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ICTは日進月歩。変化の激しいツールの使い方だけでなく、ベースとなる考え方を身に付けてほしい。

2021年5月21日掲出

コンピュータサイエンス学部 先進情報専攻 細野 繁 准教授

コンピュータサイエンス学部 先進情報専攻 細野 繁 准教授

子どもの頃からモノ作りが好きで、大学では機械系の学部で学んだという細野先生。大学院で応用数学を研究し、卒業後は大手電機メーカーの研究所でソフトウェアの研究開発やインターネット、ウェブサービスの研究に携わったそうです。また、企業時代に産官学連携の研究に参加するなかでサービス工学と出合い、現在の研究に繋がったと話します。今回は、そんな先生の研究室での取り組みについて伺いました。

■先生の研究室では、どのような研究に取り組んでいるのですか?

 「サービスシステムデザイン研究室」という名称で、今年3月に初めて卒業生を送り出したばかりの新しい研究室です。学生と学びながら研究開発を進めています。世の中には、クリーニング店や飲食店など様々なサービスがありますが、この研究室が研究対象とするのは、ICTによって実現されるサービスです。例えば、インターネットを通じたLINEなどのSNS、ビジネス寄りではクラウドといった情報システムのサービスなどが挙げられます。これらは、すべてバックグラウンドに最新のICTが必ず関わっています。つまり、最新のICTが導入されることで初めて可能になるサービスを対象に研究しています。
 こうしたサービスの作り方は、ICTが日進月歩で進化するため、時代ごとに変わってきています。その進化に合わせて、どういうサービスの作り方をしたら良いか、サービスを作るための仕組み、いわば道具を作るための研究をしています。 もう少し具体的な話をすると、この研究室には「アイデアをカタチに」というモットーがあります。ただ、アイデアをカタチにすることは、そう簡単なことではないですよね。行き当たりばったりで作っても、良いモノ、正しいモノはできません。ですから発想したアイデアをいかにきちんとカタチにするかという部分を、いくつかのフェーズに沿って学びながら研究しています。
 例えば、システム開発のV字モデルというものがあります。V字の左上は、どういうサービスを作るかを分析するフェーズ(Observation)、その次はアイデアを考えて(Ideation)、次にそれをコンセプトとして設計するフェーズ(Conceptual design)。その次は、具体的なモノに落とし込んでいきます(Detailed design)。例えば、サーバーでは何をするのか、データはどこに置くのか、ユーザー管理はどう設計するのかといったことを細かく決めていくわけです。そして今度はそれを実装して(Implementation)、どんどん組み上げていきます。こうしたシステム開発の流れのなかで、この研究室が対象としているのは、全体の分析をして、アイデアを出し、そこからコンセプトのデザインをしていく部分、それからそれら全体の開発プロセスになります。

■では、具体的な取り組み例について教えてください。

 ひとつは、「サービスの企画支援」という研究プロジェクトがあります。何か良いモノを作ろうとみんなで集まってアイデアを出し合うとき、当然、その場にいる人の持っている知識以上のアイデアは出てきませんよね。そこでその発想部分をICTで手助けしようというのが、この研究です。例えば、ブレインストーミング(以下、ブレスト)の際、アイデア出しのために貼った付箋のメモや発話した音声などをテキスト変換し、データベースとして蓄積して構造化し、それをもとにミーティング中のグループに対して、ブレストがうまく進むような情報をスマートスピーカーで発話させるという「AIワークショップシステム」の開発に取り組んでいます。それにより、そこに参加している人たちにはない知識を差し込み、アイデア出しを促せないかと挑戦しています。
 これは先ほどのシステム開発のV字モデルの左上にある、アイデアを発想する部分に当たり、研究分野は設計工学の領域です。0から1は生まれない、ないモノからはいくら頑張っても何も生まれませんから、いかに別のところから知識を獲得し、それを援用するかということをICTで実現しようと進めているのです。この研究の実現には色々な技術開発が必要で、例えば文字認識や付箋の位置関係から文脈を捉えることが求められます。また、難しいのは、どういう状況でその発言がなされたかを捉えることです。そういう状況と発言を構造化していき、コンテキスト(文脈)に合った言葉をスマートスピーカーからうまく発話させることが必要になります。また、テキストベースだけでなく、最近ではデプスカメラなどモーションキャプチャで人の仕草をデジタルデータ化できる機器もあるので、そういう情緒的情報もうまく活用していこうとしています。
 これから、スマートスピーカーではなくロボットを動かしたりしゃべらせたり、ロボットの画面に何かキャラクターを出して、会話の流れや文脈をうまく取り上げ、タイミングよくアイデアに繋がるような提案をするところまで持っていこうとしています。グループでブレストする時に、こうしたAIのサポートがあって、さらにそのアイデア出しをデータ化して学習させて…と循環していけば、アバターのようにあたかもそこに新しい誰かが現れ、頭を突き合わせて一緒に考えられるような、ヒトとAIが協働できる世界観をカタチにできると思います。

