―公共空間の雑音下でも必要な情報が誰にでも届く社会へ―非常用放送設備のアナウンスを補聴器や人工内耳へ直接配信 補聴支援システム実証実験を実施
東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川豊)では、公共空間等の音響機器を開発するTOA株式会社(本社:兵庫県神戸市、代表取締役社長:谷口方啓)と連携し、Auracast™(注1)とWi-Fiを活用した補聴支援システムで非常用放送設備のアナウンスを補聴器や人工内耳デバイスへ直接配信する国内初の実証実験を実施いたします。なお、本実証実験は、関係者向けとして実施予定のものです。
12月13日(土)に同社の開発拠点「ナレッジスクエア」(兵庫県宝塚市)にて行われる実験では、聴覚障害や難聴をお持ちの方(20名程度予定)に参加いただき、本システムの実用性・有効性を検証します。同施設の非常用放送設備を使い、公共施設などの館内注意喚起放送、電車や空港等交通機関の運行案内、避難誘導などのアナウンスを想定した実験を行います。また、株式会社アイシン(愛知県刈谷市)の協力により、リアルタイム音声認識アプリとして実績のある「YYSystem(ワイワイシステム)」を本システムと連携した字幕表示機能も実装。スマートフォン等での表示に加え、画面を見ずに情報アクセスできる「スマートグラス」による検証も行います。
■すべての人に必要な「声」を届ける「Voices for All」プロジェクト
私たちの⽣活空間には、鉄道・空港・バス・スタジアム・ホール・学校・病院など⾳声アナウンスによる情報伝達が不可⽋な場⾯が数多く存在します。聴覚や⾔語障害者は約38万人(2024年厚生労働省調べ)、難聴を⾃覚している方は約3,400万人(2016年総務省調べ)とされており、⾳声情報が届きにくい状況が⽇常⽣活や社会参加に⼤きな影響を与えています。
本プロジェクトは、本学メディア学部の吉岡英樹講師(聴覚障害支援メディア研究室)が、こうした公共空間で誰もがアナウンスや情報にアクセスすることができる補聴支援システムの社会実装を目指し取り組んでいるものです。イスラエルBettear社が開発し欧米を中心に60カ国以上で販売(注2)されている最新の補聴技術をベースに、Auracast™とWi-Fiのハイブリッド方式にすることで、現在普及しているほとんどの補聴器や人工内耳、ヘッドフォン等に対応する音声配信システムを構築。従来方式のような専用受信機を必要とせず受信範囲が広いため(注3)、これまで難しかった公共空間でも導入が可能となります。今年の夏から、医療関係者や聴覚障害当事者団体、補聴器や音響機器メーカーなどの協力のもと、全国各地で体験会や試験運用を実施(注4)しています。
■今後期待される効果
今回の取り組みは、各業界において実績のある企業と連携したもので、本システムの国内での社会実装に向けて実用を想定した検証成果が得られることが期待されます。騒音や反響の影響に関わらず重要な音声情報を確実に聴取可能とし、聴覚に障害を持つ方や難聴の方も安心してアクセス・利用できる環境整備、情報のバリアフリー向上へと貢献します。
(注1)Auracast™はBluetoothの新規格であり、高音質・低遅延の補聴器技術としても普及が期待されています。個別ペアリングも不要のため公共空間での利用にも適しています。
(注2)国内における輸入・設置は有限会社アイアシステム(東京都江戸川区)が手掛けています。
(注3)赤外線やFM方式などの技術がありますが、専用機器の必要性や設置コスト、受信範囲などの課題がありました。本システムでは最大100メートルの受信範囲、1対多数の音声配信にも対応し公共空間での利用にも適しています。
(注4)これまでの主な取り組み:(一社)Bridge Heart(大阪市)でのデモンストレーション(2025年8月)/社会福祉法人相模原市社会福祉事業団主催イベント体験会(同9月)/オーティコン主催「みみともコンサート2025」試験運用(同10月)/科学技術振興機構主催「サイエンスアゴラ2025」体験会(同10月)/東京都主催「スポーツFUN PARK」(デフリンピック同時開催)体験会(同11月)/(一社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 全国大会(北海道函館市)説明デモ(同11月)

(8月30日、大阪市)
■TOA(ティーオーエー)株式会社について
非常用放送設備で国内最大シェアを誇る音響機器メーカーです。全国の駅や空港をはじめ、多くの公共空間に放送設備が採用されており、高い安全性と豊富な運用実績を有しています。大阪・関西万博においても放送設備を提供し、必要な情報を必要なタイミングで確実に届けるソリューションを提供しました。
(ホームページ https://www.toa.co.jp/)
■東京⼯科⼤学 メディア学部 吉岡(聴覚障害⽀援メディア)研究室
新しいテクノロジーを活⽤したり、コンテンツの表現を⼯夫したりすることにより、聴覚障害者の⽅々が少しでも暮らしやすい環境づくりを⽬指した研究をしています。新⽣児の約1,000⼈に1⼈から2⼈が聴覚障害を持つとされていますが、早期に発⾒して適切な⽀援をすることでコミュニケーションの形成や⾔語発達の⾯で⼤きな効果があります。本研究室では聴覚障害児が苦⼿としている分野の⾔語教育等に活⽤できるデジタル教材の研究開発を⾏なっています。
2022年には、難聴児の療育向けアプリ「Vocagraphy!」が、科学技術振興機構(JST)が主宰する「STI for SDGs」アワード優秀賞を受賞。
(研究室ホームページ) https://yoshioka-lab.org
■メディア学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/index.html
