東京工科大学 HOME> トピックス> 2013年のトピックス> 人を楽しませるゲームのテクニックを、社会のさまざまな分野に役立てていこう!

トピックス

Topics

人を楽しませるゲームのテクニックを、社会のさまざまな分野に役立てていこう!

2013年7月12日掲出

メディア学部 岸本好弘 准教授

メディア学部 岸本好弘 准教授

 ナムコやコーエーでビデオゲーム開発に携わって29年、関わったタイトルは60作品以上という“きっしー”こと岸本先生は、「ファミスタの父」と呼ばれるゲーム業界屈指のクリエーター。昨年、本学メディア学部の教員に着任され、現在はゲームづくりのノウハウをさまざまな形で学生に伝えています。今回は、そんなきっしー先生の研究室での取り組みや教育者としての思いなどを伺いました。

■先生の研究室では、どんな研究に取り組んでいるのですか?

 「社会に役立つゲーム」をテーマにした、いわゆる“ゲーミフィケーション”の研究をしています。ゲームは、大抵の人にとって面白いだけの単なる娯楽で、何の役にも立たないものと思われがちですよね。特に私の世代や学生の親世代には、その傾向が強いと思います。でも、ゲームの手法や仕組みは、実は昔からゲーム以外のところで色々と取り入れられ、活用されてきました。例えば、スタンプラリーは、全部のスタンプを集めたら何かがもらえるとか、次のステージに行けるといったゲーム要素を持っています。そうすることで、人を惹きつけたり興味を持たせたり、競争させたりしてビジネスにつなげてきたわけです。スタンプラリーの場合はあくまでゲーム要素ですが、そういう要素も含めて、もっと広い意味で人を楽しませたり熱中させたりするゲーム独自の開発技術や発想、仕掛け、仕組みを、社会の問題解決やビジネス、教育、医療など、さまざまな分野に活かそうというのが“ゲーミフィケーション”と呼ばれるものです。

学生の企画案

 ゲーミフィケーションには、「能動的参加」「達成可能な目標設定」「即時フィードバック」「称賛演出」などの要素があります。これはゲームの面白さをつくっている要素とも言い換えられます。例えばゲームは好きなときに始めて、途中でやめることができますよね。無理やりゲームをさせられることはないし、それでは面白くない。つまり自分から能動的に参加することが、ゲームの面白さだと言えるのです。またゲームは、必ずクリアできるようにつくられています。主人公がレベル1で、いきなり敵のボスキャラと出会って、一撃でゲームオーバーとはなりません。それはレベルに合わせた難易度、つまり「達成可能な目標設定」をゲームデザイナーが用意しているからです。そうすることでプレーヤーに面白い、続けたいと思わせるように設計しています。三つめに挙げた「即時フィードバック」は、例えばゲーム内で何かがうまくいくと「Great!」とか「レベルアップした!」と、すぐに反応があることを指しています。そういう反応によって、ゲーム内での自分のレベルや状況がわかるからこそ、プレーヤーはがんばろうと思えるんです。四つめの「称賛演出」も、それと似ています。ゲームの中で主人公がステージをクリアしたり敵を倒したりすると、映像や音の演出で褒めてくれますよね。そういう要素が意図的に仕込まれているから、がんばってレベルを上げて次のステージに進もうと思えるし、面白いと感じることができるのです。ところでこれらの要素を、例えば教育に取り入れたなら、どうなると思いますか? 授業で発言した学生の答えに対して、「すごい! みんな拍手!」なんて称賛すると、学生はどう思うでしょう? 発言して良かった、次も発言しようと思いますよね。そうすると成長するし、勉強しようと思うようになる。こんなふうにゲームの手法を用いて、人をやる気にさせたり熱中させたりすることが、ゲーミフィケーションです。
 私を含め、ゲームをつくる人間は、こういうことをテクニックとして既に知っています。ただ、これまでは、その技術をエンターテインメントのゲームにだけ利用してきました。それを今度は、嫌だけどしなければならないことに活かして、面白がらせて取り組みやすくするとか、嫌だと思っていたけどゲームだからできたというふうに変えていこうというのがゲーミフィケーションなのです。私としては、これによって自分が長くいたゲーム業界のイメージがより良くなることを願っているし、今まで学んできたことをエンターテインメントだけでなく、人の役に立てられたらという思いがあって、研究をしています。

「グローバルマス」上で公開する学習ゲーム制作

■では、実際に取り組まれた研究例としては、どんなものがありますか?

 学外との連携プロジェクトで、かなり手ごたえのあったものがあります。ひとつは、数学的思考力を養うゲームの開発。これはベネッセコーポレーション(以下ベネッセ)と東京大学大学院情報学環が開発する数学学習ゲーム向けプラットフォーム「グローバルマス」でプレーできるコンテンツを開発するというプロジェクトで、2ヵ月という短期間に本学部の学生たちが4本のゲームを制作しました。参加したのは、この研究室の学生と他の研究室の学生、さらに1年生もいました。私は常に「参加したい人はどうぞ」というスタンスなので、授業でプロジェクトの募集をかけて、手を挙げた人は何年生でも参加させています。大事なことは「能動的参加」、要はやる気です。そうしてメンバーが集まったところで、学生たちに1つのアイデアをA4の紙一枚にまとめた企画書を出してもらいました。それらを机に並べて、みんなで吟味しながら、どの企画を進めるか決めていくのです。これはプロがゲームをつくるときの手法で、紙一枚の企画書をずらりと並べて、この企画とあの企画をくっつけたら面白いということをしていくんです。そんなふうにして企画を練り、学生にはベネッセでプレゼンテーションをしてもらいました。企業の人の前でプレゼンするという経験を学生はすごく喜んでいたし、ベネッセの方たちからも非常に評価が高かったです。また、このプロジェクトでは、ベネッセの方たちから学習ゲームのノウハウを教えていただけたことも大きな収穫でした。私たちはエンターテインメントのゲームをつくった経験はありましたが、学習ゲームの開発は初めてです。おかげで、かなりのノウハウを蓄積できましたね。このプロジェクトの成功により、今年は夏休みに小学生と一緒に学習ゲームの企画を考えるなど、ベネッセとの新たなプロジェクトが始動しています。

