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ごく当たり前にサステイナブル(持続可能)な視点を持って研究できる人を育てたい!

2014年12月12日掲出

工学部 応用化学科 江頭 靖幸 教授

工学部 応用化学科 江頭 靖幸 教授

CO2増加による地球温暖化問題や石油に代わる再生可能エネルギーに関する研究など、工学部が掲げる“サステイナブル工学”を代表するような研究に取り組んでこられた江頭先生。今回は、その研究の具体的な内容についてお話しいただきました。

■先生のご研究について、お聞かせください。

 私は、反応工学という化学工学の一分野を専門に研究しています。化学工学とは、簡単に言えば“化学工場設計学”のことです。化学工場は、化学製品や化学に関連した工業製品を生産する工場のことで、たとえばある薬品をつくろうと、ある原料に化学反応を起こさせたり分離・混合操作をしたりして、製品をつくるプラントのことを言います。この化学工場で行われていることは、大学の研究室内でビーカーを振って、化学反応を起こして何か物質をつくっているのと同じです。ただ、工場の場合、ビーカーよりもっと大きな規模で行うので、研究室で実験するのとは違って、色々と考えなければならないことがあります。たとえば、小さな鍋でつくっていたものを大きな鍋で大量につくろうと思ったら、材料の割合や手順は同じでも、鍋が大きい分、温まるのに時間がかかったりしますよね。つまり化学工場でものをつくる場合、どういう装置を使って、どういうプロセスで運転するとうまくいくか、資源やエネルギーの無駄がなく最も効率的に生産できるかということを考えなければならないのです。また、生産の過程で生じた廃棄物を無害なものに浄化することも検討しなければなりません。そういう化学製品の製造に関わる全体を研究しているのが化学工学です。

 その中で私が専門としている反応工学は、化学反応をうまく制御する反応装置の設計を対象としています。具体的には、反応装置内の流体の動きや温度、圧力、濃度などを定量的に解析して、最適な反応装置の形や大きさ、条件などを求めていく学問です。この反応工学の手法を応用することで、これまで私は地球規模のエネルギーや環境問題の解決をめざした研究に取り組んできました。

 たとえば、降水量の少ないオーストラリアの内陸にある乾燥地に植林をすることで、樹木にCO2を留めておく、つまり樹木にCO2を固定することで大気中のCO2を削減するという技術の研究に取り組んだ例があります。植物は光合成を利用して、CO2と水から炭水化物をつくり、エネルギーにしています。ですから大気中のCO2は、樹木の葉から吸収されて、炭水化物として木に固定されるわけです。その樹木の機能を利用して、CO2を固定する実験を試みたのです。

オーストラリア内陸の沙漠で樹木を育てるには?爆薬を使った土壌改良と数年に一回の洪水の水を集めるバンク(土手)を作って植林を試みる。
オーストラリア内陸の沙漠で樹木を育てるには?
爆薬を使った土壌改良と数年に一回の洪水の水を集めるバンク(土手)を作って植林を試みる。

 ところで乾燥地に木を植えると聞くと、みなさんはどんな印象を持つでしょうか? なんとなく良いイメージがあるのではないでしょうか? ですが実際に植えた木がどれだけCO2を固定したのか、またそれを行うためにどれだけのエネルギーを使ったのかを考えなければ、本当に良いことなのかどうかは判断できません。そこで私たちの研究グループでは、この植林の実験で、雨が降ってもすぐに乾燥してしまう固くなった地面に爆薬を用いることで土をほぐし、水を吸収しやすい土壌に変えて植林を行い、その評価として植えた木がどれくらいのCO2を固定したかを測定し、さらに爆薬を使用することで発生したCO2や爆薬を製造して輸送するのにかかったエネルギーなどをすべて計算しました。結果、爆薬の使用で発生したCO2の約40倍のCO2を樹木に固定できたと明らかにしたのです。これだけのプロセスを追って計算してはじめて、この植林がCO2固定に役立ったとはっきりと言えるようになるんですね。

 また、この乾燥地緑化を成功させるために、ウォーター・ハ―ベスティング(天水活用技術)に関する研究にも取り組みました。植林を行ったオーストラリアの土地は、乾燥地帯で、たまにしか雨が降りません。しかもその雨は固い地表表面を流れていき、やがて塩湖に流れ込んでしまいます。しかし、その地表を流れる雨水をうまく集めれば、植林した樹木を育てることに使用できるわけです。たとえば、10の土地に均一に雨が降っても、その雨量では木が育たない場合、9の土地の雨水を残り1つの土地に集めてくれば、雨量は10倍になるので、そこでは木を育てることができますよね。そういうことを実現するために、地表を流れる雨水がどこから来て、どう移動するのかを計算し、集める仕組みをつくったり、最初に地面を爆破して土壌改善したことでできた穴に水が溜まるようにしたりしたのです。その結果、今も樹木は育ち続けていて、この乾燥地での植林実験は成功しています。

バンクに洪水の水が集められた。エネルギーをほとんど使わずに樹木に水を与えることができる。
バンクに洪水の水が集められた。
エネルギーをほとんど使わずに樹木に水を与えることができる。

爆薬やバンクの造成を考慮しても発生した量の40倍以上のCO2が固定できる。
爆薬やバンクの造成を考慮しても発生した量の40倍以上のCO2が固定できる。

■先生が化学工学や環境問題に興味を持ったきっかけとは何だったのですか?

