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大学の学びはこんなに面白い

大学の学びはこんなに面白い

「新しいコンテンツ産業を生み出す人材を育てたい」

メディア学部 講師 三上浩司

■先生がご担当されている「インタラクティブ・ゲーム制作」という授業について教えてください。

この授業は1年生から3年生までの3年間に渡るゲーム制作のプロジェクト演習です。実質、約2年をかけて、チーム単位で学生たちがゲームを制作し、3年生の秋には世界最大のゲームイベント「東京ゲームショウ」に作品を出展します。この出展に向けて、実際にゲーム制作を行いながら、そのプロセスを理解し、チーム内でものづくりを進めていくということを経験します。またこの演習は、文部科学省が選定する「平成16年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」に採択された「インタラクティブゲーム制作の実践教育」のひとつです。

■3年間に渡る演習というと非常に長くに感じますが、どういう狙いがあるのでしょうか?

ゲーム制作では、学ばなければならないことがたくさんあります。企画をする上でのシナリオやデザイン、映像、音楽、プログラミングなど、本当に幅広いです。ですから、通常の講義のように半期の授業で一貫して学ぶというのは無理があります。また、私はこのプロジェクト演習全体を小さなゲーム産業と見立てて、学生がつくるチームは制作会社だと考え、ケーススタディできる環境を用意しています。ですから途中で新たなチームが発生したり、解散したり、分裂したりします。また,チームから抜ける学生やチーム掛け持ちをする学生もいます。さらには、この演習を履修していない学生や他学部の学生が助っ人で呼ばれることもあります。そしてチーム内には、グラフィックを担当する人、音楽を担当する人、プログラミングを担当する人と、実際の会社のようにさまざまな役割を担うメンバーがいます。当然、専門分野や趣向が異なるため、意見の合う人、合わない人、いろいろいます。半期で終わる授業だったら、意見が合わなくても少しの期間我慢すればすみます。ところが3年間、顔を付き合わせて進める制作プロジェクトとなると、逃げずにディスカッションして、ものづくりをしていかなければなりません。こうした実社会の集団制作のシミュレーションを行う上でも“3年”という期間と最後のゴールである“東京ゲームショウ”には、非常に意味があるのです。

■先生はこの演習を通して、学生にどういうことを伝えたいとお考えですか?

学生には、いち早く“観る側”“遊ぶ側”から“つくる側”へと変わらなければいけないことを理解して欲しいと思っています。学生は子供のころから長い時間をかけてゲームやアニメ、映画を、まず観る立場、つまり消費者側から入って好きになります。そこから短期間のうちに、別な視点を持つ“つくる側”に意識を変える必要があります。とても難しいことではありますが、授業をする上で私が一番気をつけているのがこの点です。ですから、この演習では、早い段階から自分で独創性を主張して、他人にそれを伝えるということをしてもらいます。これは言い換えると、実際につくる前から論理的に設計し、偶然的に成功するではなく、計画的にすることの重要性を意味しています。ですから発想は偶然であってもかまいませんが、それを具現化することは決して偶発的ではいけません。そのために「ドキュメンテーション」、設計書つくりを重視します。実際に販売されているゲームに対して、それを満たすのものを計画するのです。完成したものだけをただ “観る”、“遊ぶ”のと、そこにいたるプロセスを“考え”、長い時間をかけて“実行”することがどれだけ違うかは明白です。特に近年では、ゲームに限らず映像制作やWeb制作、音楽制作にもいえることですが、開発環境が高度化したために、なんとなく操作しているとそれらしいものができてしまうことも珍しくありません。ですので余計に自分がつくり手の立場から人が面白がるだろうと思って考えた設計書を重視します。ドキュメントがあれば失敗したときに、制作のプロセスを振り返り、どの段階に問題があったのか明確に分かります。その「原体験」を多くつませたいと考えています。

■実際、演習ではどのようなことをするのですか?

