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センサなどもクラウド資源として使用できる、クラウドとIoTの統合システム管理に関する基盤技術を研究中

2021年12月17日掲出

コンピュータサイエンス学部 先進情報専攻 串田高幸 教授

コンピュータサイエンス学部 先進情報専攻 串田高幸 教授

10代半ばにコンピュータと出合い、大きな衝撃を受けたという串田先生。大学ではコンピュータのソフトウェアとハードウェアの基礎を中心に学び、その後、世界的なコンピュータメーカーの基礎研究所で分散システムやクラウドコンピューティングの研究に従事されました。本学では「クラウド・分散システム研究室」を率い、クラウドとIoTの統合に関する研究に取り組んでいます。今回はその詳細についてお聞きしました。

■先生はどのようなご研究をされているのですか?

 簡単に言うと、政府が打ち出している“Society5.0”の実現に必要となる大幅な技術革新のうち、特にそのIT基盤技術となるクラウドコンピューティング(以下、クラウド)とIoT(Internet of Things)の統合に焦点した研究に取り組んでいます。“Society5.0”とは、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステム(CPS:サイバーフィジカルシステム)によって実現する超スマート社会のことです。いわゆる物理的なリアル空間と、仮想的なサイバー空間、つまりインターネットで繋がれたクラウドのようなところとが、相互に繋がって色々なことを実現するというものです。
 クラウドについては、既に各社がサービスを提供していますが、特にAmazonのAWS、MicrosoftのAzure、GoogleのGoogle Cloud Platformの3つが、世界のマーケットシェアの多くを占めています。また、基本的にクラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)は、コンピュータの資源と言われているCPU、メモリ、ストレージ(記憶装置)に加えてネットワークをユーザーに提供するサービスです。そこにソフトウェアを載せて、現在もビジネスで使われています。
 ではIoTとは何かと言うと、モノのインターネットのことです。今まではコンピュータやネットワーク機器などがインターネットで繋がっていたわけですが、そうではなく、物理的な実体のあるモノがインターネットで繋がり、通信するのがIoTです。具体的に言えば、モノにセンサやアクチュエータ(モーターやエンジンなど動力の元になるもの)が付いていて、例えばドアに付けられたセンサが「今、ドアが開いた」とか「人が通った」といった情報をインターネット経由で送信したり、逆に信号や情報を受信したりと、相互に接続されていることを言います。
 現在、IoT、ビッグデータ、AI技術の進展により、物理環境側の状態をセンサデータとして収集し、そのデータをクラウド上で機械学習手法を用いて分析して、その結果をもとに意思決定や制御を行うサイバー・フィジカル連携システムへの期待が高まっています。しかし、今のクラウドとIoTの関係は、クラウド上でIoTのアプリケーションが動作しているという状況です。例えば、あるアプリケーションがインターネットを経由してクラウド上で動作していても、それは先ほど話したクラウド上の資源として使われているわけではなく、あくまでも単にアプリケーションが載っているだけなのです。そして今、最も課題となっているのが、センサやアクチュエータというモノの繋がりが、アプリケーションごとに別々になっていることです。このようにアプリケーションが垂直につながっているため、ひとつのセンサやアクチュエータを複数の異なるアプリケーションで使うことが、今のIoTのシステムではできないのです。
 現実の世界でセンサやアクチュエータが捉えたデータを、クラウド上に持ってきて解析したり表示したり、記憶したりするわけですが、結局、それはある1つの特定アプリケーションがデータをクラウド上で処理しているだけで、別のアプリケーションはまた別にデータを取って処理しています。つまり、クラウドを単にデータ処理だけで使っているのですが、それでは非常に使いづらいのです。なぜなら、他の国や会社、組織で動いているセンサやアクチュエータを使ってデータを取りたいと思ったら、それを所有しているところからデータをもらうか、直接、自分がセンサやアクチュエータを購入して設置する必要があるからです。
 そこで私の研究室では、センサやアクチュエータもCPUやメモリ、ストレージ、ネットワークといったクラウドの資源のひとつとして使えるようにすることを提案しています。ユーザーは自分のパソコンからクラウドにアクセスして、センサやアクチュエータを使いたいとリクエストを出せば提供されるという仕組みを実現しようと取り組んでいます。それによってユーザーは、誰かのつくったアプリケーションを使わなくても、自分でアプリケーションを組んで、既存のセンサやアクチュエータからデータを取ることが自在にできるようになります。そのような仕組みを支えている技術を「クラウドとIoTの統合システム管理」と呼んでいます。

■具体的な研究例として、どんな取り組みがありますか?

