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魅力あるデザインをするにはインプットが不可欠。インターネットの世界だけでは得られない、五感を使った実体験を積極的に増やそう!

2021年2月12日掲出

デザイン学部 工業デザイン専攻 工業ものづくりデザインコース 酒井 正 准教授

デザイン学部 工業デザイン専攻 工業ものづくりデザインコース 酒井 正 准教授

石や金属、紙、布など、さまざまな素材で立体作品やプロダクトの制作に取り組んでいる酒井先生。今回は、コロナ禍におけるデザイン学部工業デザイン専攻の授業の現状や最近の作品についてお聞きしました。

■新型コロナウイルス感染症の流行が続く現在、デザイン学部工業デザイン専攻では、どのような形で授業が進められているのですか?

 実技演習科目ではオンラインと直接の対面型のハイブリッド型の授業を行なっています。モックアップやプロトタイプをつくるといったような制作作業があるので、後期からは自宅でできないという学生に対して、作業場として大学の教室を用い、教員から学生に直接の指導やサポートをしています。とはいえ、ノートパソコンは持参してもらい、オンラインで説明する情報を参考にしながら教室の中だけでなく外の世界とつながった状態で授業を受けるという形です。
 例えば、私が担当している3年次必修の「工業デザイン専攻専門演習」もオンラインで授業を進めています。オンライン授業の場合、学生が孤立感を感じるケースが少なくないということで、この演習ではもともと多かったグループワークをさらに増やし、学生が孤立しないようにしています。具体的には、ビデオ会議アプリケーションのZoomとGoogle Meetを用いて、いわゆる教室全体で行う授業はZoom、グループワークはグループごとにGoogle Meetを同時に立ち上げて、コミュニケーションを取ながら進めています。教員は常にZoomの方にいますが、時々、Google Meetの各グループの様子を見に行ったりもします。
 面白いのは 、スケッチなど一人一人が作業をしているとき、ほとんどの学生がGoogle Meetを立ち上げたままにし、実際の教室で作業しているときと同様に、他の学生と雑談をしながら手を動かしているところです。雑談をしながらの作業というのは対面授業では当たり前に行なってきたことだと思いますが、そういうことが自然とオンラインで、できるようになっているようです。また、スケッチなどの提出課題は、実物をスマートフォンなどで写真に撮り、画像共有ツールにアップロードしてもらっています。それによって他の学生がどんなことをしているか見ることができますし、全員分の画像がアップロードされたら、それらをみんなで共有しながら、教員が各提出物に対してコメントをしていきます。
 このようにオンライン授業が円滑に進められている背景には、本学がパソコン必携だったことが大きいですね。デザイン学部の学生は全員、Apple社のMacBook必携なので、複数のソフトウェアを立ち上げていてもパソコンのスペック的に問題がありません。入学時に金銭的な負担は増えますが、最初にノートパソコンを必携としていたことが、コロナ禍でのオンライン授業を進めるにあたって功を奏したと言えます。

■オンライン授業でのメリット・デメリットについてお聞かせください。

 学生が制作している過程で、教員が何かアドバイスする際には、やはり目の前で作業している方がしやすくはあります。また、3年生など人間関係がある程度できている学年でのオンライン授業化はスムーズでしたが、1年生は初対面なうえにオンラインでコミュニケーションをスタートしなければいけなかったので、当然、そういうことが苦手だった人もいたようです。ですから教員が丁寧にフォローして、孤立しないように工夫をして進めました。
 ただ、私としては、オンラインでのメリットはとても大きいと感じています。もちろん学部の特性によって学生のニーズは変わってきますが、対面授業とオンライン授業を両極にあるものとして捉えるのではなく、両方のメリットをバランスよく取り入れることが今後も必要だと感じています。デザイン学部の場合、学修効果の高いハイブリッド型の授業を学生はうまく使いこなしていますからね。
 また、就職活動のことを考えると、今後、企業の人事担当者とオンラインでやりとりする機会が非常に増えるだろうと思います。このことは学生にも伝えていますが、オンラインでしっかりプレゼンテーションできるようになるなど、オンラインを活用するスキルを高めておくことは、将来を考えてもとても重要だと思います。

■では、先生の最近のご研究について教えてください。

 世の中には色々な知育玩具と呼ばれるものがありますが、卓上で遊ぶものが多いように思います。もちろんそれも良いのですが、一方で子どもは身体全体を動かして発散しないとエネルギーが余っていますよね。例えば、雨の日など、十分に外遊びができなかったときは、帰宅後も子どもたちに元気が有り余っている印象を受けます。そういうところから安全性があり、頭を使いながら、身体全体を使える遊具みたいなものができないかと考えて、プロダクトをつくってみました。
 例えば、子どもがその知育遊具を重ねたり、飛び石みたいに並べた上を飛んだり、上に乗ってシーソーみたいにバランスをとって遊んだりと、遊び方を色々と見つけながら遊べるものにしようと、形や素材を考えました。素材は、ポリエチレンフォームという密度のあるスポンジ状のもので、無理な積み方をしても滑り落ちずにとどまるため、様々な形に好きに重ねることができます。2019年に美術館で展示した最初の作品では、ひとつひとつがキャラクターのようなイメージで形が違っていて、丸く2つ穴をあけたところが目のように見えるデザインにして遊ぶ人が愛着を持つことができるようにしました。この穴は、指を入れて持ちやすくなるという機能もあります。また、形に関しては、この作品に限ったことではありませんが、具象的過ぎず、かといって抽象的でもない、見た人それぞれが「これは○○だね」と想像力をもって作品に触れられるようにしています。

