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持続可能な社会を実現するためのアイデアやビジネス、仕組みなど生み出すソーシャル・デザイナーを目指そう!

2017年11月10日掲出

メディア学部 飯沼 瑞穂 准教授

飯沼 瑞穂 准教授

国際社会における教育や開発の研究に取り組む飯沼先生。今年9月には、一般社団法人日本MOT振興協会「ソーシャル・デザイン委員会」の設立に携わり、その第一回会合でソーシャル・デザインに関する講演をされました。今回は、そこで話された内容について伺います。

■今回の講演では、どのようなことを話されたのでしょうか?


ソーシャル・デザイン 大学基礎教育

 「ソーシャル・デザインの現状と将来について」というテーマで、ソーシャル・デザインの定義や歴史的な変遷、成功例、また本学のメディア学部で取り組んでいる授業についてお話しさせていただきました。
 まず、ソーシャル・デザインとは何かということから説明したいと思います。今、日本を含む世界では、“持続可能な社会”の実現が非常に重要になってきています。“持続可能な社会”とは、「持続可能な開発が行われ、持続可能性を持った社会」のことで、持続可能な開発とは、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」のことを言います。そういう社会の実現に向けた新しいアイデアやプロセス、新しいビジネス、それに伴って生まれてくる社会システムをデザインすることが、ソーシャル・デザインです。
 デザインと聞くと、グラフィックやファッションなどを思い浮かべる方も多いと思います。もちろんデザインの定義にはいくつかあるのですが、広い意味では「問題を、調和をもって解決することである」とデザイナーであり教育者だったヴィクター・パパネックは言っています。デザイナーの本質的な仕事は、課題や問題に対して最も調和のとれた最適解を考えることだと言うのです。その考えを私たちはさらに広げて、アイデアや過程、ビジネス、社会のシステムをデザインするという捉え方で、ソーシャル・デザインの研究を進めています。

■ソーシャル・デザインの例としては、どのようなものがありますか?

 例えば、フェアトレードがあります。これは発展途上国の農産物などを、適正な価格で継続的に輸入・消費する取り組みのことで、1996年には国際フェアトレードラベル機構によるフェアトレード認証が始まりました。児童労働をしておらず、公正な価格で取引されたフェアトレード商品であると認証されたものに認証シールを貼り、消費者はそれを買うことでフェアトレードに協力できるというものです。ただ、この取り組みは、当初、なかなか広まりませんでした。そこで2001年に、イギリスのガースタン市の住民が市民活動の一環として、ガースタンの街全体をフェアトレード・タウンとして認証してほしいと申請し、実現しました。その街にはフェアトレード商品を扱っているお店がたくさんあり、小学校ではフェアトレードに関する教育をし、文化祭でフェアトレードのコーヒーを売るというように、街を挙げてのフェアトレード運動が始まったのです。それが数年後にはグローバルな展開をみせ、今では世界23ヵ国1979都市のフェアトレード・タウンが存在しています。ちなみに日本では、熊本市、名古屋市、逗子市がフェアトレード・タウンとして認められています。
 こうした動きと並行して、2003年にはイギリスのオックスフォード大学が世界初のフェアトレード大学に認定されました。学内の売店で販売するものをフェアトレード商品にするほか、大学祭では必ずフェアトレード商品を売るといった取り組みがなされています。現在ではイギリス国内の170の大学がフェアトレード大学となり、ドイツなどにも広がりつつあります。しかし残念なことに、日本にはまだフェアトレード大学がありません。ですから本学がフェアトレード大学を目指したいと思っています。


国際教育開発プロジェクト 2016年 紅華祭でフェアトレードコーヒーを販売!

■では、メディア学部での取り組みについて、お聞かせください。

 メディア学部にはメディアコンテンツ、メディア技術、メディア社会の3つのコースがあるのですが、そのうちメディア社会コースの中で持続可能な社会の実現に向けた方法論を学ぶことができるようにと、ここ数年、千代倉弘明先生と一緒に「ソーシャル・デザイン科目群」というものをデザインしてきました。
 例えば、2年生の基礎演習では、デザイン思考(デザイナーがデザインする過程で行う考え方や行動)を学びながら社会問題を捉え、その解決に向けたアイデアを考え出すということを少人数のグループワークやICTを使った演習で学んでいます。他にも千代倉先生が担当されている3年生の「ソーシャル・コンテンツ・デザイン」では、世界遺産を広く知ってもらうための教育コンテンツなど、社会貢献のためのコンテンツ制作に取り組んでいます。また、私が担当している「グローバル・メディア論」では、今、私たちが直面している持続可能な社会に向けた課題には、どんなものがあるかといったことや、メディアが持続可能な社会の実現に向けて、どのような貢献ができるかについて考えいます。それから3年生の後期には、社会問題をビジネスで解決する“社会起業家”としてビジネスプランを考える「ソーシャル アントレプレナーシップ」という科目もあります。
 このようにメディア学部には他大学に類を見ないほど、ソーシャル・デザインに関連するカリキュラムが整っています。その中でデザイン思考を学び、社会が抱える多様な課題を知り、それらをどう解決していくかを考えるというテーマで教育を進めています。

■ソーシャル・デザインの考え方は、従来のものとどう違うのでしょうか?

 これまで社会問題を解決するというと、問題を排除する考え方でアプローチされていました。そのため、問題にばかりに目を向けて分析に分析を重ね、結局、よいアイデアは生まれてきませんでした。そこで問題を排除するのではなく、問題を理解すると同時に、新しい社会をポジティブなイメージでつくりあげ、新しい仕組みや新しい方法論を探っていこうというソーシャル・デザインが必要とされているわけです。
 また、環境保全や貧困問題、エネルギー問題など、グローバルな課題はどんどん複雑化しているため、今はひとつの問題を解決するのに、企業・国・非営利団体・大学・個人の力の連携が不可欠だと言われています。それができる人材を育てるには、大学教育も変わらなければなりません。そのひとつの答えとして、グローバルな課題に対する認知度を高め、行動力をつけ、自分で問題解決するためにツールとしてデザイン思考を学ぶいうことをメディア学部では行っています。それにより、いずれ社会に変革をもたらす“ソーシャル・デザイナー”が本学から生まれるかもしれません。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 メディア学部には、ソーシャル・デザインの力を養うために用意された科目群が整っていますから、若いエネルギーであふれる皆さん一人ひとりが、次の新しい社会をつくる“ソーシャル・デザイナー”を目指すことができます。また将来、今はまだないこの新しい職種“ソーシャル・デザイナー”を卒業後の目標として語ってもらえるようになれば、うれしいですね。

■メディア学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/index.html

・次回は12月8日に配信予定です。