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ビジュアルシミュレーションの技術を使って、多くの人が面白いと思える独自の仕組みや手法をつくりたい。

2014年2月14日掲出

メディア学部 柿本 正憲 教授

メディア学部 柿本 正憲 教授

大学時代、NASAのつくったコンピュータグラフィックス(以下CG)映像を見て、CGに興味を持ったという柿本先生。企業の研究所に勤めていた頃は、並列計算機の開発や半導体の回路設計などを手がけ、そのうち並列計算機の性能評価として行っていたCGプログラミングを専門とするようになったそうです。今回は先生の研究室で取り組んでいる研究をいくつか取り上げて、お話を伺いました。

■先生の研究室では、どのような研究をされているのですか?

 私の研究室では、コンテンツそのものをつくるのではなく、そのためのツールや技術の開発に取り組んでいます。「イメージメディア」と「ビジュアルコンピューティング」という2つのプロジェクトがあって、「イメージメディア」では、2次元の画像処理技術などを応用して、面白いものや役に立つものをつくるという研究をしています。一方、「ビジュアルコンピューティング」では、3DCGを中心にした研究に取り組でいて、特に自然現象や世の中にあるものの動きなど、さまざまな現象を目に見える形にし、リアルに表現する“ビジュアルシミュレーション”と呼ばれるものを手がけています。

 たとえば、雨の日に車を走らせていると、フロントガラスに水滴がつきますよね。フロントガラスは撥水性ガラスなので、その水滴はさっと流れていきます。あの水滴の動きをシミュレートした研究があります。フロントガラスを流れる水滴をビジュアルシミュレーションのシステムに落とし込むには、いろいろなことを考えなければなりません。たとえば動きをシミュレートするには、まず、どういう力がかかるのかを考えます。水滴の場合、重力がかかりますよね。それからフロントガラスの面から抗力がかかります。これは、高校の物理で学ぶ、いわゆる力学の分野です。そのほか、水滴が転がるときの抵抗や、ガラスと水滴との間にある摩擦といったものをすべて計算して出した数値をシステムに設定すると、シミュレートができるわけです。そこからさらに、そのシミュレートで動いたデータを、いかに本物っぽくCGで再現するかという作業も重要になります。水滴の場合、屈折して見えるというところまで再現しなければ、本物のようには見えません。ただ、こうした自然現象をものすごく厳密に捉えようと思うと、非常に難しいです。プログラムやシステムをつくるにも、計算処理をするにも時間がすごくかかるので大変ですし、実用という点からは現実的ではありません。ですからCGの分野では、厳密に捉えることよりも、いかに簡単に本物のように再現するかということが大事になってきます。そのため、難しいものを簡単な考え方に落とし込んで処理する、いわゆるモデル化を行い、しかし結果は本物に近い形で見えるようにするということに取り組んでいきます。その辺の加減が、CGでリアルな世界をつくろうというときに重要になってくる考え方です。

撥水フロントガラス上の水滴のシミュレーション映像(背景画像は実写)
撥水フロントガラス上の水滴のシミュレーション映像(背景画像は実写)

水滴にかかる5つの力
水滴にかかる5つの力

■このシミュレーションは、どういうことに役立つ可能性があるのですか?

 ゲームやドライブシミュレーターに使えるのではないかと思っています。ただ、私の研究全般に言えることですが、最初からゲームやドライブシミュレーターといった目的のためにつくったものではなく、純粋にこの現象に興味があったから取り組んだものなんです(笑)。水滴が車の速度で流され、弾けていく様子は、単純にきれいですよね。そういうものを再現してみたいという思いが研究を始める根本的な動機です。

■では、研究室の学生が取り組んでいる研究には、どのようなものがありますか?

今、学生が取り組んでいるものに、“粘弾性体”という物体の動きをシミュレートしようという面白い研究があります。弾性体とはバネ性を持った物体で、ボールや固いゴムなどが当てはまります。一方、粘性体というのは、粘り気のある液体です。その中間の性質を持つものが“粘弾性体”で、世の中にはあまり例として挙げられるものがありません。強いて言うなら、スライムですね。そういう弾性体と粘性体の中間にあるものの動きを、学生がシミュレートしているところです。

 液体や気体などの流体シミュレーションは、CGの世界ではものすごく研究されています。たとえば映画では、巨大な波が押し寄せてきたり大爆発が起きて煙が上がったりと、流体的な動きを使うシーンが多々ありますよね。そういうものは実写で撮影することが難しいですから、ほとんどがCGでつくられています。そのため、この分野の研究は盛んです。

 一方で、弾性体における動力学も、ものすごく研究されています。こちらは車の衝突解析など、かなり実用的なシミュレーションとして研究している人たちが大勢います。また、30年近く前に、そういうことをもう少し簡単にして処理時間を速くし、映画などで簡単に使えるようにと、CGで動力学を扱う技術が発明され、以来、技術としてかなり普及しています。そういう背景もあって、大勢と同じような研究をするより、ちょっと目先を変えたことをしようと、“粘弾性体”を扱っているのです。

