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ライブ・エンタテインメントのリアルタイム配信が新しいビジネスになる可能性を実感しています!

2020年12月11日掲出

メディア学部 進藤美希 教授

メディア学部 進藤美希 教授

デジタルマーケティングの研究に取り組んでいる進藤先生。中でもエンタテインメントの映像配信に関しては、25 年と長きにわたって携わってきたそうです。今年はコロナ禍で図らずも躍進したオンライン環境ですが、授業やご研究にどのような影響があったのでしょうか。オンライン授業や最近のご研究についてお聞きしました。

■今年度、東京工科大学では新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン授業が取り入れられてきました。現在、メディア学部では、どのような形で授業が行われているのですか?

  授業の形態によって異なっていて、例えば「卒業研究」や1年生向けの「フレッシャーズゼミ」など、少人数で行うものは対面で実施することが多いです。逆に大教室に200人以上の学生を集めて行うような大規模な授業は、対面に加え、ハイブリッド、オンラインも併用して行っています。
  例えば、私の担当する授業に、ゲームやアニメなどのプロデューサーを目指す人に向けたコンテンツの広告やマーケティングを教える「コンテンツマーケティング論」があります。これは受講人数が230人と非常に多いので、現在はオンラインでの授業です。
  具体的には、あらかじめ40分程度の動画資料や講義資料を本学のe-ラーニングプラットフォーム「Moodle(ムードル)」に用意しておき、学生には前もってそれらに目を通してもらい、その後、リアルタイムでのオンライン授業に参加してもらいます。また、課題として資料で取り上げた内容に対する自身の考えを事前にまとめてもらい、オンライン授業中にチャットに書き込んでもらっています。実際にこの形で授業を行うと、驚くべきことに約10分の間に150件ほど書き込まれ、こちらが読み切れないくらい活発な状況になります。やはりTwitterやLINEを使いこなしている学生たちにとって、チャットでのやりとりは本当に手慣れた感じですね。何よりチャットに書き込まれる内容を読んでいると、学生が楽しそうなのが良いです。また、自分の好きなことに対する、企業側やマーケティング側の視点や考え方を新鮮に受け止めている印象も受けます。
  これまで大教室での授業では、学生に発言してもらう時間がそれほど持てず、苦慮していましたが、今回のチャット導入により、学生たちはしっかり自分の意見を持っていることがよくわかりました。中には私自身、気づきとなる良いコメントもあるので勉強になっています。

  これほど多数の意見が書き込まれる理由のひとつは、課題の出し方を工夫しているからでもあります。例えば、最近、取り上げたテーマは、「ワークマン」という作業服を扱う専門店のことでした。作業服から始まり、今では女性向けに「ワークマン女子」と呼ばれる店を出してブームを起こすなど、大人気の洋服店です。その資料を事前に見てもらい、なぜこれほど人気なのか自分の意見をまとめてくださいという課題を出しました。さらに今度は、人気マンガ『鬼滅の刃』を扱う予定で、マンガはもとより映画がなぜこれほどまで人気になったのかを考えるという課題を出しています。恐らく、これについて話をしたい学生がたくさんいるだろうと思うので、どんな意見が聞けるか期待しているところです。
  このように今、話題になっているものをテーマに設定しているので、学生も面白がってくれるようです。もちろん、単に好き・嫌いということではなく、マーケティングの手法としてプロモーション上、どういうところに良い点があったと思うかなど、マーケティング的なことに限定して答えてもらうようにしています。

  なぜこうした話題性のあるトピックスを取り上げているかというと、大学生もこの記事の読者である高校生も、社会人ではないため、企業で行われるマーケティングとの接点がほとんどないからです。ゲームや音楽といった身近にあるコンテンツを学ぶ場合とは異なり、マーケティングは社会人になって働いてからでないと実感できないところが多いのです。それをいかに自分ごととして捉えてもらうかということに苦労しています。ですから話題になっている身近なテーマを取り上げ、もし自分がその製品やコンテンツを売り出す、あるいはつくり出す企業側の広告担当、製品開発担当だったらどうするかということをイメージしてもらえればと工夫しているのです。

■では最近の先生のご研究についてお聞かせください。

  私の研究テーマは、大きく言うとデジタルマーケティングです。マーケティングとは、企業の仕事の仕組みを考えたり、サービスや商品の開発、広告などを扱ったりする、非常に幅広いものです。また、以前の取材ではインターネット広告の話をしましたが、そう呼んでいたものやインターネットマーケティングが、5年ほど前からデジタル広告やデジタルマーケティングと呼ばれるようになりました。というのもインターネットはサイバーワールドの話ですが、ここ5年でサイバーワールドに加えて、フィジカルワールド、つまり物理的社会がデジタル化され、そのデータが取れるようになったからです。IoT(Internet of Things)といって、身近なモノにセンサをつけることで、例えばその人がいつ、どういう形でそのモノを使っているかといったことが情報として取れるのです。そういうことが、今は容易に行えるようになりました。つまり物理的な世界もデータとして採用されるようになったので、サイバーワールドだけを扱うものではなくなったということで言葉の言い換えが起きたのです。またAI技術が発展し、物理的社会とサイバー社会から出てくるデータ(ビッグデータ)をAIで解析できるようになり、マーケティングで扱う範囲が広くなったということもあります。