 私がまだ子供だった1960年代は、ちょうど公害や環境問題がいろいろと社会で言われ始めた時期で、その中でも水俣病は、テレビの報道などで一番大きく取り上げられていた時期でした。その水俣病を起こした化学工業メーカーの社長の名字が、たまたま私と同じ“江頭”だったもので関心を持つようになったんです。また、化学工学に興味を持ったのは、それが環境問題に直接的に手を打つことができる学問だったからです。日本で公害をなくすことができたのは、現実的に公害を引き起こさないような化学工場をつくった人たちがいたからです。その化学工場の設計に関わる分野が化学工学だったことから、大学で化学工学科を選びました。

■どういうところに、研究の面白さがあると思いますか?

 化学工学は数値を通して全体を俯瞰で見ていく分野なので、全体像として現状を理解できるという点は面白いし、良いことだと思います。たとえば今、暮らしている世の中も、非常に良い世の中だという実感を他の人より持つことができています。どういうことかと言うと、日本はここ20年ほど経済が低迷していて、“失われた20年”なんて表現され、バブル崩壊後は成長が止まったといわれますが、CO2の発生量はどんどん増えていたんですね。2000年代の半ばまでは増加が続いていた。工場からの排出量は非常に抑えられていますけど、私たちが生活で排出する量が増えているわけです。それは人々が自堕落な生活をしているせいではなく、豊かになっているからだと言えます。昔はAmazon.comもなければパソコンもなかったわけですから、そういうものがどんどん浸透していって、CO2が増えていったのです。そして今は便利な社会になったうえで、CO2排出量が減っているわけですから、以前よりもっとよい社会になっていると言えます。そういう視点から見ると、バブル崩壊後、世の中が悪くなったといわれていても、実際はそうでもなく、生活の質は非常によくなっているとわかるんですね。ただし、これは日本の話であって、世界全体ではCO2排出量は減っていませんが。

■研究者ないし教育者としての今後の展望をお聞かせください。

 バイオマスを用いた液体燃料の開発に関する研究を手がけようと考えています。具体的には、触媒反応を利用して、生物資源からどうコストを押さえて液体燃料を開発するかということに取り組みたいと思っています。そのために、今、いろいろな触媒反応を調べているところです。

 また、教員としては、学生をこれからの工学のスタンダードである、サステイナブル(持続可能)な視点を持って研究できる人に育てたいと思っています。研究自体は自由なものですから、好きなことを自由に研究すればよいのですが、少なくとも本学部で学んだ学生たちが卒業後に手がける研究には、必ずサステイナブルな性質が組み込まれている、必ずその視点を持って研究を進めることができる人になっていてほしいのです。もっと具体的に言えば、東京工科大学の工学部を卒業した人は、たとえば植林が本当にCO2を固定できるのかどうかを自分で計算できるようになりましょうということです。あるいは少し前まで、ペットボトルのリサイクルは環境に良いのか悪いのかということが論争になっていましたが、そういうことを精神論ではなく、きちんと科学的な根拠を持って判断できるようになろうということです。

 結局、ペットボトルを回収するには、どういう車がどのくらい走って、どのくらいの量のペットボトルを集めて、特定の収集ポイントから中央の工場に持って行くのにどのくらいCO2を出すのかということを計算できないと、本当に環境に良いことなのかどうか判断つきません。そういう製品が製造されてから廃棄されるまでに、どれだけ資源を消費したかを調べる方法にLCA(ライフサイクルアセスメント)というものがあって、工学部の学生は全員、それを授業で学ぶことになっています。ですから本学部では、きちんと根拠に基づいた、本当にサステイナブルな製品開発や研究ができる素養を身につけられるのです。

 そもそも研究というものは、非常に自由度が高いので、アイデア次第でさまざまな研究の方法やアプローチ方法が考えられます。そのとき、自分はどういう方法を採用するかという判断が、これからは非常に大事になってきます。これまでも非倫理的なことや法律に反するようなこと、安全でないことは、当然、どの研究者も選択してこなかったわけですが、これからはその中にサステイナブルという基準がもうひとつ加わるようになるからです。ですから何かに取り組む時、いつでもLCAを使って実際の消費資源量を調べたり、データベースから数値を調べたりして、根拠をもってサステイナブルな方をごく当たり前に選択できるようになってほしいと思っています。

■最後に高校生・受験生へのメッセージをお願いします。

 若いみなさんが生きる今の日本は、世界の中でも非常に豊かな国です。現にみなさんは、たくさん何かを手に入れたいとか、たくさんお金を得たいという考えがそれほど強くないでしょう? そういうことで人間は満足しないし、それイコール幸せではないということがわかっているからです。大量に何かを得たり、お金を得たりして成長し続けようとすることより、持続可能な発展ができるようにしようと考えられるのは、世界最先端の感覚だと言えます。つまり、みなさんは世界最先端を走っていて、肌感覚としてサステイナブルを知っているのです。

 そういうみなさんには、世界と競争するという考え方よりも、自分の身近な問題をきちんと解決しようと取り組める人間になってくれることを期待しています。自分の顧客や自分の会社の仲間という枠組みの中で、一番問題になっていることを確実に解決していける能力を持つ人になってほしいのです。それが豊かさを極めた日本という国で生きる、世界最先端の人だと言えると思いますよ。アメリカでは「Think Globally, Act Locally」(地球規模で考えて、足元から行動せよ)という発想が生まれ、それは世界的にも有名なフレーズになっていますが、日本もそれを実行できる豊かな国になっているのですから。