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フライ油の中で起こる、さまざまな劣化現象のメカニズムを明らかにしたい!

2014年7月11日掲出

応用生物学部 遠藤 泰志 教授

応用生物学部 遠藤 泰志 教授

 油脂の劣化度合いを測定する方法や劣化そのものを防ぐ方法について研究している遠藤先生。現在は、油脂などの分析試験法を統括する日本油化学会・規格試験法委員長でもあります。今回は、前回の取材で紹介した研究のその後の展開と、新たな取り組みについてお話しいただきました。

過去の掲載はこちらから→
http://www.teu.ac.jp/interesting/019083.html

■前回の取材で伺ったカヤ油の研究は、その後、どのように進展しているのでしょうか?

 前回、カヤの実から採れるカヤ油に、中性脂肪とコレステロールを下げるといった脂肪肝予防の作用があるという話をしました。その作用のメカニズムを解明しようと、肝細胞を使って調べてきたのですが、現在はそれと併せて、カヤ油に新たな健康機能があるかどうかを調べているところです。具体的には、肥満になって内臓脂肪がついたという状態のモデルとして、脂肪細胞を使った実験を行っています。脂肪細胞は、細胞が生育するに従って、細胞内に脂を溜め込んでいくのですが、それをカヤ油が防げるかどうか、そういう機能があるかどうかを調べています。

 現状、カヤ油には脂肪細胞が脂肪を溜め込むことを抑える作用があるという結果が出ています。おそらく、脂肪細胞の脂肪の合成を抑制しているのではないかと考えられますが、そのあたりの解明も含めて、研究に取り組んでいきます。
また、前回の取材で触れた、カヤ油と魚油の比較についても進めています。イワシやサンマなどからつくられる魚油にも中性脂肪を下げる作用があるのですが、魚油には魚特有の臭いがあるため、用途に限りがあります。そこで、もしカヤ油に魚油と同等程度の中性脂肪を下げる効果があるならば、魚油の代替として使えるうえ、用途もより広がるだろうと考えたわけです。当研究室では、魚油に含まれるEPAやDHAという中性脂肪やコレステロールを下げる作用のある脂肪酸を比較対象に、研究を進めているところです。

カヤ(Torreya nucifera)油 用途:食用油・整髪料・灯油

■では、新たに取り組み始めた研究はありますか?

 2つほど、新しい研究をご紹介したいと思います。ひとつは、“油酔い”に関する研究です。普段、私たちの生活の中でそういうことは起きにくいのですが、惣菜を調理する店舗や工場などでは、長時間、油を使った揚げ物をしていると、調理をしている人の気分が悪くなるという現象が起きることがあります。それが“油酔い”と呼ばれるものです。これを引き起こす原因が、油を加熱しているうちに発生するアクロレインという物質だということは、すでに予測されているのですが、それが油のどの成分からできてくるのかということは、まだよくわかっていません。これまでは、おそらく油に含まれるグリセリンが加熱によって分解されて、アクロレインが生成されるのだろうと考えられてきました。

 ところが実際の厨房では、油の種類によって、油酔いの仕方が違うということが言われています。そうなると油酔いの原因は、グリセリンの分解によるものではないかもしれません。なぜならグリセリンは、どの油にも入っているからです。油の種類はグリセリンにどの脂肪酸がついているかの違いで決まるため、グリセリンはいずれの油にも必ず含まれています。そこで研究室では、大豆油、ナタネ油、シソ油、ひまわり油、米油、パーム油など、いろいろな油の種類ごとに、アクロレインの生成量を測定してみました。すると、それぞれの油に含まれるリノレン酸という脂肪酸の含量と、アクロレインの生成量に比例関係があるとわかったんです。このリノレン酸の含有量は、油の種類によってまちまちです。ですからリノレン酸が多く含まれる油は、アクロレインの生成量も多いと言えます。この結果から、私たちはリノレン酸がアクロレインをつくる原因物質かもしれないという仮説のもと、リノレン酸だけを加熱する実験を行ってみたところ、やはりアクロレインが生成されると判明しました。つまり、アクロレインはグリセリン由来ではなく、リノレン酸由来だったという、これまでの通説を覆す発見をしたのです。

