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「患者さんに学び、力を尽くすのが作業療法士。生涯学び続けて、人の役に立てる自分をつくっていこう!」

医療保健学部 作業療法学科 生田宗博 教授

医療保健学部 作業療法学科 生田宗博 教授

作業療法士であり、医学博士でもある生田先生は、長年、“脳”という視点から運動能力を回復させる作業療法を探究し、成果を上げてこられました。今回は、その研究の詳細や教育への思いを語っていただきました。

作業療法士の介助の様子

■先生のご研究について、教えてください。

まず、「作業療法における回復とは何か?」というところからお話したいと思います。私たち人間は、ずっと祖先の時代から、自分たちがより良く生きていくために、あるいは生き抜くために、食料を獲ったり闘ったりと、色々なことをしてきました。そうすることで人間は能力を高め、それを武器に生き抜いてきたのです。つまり、食料を獲ったりする過程で行ってきたことが“作業”であり、それを行うことで能力を高めてきたのです。
では、リハビリテーションにおいては、どうでしょう? 色々な疾病や損傷によって、人は障害を受けます。疾病や損傷は医学で治すわけですが、それらが治っても、障害は残ります。その障害は、傷や病気と違い、能力が障害されているので、治すことはできません。では障害が現れている理由を、傷ついた能力と傷ついていない能力が混在していて、総体として能力が障害されているからだと捉えてみては、どうでしょう? そう考えれば、傷ついていない能力を引き出すことで、たとえ障害が残っていても、その人の能力は新たな形で適応するようになるかもしれません。そう捉えれば、障害の回復はあり得る、つまり能力を高めて、障害自体をより軽減していくことが、障害の回復だと考えられるのです。
実際、障害されていない能力を使うことで、障害されていた能力の中にも、だんだん回復していく部分が見られる場合があります。それがいわゆる、脳の可塑性です。ある脳細胞がダメになっても、別の細胞がダメになった細胞の機能を補うようになるというものです。そうすると、回復の一番根本は、脳ということになります。脳のプログラムを再構成・再構築すること、あるいは追加することで、その人に新しい能力をつくる。それが作業療法なのです。ですから、単に患者さんに絵を描かせたり、陶芸をさせたりすることが作業療法ではありません。そして、作業療法士の仕事は、患者さんの傷ついた能力を回復させるのに最も有効な作業をセットして、うまく続けてもらえるよう指導・支援することです。そういう考えから、私は脳のプログラムを新たにし、障害を回復していくためには、どういう作業をすれば良いかということをテーマに研究をしています。

■具体的な研究例には、どういうものがありますか?

例えば、ある人が脳卒中になって、左半身がマヒしたとします。そうすると、その患者さんは椅子に座っていても、マヒした側に傾いてしまいます。なぜなら、マヒによって脳の機能がきちんと働かないため、傾いていることを脳がまっすぐだと認識してしまっているからです。それは一見、異常なことのように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。私たちがまっすぐ立っていられるのは、足の裏で体重を均一に支えているからです。ところがこの患者さんの場合、マヒしている側の筋肉は十分働かないし、感覚も十分ではありませんよね。ですから、例えばこれまで右に5、左に5の力をかけてまっすぐにしていたのに、マヒのせいで今は左に3、右に5の力がかかっているとしたら、どうなりますか? これを以前のように左右均等に力をかけて、まっすぐにしようと思うと、左にもっと力をかけなくてはと思いますよね。だから左側に傾くわけです。そうしないと、脳はまっすぐだと認識しないからです。つまり異常ではなくて、ある種、脳は正常に働いているということです。こういう患者さんを回復させることは可能です。例えば、左に傾いて座っている患者さんの右側の、ちょっと手が届きそうにないところに何かものを置いて、それを取るようにしてもらいます。その患者さんは、右手を伸ばします。だけど、まだ手は届かない。そうすると手を届かせようと、さらに右手を伸ばします。右手をぐっと伸ばすと、体の軸がちょうど中央に来ます。つまり自ら手を伸ばすことで、まっすぐ普通に座れたわけです。そういう動作を繰り返し行っていると、脳にそのプログラムが書き込まれ、まっすぐ座れるようになります。座れるようになれば、立てるようになります。バランスをとって立つことができれば、片足がマヒしていても歩くことができます。私は臨床の現場で、そういう“回復に有効な方法”を開発することに取り組んでいます。
現在は、体を支えられるようにする作業が、かなり成果を上げられるようになったので、今度はマヒした手を動かすことに力を入れて取り組んでいます。マヒした手は、なかなか動きません。また、マヒしている手を使った方が回復には良いのですが、大抵の場合、マヒしていない方の手で動作をしてしまいがちです。そこで無理なく、頻繁にできる動作はないかと考えた結果、今、お茶碗を持ってご飯を食べるという動作を患者さんにしてもらっています。マヒしている手でお茶碗を持てるようになると、だんだん指を曲げて握れるようになってきます。今後はこうした手の動きを回復させる研究を進めていくつもりです。