  そういうデジタルマーケティングの研究のひとつとして、長年、手掛けてきたのがエンタテインメントの映像配信です。企業に勤めていた1994年からビデオオンデマンドやライブのストリーミングのビジネスに携わるとともに、研究も始めました。また、2001年には東京ドームのライブコンサートをインターネット配信しました。それだけ長く関わってきて、最近、ようやくそれがスムーズにできるようになったと感じています。
  また、この2020年のコロナ禍中、うれしい驚きとなったのが、コンサートのオンライン配信に対して、人はお金を払って視聴するとわかったことです。昔はインターネット配信にお金を払うという考えは薄く、無料が当然と思われていました。もちろん今でも無料配信が多いのは確かです。ところが今年6月、サザンオールスターズが無観客配信ライブを行い、3600円のチケット購入者が約18万人、購入者の家族などを含めた総視聴者数は推定約50万人にものぼったと話題になりました。今までコンサートに足を運んでいた人はもとより、チケットが買えずに諦めていた人がオンラインでリアルタイムにライブが観られるならとお金を支払ったのです。それは私にとって本当に感動的な出来事でした。

  同時に疑問に思ったのは、それならばリアルタイム配信でなく、DVDや録画のオンデマンド配信でも満足する人は多いのかということでした。そこで7月に調査を実施したのです。具体的には、①「演劇のリアルタイム配信」②「演劇のオンデマンド配信」③「映像劇のテレビ等への配信」と、異なる3つの視聴スタイルを9名の被験者に体験してもらい、その意見を聞きました。
  例えば、①のリアルタイム配信では、実際に劇場で行われているミュージカルをプロの撮影チームが撮影して中継していたため、完成度が高くてライブらしいハプニングがなく、録画されたDVDを観ているようだったという意見がありました。また、このリアルタイム配信では、観客とのコミュニケーションの場としてチャットが用意され、観客による投稿がリアルタイムで表示される仕組みになっていました。それを楽しんだ人もいた一方で、作品に没入するのに邪魔なので見なかったという人もいました。また、演劇の場合、観客には視点を選んで鑑賞する自由があります。編集や撮影を介在しないで、俳優と観客が直接対峙する、誰もその間に入らないという特性があるのです。ところがリアルタイム配信では、映像化するために何らかの編集(撮影側の意図)が入らざるを得ません。ですから「この俳優だけを見ていたいのに、なぜ切り替わるの?」という不満はあったかもしれませんね。それでも総じて「リアル感があった」「今、上演されているという気分が味わえた」「思った以上に楽しめた」という意見が多く集まり、ビジネスとして期待できることがわかりました。
  一方、②のオンデマンド配信は、臨場感がなく、見る価値をあまり感じなかったという意見が多かったです。また、③「映像劇のテレビ等への配信」は、映画版のミュージカルを観てもらいました。これは映画としての完成度が高いこと、演劇にはできないシーンの切り替えや子ども時代のエピソードを差し込むといったことができる分、ストーリーがわかりやすかったという意見が寄せられました。
  結果として、ひとつ明らかになったのは、ストリーミング(インターネットに接続して映像や音楽データを楽しむ再生方式)であっても現在進行形でライブが行われていることが重要だということです。つまりオンラインでの有料リアルタイム配信は、新しい収入源、または演劇など公演自体の魅力を失わない新たな製品として期待できるということです。ですから今後、コンサートや演劇が以前のように上演できるようになったとしても、オンライン中継は何らかの形で、ライブ・エンタテインメントを進化させる要素として続いてほしいと思っています。ただそれには、臨場感を出すための撮影技術の向上やさまざまな工夫が必要ではあります。

■学生作品例

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■今後の展望をお聞かせください。

  演劇などライブ・エンタテインメントのオンライン配信に関する研究は、引き続き調査を続けるつもりです。現状、劇場がとりあえず再開し始めたので、実際に観劇することや映画館で上映作品を観ることに対する調査を、社会の様子を見ながら少しずつ進めていけたらと考えています。また、現在もオンライン配信を行っている作品はあるので、今はそういうものを観て、学生と一緒に研究を続けたいですね。
  研究者としての大きな展望は、デジタルマーケティングの体系化を目指しています。マーケティング自体がそもそも100年程度の歴史しかなく、その中のデジタルマーケティングは10年ほどですから、まだ社会でも試行錯誤しながら、色々と試みられている段階です。研究分野としては新しいので、これから全体像を体系化し、学問的に教えることができる分野として確立させたいと思っています。

■最後に受験生・高校生にメッセージをお願いします。

  メディア学部は、ゲームやアニメなどコンテンツの研究で非常によく知られていますが、マーケティングや経営など社会に関わる研究も幅広く行っています。例えば、新しいサービスをつくりたいとか広告に興味がある、社会貢献に関心があるような人も、メディア学部は大歓迎ですので、ぜひ一緒に学んでいきましょう!

メディア学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/