大学の学びはこんなに面白い

大学の学びはこんなに面白い

研究・教育紹介

東京工科大学 HOME> 大学の学びはこんなに面白い> 「プロダクトデザインのためのデザイン支援システム開発とその応用」

「プロダクトデザインのためのデザイン支援システム開発とその応用」

メディア学部 萩原 祐志 教授

メディア学部 萩原 祐志 教授

■先生の研究室では、どのようなことに取り組んでいるのですか?

研究室の学生は、主にプロダクトデザインの提案に取り組んでいます。プロダクトデザインとは、製品のデザインのことです。身近なものでは、ペンなどの文房具からペットボトルに携帯電話、カメラ、イス、テーブル、電化製品や自動車に船や飛行機と、大きさに関係なく、あらゆる実体のあるものを対象としたデザインのことを言います。また、GUI(Graphical User Interface)といって、携帯電話やカーオーディオなどの操作画面や液晶画面、駅券売機のタッチパネルなど、製品の操作を視覚的に表現するユーザーインタフェースの提案も行っています。

昨年の卒業研究では,MC展にも参加した学生ですと、ステープラーの新しいデザインに取り組んだ学生がいます。今あるステープラーにどういう問題とニーズがあるのかを調べ、大まかなコンセプトを決めます。コンセプトが決まると、それに適合するデザインを探るために、絵を描いたり発泡材を削ったりということを繰り返し、最終的なデザインを導きだします。こうした対象の場合、掴みやすさや握りやすさ等が大切になるので、発泡材などを使って、実際の形や動きを再現するように助言しています。

また、GUIのデザイン提案としては、複数の製品を操作するリモコンを提案した学生がいます。これは情報家電製品の増加にともない、リモコンが増えすぎるという煩わしさや、操作の複雑さといった問題を解決するために取り組んだ事例です。リモコンにページがあり、最初のページは例えばエアコンのリモコン、それをめくるとテレビのリモコンというふうに、複数の製品をひとつのリモコンで操作しようという提案に至り、この研究の場合は、実際にページをめくったときに画面がどう変わり、どのように操作するのかをコンピュータ上でデザイン表現しました。

今年の卒業研究も、テーマは多岐の渡り、問題やニーズなどの調査にはじまり、スケッチや簡易模型でデザインの探索が行われ、最終的には製品としての成立性や外観を3DCGでも表現するなど、数多くの興味深い提案がなされました。

こうした卒業研究のテーマは、プロダクトデザインをキーワードに、なるべく身近なものから選ぶように助言はしますが、学生自身が決めています。また、この研究室ではディスカッションを大切にしています。ゼミの時間は、学生が互いの研究について意見や感想を述べ合い、それぞれの提案を少しでも高められるようにしているのです。毎回、活発な意見交換で盛り上がり、「それ絶対ほしい!」とか「なぜ今までそうなっていなかったんだろう!」と新しい発見があるので、私自身の勉強にもなっています。

■先生のご研究は、どのようなものなのですか?

私自身は、プロダクトデザインを支援する「デザイン支援システム」の研究をしています。多変量解析の各手法や、ファジィ推論、遺伝的アルゴリズムといった理論をデザイン支援に応用する試みをしているのです。例えば企画支援としての多変量解析を利用した製品デザインに関する調査分析。携帯電話を対象に、寸法や、二つ折りかストレートかといったそれぞれが持つ外観的特徴を数字で表し、携帯電話の外観の類似関係をマップとして視覚表現すると、個人の主観とは別に、市場におけるデザインを少しでも客観的に把握し、製品開発メンバーの意思疎通を円滑に進めるために役立ちます。
よくデザイン雑誌の特集などで、製品の特徴の関係をひと目で見せるために、横軸と縦軸を設けて、製品を配置したマップがありますよね。最初から横軸と縦軸を引いて、その軸の意味を決め、製品配置を主観的に配置されたものも散見されます。それも個人的な判断事例としての価値がありますが、やはりデータに隠れた特徴から軸を抽出するという本来の解析方法は大事にしたいと思っています。
創出支援としては、多変量解析などで得たマップとファジィ推論を利用して製品の外観事例を自動的にモデリングするシステムがあります。得られたマップ上で、例えば右上の空間に位置する携帯電話が、どんなデザインになるのかを知りたいとき、そのマップの位置を指示するだけで、その位置の特徴を持った携帯電話の外観事例がCADで描き出されるのです。また、デザインは進化するという視点からの研究として、遺伝的アルゴリズムなどの進化計算を利用し、個体として共通する特徴を持つデザインのバリエーションを獲得する創出支援システムもあります。これを用いると、漫画などにもみられるモチーフの合成によるデザイン例の獲得も期待できます。

■こうしたデザイン支援システムの開発目的とは何でしょうか?

もともとは、クライアントとの円滑なコミュニケーションを目的に開発をはじめました。私がプロダクトデザイナーだった頃、産業機械のデザインを手がけていたので。産業機械には受注製品が多く、当然、クライアントの要望があります。しかしクライアント自身も一体何を求め、何をイメージしているのか、はっきりわかっていないという場合が少なくありません。またコンセプトを何度すりあわせても、お互いの頭の中でイメージしているものが違っている可能性はあります。そのイメージを探るために、デザイナーはスケッチ・図面・CGなどによる視覚的表現を用いてデザイン案を提示するわけですが、それでもミスマッチングは起こるのです。そこで製品をデザインするときに、クライアントとデザイナーの両者にとって出来るだけ客観的に共有できる視覚的表現資料があれば、円滑にコミュニケーションがとれるのではないかと思い、このシステムの開発に着手しました。クライアントが何を求めているのかを引き出すこともデザイナーの大切な役割ですからね。

■先生が工業デザインの分野に進んだ理由とは?

私が高校生の頃までは高度経済成長の影響で、男子は特にものづくりを推奨された時代でした。また私自身、幼い頃から国語や算数などの勉強よりも図画工作や体育が好きで、体を動かしながらのものづくりが好きでした。ただ、いわゆる設計製造分野における「エンジニア」という仕事には、どうもピンこなくて。かといって絵画や彫刻のための芸術家としてのセンスもない。でも、上手くはないのですが、描いたり、削ったり、組み立てたりすること自体は大好きでした。そこでそういう仕事は何だろうと、それこそ30年前の、今では考えられないほど情報の少ない時代に一生懸命、探したのです。それで工学系の大学でプロダクトデザインを学ぶところがあると知り、この分野に進んだわけです。

■最後に、今後の展望をお聞かせください。


難しい部分はありますが、いつかはデザイン支援システムを実製品へ適応させたいと思っています。また、このシステムを利用して、一般ユーザーに自分のデザインを探ってもらうような使い方を提案できれば面白いなと思います。例えば、最近はカスタマイズできる製品が多いですよね。テーブルを選ぶときなどは、天板のサイズをお客さん自身で選べるなんてことも少なくありません。ところが自由に選べと言われても、お客さんは天板のサイズだけでもどの寸法にすれば良いか決めかねるわけです。自分のニーズや家具を置く空間を明確に把握しているわけではありませんから。そんなとき、自分のニーズをデザイン支援システムに伝えると、寸法事例が出てくる。それだけでもお客さんは自分のニーズを確認し、納得のいく買い物ができますよね。また、少し飛躍しますが、ガーデニングや料理の盛り付けの事例を教えてくれるなど、エンターテインメント性のある、一般ユーザーが楽しめるような分野に活用範囲を広げられればとも思っています。
[2010年2月取材]

・次回は3月12日に配信予定です。

2010年3月12日掲出