脳卒中後の片麻痺リハビリの様子

リハビリ後の自立した生活の様子

■先生が今の研究テーマに出会ったきっかけとは、何だったのですか?

ある患者さんとの出会いですね。その方は半身マヒで、マヒした側に倒れてしまう患者さんでした。だけど「絶対に座りたいし、立って歩きたい」と強く私に言うわけです。私は週に1度、その病院へ行っていたのですが、毎週それを言われるので辛くて(笑)。それで何か良い方法はないかと考えるうちに、手を伸ばすという動きを思いついて、試してみたのです。手が届くか届かないかくらいの位置に置いた棒に輪を入れていく、投げない輪投げのような作業です。それを何度も、その患者さんに繰り返ししてもらいました。少しずつ棒を置く位置を変えながら続けていくと、その患者さんは片側がマヒしていても、どんな動作もできるようになりました。患者さんの脳に、今までと違う新しい働き方が生まれたのです。

■では、学生を指導する際の心がけなどは、ありますか?

リハビリテーションをするときは、患者さんによって、どういう作業が良いかを個別に考えなければなりません。一人ひとりに合わせてアレンジし、新しい方法を考えるのです。ですから、ひとつの方法が全員に適応するなんてことはありません。教育もそれと同じです。大学ですから大人数を対象に教えるわけですが、実習などではできる限り、学生一人ひとりをよく見て、何かに気づいたときは、きちんとアドバイスしています。つまり、その人その人の能力を引き出すことができればと思って、教えているのです。
また、作業療法士は、患者さんを大切にし、患者さんから学ぶという姿勢が大事です。私も患者さんから教えられることで、新しい方法を考え出しているのですから。人に学び、自分の能力を尽くす。作業療法士は、そういう人である必要があります。そのためには、当然、知識や技術も勉強しなくてはなりません。専門職ですから、生涯学び続け、常に人の役に立てるような自分をつくっていかなければなりません。そういう意味では、私は自分を学生(がくしょう)だと思っています。“がくせい”とも読みますね。そういう思いで接しないと、患者さんから学ぶことはできません。自分のこれまでの経験だけで勝負してしまったら、まったく症状の違う患者さんが来たとき、その方に最適な方法を考えることができなくなります。ですから私は常にまっさらな気持ちで、患者さんと向き合っているんです。そういう私自身の姿勢も、学生たちに伝わればと思いますね。

■最後に、今後の展望をお聞かせください。

教授となり、研究者として新しい道を切り拓いていかなければならない時期もありましたが、今はそろそろ新しい人を育てる時期にさしかかっています。自分の研究テーマを、若い世代に引き継いで研究してもらいたいという思いがしてきているんです。ですから、これまでに開発した様々な新しい作業療法の根拠を見つける研究を、若い人たちと一緒にしていきたいと考えています。
[2011年11月取材]

・次回は2月10日に配信予定です。

2011年12月9日掲出