最初に学生が取り組むのは、1年生の前期にあるオリエンテーションです。こちらで決めたチームに分かれ、3つの課題に取り組んでもらいます。最初の課題は、1チーム7~8人でつくる「割り箸鉄砲」。象徴的な例として、最初にに行います。手を動かして制作する機会が少なくなっている学生が多かったので、ものづくりの原点のようなことをさせたいなと思いました。「割り箸鉄砲」にも、ものをつくるときの基本的な造形美、例えばゴムの留め方や割り箸の割り方ひとつで美しさが変わるということを自分のつくったものと他人のつくったものを直接見比べることで理解してもらいます。また、この「割り箸鉄砲」のチーム課題では、「誰かのための割り箸鉄砲」という企画を設定します。これは有名人やキャラクターが持つことを前提に、その人の特徴的な性格を表すようなアクションを盛り込んだ割り箸鉄砲をつくるという課題です。これまでには、スパイダーマンが使う割り箸鉄砲など、ユニークな作品がいくつも生まれました。二つ目の課題は、遊びに新しいルールを加えるというもの。鬼ごっこでも何でもいいんですが、そこに自分たちで新しいルールを追加し、面白い遊びを考えてみようという試みです。これにはゲームバランスを考える力を養う狙いがあります。みんなが面白いと思えるようにするには、ゲームバランスやルールをどう変えればよいのかということを体験として学んで欲しいのです。そして三つ目が四コマ漫画。本学を題材にキャンパス川柳をつくり、それを四コマの写真で説明するというものです。最近はゲームでも映像的な演出がとても大切になってきました。四コマの制作で、その感覚を根源的に理解して欲しいと思い、取り入れています。こうしてオリエンテーションを終えた後、1年生の後期からいよいよチームに分かれて、本格的なゲームの企画・制作に取り組んでいきます。

■あえて伺いますが、専門学校での学びと、どういう違いがあるのでしょうか?

これまでの話の中で、具体的なゲーム機の開発環境など、コンピュータツールの操作方法の話が一切出ていないところからも、お察しいただけるかと思いますが、専門学校では今の開発現場で使われている開発ツールの操作方法を完全に修得し、それ駆使して専門的な役割を担う人材の育成に注力します。一方、大学でゲームやアニメーションを学ぶということは、今までにない制作手法やコンテンツを、これまでと同じくらい安全な方法で提案できる人材を育成することだと考えています。象徴的に言えば、今ある開発ツールを使いこなせる人材を育てるのではなく、それらが存在する意味を体系的に理解して、作品に新たな開発ツールを考案したり開発手法を考案することが大学の役目ではないかと思います。どちらが重要だとか必要だとかではなく、学んだ内容も違えば活躍の仕方も異なります。目指す方向性や役割が違うと捉えていただければと思います。

■最後に今後の展望をお聞かせだくさい。
目下の希望は、業界に入った卒業生が早く「自分の作品です」と胸を張れるようなゲームをつくってくれることです。ゲームの売上ランキング1~3位は本学の卒業生の監督作品というようになるといいですね(笑)。また、私の研究としては、卒業生や大学でゲームを学んだ人たちが活躍できるよう、コンテンツ産業の仕組みを変える取り組みをしたいと考えています。日本のアニメやゲームが世界から評価される昨今ではありますが、実際のところ、国内ではゲームやアニメがそれなりにヒットしても国際的なビジネスとして成功しているわけではありません。また、制作者にその利益が還元される仕組みも十分には出来上がっていません。そういう意味でコンテンツ産業は、まだまだ未熟で、ビジネスモデルや収益の分配といった仕組みが出来ていない業界だといえます。まずは制作工程を分析し、誰がどのような役割を担っているのかを明らかにして、将来的にはしっかりとしたビジネスモデルを持つ業界に成長させていければと思っています。

[2008年9月取材]

・第10回、第11回は10月10日に配信予定です。