 それから、「サービスプロダクション」という開発プロセスのプロジェクトにも取り組んでいます。これはアイデアを出し、コンセプトとして設計した次の段階(Detailed design)に関わる話です。例えばユーザーがある操作をしたときのデータはサーバー側に置くとか、この部分はソフトウェアを開発する必要がある、あるいは通信プログラムが必要だ、ここにIoT(Internet of Things)の機器が入るといった具体的な構造を設計する部分です。そういう設計をするときは、それらを設計のフェーズで分けて、全体のモデリング(Conceptual design)、詳細部分のモデリング(Detailed design)をし、次にモデルの実装(Implementation)、そしてアプリケーションやサービスシステムに組み上げるという流れで進めていきます。また、実際の開発現場では、これらのフェーズを担当する部門はそれぞれ違っていて、それぞれに使用するモデリングのツールも異なります。ですが設計全体は、ずっと繋がった一連の話ですよね。そこでこれらのプロセス全体を横串で一貫するツールチェインを開発しようと取り組んでいます。ツールチェインとは、ひとつの製品を製作するために、組み合わせて使用するプログラム(ツール)のセットのことです。
 この取り組みは、ソフトウェア工学の「ソフトウェアプロダクトライン(SPL)」という考え方に基づくものです。SPLは、もともと自動車や時計といった工業製品の製造工程で、多品種・少量生産を行うために進められてきました。例えば、腕時計ブランドの製品で、基本は同じ形でも文字盤の色などが少しずつ違っているというものがありますよね。そのように色のバリエーションを豊富に用意しようと思った時、各色を何万個も製造することはありません。これは元となる基本形があって、そのバリエーションを製造できるように、カスタマイズできるようにしているわけです。このマス・カスタマイゼーションの考え方を工業製品の製造ではなく、ソフトウェアやアプリケーションに応用して開発していこうとしています。
 というのも今、ソフトウェアやアプリケーションの開発は大きく変化してきています。例えば小型のAIカメラといったIoTデバイスがたくさん出回るようになりました。そのカメラで何かを認識するとき、その裏には機械学習など、データからモデルを作るような技術が入ってきています。つまりICTのインフラが変わることで、ソフトウェアやアプリケーションの作り方も変わってくるのです。ですからコンセプトのところは押さえつつ、新しい技術や機器が出てきたときに、それをどう生産プロセスにうまく取り込んでいくかが重要になってきます。この研究室では、サービスのアーキテクチャや詳細部分のモデル群をパターン化し、それらを横串(モデルチェーン)にして開発プロセスとして構造化して、それを知識として別の開発に再利用できるようにしようと取り組んでいます。

