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まるで魔法のような、驚きのあるソフトウェアをつくっていきたい

大学院メディアサイエンス専攻 修士2年 田中 潤さん

大学院メディアサイエンス専攻 修士2年 田中 潤さん

■作品「Tuneblock」が文化庁メディア芸術祭で入選

 iPod touchの画面に映し出された、左から右へと流れていく白い破線。その画面上を指でタッチすると、音符を置くように丸いポイントがつけられる。そのポイントに流れてきた破線が当たると、ポンと音が鳴る。画面の下側は低い音、上側は高い音に設定されていて、指で画面をタッチしてポイントを増やせば増やすほど、音数も増えていく。つまり指一本で、これといって意図せずに、小さな音楽をつくることができるのだ。
 このアプリケーションの名前は「Tuneblock」。大学院メディアサイエンス専攻の田中潤さんが開発したもので、アップル社のマルチタッチスクリーンを備えたデバイス専用のアプリケーションだ。この作品が、2011年秋に「平成23年度 第15回 文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門の審査委員会推薦作品に選出された。

Tuneblock

 「正直、選ばれるとは思っていなかったので、連絡を頂いたときは『まさか!?』という感じでした。応募作品数が何千とあって、その中でも僕が応募したエンターテインメント部門は、幅広いジャンルの作品を扱う部門でしたから、自分の作品がどう評価されるのか全くわからなくて。ただ『Tuneblock』は、これまでのアプリケーションとは違った次元に足を踏み入れている作品だとは思っていたので、そこが評価されたらもしかすると…という期待は、ちょっとありました(笑)」。
 田中さんが開発した「Tuneblock」の注目すべき点は、実は冒頭で紹介した、電子音楽を制作する“サウンドシーケンサー”機能ではない。この作品の最も革新的なところは、ふたつのデバイスの画面を人差し指と親指でつまむような動作「ピンチ(pinch)」をするだけで、簡単に同期させることができるという技術にある。例えば、無線ネットワークでつながれたふたつのiPod touchで、それぞれ「Tuneblock」を起動する。それらを直列に並べ、片方のデバイス画面に人差し指を、もう片方のデバイス画面に親指を置いて画面をピンチすると、驚いたことに別々に動いていた「Tuneblock」がつながり、片側に置いたiPod touchの画面上を動く破線が、スクリーンをまたいで、もう片側のデバイスの画面上へと流れていく。楽譜に例えるなら、1小節だったものが、ピンチによって2小節になるというわけだ。また、並列に並べて同様にふたつの画面をスワイプすると、今度は上下方向に音域が広がる。つまり楽譜の“線”が増えるような形になるのだ。このようにふたつのデバイスの動きを、ピンチで同期させてつなぐことができる技術こそが、田中さんが大学院で研究開発し、今回の入選につながった技術なのだ。
 「“ピンチ(pinch)”でデバイス同士を留めるというイメージから“Pin-ch”(ピンチ)と名付けました。『Tuneblock』は、“ピンチ(pinch)”を投入したデモアプリケーションです」。

別々のiphone画面をアプリのキャラクターが移動する様子。

■指でつまむだけでデバイスを同期させる、魔法の“Pin-ch”

 一見、魔法のようにさえ見える、この“Pin-ch”という技術。一体どんな仕組みで複数のデバイスを同期させているのだろう? 田中さんによると、ピンチしたとき、画面上では人指し指と親指で、ひとつの直線を描いていると考えられる。そこで、ふたつのデバイスの画面上で同時にひとつの直線が描かれたとき、その位置をうまく合わせて、それぞれの画面の座標を逆算的に計算しようというのだ。
 「ピンチが起きたとき、画面のどの座標位置で、どの方向にピンチが起こり、そのときのデバイスの姿勢がどういう角度だったかというデータを、iPod touchは記憶しています。その情報を無線ネットワークでデバイス同士が認識し合い、それぞれのデバイスで起きたピンチが同時で、描かれる直線の方向がお互いの方へ向いていたら、そのふたつの画面を接続させるというふうにしているんです」。
 この方法では、何台ものデバイス画面を簡単につなぐことができる上、ディスプレイの大きさが異なる、例えばiPadとiPod touchといった組み合わせでもピンチでつなぐことが可能。さらに同じ場所に5台10台と同じデバイスがあったとしても、ピンチして指をずらした方向がお互いに相関しているものだけを組み合わせるため、他のデバイスを誤認識することもない。操作は、誰でも指先で簡単にでき、「Tuneblock」に限らず、さまざまな活用が期待できるというわけだ。しかし、そうした“Pin-ch”の使いやすさの裏には、田中さんの挑戦がいくつもあった。「一番大変だったのは、ネットワークを通じて、ふたつのiPhoneないしiPod touchのタイミングを同期させる、ネットワーク処理の部分です。もともと、ネットワークプログラミングは、プログラミングの中でも難しいものです。それに無線の電波を使いますから、電波状況に大きく左右されて、失敗したり突発的な事故なども起きたりしました。そこをできる限り解決していくという点でも苦労しましたね」と田中さん。また“Pin-ch”の技術を用いて、どんなものをつくるかというアイデアでも頭を悩ませたという。
 「僕はどうもその辺が苦手で、指導教員の太田高志先生に『田中くん、固いよ』と、よく言われています(笑)。今回の『Tuneblock』もできるだけ頭をやわらかくして、何か面白いものがないかと、太田先生とアイデアを出し合いながら考えていきました」。

プログラミング画面を操作する田中 潤さん

■“未来では当たり前となるもの”の開発を目指して

 Webデザインを勉強しようと本学へ入学し、Webサイト制作に取り組んだり、ミュージックビデオ制作に夢中になったりと、自身の興味に任せて手を伸ばしてきたと、学生時代を振り返る田中さん。
 「僕の場合、本当に紆余曲折してきました。3年の冬まではPV制作に夢中だったのに、途中でiPhoneに魅了されて、iPhoneのアプリケーションをつくりたいと思うようになって。iPhoneの開発環境は、一般的なプログラミングと少し毛色が違っているので、趣味みたいにアップルの英語のドキュメントを読んで、独学で本格的なアプリケーション制作を始めたんです。それが今の研究につながっています。ただ、こんな風に色々なことに挑戦できたのも、メディア学部で扱っている内容が幅広く、何でも自由に学べたからだと思います。この学部に入学する人は、例えばゲームクリエーターになりたいというように、はっきりした職業を目指している人も多いと思います。それはそれで良いのですが、せっかくですから、今あるメディア技術をあれこれつまみ食いして、新しい分野を自分たちの手でつくれたら面白いんじゃないかと思いますね」。
 かく言う田中さん自身、卒業後は、友人とソフトウェア開発の会社を起業しようと考えている。「ぱっと見、魔法っぽい、『どうしてこうなるの?』みたいなことを実現できるのが、この分野の面白さ。ですから、例えばテレビを知らない人が、初めてテレビを観たときの驚きを再現できるようなものがつくれると良いなと。そして、今は驚きを持って迎えられるものでも、未来ではそれが当たり前になっている、そういうものをつくっていきたいと思っています」と、力強い言葉で締めくくった。確かな技術とセンスを身につけた田中さんが、未来のスタンダードを築く日は、そう遠くないかもしれない。

2012年3月9日掲出