コンピュータサイエンス学部が取り組む社会的価値を追究する研究や教育は、SDGs達成にもつながっています
コンピュータサイエンス学部 亀田 弘之 教授
東京工科大学では、2015年に国連が採択した17のゴール、169のターゲットから成る持続可能な開発目標「SDGs(エス・ディ・ジーズ)」を意識した教育や研究を推進しています。今回はコンピュータサイエンス学部での取り組みについて亀田先生にお聞きしました。
■コンピュータサイエンス学部(以下CS学部)では、SDGsをどのように捉えて、研究や教育と結び付けているのですか?
本学は「実学主義」を掲げていますから、CS学部としては何がそれにあたるのかを考えつつ、研究や教育を進めてきました。結論から言えば、私たちCS学部は、最先端の技術を研究・教育するだけでなく、その技術が何の役に立つのかという「価値創造」を重視しています。「こんなことができて、技術的にすごい」ではなく、「こんなことができて、色々な人に喜ばれている」ということが大事だと考えるわけです。ですからCS学部は単に技術を追究するのではなく、その社会的価値を追究するということをベースに研究・教育活動をしていると言えます。そういう意味では、SDGsが掲げる目標につながるものがあります。ですから、先生方それぞれの得意分野における研究が、SDGs の目標のどこに活かせるかということを考えながら研究を進め、貢献できるところは貢献していこうという状況です。
■SDGsの目標に合致している取り組みには、どのようなものがありますか?
例えば、eラーニングの研究があります。世界中で教育を受けられない子供はたくさんいますから、オンラインで教育を受けられるようにするということを少しずつ進めているところです。CS学部としては、本学部の先生が無料で学べるオンラインの大学講座JMOOCに講義を公開していますし、今後もコンテンツを提供していきます。オンラインでの教育を、JMOOCを通じて日本人向けに発信することで得られた経験をもとに、国内はもとより国外の方にも、色々な教育コンテンツを提供できればということで、今、取り組んでいます。これらはSDGs目標のNO.1「貧困をなくそう」やNO.4「質の高い教育をみんなに」、NO.10「人や国の不平等をなくそう」に当てはまりますね。
また、CS学部では急速にマーケットが拡大し、あちこちで取り入れられ始めているIoT(Internet of Things)の教育として「実践的IoTのPBL教育プログラム」という授業を昨年から実施しています。このプロジェクトでは、IoTアプリケーションの開発を通じて、IoTの基本的な技術や知識を身に付けてもらい、価値あるものを学生に企画・制作してもらうということをしています。学生のアイデアは、まだ社会的価値というレベルにまで到達するものではないので、現状、自分たちの身近なところで役立つものということで色々と考えてもらっています。例えばキャンパス内のゴミ箱は、場所によって満タンだったり空っぽだったりするので、それをセンサで自動的に検知して、ゴミがいっぱいになったら、自動的にゴミ箱が移動して、それが集まったところで清掃員の方に捨ててもらうというようなアイデアがあります。あとは空いている教室が一目でわかり、その教室にちゃんと空調が効いているかどうかということまでリアルタイムでわかるアプリや学生の出欠が自動的にわかるシステムをつくるという提案がなされていましたね。
将来的には、大学自体をIoTでつなげてスマートキャンパス化し、この授業は大学に行って学ぶけれど、これは自宅で学ぶというようなことができるようにして、そのサービスを学生だけでなく一般の方も享受できるように持っていけたらと思っています。こうしたIoT関連の取り組みは、SDGs目標のNO.9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に通じていると思います。
■では先生の研究室で、SDGsの目標に沿うような研究はありますか?
認知リハビリテーション用ゲーム
私の研究室の取り組みとしては、例えば認知リハビリテーション用ゲームの研究開発がSDGs目標のNO.3「すべての人に健康と福祉を」やNO.17「パートナーシップで目標を達成しよう」に当てはまるのではないかと思います。具体的には、統合失調症の患者さんを対象に、日常生活や社会生活に関わる認知機能のリハビリテーションができるゲームソフト「Jcores(ジェイコアーズ)」の開発に、10年ほど前から取り組んできました。これは統合失調症の患者さんの就労支援プログラムに採用されているものです。
内容は非常に簡単なもので、もぐらたたきゲームやお買い物ゲームといったゲーム集です。例えば、ベルトコンベアに流れてくるものの中から特定のものを取り出すという課題のゲーム。ちょっと似たようなものも流れてくるので、画像を認識して、判断して取らないといけないようにできています。またお買い物ゲームにでは、魚を買ってくるという課題があって、お店に入ると「何時からこんなセールがあります」と全く違う情報がポンと入ってくるようにして、被験者がそれによって課題を覚えていられるかということも確認します。もし忘れてしまうようなら、課題を事前にメモしておくというように、その人なりの対応を身に付けてもらうことが目的です。
最初の頃、この研究は私の研究室の学生数名でプログラミングをしていたのですが、なかなか進まないということがあって、日本工学院八王子専門学校の先生や学生にも手伝ってもらいながら進めてきました。また、私たちはソフトウェアをつくる立場で参加しましたが、何をつくるかということに関しては、医師のグループが考えて進めてきましたし、プロジェクト自体のマネジメントは、本学の卒業生が働く企業に入っていただいています。そういう点でSDGs目標のNO.17「パートナーシップで目標を達成しよう」にも該当すると言えるわけです。
「Jcores」に関しては、 5年ほど前に最初のバージョンがリリースされ、現在は医師たちを中心に、日本中に普及する活動が進められていますし、この方法が有効かどうかのデータを集めた検証もされているところです。私たち開発側としては、今後、タブレット端末でも使えるバージョンの開発を進めていくことと、将来的には世界での展開も視野に入れて進めています。
また、まだ始めたばかりで成果は得られていませんが、2018年の秋からスマート農業の研究にも着手しています。水耕栽培の装置を買って、温度管理や光の管理をICTで行いながら、イチゴを育ててみようという取り組みです。農業に関しては、地球温暖化や砂漠化が進んでいたり、農地が減っていたりという問題がありますから、食料を工業製品のように管理してつくれるようになることがひとつの大事なテーマだと思っています。
まだ結果は何も得られていませんが、将来的には、キャンパスのある八王子市内の農家の方たちと一緒に、何かできればと考えているところです。これは、SDGs目標のNO.2「飢餓をゼロに」に関わる研究だと思いますね。
■最後に受験生・高校生へメッセージをお願いします。
「三日会わざれば刮目して見よ」という故事があります。三日という短い時間でも積み重ねることで成長できるという意味ですが、その精神で、日々をおろそかにすることなく、受験勉強をがんばってください。良い人生は、日々の努力の積み重ねの結果として得られるものですからね。
■コンピュータサイエンス部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html
・次回は2月8日に配信予定です