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化学を駆使してつくった人工ツールで、生命現象の解明に貢献したい!

2015年2月13日掲出

工学部 応用化学科 須磨岡 淳 教授

生体分子の認識や検出、改変(組み換え)の研究に取り組んでいる須磨岡先生。生物分野を対象に化学の立場から、さまざまな人工ツールを開発しています。今回は、これまでの研究をいくつか取り上げてお話しいただきました。

■先生は、どのような研究に取り組んでいるのですか?

 私が取り組んでいる研究は、タンパク質や核酸など、生体を構成している生体分子の機能や反応について、分子レベルで研究するケミカルバイオロジーの分野になります。たとえば、大学院生時代から長く取り組んできた研究に、遺伝子操作をする人工ツールの開発があります。現在の遺伝子工学分野では、ある遺伝子を別のものと組み換えるとき、天然に存在する酵素をハサミとして利用しているんですね。このハサミは“制限酵素”と呼ばれていて、DNAを構成する塩基配列(AGCTの並び)のうち、特定の並びを認識して、そこに切れ目を入れてくれるというものです。ただ、種類はいくつもあるのですが、酵素によって認識・切断する塩基配列が決まっているので、限られた配列しか切断できません。つまり、こちらが切りたいと思っているところで切るという自由度は少ないわけです。また、制限酵素が切るポイントとして認識する塩基配列は、4~8つの並びと短いものなので、たとえばヒトのDNAといった30億個もの塩基対から成る長いものに制限酵素を使うと、認識する配列が多いため、あちこちで切断されてバラバラになってしまいます。ですから、もっと長い配列を認識して、しかもこちらの切りたい場所を切断できる制御酵素があると、大変便利です。そこで、私のいた研究室では、そういう機能のあるものを人工物でつくろうと取り組んできました。

 まず、はじめに取り組んだことは、DNAを切断する触媒を見つけることでした。DNAは非常に丈夫にできています。琥珀の中で保管されていた何千万年も前のDNAを利用して恐竜を復活させる『ジュラシック・パーク』という映画がありましたが、それほど長い時間経ても壊れないくらいDNAは丈夫なのです。それを切断しようというのですから、そう簡単なことではありません。そこで我々は、DNAを上手に切断できる触媒を探しました。実際に周期表の順に従って、いろいろな金属イオンを調べていき、とうとう見つけたのがセリウム(Ce)というイオンです。これがすごくDNAを切断できる機能を持っていました。特に、CeとEDTAという化合物からなる触媒は、一本鎖のDNAはよく切断しますが、二本鎖だとほとんど切断しないというおもしろい性質を持っていました。通常、天然に存在するDNAのほとんどが二本鎖です。そこで、二本鎖DNAを切るためには、二本鎖の中に一本鎖の部分をつくればよいのではないかと考えました。具体的には、PNA(ペプチド核酸)というDNAの親戚みたいなものを使ったのです。PNAにはDNAの二本鎖の間に入っていって、二本鎖をほどくように割り込むという特徴があります。このPNAを合成し、DNAの二本鎖をほどいて一本鎖の部分をつくり、それをCeとEDTAからなる触媒で選択的に切断するという方法を採ったのです。この実験は、うまくいきました。

 現在、遺伝子の配列は明らかにはなりましたが、それがどんな働きをしているのかということまでは、まだ明らかになっていません。遺伝子工学分野では、それを調べようと色々な方法が考えられ、分野全体で進められているところです。私たちが研究開発したものも、そういう遺伝子の働きを調べることに役立てられますし、また、人工的に合成したものですから、分析ツールとしての応用もできるのではないかと考えています。

■他に取り組んできた研究としては、どんなものがありますか?

 「ペプチド中のリン酸化チロシンの検出」という研究があります。タンパク質はいろいろな種類のアミノ酸が連なってできているのですが、そのアミノ酸のひとつがチロシン(Tyr)です。簡単に言うと、生物の体内にある受容体というものが外から刺激を受け取ると、そこにあるTyrにリン酸がくっついてリン酸化され、受け取った刺激を今度は細胞内にシグナルとして伝達し、細胞を増やしたり、成長させたりということをするんですね。本来、それは一時的なもので、しばらくするとリン酸は取れて、Tyrが元の状態に戻り、シグナルの伝達も終わります。ところが、何らかの異常が起こって、Tyrがリン酸化されたままずっと細胞内にシグナルを出し続けてしまうことがあるんです。たとえば癌細胞は、勝手に増殖しますよね。これを今の話にあてはめて考えれば、Tyrのリン酸化によって細胞内にシグナルを出し続けて、暴走している状態だと言えます。もちろん、すべての癌がそういう仕組みで増殖するわけではありませんが。そこで私たちは、そんなふうにチロシンがリン酸化されたまま異常を起こしている部分を見つける方法の開発に取り組んだのです。具体的には、リン酸化されるTyrを含むモデル化合物をつくり、そこへ私たちが開発したある化合物(テルビウム(Tb)を含む化合物)を加えておくと、酵素によりTyrがリン酸化されると発光するというものです。