 新しいクラウドとして、論理センサクラウドを提案しようと取り組んでいます。これはハードウェアをクラウド上でシミュレートするようなものです。クラウドの中にはCPUやメモリもありますが、それと同じようにハードウェアであるセンサやアクチュエータをクラウド内に複数、仮想的につくって論理的に扱えるようにするというものです。
 実際に設置されているのは1つのセンサですが、センサのデバイスとなるソフトウェアがクラウド上に複数つくられる、つまり複数のソフトウェアのセンサがクラウド上につくられることになります。これをセンサの仮想化ということで、「ヴァーチャルセンサ」と呼んでいます。アクチュエータも同様に「ヴァーチャルアクチュエータ」と呼んでいます。要するに、クラウド上で仮想化されたセンサやアクチュエータがソフトウェアとして動くということを実現しようとしているのです。
 実際のハードウェアとしてのセンサは1個ですが、それをクラウド上の複数のアプリケーションで、あたかも自分がそれを占有しているかのように使えるというところに、この研究の特徴があります。実際には、ソフトウェアでそれを実現するので、ハードウェアが複数あるわけではないのですが、そのソフトウェアにアクセスすると、あたかもハードウェアと同じ情報が得られる、あるいはそのハードウェアと同じように設定できるので、そういう形でデータも取れるのです。もちろんまったく異なる使用方法も可能ですから、自分の与えられた環境でセンサやアクチュエータを自由に使えるようになります。
 今、研究で進めているのが、センサとアクチュエータが集まったロボットをクラウド上のセンサやアクチュエータで実際に動かしてみるという試みです。あるいは、農業で使用される温室の温度データを取ってくるといったことを、クラウド上で複数のアプリケーションができるようにしようと取り組んでいます。


ロジカルセンサクラウド(Logical Sensor Cloud)の図。
アプリケーション・ソフトウェアは,仮想アクチュエータや仮想センサにアクセスすることで
あたかも物理アクチュエータや物理センサと同等の機能を利用することができる。


■ロジカルセンサクラウドの実現で、どんなメリットが得られるのでしょうか?

 一番はデータを得られることもありますが、それ以上に、ハードウェアであるセンサやアクチュエータの規格や仕様、ステータス(現在の設定や状況、状態を表す値やデータなど)を遠隔から取得できるということが挙げられます。現状、データはあるけれど、そのデータの精度や、どのハードウェアで取ったデータなのかが全くわからないということはよく起きることなのですが、そのような問題を解決できます。
 また、例えば温室に設置されたセンサからデータを取るときに、ひとつのアプリケーションだけではなく、2つ目、3つ目のアプリケーションでも自在にデータが取れます。ですから、自作のアプリケーションでもデータが取れますし、別の人はその人のつくったアプリケーションからデータが取れます。つまり、データを共有するのではなく、センサを共有しているので、取りたいときにデータを取って、取りなくないときは取らないということができるのです。
  さらに使い方の幅も広がります。例えば、温室の温度を測るセンサが外に設置されていれば、温室の温度データだけでなく外気温データも取得できるので、温室ではなく、そこの外気温データが欲しいという人は、それを得ることができます。
 これが実現できれば、今までのように、どこにセンサがあるのか、どのように使うのかと、個別に調べる必要はありませんし、あそこにあるセンサは誰かの持ちものだから使えないということもなくなります。

■研究の進捗と今後の展望をお聞かせください。

 今、提案方式の実装をしている段階で、その次に実証実験を始めたいと思っています。また、将来的には実用化を考えていますが、まだハードルがあって、そこに至るまでの課題を解決する必要があります。特に数十人が使う程度であれば問題ないと思いますが、色々なところでもっと数多くの人が同時に使おうとすると、そのための仕組みを色々と考えていかないといけません。そういう点も含めて、きちんと管理するための機構が必要になります。

■先生がこの分野に興味を持ったきっかけとは? また研究の面白さとは?

