大学の学びはこんなに面白い

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「豊かな感性を持ち、人に愛され、必要とされるデザイナーを目指そう!」

デザイン学部 伊藤丙雄 准教授

デザイン学部 伊藤丙雄 准教授

教員でありイラストレーター/グラフィックデザイナーとしても活躍する伊藤准教授。今回は、数ある作品の中でも特に代表的な「古生物の復元画」をピックアップし、その詳細を伺いました。また、教育現場に携わって20余年という先生に、教育への思いなども併せてお話しいただきました。

■先生のご専門のひとつである古生物の復元画についてお聞かせください。

15年ほど前に「絶滅した大哺乳類たち」という展覧会が国立科学博物館であって。その図録のためのイラストを描く仕事をたまたま引き受けたことがきっかけで、古生物の復元画(サイエンティフックイラストレーション)を描くようになりました。絶滅したとはいえ化石などの資料は残っているので、それらを見ながら復元して描いていく作業になります。話だけだとちょっと夢がありますが、実際には歯1つしかない場合がありますけど(笑)。そこから全体を想像して、手で描いていきます。イマジネーションだけで描くイラストとは違うので、骨の構造、筋肉の構造なども勉強をしないといけません。

■古生物の復元画の難しさとはどんなところにありますか?

古生物のイラストは、今、世の中にいないものを描くということでイメージの世界ではあるのですが、同時に最新の科学的根拠に基づいたものでもあります。古生物のエキスパートである国立科学博物館の先生方の監修を受けて描きますからね。イラストレーターの仕事には、大きく分けてふた通りあります。ひとつは、自分のイメージで描いていくイラスト。もうひとつは、「こういう絵を描いてほしい」という使用目的があり、それを忠実に再現していくイラスト。古生物の復元画は後者にあたるので、とにかく徹底的に手直しします。一度、でき上がったイラストでも、どんどん修正を加えていくのです。例えば、上顎の見え方が違うとか、目の位置が違うとか、後足の関節の数が違うなど、専門の研究者たちから細やかに指摘を受けて、ひとつひとつ検証しながら修正していきます。そうした工程を経て、確実に根拠のある正しいものができ上がるのであれば、それはイラストレーター冥利につきると思いますね。自分の死後にも、その時代の解釈として残っていくものですから。
また、“恐竜好き”にならないように気をつけています。そうでないと自分で自分の恐竜像を成長させてしまいます。サイエンティフィックイラストレーションの場合、「こっちのほうが格好いい!」とか「キャラクター性が高い」といったことは大切ではないのです。将来、人間が絶滅したとして、その顔がみんなギリシャ人みたいなキリッとした顔になっていたら困りますよね(笑)。それと同じことです。常に自分自身をフラットで、何でも吸収できるスポンジ状態にしておく必要があります。

■先生はグラフィックデザインも専門とされていますよね?

本の装丁や広告ポスター、webのデザインもしますし、パッケージデザインや店舗の壁画、教科書の挿し絵などを描くこともあります。以前はクレイアニメーションを制作したこともありますよ。もともとはグラフィックデザインが専門で、イラストレーションは専門外だったんです。大学時代はデザイン科で、古典文様や装飾のための図案の勉強をしていましたからね。ところが仕事を受けるうちに気がついたら今のような専門分野になっていて。だから大学で何を学んでも、卒業後にどうなるかは人それぞれだと思います。専門性の高いものを学ぶと、社会に出てもその専門を活かそうと考えがちですが、必ずしもそれだけが答えではありません。特にデザインの分野は、どの仕事においても大学で学んだ専門を活かすことができます。だから受験生や高校生で「私はこれがしたい!」というものを持っている人もそうでない人も、大学を卒業する頃にはまた変わっているから焦らなくても大丈夫、ということは、メッセージとして伝えたいですね。

■授業では、どんなことを教えているのですか?

グラフィックデザイン(視覚と伝達)をメインに担当します。実技や演習というだけでなく、伝達論やデザイン概説といった考え方やデザイン理論ですね。あとは、視覚と伝達コースの専門研究と卒業研究を担当します。この春に始まったばかりの学部なので、卒業研究の話をするのは少し気が早いですが(笑)、大きな方向性としては、卒業研究をいわゆる“4年間の集大成”という位置づけにはしないつもりでいます。もちろんそういう考えも大事だとは思います。ただデザインの分野は、決して4年間で終結するものではありません。むしろ4年間で学んだことを踏まえて、将来、自分が何をしたいかを卒業研究のテーマにするべきだと思うんです。そういう意味で、テーマ性や着眼点を重視した卒業研究の指導にしようと考えています。だから、もし学生が「私も復元画を描きます!」と言ったら止めますよ(笑)。先人が取り組んできたことと同じことをして、それを4年間の集大成にすると、大学という一度しかない貴重な時間の中でものすごく小さな考え方の中におさまってしまう可能性があります。
また、デザイン分野では、大学でどんな専門スキルを得たかということだけではなく、むしろ専門的なことを学んだうえで、どういう人物なのかが問われるのではないかと思っています。考え方、人との接し方、つまりコミュニケーション能力がどれだけあるか。興味のもたれないことをどれだけ楽しく話し伝え、仕事に取り組めるか。逆に本当は楽しいことをどれだけ抑えて、ここぞという時に爆発させることができるか。そういう感性の豊かな「人間力」みたいなものありきだと思います。どんなにデザイン能力が達者でも、仕事は一人ではできません。必ず周りの支えがあり、そこでコミュニケーションをきちんとれる人が仕事として続けていけるのです。そういう力も身につけてもらいたいです。

■教員として心掛けていることはありますか?

これまで私は、教員とイラストレーターやグラフィックデザイナーとしての仕事を並行してきました。それはひとつのこだわりと言えます。いろいろな考え方がありますが、第一線で仕事をすることで、例えばイラストレーションの中ではこういうやりとりが必要だとか、仕事の進め方としてこういうロジックで進めた方がいいということを学生たちにリアリティをもって伝えられるのではないかと思っています。伝えるだけでなく、自分の中にそうした現場の経験や知識をストックしていきたいと言った方が正確かもしれません。そして学生たちが困ったときや悩んだとき、こういう考え方や解決の方法があるよ、と提示できることが理想です。それに何より学生たちに「デザインの世界って楽しそう!」と思ってほしいですからね。そのためにも私自身が“実際の現場”にこだわっていくことが大事だと思っています。

■最後に、これからどんな学生を輩出したいですか?

感覚的な話になりますが、学生には、人に愛され、必要とされるデザイナー、いや人物になってほしいです。「愛される」までは可能かもしれませんが、「必要とされる」ところまでは、なかなか辿り着けるものではありません。必要とされることによって次のステップや足りない事が成長の糧として見えてくるので、そういう学生を育てたいですね。また、先ほどお話したコミュニケーション能力や人間力を身につけてもらうことは、当たり前のこと。そこにプラスして「これだけは誰にも負けないぞ」というものを、大学の4年間で発見できるような教育ができればと思っています。
[2010年4月取材]

・次回は7月9日に配信予定です。

2010年6月11日掲出