 一番新しい知育遊具「つむまる」では、もっと発展性を持たせるため、形をすべて同じにし、2つの丸い穴の位置が微妙に違っているようにしました。それにより、よく見るとそれぞれに独自の表情があるように見えます。こういうところも遊んでいるうちに子どもたちが気づいたら面白いかなと。形をシンプルなものに統一したのは、その方が数を増やしたときに、遊び方のバリエーションが増えるからです。こちらで複雑な形を決めるよりもシンプルな形にして、遊ぶ側が遊び方を増やしてくれたらと思っています。

■今回のプロダクトを制作するにあたって、どういうところからアイデアやインスピレーションを得たのでしょうか?

 具体的にこれというものはありませんが、デザインをしている人がみんなそうであるように、やはり生活している中で見るもの、聞くもの、触るもの、食べるものすべてがデザインに結びついていると思います。日常生活の中で、自分に良い影響があるように時間を過ごすというか。それはインスピレーションに直結していないかもしれませんが、そういう情報処理は常日頃しています。あとは私自身、博物館や美術館に行くのが好きなので、そこから情報や影響を得ている部分はあるかもしれません。例えば、遺跡から発掘された謎めいた人形に対して、現代人からすると想像を超えた部分でできていると感じたり、逆に現代にあるものと共通点を感じたりしています。
 これは学生にもよくする話ですが、特にデザインを考えるうえではそういうインプットが必要ですから、積極的に行なってほしいと思っています。今はパソコンの前に座って、ネットから得られる情報がものすごく多いです。でもそれはあくまで情報の入口で、実体験ではありません。今はコロナ禍でなかなか出かけられませんが、学生には近所を散歩するだけでもよいので、自分が外から仕入れられる体験をなるべく増やすようにと伝えています。それは必ずデザインに活きますし、逆にその引き出しがないと表現は絶対にできませんからね。

■今後の展望をお聞かせください。

 知育遊具に関しては、昨年の初めに、本学の医療保健学部の先生と話している中で、リハビリテーションに使えるかもしれないという意見があり、共同研究ができればという話が出てきています。ただ、その後に新型コロナウイルス感染症が流行したため、外部の人が病院に入ることや、手に触れるものを病院に持ち込むことが厳しくなり、研究は進んでいません。また、保育園や幼稚園など、子どもが集まる場所に「つむまる」をたくさん置いたらどんな反応を示すのか、どんなふうに遊んでくれるのかを調べてみたいと思っています。
 あとは、まだ具体的ではないのですが、持続可能な社会を目指す中で、どうしたらデザインで社会貢献ができるか、どういうものづくりができるかということを考えています。これは「工業デザイン専攻専門演習Ⅱ」の後半で取り上げている課題でもあります。「ICT技術を取り入れた持続可能な社会を実現するための工業デザイン提案」というテーマで、今から10年後の2030年に実現する、ICT技術を取り入れた工業デザインを学生に考えてもらっています。例えば、5Gのネットワークでは情報のタイムラグがなくなると予想できます。そいう未来社会の中でプロダクトはどうなっていくのか。具体的には、健康、食、移動、エンタテインメントの4つの課題テーマから学生が1つを選び、同じテーマを選んだ学生6人程度でグループをつくってテーマに関する調査に取り組みます。例えば健康を選んだグループは、健康とICTの現状や未来に考えられることなどを調べて、グループでプレゼンテーションをします。これにより複数人からの情報が集まる分、個人では気づかないことに気づくことができますし、オンライン授業での孤立を防いだりモチベーションを維持させたりする狙いもあります。その後、改めて個人でのテーマを再設定し、学生一人で提案を考えていきます。4年生での卒業制作は個人作業になるので、そこへつなぐ意味で個人ワークの時間をある程度確保しているのです。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 デザインは机で勉強だけすればできるかというと、そういうものでもありません。やはり自分に対するインプットの部分が大きい、つまりどれだけ人生において色々な体験をしてきたかということが重要になります。色々なところへ行ったり、見たり、自分の目と耳と、食まで含むと舌や鼻、五感を使って取り入れた質の高い情報がどれだけあるかが大切なのです。人を驚かせたり、面白いと言われたりする、魅力あるデザインをするには、自分自身の時間の使い方を考えて、楽しいものにしていかないといけないと思います。ですからたくさん遊んで、広い意味でしっかり学んでください。