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応用生物学部多田雄一教授らの研究チームは、植物の耐塩性メカニズムに重要な役割を果たすタンパク質を発見。低カリウム条件での農業などに応用の期待。

2018年10月18日掲出

佐藤拓己教授

 東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の多田雄一教授らの研究チーム(注1)は、強い耐塩性を有する「ソナレシバ」というイネ科の植物から、茎葉へのカリウムの輸送に重要な役割を果たすタンパク質を発見しました。
 本研究成果は、岡山大学資源植物科学研究所の且原真木教授、信州大学繊維学部)の堀江智明准教授らとの共同によるもので、植物科学専門誌「Plant Cell Physiology」(インパクトファクター 4.760))オンライン版に2018年10月16日に掲載されました(注2)。


【背景】
 土壌中の塩分集積は世界の農業生産性を低下させる重大な環境ストレスの一つで、作物の耐塩性を強化することは持続可能な農業のためにも不可欠です。このため、耐塩性機構の解明は学術的にも実用的にも重要な研究課題となっています。植物体内に高濃度のナトリウムが流入する塩ストレス条件では、生存に必須なカリウムが十分吸収できなくなりますが、耐塩性機構の一つとして茎や葉においてナトリウム含量を低くかつカリウム含量を高く保つ能力が明らかになっています。本研究グループは、日本を含む亜熱帯の海岸部に生育する野生のシバ「ソナレシバ」が、海水の3倍の塩濃度にも耐えられ、塩ストレス条件で茎葉のカリウム含量を高く保つ能力があることを確認しました。

【目的】
 カリウムとナトリウムの輸送には「カリウムトランスポーター」(注3)というタンパク質が重要な役割を果たすことが知られています。本研究では、ソナレシバが塩ストレス条件でもカリウム濃度を維持できる仕組みを探るために、そのカリウムトランスポーターの遺伝子を同定するとともに、それらの特性について調べました。

【成果】
 ソナレシバから2種のhigh-affinity K+ transporters (HKT)の遺伝子を単離して、植物細胞および酵母、アフリカツメガエル卵母細胞(注4)にそれぞれ導入し、カリウムとナトリウムの輸送活性や耐塩性に果たす役割について調べました。これまで報告されている植物のHKTは、酵母とアフリカツメガエル卵母細胞では輸送活性を示す一方、植物細胞ではカリウムイオンの輸送活性が確認されていませんでした。本研究では、ソナレシバのHKTが、酵母とアフリカツメガエル卵母細胞に加え、シロイヌナズナという植物細胞でもカリウムを吸収したり排出したりできることを世界で初めて確認しました。特に、ソナレシバのHKTを導入した植物は、低カリウム条件(0.1mM)でカリウムとナトリウムを根から茎葉に輸送する能力が高く(図1)、加えて通常の植物の根が成長できない0.1mMという低濃度のカリウム条件でも根の伸長を維持できることを確認しました(図2)。

ソナレシバのカリウムトランスポーターを導入した植物の茎葉のイオン含量(低カリウム条件)
(左) 図1:ソナレシバのカリムトランスポーターを導入した植物の茎葉のイオン含量(低カリウム条件)
同植物の低カリウム条件での生育
(右) 図2:同植物の低カリウム条件での生育


【社会的・学術的なポイント】
 本研究により、ソナレシバのHKTタイプのカリウムトランスポーターを導入した植物が、根から茎葉にカリウムを輸送する能力に優れていることが世界で初めて確認されました。このトランスポーターを利用することで、耐塩性植物の開発をはじめ、カリウム肥料の使用量を減らした環境にやさしい農業やカリウム肥料を利用できない農地での収穫量の向上などに応用できる可能性が示されました。

(注1)東京工科大学応用生物学部 多田雄一、川野(遠藤)千里、来須孝光(現・公立諏訪東京理科大学) 岡山大学資源植物科学研究所 且原真木、柴坂三根夫、中原由揮/信州大学繊維学部 堀江智明

(注2)論文名「High-affinity K+ transporters from a halophyte, Sporobolus virginicus, mediate both K+ and Na+ transport in transgenic Arabidopsis, X. laevis oocytes, and yeast」

(注3)カリウムトランスポーターは、ナトリウムのみを輸送するタイプとナトリウムとカリウムの両方を輸送するタイプがあります。

(注4)アフリカツメガエル卵母細胞は、タンパク質の発現に適しており、細胞も大きく扱いやすいため、膜タンパク質の機能を調べる実験の材料としてよく利用されています。

■東京工科大学応用生物学部 植物工学(多田雄一)研究室
耐塩性植物であるソナレシバやマングローブの耐塩性機構を解明する研究を行なっています。その他に乾燥に強いヤトロファ(ジャトロファ)の耐乾燥性遺伝子の同定、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドを浄化する能力の強化、シシトウが辛くなる原因の探索などの植物バイオテクノロジーに関する幅広い研究を行なっています。
[主な研究テーマ]
1.植物の耐塩性に関する研究
2.植物の耐乾性に関する研究
3.ホルムアルデヒド浄化植物の研究
4.シシトウのカプサイシン生合成に関する研究
5.ストレス耐性強化剤に関する研究
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=14

【研究内容に関しての報道機関からのお問い合わせ先】
■東京工科大学 応用生物学部 教授 多田雄一
Tel 042-637-5346(研究室直通)
E-mail tadayui(at)stf.teu.ac.jp
※atをアットマークに置き換えてください。