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大学の学びはこんなに面白い

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「世界で採用されるような、油脂成分の新しい分析方法を開発したい」

応用生物学部 遠藤泰志 教授

応用生物学部 遠藤泰志 教授

研究分野としては希少になりつつある油脂を専門に、その劣化度合いを測る方法や防ぐ方法を研究している遠藤先生。これまでにいくつも新しい分析方法を確立してきました。今回は、その研究の一例や現在取り組んでいる研究について伺いました。

■先生のご研究について教えてください。

私の研究室では、食品に使われる油脂の劣化度合いの測定やそれを防ぐ技術について研究しています。例えば、2003年には油脂の劣化度合いを評価する「カルボニル価 ブタノール法」という方法を開発しました。これは“公定法”といって、国から指定された分析方法になっています。油脂関係の商品取引や食品安全衛生上の関係で、食品には必ず調べなければならないものがあります。例えば、弁当や惣菜で揚げ物をつくりますよね。その揚げる油の劣化度合いを測定しなければならないのです。弁当や惣菜の衛生規範によると、カルボニル価50を超えた油は、新しいものと交換しなくてはならないという法律があります。というのも、油が空気中の酸素に触れて酸化すると、まずヒドロペルオキシドができますが、それが分解するとカルボニル化合物になります。そのカルボニル化合物の中には、下痢などを引き起こすものもあって危険なのです。そういうことがないように、カルボニル化合物がどのくらい含まれているかを調べる方法として「カルボニル価 ブタノール法」は、採用されています。

フライ油の劣化反応

どういう方法かと言いますと、ちょっと難しい話になりますが、2,4-ジニトロフェニルヒドラジンという試薬を油に加えると、カルボニル化合物と反応して、キノイドイオンができます。このキノイドイオンは色を呈しているので、目で見えるようになります。つまり試験管に油を入れて、試薬を入れると、反応して黄色に変色する。その色が濃くなってくると、カルボニル化合物が多く含まれているということになります。ですから色の濃淡で判断できるわけです。これまでにもカルボニル価を測る方法はありましたが、試薬にベンゼンという発がん性物質を使うので、数年前からまったくこの測定方法は使われていませんでした。そこでベンゼンを使わずに安全・簡単に行える新しい測定方法をと、開発に取り組んだのです。

カヤの実

■今、特に力を入れている研究というのはありますか?

カヤ油といって、カヤの実から採る油の研究があります。以前、動物実験を行ったところ、カヤ油には中性脂肪とコレステロールを下げる働きがあることが確認できました。現在は、カヤ油がどうしてそういう生理機能を持っているのかについて調べています。また、カヤ油は非常に安定性が悪く、酸化しやすいので、それを防止する方法も考えているところです。
この研究を始めた発端には、ある逸話があります。徳川家康は天ぷらにあたって亡くなったと言われていますが、その天ぷらを揚げた油がカヤ油だったんですね。ですからカヤ油には毒性があるのか、あるいは徳川家康は大変長生きをした武将ですから、むしろカヤ油のおかげで健康が維持できて長生きでき、別の要因で亡くなったのではないかという考え方もできるわけです。そういう興味から、これまで誰もしていなかったカヤ油の栄養学的試験を行い、その機能を明らかにしました。

■カヤ油の研究は、どのくらい進んでいるのでしょうか?

カヤ油に含まれるシアドン酸という成分が中性脂肪を抑制したり、コレステロールを下げたりしていることは証明できています。ただ、そのメカニズムがまだ明らかになっていないので、これから解明したいと思っています。具体的には、遺伝子レベルで、どこに作用しているのかを明らかにする必要があります。脂肪を合成するところに作用して抑えているのか、あるいは脂肪を分解するところに作用しているのかということです。
それから中性脂肪を下げる油としては、他にイワシやサンマなどからつくられる魚油が挙げられるのですが、これとカヤ油との比較も要望されています。カヤ油が魚油と同じくらい中性脂肪を下げる効果を持っていれば、幅広く使えるようになります。というのも魚油には魚特有のにおいがあって、用途に限りがありますが、カヤの実はアーモンドのような香ばしい香りなので、お菓子などにも使え、用途が広がるからです。

カヤ油

■では、学生が関わっている研究で、手ごたえを感じているものはありますか?

今、面白いデータが出ているのは、酸化防止剤の新しい機能の発見です。没食子酸という酸化防止剤に、消化酵素を活性化させる新しい機能があることを見つけたところです。この酸化防止剤には、アミラーゼというデンプンを分解してグルコースに変える消化酵素の活性を高める作用があるということがわかってきました。酸化防止剤として有名なものでは、ポリフェノールがありますよね? あれは、没食子酸と構造的には似ているのですが、逆に消化酵素の活性を下げる作用があります。ポリフェノールの場合、コレステロールとくっつくことで吸収を阻害するとか、アミラーゼといった消化酵素とくっついて酵素の活性を落とし、消化吸収されにくくします。そうして血糖値が上がらないようにするわけです。この研究が進めば、酸化防止剤を一方では消化薬として、もう一方では血糖値を下げるものとして使えるのではないかと思っています。

■先生にとって、研究の魅力や面白さとは?

これは食品の研究に限ったことではありませんが、何らかの新しい発見ができるところが、研究の面白さです。また私の研究の場合、公定法にすることで、研究成果を社会還元できていることが良いところではないかと思っています。特に分析法の開発は、企業ではなかなかできないことです。また企業で開発できたとしても、公定法にならなければ、広く認められません。公定法になれば、食品の品質管理に使われるようになりますから、さまざまな食品会社で使ってもらうことができます。それはやはり研究機関でなければできないことですから、大学にはそういう大きな役割もあるのではないかと思っています。

日本油科学会制定 基準油脂分析試験法

■今後の展望をお聞かせください。
今、私が開発した分析方法が採用されている公定法は日本国内でのことですが、世界にももちろん世界基準として定められた分析方法があります。日本の公定法の大部分は、世界基準から引用してきたものです。中には日本の公定法から世界に採用されたものも少ないですがありますから、そういう世界で使ってもらえるグローバルな公定法を開発したいと思っています。
[2010年9月取材]

■食品機能化学(遠藤泰志)研究室
http://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio_spc/144.html

・次回は11月12日に配信予定です。

2010年10月8日掲出