正確な情報をみなさんが分かるように噛み砕いて説明したり、共に考えたりするのが講義ですから、その機会をぜひ活用してください。自分の関心が高い専門分野の科目はもちろん、自分の専門ではない様々な科目も、知識の引き出しを増やしたり視野を広げたりする絶好のチャンスです。特にこの大きな変革の時代には、人間や社会の仕組みに関する学びは重要だと思っています。
大学時代は、タイパを過剰に追求するのではなく、高校までとは全く異なる新しいものに出会ったり、廻り道や試行錯誤をしたり、ときには失敗することも楽しんで、自身の栄養にしてほしいですね。