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ビタミンCと過酸化⽔素ががん細胞を除去 低濃度ビタミンCの新たな機能を発⾒

2019年12月6日掲出

佐藤拓己教授

 東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の佐藤拓己教授らの研究チームは、血中の低濃度ビタミンC(以下、VC)による、がん細胞の除去に関する新たな知見を発見しました。本研究成果は、米国の薬理学専門誌「Reactive Oxygen Species (ROS)」オンライン版に2019年12月5日に掲載されました(注1)。


【背景】
 VCは、特に高濃度でがん細胞に強い毒性があることが多数報告されています。数十グラム以上の還元型VCを血液に直接投入できる「高濃度ビタミンC点滴」(注2)や「過酸化水素点滴」(注3)は、外科手術や放射線療法、化学療法などの補助として用いられており、がん転移を抑制する可能性が示唆されています。一方、血中におけるVCの生理的な濃度は70μM(マイクロモル)付近に制御されており、このような低濃度のVCが、がん細胞に対してどのような作用を有するのかについては、明らかになっていません(図1)。

【目的】
 本研究は、生理的な濃度のVCにおけるがん細胞に対する毒性作用の有無を明らかにすることを目的としました。血中における生理的濃度のVCが、がん細胞との接着によって活性化された血管内皮(注4)から放出された過酸化水素(HO)または一酸化窒素(NO)との共同でがん細胞を除去している可能性が示唆されることから、細胞レベルでの検証を行いました。

図1:研究の出発点
       図1:研究の出発点

【成果】
 HOまたはNOは、特にがん細胞に対して強い毒性効果があります。研究チームは、検証実験を通じて、生理的な濃度のVCがHOまたはNOによる細胞死を有意に促進することを確認しました(図2)。一方、VCの酸化型では細胞死の促進は見られませんでした(図3)。蛍光色素などで細胞内の活性酸素種や活性窒素種を定量すると、VCはこれらのラジカルのレベルを有意に低下させました(図4)。これらにより、1)VCは酸化ストレスによる細胞死を促進すること 2)VCの還元力が細胞死の促進に関与することが確認されました。


図2:生理的濃度のVCは細胞死を促進
図2:生理的濃度のVCは細胞死を促進
図3:酸化型VCは細胞死を促進しない
図3:酸化型VCは細胞死を促進しない


【社会的・学術的なポイント】
 がん細胞は、血管内皮に強く接着して血管外に移動することで転移巣を形成します。この過程において、がん細胞が血管内皮細胞を活性化し、HOやNOを産生する種々の酵素群を誘導することがわかっています(図5)。HOやNOは単独でもガン細胞に対して通常細胞よりも強い毒性があることが示されています。今回の研究により、血中に存在する生理的濃度(70μM程度)のVCは、がん細胞に対して毒性を示すHOやNOのラジカル産生を抑制するにもかかわらず、HOやNO単独の場合よりも強くがん細胞を死滅させることを明らかにしました。このことから、生理的な濃度のVCは、HOやNOと共存すると、効率的にがん細胞を除去できると考えられます。

図4:生理的濃度のVCはラジカル産生を抑制
図4:生理的濃度のVCはラジカル産生を抑制
図5:VCとH2O2/NOががん細胞を除去する機序(考察)
図5:VCとHO/NOががん細胞を除去する機序(考察)


【用語解説】

  • (注1)論文名「Physiological concentrations of ascorbic acid potentiate cell death by hydrogen peroxide and nitric oxide of non-attached cancer cell lines for the possible clearance of cancer cells from the microcirculation」
    研究チーム:村山嘉美、柏櫓涼子、酒井美咲、佐々木伊吹、吉田夕樹、比留間廉、金井宙也(いずれも応用生物学部4年生)
  • (注2) 食品としてVCを摂取した場合、腸管を介した吸収は数グラムが限界ですが、「高濃度ビタミンC点滴」では、数十グラム以上の還元型のVCを血液に直接投入することができる
  • (注3)特に細胞のエネルギー代謝に関与する大きさ約1ミクロンの細胞内小器官。20億年前に細胞内に共生を始めたことが起源とされ、細胞の誕生・成長・老化・死に決定的な役割をもつ。
  • (注4)点滴用のHOをブドウ糖液に混注し、プロトコールに従って末梢静脈から点滴投与する治療法
  • (注5)血管の内腔側にある一層の細胞群。血管の生理機能に重要な役割を持ち、がん細胞の接着刺激によって HOやNOを放出する


■東京工科大学応用生物学部 アンチエイジングフード(佐藤拓己)研究室
ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。ミトコンドリアが活発に働く状態であれば、細胞も活き活きとして、アンチエイジング効果やガンの予防にも効果があると考えられます。私たちの研究テーマは、ミトコンドリアを活性化させる有機酸やビタミンCの細胞レベルでの機能を解き明かすことです。ミトコンドリアから発生する活性酸素などの指標に注目して研究を進めています。また脂肪由来の有機酸であるケトン体にも注目しています。ケトン体は特異的な受容体を有するため、特別な生理機能を有しています。特にケトン体のアンチエイジング効果に注目しています。
[主な研究テーマ]
1.有機酸によるミトコンドリアの保護効果
2.ビタミンCによるガン細胞の消去
3.ケトン体のアンチエイジング効果 https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=34

【研究内容に関しての報道機関からのお問い合わせ先】
■東京工科大学 応用生物学部 教授 佐藤拓己