 そもそもは、10代半ばのときに初めてミニコンピュータでプログラムをつくったことが始まりです。学園祭のデモンストレーションで当時のミニコンピュータに直接触らせてもらって、紙テープでFORTRANプログラムをつくって、すぐに結果を出すことができたことに面白みを感じました。そのとき、コンピュータに対して将来性を感じました。その後、10代後半で使っていたミニコンピュータでは、当時の大型ホストコンピュータと同じ仮想マシンやオペレーティングシステムが採用されていて、それらの基本技術に興味を持ち、ソフトウェア関連の知識や経験を得ることができました。
 当時は1970年代だったので、IBMが勢いのある時代で、ホストコンピュータの大半は、IBM360/370アーキテクチャでした。そこで、なぜそれほどIBM360/370アーキテクチャが使われているのだろうかと疑問に思ったのです。その後、大学で研究していたときは就職には、まったく興味を持てなかったのですが、たまたま東京にIBMの基礎研究所ができたことを知って、以前から興味を持っていたコンピュータの基礎研究をしていたので、詳しく知りたいということから入社しました。IBMに入った後は、「同じ基礎研究部門には優秀な人たちがたくさんいるんだ!」と大きな衝撃を受けました。また、FORTRANプログラミング言語、リレーショナルデータベースや、インターネットのルーターやプロトコルをつくった人たちが実所属していた部門だったので、その当時の仕事環境としては、毎日がとても刺激的でした。
 IBM東京基礎研究所では、クラウドが始まるもっと以前から、コンピュータ資源をサービスとして利用することに関する研究プロジェクトをしていました。IoTに関しても、それが起こる前から関連する研究をしてきていました。ただ、クラウドはどちらかというとデータセンターの中で使われていましたし、IoTもアプリケーションやデータ解析にフォーカスされがちで、将来的に必要となるクラウドとIoTの統合システム管理の基盤技術に関する学術的な研究や実用技術の研究はあまりなされていませんでした。そこで、なんとかそこをうまく統合しようと、この研究を始めたのです。
 研究の魅力は、新しいものを考えて実現するというところが一番大きいと思います。今までにないモノ、あるいはすでにあるけれど、うまく動いていないモノに、新たなコンセプトを提案できるところが面白いですね。加えて、世界でまだ誰もしていないことに取り組み、アイデアや内容に独自性や特色を持たせるという面白さもあります。それによって、さまざまな価値や評価を得ることができるのです。
 またIT技術には、国境や民族の違いがないということにも魅力を感じています。私は、IBMの基礎研究所にいたときに、ニューヨークとインドのバンガロールへ海外赴任してグローバルの仕事をする機会がありましたし、東京で仕事をしていたときも毎日、色々な国のIBMの人たちやお客様と仕事をしてきました。特にITの分野では、国や話す言葉に関係なく、能力や専門性のある人たちが集まって協調して取り組むことで、物事が大きく前進していくことを、今までの仕事を通じて数多く経験することができました。ですから学生にも、せっかく大学でコンピュータを学んで、ゼロから技術を習得するのであれば、将来は、グローバルに活躍できるエンジニアになってほしいと思っています。当然、この大学にはそれを目指せるだけの環境も設備も整っていますから。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 受験生・高校生のみなさんが、もしコンピュータサイエンスやIT分野で将来仕事をするならば、大学の学部で卒業せずに、ぜひ大学院の修士課程まで行って自分の専門性を持ってから社会に出ることをおすすめします。今から50年以上前であれば、学部で卒業することで十分にITプロフェッショナルとして働くことができました。しかし、今のIT分野は大学の学部4年間の知識や経験だけでは、まったく足りないと考えています。自分で提案したり発表したりする力をつけて、ITプロフェッショナルとしてグローバルな仕事をするためには、やはり大学院の修士課程までは行くことが必要不可欠です。修士で就職することによって将来、年収も待遇も良くなりますし、技術的な競争力もつきます。ぜひ、そういう自分自身の未来を視野に入れて、大学院の修士課程に進学して技術力をつけてほしいと思っています。

■コンピュータサイエンス学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html