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大学の学びはこんなに面白い

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「植物の持つ力を暮らしや地球環境に役立てたい」

応用生物学部 多田雄一 教授

■先生の研究について教えてください。

私は、遺伝子組換えを利用して植物にさまざまな機能を与え、人の暮らしや地球環境の改善に役立てる研究をしています。中でも特に力を入れているのが、マングローブの耐塩性についての研究です。普通の植物は、海水などの塩水を与えると1時間も経たないうちにしおれてやがて枯れてしまいますが、マングローブという植物は海水につけても枯れません。つまり他の植物にはない、塩に強いという性質を持っているのです。その性質を遺伝子レベルで解明して、塩に弱い他の植物にその性質を持たせることができないかと、研究を進めているのです。

■植物に耐塩性を持たせることで、どのようなことが期待できるのでしょうか?

ひとつは海水を使った農業ができるようになります。例えば、中東の国や砂漠の国でも、周囲に海はあります。パイプラインで海から海水を内陸部まで運び、その海水をそのまま農業に使うことができれば、土地の活用効率は抜群に上がります。また、近年は地球の砂漠化が問題となっていますが、実は砂漠にも種類があります。単に乾燥しているだけの土地と、土の中に塩分があって植物が育たない土地です。この土に塩分があって塩害を起こしている土地は、世界中に広く分布しています。このような土地でも植物に耐塩性を持たせる必要があるわけです。塩に強い植物が生まれれば、砂漠の緑化が可能になります。緑化はCO2の削減にも繋がります。また、食料の増産にも役立つのではないかと考えています。

■この研究は、現在、どのくらい進んでいるのですか?

今、3つほど良い遺伝子がマングローブから見つかっています。シロイヌナズナという実験によく使われる植物があるのですが、それにマングローブの遺伝子を組込んで実験をしたところ、良い結果が得られました。海水の約3分の1くらいの塩分濃度を持たせた培地で普通のシロイヌナズナと遺伝子組換えを行ったそれを育てたのですが、普通のものはすぐに枯れたものの、マングローブの遺伝子を持つものは、かなり良い生育状況を示しています。もちろん塩の入っていない培地では、普通のシロイヌナズナも遺伝子組換えを行ったそれも通常に生育しています。こうした結果から、着実に目標に近づいているという手ごたえを感じているところです。とはいえ、ひとつの遺伝子を導入しただけでは、まだ十分な耐塩性ではないと考えています。ですから今、発見されている3つの遺伝子を一緒に導入したり、後から発見された別の遺伝子の導入も考えています。マングローブに耐塩性があるのは、何かひとつだけ他の植物と違う遺伝子を持っているからではなく、いくつかそれに関与する遺伝子を持っているからです。それらの遺伝子をどんどん見つけ出し、組み合わせることで、海水レベルの塩水でも育つ植物をつくりたいと思っています。

■植物の耐塩性以外では、どのような研究に取り組んでおられるのですか?

ポトスに遺伝子組換えを行い、空気浄化能力を高める研究をしています。ほとんどの植物は、シックハウス症候群の原因でもあるホルムアルデヒドといった建材などから出る化学物質を吸収し、分解する力を持っています。中でもポトスは、その力が高い植物のひとつです。そこで現在は、シロイヌナズナから取り出したホルムアルデヒドを分解する遺伝子をポトスに導入しているところです。通常のポトスでは、部屋にいくつも置かないと十分な空気浄化の効果を得られないかもしれませんが、この研究が成功すれば、ひと鉢置くだけで、かなりの量の有害物質を吸収・分解してくれるポトスがつくれると思います。それから、DNA鑑定や遺伝子検定、植物では品種鑑定と言いますが、それを利用して米の生産地を明らかにする研究も行っています。簡単に言いますと、米の遺伝子にしるしをつけ、その米がどこで育てられたものか分かるようにするのです。食品の産地偽装が絶えず報道されている昨今です。米においても、品質を変えることなく遺伝子にしるしをつけて、その米の産地を分かるようにすれば、産地偽装の防止に繋がるのではないかと考えています。この研究は技術的には完成していますが、まだ実用化には至っていません。現在は実験栽培に協力いただけるところを探している段階です。

■先生にとって、こうした研究の面白さや魅力とは何でしょうか?

研究の面白さは、実際に「こうなるといいな」と思って行ったことが、結果として実現できるところです。植物関連の研究は、非常に根気がいるものです。植物は成長に時間がかかりますから、今日、種をまいても、明日はまだ芽さえ出ていない状況で、数日で結果が出るわけではありません。そういう植物を相手にしながら、塩に強い植物が育つといいなと思って、その遺伝子を何年もかけてコツコツと見つけるわけです。その見つけた遺伝子を導入した植物が、塩分のある培地でも育つという明らかな結果を得たときは、長年の苦労が報われた喜びでいっぱいです。きっとオリンピックで金メダルを獲得した人と同じような感激が味わえますよ。また、本学の理念でもありますが、実用的な研究をしたいと常々思っています。ですから研究の成果が直接、社会に役立つ、日本はもとより世界で役立つということも、大きな喜びです。

■最後に今後の展望をお聞かせだくさい。
植物の耐塩性の研究に関して言えば、最終的には海水で育つ植物をつくり、砂漠や塩害の地域で栽培できるようにしたいという大きな目標があります。また、最近はマングローブだけでなく、ソナレシバという耐塩性のある植物の遺伝子利用にも着手しはじめました。それから乾燥に強いヤトロファという植物についての研究もはじめています。世界には特別な機能を持った植物がたくさんあります。それらのさまざま機能を環境改善や暮らしを豊かにすることに役立てたい。それが、長期的な私の目標です。

[2008年9月取材]

■植物工学(多田雄一)研究室
hhttp://www2.teu.ac.jp/tada/index.html

・第10回、第11回は10月10日に配信予定です。