大学の学びはこんなに面白い

大学の学びはこんなに面白い

研究・教育紹介

東京工科大学 HOME> 大学の学びはこんなに面白い> 腸内や皮膚にいる微生物に着目した食品開発やスキンケア研究に取り組んでいます

腸内や皮膚にいる微生物に着目した食品開発やスキンケア研究に取り組んでいます

2019年7月8日掲出

応用生物学部 野嶽 勇一教授

野嶽 勇一

 応用生物学部は、2020年度から「生命科学・医薬品専攻」と「食品・化粧品専攻」の2専攻体制になります。今回は、その中の「食品・化粧品専攻」を代表するような研究を手がけている野嶽勇一先生にお話を伺いました。

■先生の研究室では、どのようなことに取り組んでいるのですか?

 私の研究室では、「身体に生息する微生物との関わり」に着目した研究に取り組んでいます。研究の柱は大きく3つあって、ひとつが食品関係の研究、2つ目がスキンケア研究、3つ目が食品とスキンケアの中間に位置する「インナービューティー」に関わる研究です。
 まず、食品関係の研究ですが、もともとはヒトの腸内にいる細菌のうち、腸内環境を整えてくれる細菌(善玉菌)の割合を高くする食品の研究から始まりました。具体的には、豆乳を乳酸菌で発酵させた「豆乳の乳酸菌生産物質」を摂取すると、腸内の善玉菌が増えて悪玉菌が減るのですが、腸内環境の改善が腸以外の健康増進にもつながるということを明らかにしたのです。この「豆乳の乳酸菌生産物質」は企業との共同研究で、すでに商品化されています。また、沖縄の泡盛の醸造会社との共同研究から製品化に至った「美らBio」というジュースは、2018年のジャパンメイド・ビューティアワード最優秀賞を受賞しています。これは、乳酸菌の発酵パワーでもろみ酢をまろやかにして飲みやすくしたものです。
 現在は、豆乳の乳酸菌生産物質や美らBio、もろみ酢以外にも、食用生薬といってハーブティーのようなものについても研究を進めています。食用生薬を摂取すると、腸内環境が改善されるのか、その結果、免疫が活性化したり皮膚の状態が良くなったり、場合によってはがん細胞や肝機能に対しても影響を及ぼす可能性があるのか、ということを明らかにするための研究に学生たちが取り組んでいます。
 それから、新しい機能を持った乳酸菌サプリメントの開発も始めています。美容やダイエットなどに対して良い影響を与える優れた乳酸菌を探し出し、サプリメントにできないかと試行錯誤しているところです。また、その土地や場所で得た乳酸菌を活用して、その地域ならではの食品も開発したいですね。例えば、キャンパスのある八王子市の高尾山から採取してきた乳酸菌が良い機能を持っていることを明らかにできたら、それを使って八王子市の特産食材を発酵させて、八王子市ならではの新しいスイーツや乳酸菌発酵食品がつくれるのではないかと。そういう小さな開発研究を学生が卒業研究で体験できると、本学の掲げる実学主義にも合致して良いのではないかと思っています。
 2つ目の柱であるスキンケアの研究では、「美肌菌戻し法」というスキンケア方法を開発し、企業と共同で世界初の美肌菌基礎化粧品をつくりました。皮膚には腸内と同様に、微生物が生息していることが昔から知られていて、ここ10年ほどで急激に注目されるようになりました。皮膚における善玉菌は表皮ブドウ球菌という細菌で、「美肌菌」とも呼ばれています。美肌菌は保湿成分をつくり出すだけでなく、肌荒れ菌と呼ばれる黄色ブドウ球菌を退治してくれるはたらきがあるので、健やかな肌づくりに貢献してくれます。
 そこで私たちは、被験者の額から微生物を採取して、その中から美肌菌のみを拾い上げて増やし、パウダー状の化粧品に加工しました。これを化粧水に混和させて自分の肌に塗布すると、自分の皮膚から採った美肌菌を戻すことになるので、美肌菌の数を一気に増やすことができます。この「美肌菌戻し法」はすでに臨床試験を終えていて、保湿が高まることと、皮膚が美肌菌の大好きな弱酸性に保たれるという結果を得ています。今後、私はこれをアトピー性皮膚炎の新しい治療法として応用していきたいと考えていて、今はその研究を始める準備をしているところです。
 3つ目の柱である「インナービューティー」の研究は、先述したように食品とスキンケアの両方に関わる研究です。「インナービューティー」とは、身体の内側からきれいになるという美容の考え方です。発酵食品などを食べて腸内細菌の状態を良くすることで、悪玉菌の数が減り、悪玉菌がつくる有害物質の血中濃度が下がります。すると新陳代謝の盛んな皮膚が好影響を受けるようになり、化粧のノリが良くなるなど、実感を得ることができるのです。
 この「インナービューティー」が、体内だけでなく皮膚の美肌菌にも何か良い影響を及ぼしているということを明らかにできれば、世紀の大発見につながるだろうと可能性を感じています。身体の内側の状態が改善されることで肌質も整ってきますが、表皮の微生物の状態にまでその影響が及ぶのかどうかは、まだわかりません。ですから、研究としてどのようにアプローチすれば良いのか慎重に考えているところです。

■先生が身体に生息する微生物に興味を持ったきっかけは何だったのですか? 

 自分が学生や若手研究員のときは、分野の異なる研究に取り組んでいました。化学的手法や遺伝子操作によってタンパク質の性質を変えたり、X線を用いてタンパク質の写真を撮ったりしていたのです。あるとき、食品メーカーから乳酸菌の発酵食品の性質を大学で調べてほしいという依頼があって。実験用とは別に試供品をいただいたので、1週間、自分でもサンプルを食べてみたのです。そうすると、もともとあまり良くなかったお腹の調子が良くなって。乳酸菌はすごいなと実感して、研究してみたいと思ったのがきっかけです。
 多くの乳酸菌や乳酸菌発酵食品が何かしらの健康機能性を持っていますが、その機能はひとつとは限らず、複数にわたるものもあります。そこが乳酸菌の面白いところですね。薬の場合は、肝臓だけ、心臓だけ、とターゲットが絞られますが、乳酸菌や乳酸菌発酵食品は穏やかに、広く、健康に貢献することが期待できるところに魅力を感じます。
 皮膚に生息する微生物の研究を始めたのは、5年ほど前になります。腸内細菌を研究しているなかで、皮膚にも微生物が似た感じで存在しているとわかっていたので、そちらにも興味を持ちました。また、皮膚は体外なので微生物を採取しやすいうえ、腸より種類が少ないので研究しやすいということもありますね。

■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 幅広く、色々なことに関心を持って、自分のできることに精一杯取り組めば、その先にもっと面白いものが見えてくると思います。ですから、今、目の前にある勉強を一生懸命してほしいと思います。
 また、これは研究室の学生にも言っていることなのですが、「なぜ?」という疑問をできるだけたくさん感じてほしいと思っています。なぜこの化粧品を使っているのか、どうしてこういう食品を摂取すると身体に良いのかなど、日常生活では「なぜ?」と思うことによく出会うと思います。そういう日々の疑問や気づきを大事にしてほしいですね。

・次回は7月26日に配信予定です