 今、私たちは、この開発したツールを医薬品のスクリーニングに応用しようと提案しているところです。
実際、既存の抗癌剤の中には、Tyrがリン酸化されることを防ぐ薬があるので、
開発したツールで、それが本当に効果を出しているかどうか確かめる実験を行いました。
これを将来的には、新薬のスクリーニングに応用したいと考えています。

 また、分子インプリント法という特定の分子の鋳型をプラスチックでつくる手法を使って、生理活性ペプチドを認識しようと取り組んでいる研究もあります。ペプチドというのは、タンパク質の一部で、アミノ酸が連結したもののことです。ペプチドには油っぽいところがあって、そこにシクロデキストリン(CyD)という油っぽいものを取り込む特性を持つ、環状の糖を入れて結合させます。結合した状態で、プラスチックで固め、ペプチドを洗い流すと、目的ペプチドの油っぽい部分にぴったり合うようにCyDが配置されたペプチドの型が取れます。この型を使えば、いろいろなものが混ざり合った物質の中から、この型に合うペプチドだけを選択的に分離させることができるわけです。イメージとしては、型に合うペプチドが、ちょうど型の中にひっかかるようなイメージですね。それ以外の物質はひっかからずに、流れ出て行くということです。実際、非常に似た構造のペプチド3種類の中から特定のものを認識できるかどうか実験したところ、うまくいきました。こうした分離ツールも、さまざまな分野で使ってもらえるのではないかと考えています。


生理活性ペプチドの油っぽいところ(白丸)に
底の抜けたバケツのような形をしたシクロデキストリンが結合する。
この状態でプラスチックで固めて、ペプチドを取り除くと、
目的のペプチドとぴったり合うプラスチックの型を取ることができる。

■先生が化学やケミカルバイオロジーに興味を持ったきっかけを教えてください。また、研究の面白さとは何でしょう?

 高校の頃から、化学が好きでした。そもそもでいえば、化学の先生をしていた母親の影響が大きいと思います。子どもの頃、母の出身大学の実験室に連れて行ってもらったこともありますし、身近に化学の本や実験道具がある環境でしたから、自然と化学に興味を持ったんでしょうね。また、私が化学の中でも生物を対象にしている研究が多いのは、単純に面白いからだと思います。生物の体内ではさまざまな化学反応が起きているのですが、なぜそうなるのかということを考えるのは、生物や生命の謎に迫ることでもあるので興味深いです。とはいえ私の立ち位置はあくまで化学ですから、化学を駆使して人工の道具をつくり、生命現象の解明に貢献したいと思っています。

■教員として、応用化学科の学生をどんなふうに育てたいとお考えでしょうか?

 自分で考えられる学生に育てたいと思っています。言われたことをするという姿勢では、大学で学ぶ甲斐がありません。また、ある程度、理路整然と自分の意見が言えるようにもなってほしいですね。自分の意見を言うには、それなりにその物事について、理解しておかなければなりません。ですから、いろいろなものに興味を持って、挑戦してみることが重要だと思います。

 また、先ほどお話ししたように、私の研究は化学の立場ですが、生物や生体を対象にしています。同様に応用化学科には物理や電気電子など、さまざまな分野を対象にした先生方がいらっしゃいます。今は、どこの分野もそんなふうに学際的になっているわけです。もちろん、拠って立つ専門がなければ始まりませんが、そればかりにこだわっていてもいけない。特に工学部的な発想は、協力できるところは協力して、いかに世の中の役立つものをつくるかというところにありますからね。それは本学の工学部が取り組もうとしている、サステイナブル工学にも通じていると思います。本学部は、ひとつの学科、たとえば応用化学科だけで環境を考えるのではなくて、もっと広い視点や立場で、環境や持続可能性を捉えようとしています。そうでなければ、サステイナブルな社会は実現できません。大学の学びを通して、そういう考え方ができるようになることは、学生にとって非常によいことだと思います。

■最後に研究者としての展望をお聞かせください。

 化学と生物をうまく結びつけた研究をしたいと思っています。今は、バイオマスという分野もありますが、それとはまた違うところで、何か新しい研究ができないかと考えているところです。

 私自身、ずっとケミカルバイオロジー分野を研究してきた、生物分野がある程度わかる化学者ではあるので、その背景を活かして、さらに何ができるのだろうと考えているところです。なんとか20年計画くらいで、成果を出せる研究ができたらよいなと思っています。

・次回は3月8日に配信予定です。