「てくてくはやぶさ」の発表及び展示

 それからもうひとつ、学外との連携で取り組んだプロジェクトに「JAXA OPEN API PROJECT」があります。これは小惑星探査機「はやぶさ」が収集したデータを用いて、対外的にJAXAのアピールにつながるようなコンテンツを開発しようというプロジェクトでした。「はやぶさ」が収集したデータには、地球を出発して小惑星イトカワに着陸するまでの軌道データやイトカワの形状データなど、色々あるのですが、結局それを利用するのは、ごく一部の限られた人なんですね。かといって「はやぶさ」の貴重なデータをパソコン内に眠らせていてはいけないだろうと、JAXA内で今回のプロジェクトが立ち上がり、本学部が参加することになったのです。このプロジェクトは、かなり大変でした。「データを使って、好きにつくってください」という自由なミッションだけに、当初、学生たちは何をつくればよいか、わからないと困惑していたんです。そういう中で進めていった結果、JAXAやプロジェクトに一緒に参加した電通の方に褒められたり、日本科学未来館での展示でコンテンツに触れた子供たちから喜ばれたりという経験をして、つまり「即時フィードバック」や「称賛」を得たことで、学生自身も手ごたえを感じたようです。また、このプロジェクトでは私の研究室だけでなく、同じゲーム系の三上浩司先生や渡辺大地先生の研究室や、インターフェースを専門とする太田高志先生やインターネットを扱う羽田久一先生の研究室も参加し、それぞれ違ったアプローチのコンテツを公開できた点もよかったです。研究室間や学部間でのコラボレーションは、メディアの研究には特に重要なことですからね。

■先生がゲーム業界から大学へと活躍の場を移された理由とは? また、教育者として心がけていることはありますか?

 自分でゲームをつくるより、教えた学生たちが将来、ゲームをつくったり別の形で何かをしたりする方が、もっとずっと大きな可能性を持っていると思うようになったからです。私がゲーム業界で培ってきたノウハウは、今さら役に立たない古いものではありますが、考え方や方法論として伝えることはできます。どんなふうに企画をつくっていくのかという方法やそれを試みる場、つまりチャンスは提供できるわけです。教員が学生に与えられるものって、結局、チャンスだけだと思うんです。知識は書籍やインターネットで調べれば得られます。それよりも、その知識を知恵にする機会を与えてあげること。というのも知識は、自分でそれを使って経験してみないことには、絶対に知恵にはならないからです。“知っている”のと“使える”のとでは、全然違いますからね。ゲーミフィケーションという考え方から言っても、基本となるのは、自分でゲームをつくった経験です。ゲームをつくって、人に面白いと思わせた経験。それがある人は、ゲームに限らず、面白いものがつくれます。ですから私たちが目指すゴールは、決してゲーム業界への就職や単なるゲーム制作ではありません。大学でゲームを研究して、面白いものをつくることができる力を身につけたなら、それをどう社会に役立てるかを考えようということです。面白い仕組みをつくれる人って、実は世の中にそんなにいません。だとしたら、その力を活かす場所は、ゲーム業界に限らないですよね。そのくらいゲームをつくる力は、社会に影響を与えられるものなのだということを知り、活かしてほしいのです。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 「グローバルマス」のプロジェクトで、学習ゲームのノウハウを得たこともあって、教育系の企業と組んで学習ゲームをつくりたいと思っています。私たちゲームをつくることができる人間がつくった学習ゲームはやっぱり面白いし、実際に子供たちの学力も伸びたと言われるようなものをつくりたいですね。また、高齢者施設でゲームの面白さを伝えるという試みもしてみたいです。本学には医療保健学部があるので、何か協力してできないかと思っています。それから普段、あまりゲームに関わっていない人に、ゲーミフィケーションを伝えていくということにも取り組みたいです。例えば、ゲームをする人にとっては、かなりの強敵であるお母さん方(笑)。「子供がゲームに夢中で困っている」「やめさせたい!」というお母さんは少なくないと思いますが、それはゲームとどう向き合うかという問題だと言えます。面白いからと朝から晩まで、ただゲームをしているだけではダメですが、「なぜゲームを面白いと感じるのか」を考えられるようになれば、ゲームデザイナーがゲームにどんな仕掛けをしているのかを知ることになりますから、仕掛ける側の人間、つまりプロになれるんですね。受け手ではなく、つくり手の視点に立つことで、学ぶことは多いはずです。そういう話をして、ゲームに対する正しい認識を持ってもらえるようにしていきたいですね。

・次回は8月7日に配信予定です。