 現在、当研究室では、このアクロレインの生成をどうしたら抑えられるかという研究に取り組んでいます。普通に考えると、アクロレインの発生原因であるリノレン酸を油から取り除けばよいということになるわけですが、実はそれには問題があります。というのも、このリノレン酸は人間にとって栄養学上、摂取しなければなら必須脂肪酸だからです。そこで私たちは、何とかリノレン酸からアクロレインが生成されることを抑えようと試みています。具体的には、リノレン酸が酸化することでアクロレインができているとわかっていますから、その酸化を防止しようと世の中で使われている酸化防止剤を試しているところです。今、手ごたえを感じている酸化防止物質に、酒石酸ナトリウムがあります。これは食品添加物として、飲料のpH調整剤などに使われてきた水溶性の添加物です。水溶性ですから油には溶けませんが、揚げ物の油の温度である180℃という高温の状態では、酒石酸ナトリウムは液体になります。ですから、油の中に分散させることは可能です。この酒石酸ナトリウムを油の中に分散させると、酸化防止効果を発揮するのではないかと実験を進めているのですが、今のところ、効果があるとわかってきました。今後は、酒石酸ナトリウムによる酸化防止で、どの程度、アクロレインの生成を防げるのかということを調べていくつもりです。

「油酔い」とは?

■では、もうひとつの新しい研究とは、どのようなものでしょうか?

 昨年から、酵素で機能性の脂肪酸を合成する研究に取り組んでいます。ご存知かどうかわかりませんが、以前、トマトダイエットがブームになったことがあるんですね。トマトに含まれる、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(以下、13-oxo-ODA)という脂肪酸の一種が抗肥満作用を持っているということで、ダイエット効果があると話題になったのです。ただ、トマトから13-oxo-ODAを摂取しようと思うと、トマトジュースを5杯くらい飲まなければなりません。それだけでお腹一杯になるので、確かにダイエットになるかもしれませんが(笑)、他の栄養を採ることができないですよね。そのくらいトマトに含まれる13-oxo-ODAの量は微量なのです。そこで酵素を使って、それを大量に合成できないかと、取り組んでいます。

 現状、リノール酸に、リポキシゲナーゼという脂肪酸を酸化する酵素を作用させて、13-oxo-ODAを合成しようと試みているところです。リノール酸は、コーン油や大豆油などの主な脂肪酸ですから、安価で大量に手に入れることができます。また、リポキシゲナーゼも大豆に多く含まれているもので、一般に販売されている試薬ですから、手に入れやすいものです。それらを使って、13-oxo-ODAを大量に合成できるようになれば、最終的にサプリメントという形にしたいと考えています。

 ただ、今のところリノール酸とリポキシゲナーゼを作用させて合成する13-oxo-ODAの収率は、2%程度と低いです。研究室の目標としては、20%くらいには持っていきたいと思っているのですが、なかなか難しいですね。というのも、リノール酸にリポキシゲナーゼを作用させると、普通はヒドロペルオキシドという物質ができてしまうんです。このヒドロペルオキシドを13-oxo-ODAへ変えるという部分が課題になっています。今、温度やpHなどの反応条件を変えながら、研究室の4年生が一生懸命、取り組んでいるところです。

酵素による抗肥満作用脂肪酸の合成

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 この研究室のメインとなる研究テーマですが、油の劣化のメカニズムをもっと追究していきたいと思っています。特にフライ油の中では、酸化、分解、加水分解、重合といったいろいろな反応が起こるのですが、どういうメカニズムでどういう現象が起きるのかということは、あまりわかっていません。ですから、今後もその解明に力を入れていきたいと考えています。

 ちなみに今年は、加水分解に焦点をあてた研究に学生が取り組んでいます。フライ油の中に食品を入れると、食品から水分が出て加水分解が起こり、油を劣化させる遊離脂肪酸が生成されます。しかしフライ中の油には、実はもうひとつ油を劣化させる物質をつくる反応があって、それが酸化です。油の酸化によってできるカルボニル化合物がさらに酸化すると、遊離脂肪酸と似たような物質になるのです。そこで研究室では、加水分解によってできる遊離脂肪酸の量とカルボニル化合物の酸化によってできる油を劣化させる物質の量を測定し、油の劣化にどちらが強く影響しているのかを調べています。このように油の劣化について少しずつ解明を進め、劣化防止方法の開発に繋げていきたい考えです。

フライ油の劣化反応