粘弾性体の変形シミュレーション結果の例
粘弾性体の変形シミュレーション結果の例

 これも何に応用できるのかと聞かれると、苦しいところがあります(笑)。本音で言えば、面白いから研究しているというかんじですから。実際のところ、スライムなどはゾンビ映画などに出てきますから、そういう意味では、誰かが面白がって使ってくれるかもしれません。ただ、これは卒業研究であり、学会で発表もしている研究ですから、学生には最終的に何の役に立つのか、きちんと説明をつけるように指導しています。人に発表して、それを良いと思ってもらうには、何に役立つかをきちんと用意しておくことも大事ですからね。

 このほかに、鳥に餌をあげるというシミュレーションも、今、学生が研究しているところです。簡単にいえば、コンピュータ上で人間が餌をばらまくと、鳥がつつきに来るというものです。鳥の、人間に近づくのがちょっと怖いというような動きをシミュレートして、本当に鳥に餌をやっているような動きをつくることが目標です。複数の種類の鳥が何羽かいて、大きい鳥は小さい鳥を押しのけて餌を食べるとか、小さい鳥はすばしっこく動いて食べるというように、個々が自律的にリアルな動きをするというものを目指しています。

■研究の面白さとは、どういうところにあると思いますか?

 CG研究の面白さと、純粋に研究に対する面白さのふたつがあります。CG研究の面白さから話すと、これはすぐに“ご褒美”がもらえるということですね。CGプログラミングの場合、プログラムを組んで実行すると、すぐに絵が出て、でき上がるわけです。そこのサイクルの速さが面白く、達成感が少しずつでも頻繁に得られます。自分のつくったプログラムが数秒後にはうまくいっているのか、間違っているのかわかるわけですし、修正もすぐ反映できます。また、絵としてできてくる過程にも、わくわく感があります。

 それから研究というものに対する面白さについて言えば、まだ誰もしていないことを研究しているという楽しさがあります。研究をする条件には、必ず新規性と有用性が必要になります。つまり、その研究をしている過程では、恐らくまだ世の中で誰もその取り組みをしていないということになるわけです。それを自分がしているのだと思うと、楽しいですよね。そして、それが世の中の役に立つということであれば、やりがいも生まれてきます。ですから研究で大事なことは、まず自分が面白いと思うこと、そして新しさがあって、誰かの役に立つということだと思っています。

■学生を指導するうえで、心がけていることはありますか?

 メディア学部の学生のほとんどは、CGや映像、画像、アニメなどに興味があって、入学してきています。ただ、そういうものを見て楽しむのと、つくるのとでは、必要になる素養がまったく違います。考え方にも切り替えが必要ですし、技術や知識にもつくる側のそれが必要になってきます。学生はこれまで、見て楽しむ立場にいたわけですが、そこからつくる立場に移行してもらわなければなりません。ですから、本学部では1年生の早い段階から「基礎演習」という演習を通じて、実際につくってみる、体験してみるということを積極的に行っています。私が担当しているのは、「基礎演習」のプログラミングの入門編ですが、そこでは最初は5~6行の短いプログラムをつくって、そこにデータを与えて、CGの図形などを描くということを経験してもらっています。短いプログラムでも、割と簡単にCGの図形は描けるんですよ。これは難易度や時間のかけ方は違うけれど、CG研究者が行っていることと、ほぼ同じ作業です。そういうことを簡単なところから実際に体験してもらって、つくり手になるということを意識できるように指導しています。

 また、自分でプログラムを書いてみることで、座標や変数など、数学の知識が必要になると気づくこともできます。それに先ほど、私がCG研究の面白さとして挙げたように、単純にプログラミングしたものが、形となって動くという面白さも感じてもらえると思います。

■最後に今後の展望についてお聞かせください。

 研究ではいくつか取り組みたいことがあるのですが、その内のひとつに、ものづくりをしている人たちを支援する研究をしたいということがあります。最近の成果として、眼鏡のビジュアルシミュレーションという研究があります。これは眼鏡を設計している会社と共同で取り組んでいる研究で、老眼鏡や遠近両用のレンズなどをかけたときの見え方をシミュレーションするという眼鏡レンズシミュレーターの研究です(参考URL:http://www.seiko-opt.co.jp/technology/simulation/)。これは一例に過ぎませんが、こういう形で何か良いシステムをつくって、ものづくりに役立てて、良い製品の普及につながるようなことができればと思っています。

 それから、CGのビジュアルシミュレーション技術を使って、多くの人が面白いと思うような仕組みや手法も考え出したいですね。それを誰かが何らかの作品制作に使ってくれるようになれば、うれしい限りです。やはり自分が考えた手法が世の中で使われるというのは、一番の喜びですから。

・次回は3月14日に配信予定です。