 また、サービスを作って配備し、動かす部分の研究として「トラスト・ビルディング(Trust Building)」という機器・サービス連携に関するプロジェクトにも取り組んでいます。サービスコンピューティングは、5年~10年の期間で変化をみていくとアプリケーションサーバー、ユビキタスやグリッド、クラウドといった集約、分散、集約を繰り返す大きな技術トレンドがあって、今は沢山の機能や資源をクラウドなどに集約してきたものを複数のマイクロサービスに分割し分散化していく方向にあります。これからは複数の小さなサービスや機器が連携したり協調したりして、規模の大きい情報システムをうまく構成し動かしていくことが必要になってきます。例えば、シングルサインオンといって、あるWebサイトにIDやパスワード認証でログインすると、同じIDやパスワードで他のWebサイトにも入れますよね。そんなふうに多様な機器やウェブサービスが連携する時、お互いの信用関係を構築できるようにする技術の開発を、「ブロックチェーン」という仕組みを応用して進めています。ブロックチェーンは、ネットワーク上のコンピュータ同士が相互検証して台帳データの正しさを保証するもので、データの改ざんが困難な特長から暗号資産の取引管理を始め、公共・医療・商流・認証などの分野へ応用されつつあります。この仕組みを基に機器の信用、データの信用、アプリケーションの信用を構築するプロトコルを開発し、サービス連携アーキテクチャをダイナミックに構成することを目指しています。

 4つ目のプロジェクト「次世代設計教育」では、最先端のインフラでシステムを設計するための教育方法を考えています。例えば、これまでのシステム設計は、最初からモデルありきで進められていましたが、今はAI、特に機械学習の登場により、集めた大量のデータを解析して見える情報からモデルをつくり、それをもとにアプリケーションを作るという流れも広がりつつあります。つまりモデルがないところからモデルを作っていくわけです。最新AI・IoTデバイスの取り入れ方をプログラミングしながら評価し、これからの設計には何が求められていて、その資質の育成にはどういう導入の仕方をすると良いかということに取り組んでいます。


■学生には、研究を通してどういうことを身に付けてほしいですか?

 ICTの技術開発は、速い進化過程の真っただ中です。5年前はスマートフォンの普及でSNSの利用が急激に増え始めた頃ですし、10年前は無線LAN技術も今ほど速くはなかった。20年前は今のように誰もがインターネットを使っていませんでしたし、スマートフォンもありませんでした。ですからICTでできることは、まだ非常に限られていて、現在進行形で変わっていくところがあります。とはいえ、実現したいことがあり、どうしたら実現できるかというアイデアがあり、それをカタチにしていくには、その時点のICTができることをベースに、それらを組み上げる努力をしなければなりません。そうして初めてアイデアがカタチになります。つまり、何ができて何ができないかという技術制約は、去年と今年と来年とでは変わっていくので、そこをうまく捉えないとICTで実現するサービスは作れないのです。同時に、法律や仕事のルールとして決まっているビジネス制約もあります。それらを理解したうえで、工夫しながらサービスを作っていくのです。
 結局、何ができて何ができないかがわかっていないと、今あるツールに振り回されてしまいます。ですから学生にもツールの使い方だけでなく、その考え方や制約がどうあるのかをきちんと捉えてほしいと思って指導しています。恐らく10年後には、学生たちは今、大学で学んでいることと全く違うICTで仕事をしているはずです。ですからツールの使い方だけを身に付けても、ついていけなくなる。ツール部分はどんどん変わりますからね。けれどもベースとなる考え方、設計の仕方、そのときの技術制約の捉え方や工夫の仕方といった“型”は変わりません。そこを大学で学んでほしいと思っています。

■最後に、受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 「自分は何をしたいのか」ということを、一番大事にしてほしいですね。高校生は、まだ人生経験が少なく、知らないことも多々あるでしょう。ですから漠然とでも良いので、自分はこういうことが好きだとか得意だという気持ちを大切にしてください。結局、それを原動力として、大学で専門を選んで研究したり、会社に入って働いたりすることが多いのですから。「三つ子の魂百まで」と言われますが、そういう自分の資質や気質を大事にすると、きっと自分のキャリアの芯になっていくと思います。

■コンピュータサイエンス学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html