大学の学びはこんなに面白い

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「健康と長寿の可能性を握るコエンザイムQ10」

応用生物学部 学部長 山本順寛 教授

―先生の研究室では抗加齢医化学・食品の研究をされているそうですが、具体的にはどのような研究なのでしょうか。

私の研究は簡単に言うと「老化や病気と活性酸素の関係を明らかにし、健康長寿を実現するための方法を提案していくこと」です。この研究は1980年頃からはじめました。鉄が酸化されると錆びますが、体も同じように酸化され病気や老化の原因となっているという仮説が言われはじめていた時期だったのです。これを証明するには証拠がいります。私はその一つとして体内の脂肪が酸化されてできる“過酸化脂質”を生体試料中に見つけようと考えました。苦労の甲斐あって、1989年には世界に先駆けて自分の血液の中に“過酸化脂質”を検出することに成功しました。

―では、研究テーマのひとつであるコエンザイムQ10(以下CoQ10と表記)との出会いは?

あまり愉快な出会いではありませんでした(笑)。というのも、私の検出しようとしていた“過酸化脂質”の分析を妨害する物質だったのです。CoQ10が分析の妨害しないようにと工夫しているうちに、実はCoQ10は非常に有用な物質だと気がつきました。CoQ10が人間の生命活動に必要なエネルギーATPをつくる上で欠かせない補酵素だということは、すでに明らかにされていました。ところがそれ以外にも大きな役割があったのです。体内の脂肪の酸化を防ぐ抗酸化物質だったのです。

―抗酸化物質というのは?

順を追って説明しましょう。私たちは酸素がないと生きていけませんが、酸素には毒性もあるのです。どのくらい危険かが分かる実験を紹介します。ご存知のように空気中の酸素濃度は20%であり、この中でネズミは3年くらい生きます。しかし、100%濃度の純酸素中では、たった3日間しか生きられないのです。それだけ生物にとって酸素は危険なものなのです。ただ、その酸素を上手に使えば、効率よくエネルギーをつくり出すことが可能です。エネルギーは脂肪や糖の燃焼、つまり酸化反応で得られますからね。そこで生命は進化の過程で、酸素の毒性に耐えられる工夫を生み出した。そのうちのひとつが抗酸化物質です。代表的なものだと、ビタミンEやCですね。ところが、その二つだけでは最大限の抗酸化力を発揮できません。CoQ10というパートナーが必要なのです。つまりビタミンEとC、CoQ10は、体を酸化からまもる抗酸化物質のトップスリーなのです。

―先生がとくにCoQ10に注目されている理由は何ですか。

CoQ10はATPという我々のエネルギーを生み出すためになくてはならない物質であり、大切な抗酸化物質でもあります。ですから、人間は自分の細胞の中でCoQ10を合成しています。しかし細胞の中のCoQ10量は年齢とともに減少します。心臓の場合、20代で最もCoQ10の量が多くなり、40代では3割、80代では5割も減ってしまいます。ですから2001年から日本でもCoQ10をサプリメントとして摂取できるようになったことは非常に喜ばしいことだと思います。健康長寿に役立つ物質とはどのようなものでしょうか?生命活動に不可欠だが、加齢とともに減少してしまうものだが、体外から摂取することによりさまざまな体感が得られ、さらに副作用がないものだと思います。これらの条件を全て満たすものはそうあるものではありません。CoQ10は、高齢化社会には欠かせない物質だと思います。

―最近ではCoQ10もすっかり認知されように思いますが、今後、どのような課題があるのでしょうか?

最も気になるのは、CoQ10が体内で吸収される量に個人差があるということです。年齢も男女差も関係ありません。あくまでも個人差で吸収力に6倍ほどの差があることが分かりました。残念ながら、この原因がまだ明らかになっていません。今、私の研究室では、CoQ10が体内でどのように吸収されるのか、そのメカニズムの解明に挑んでいます。最近私たちが初めて見つけたCoQ10を結合する蛋白質が有力な手がかりと考えています。これはCoQ10に関するトッピックスとしては、ここ最近の一番大きな出来事だと言えるでしょう。雲をつかむような話の段階と、目指すべき方向を見つけたというのとでは、研究の進展も全然違うんですよ。

―なるほど。では最後に今後の展望についてお聞かせください。

まずは、CoQ10の吸収・輸送のメカニズムを明らかにするすることです。また、それ以外にも、発がん性物質の発がんを促すプロモーターの研究や、細胞の老化を防ぐ脂肪酸不飽和化酵素の研究など、手ごたえを感じている研究が進行しています。研究の醍醐味は誰も知らないことを明らかにすることです。その結果が何かの役に立てば、それにこしたことはありません。この点に関しては私は欲張りなので、研究の謎解きの部分と社会的貢献の両方を実現していきたいと強く願っています。「誰も知らないことを知りたい」「本当のところを知りたい」という気持ちこそが研究の原動力。そして、研究で得られた知識を人の役に立てることが私の大きな使命だと感じています。

[2008年6月取材]

■抗加齢医化学・食品(山本順寛)研究室
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio_dep/107.html

・第4回、第5回は7月13日に配信予定です。