大学の学びはこんなに面白い

大学の学びはこんなに面白い

研究・教育紹介

東京工科大学 HOME> 大学の学びはこんなに面白い> 大学で出会った人たちからの刺激や卒業研究での心残りが、社会に出てからの選択につながっている

大学で出会った人たちからの刺激や卒業研究での心残りが、社会に出てからの選択につながっている

2022年6月24日掲出

コンピュータサイエンス学部 学部長 大野澄雄 教授

リンクウィズ株式会社 代表取締役 吹野 豪(2009年工学部情報通信工学科 卒業)

hukino_oono_manabi3.jpg

東京工科大学の旧工学部情報通信工学科(現コンピュータサイエンス学部)を卒業後、2015年に3次元形状処理エンジンを活用した産業ロボットの自律化を展開する会社「リンクウィズ」を起業した吹野さん。在学中、所属研究室の指導教員だった大野先生とともに当時を振り返り、本学で体験した学びについて語っていただきました。

■在学当時を振り返って、印象に残っていることは?

吹野氏(以下、吹野):ご無沙汰しています。こんな良い機会をありがとうございます。

大野先生(以下、大野):15、6年ぶりですが、全然変わっていませんね。ちょうど吹野さんの2つ下の後輩から当時の工学部が今のコンピュータサイエンス学部(以下、CS学部)になったんですよ。

吹野:僕は工学部情報通信工学科の最後の方の学生ということですね。

大野:そうなりますね。私自身は1999年に初めて東京工科大学に赴任して、毎年のように卒業生を送り出してきましたが、今日、吹野さんの顔を見て、すぐに当時の印象が蘇ってきました。第一印象として、終始、元気な学生という印象だったんですよ。今もそのままですね。情報系の学生は、平均的に物静かな人が多い中で、吹野さんは発言もしっかりしてくれて、卒業研究でも音声合成分野の言葉の辞書、アクセントの辞書などの整備にしっかり取り組んでくれて、とても良い印象を持っています。

吹野:卒業研究は、個人的にはあまりしっかりできた気はしていませんが(笑)。大野先生の研究室を選んだのは、音声合成の研究をしているところだったからです。当時は、ようやく音声合成ソフトが市販され始めたくらいでしたし、ナビゲーションシステムの音声も本当に機械的なものしかなくて。その中で大野先生の研究室では、コンピュータの自然な発話を目指すということだったので、すごく興味を持って選びました。 ただ、当時の僕はプログラミングがあまり得意ではなかったし、しっかりできなかったという心残りがあって。卒業時、ものすごく後悔した面があります。それがきっかけで卒業後は、光技術を用いた検査機器などを製造販売する会社で、プログラミングをするなど開発を手掛けていました。

大野:吹野さんにプログラミングが苦手という印象はあまりなかったですよ。たぶん当時は他大学からTA(Teaching Assistant)に来てもらっていたので、その人に色々、教わったり手伝ってもらったりしていたのだと思います。結果として、それも吹野さんには良い経験になったんじゃないかな?

吹野:おっしゃる通りです! 自分で表現することができなかったので、TAさんに「こういうことがしたいです」というプログラムを書く上でのフォーマットや仕様のような話をよくお聞きしていました。「これってどうするんですか?」と質問して、すごく難しければ、「今の僕にはそれはたぶん無理だと思うので、つくってください!」とお願いしていましたね(笑)。僕みたいな学生は、TAさんがいないと成り立たないと思います。だから難しいプログラムをさらっとつくる同級生たちのマニアックさみたいなものに、僕自身はものすごく憧れがありました。

■大学時代に受けた影響や自身の糧となったことは?

吹野:高校時代は、具体的にしたいことはありませんでしたが、漠然とコンピュータサイエンスの世界は広がっていくだろうという感覚があって。僕は数学が得意だったので、数学を使う分野にはすごく興味がありました。あとは中学校に入学したときに、父親が突然「これからはパソコンの時代だ!」とか言ってパソコンを買ってきたんです。当時はインターネットも今のようには発展していなくて、ニフティサーブやPC-VANみたいなパソコン通信の全盛期でした。そんな中、急にパソコンを手にして、最初は何もわからなかったけれど、色々と試行錯誤をするうちに楽しくなってきて。それでコンピュータサイエンスを勉強してみたいと思ったことが東京工科大学を志望したきっかけだったと思います。

大野:起業したいという思いは、当時からあったのですか?

吹野:興味は持っていました。ただ、「そういう選択肢もあるかなぁ」くらいの認識で、具体的に考えていたわけではありません。在学中、生野壮一郎先生に顧問をして頂いていたスノーボードの学内サークルに入っていて、そこで影響を受けた面があると思います。そこにいるメンバーは創業・起業を目指している人が多かったですし、「将来こういうことをやってみたいよね」という議論みたいなものを聞いたり、参加したりすることがあったので、その点はすごく刺激になりました。実際、そのサークル出身で、今、社会で活躍されている方がたくさんいらっしゃいます。

大野:やっぱり生野先生の影響は大きい気がしますね。生野先生を中心に人が集まると、そういう話になるかもしれないなと思うので。

吹野:そうですね。生野先生から“起業”というキーワードが具体的に出てきたわけではないですが、「チャレンジすると面白いよね」というような話はあった覚えがあります。それにそのスノーボードのサークルは、僕が部長のときで60人くらいメンバーがいて、そのなかで所属メンバーはミーティングを取り仕切ったり、大学への予算管理報告などを経験したりしたので、そこからみんな色々と学んだのではないかと思います。

大野:私はずっと大学の中にいる、アカデミック側の教員だったので、学生に起業のことを話したりすることはありませんが、そういう意味では、工科大の中で自然とそういう人たちが生まれ育っていたのだなと思うと、感慨深いです。

吹野:あとは在学中、マレーシアや東欧系の留学生がいて、彼らと親しくしていました。彼らの考え方は、基本的には知識を身に付けたあとに、自分で起業することを考えているなど、とにかく自立志向の強い人が多くて。そこはすごく刺激を受けたところです。別の研究室の機材を借りて、一緒になってゲーム機のOSを書き換えたり改造したりして、よく遊んでいました。

大野:マレーシアからの留学生は、「ツイニングプログラム」というマレーシアの大学から海外の提携大学へ編入するという制度で来ていた人たちですね。今もその後継のプロジェクトは継続されています。そのプログラムを通じて来ていた留学生たちは非常に優秀で、日本語もしっかりできて、本学で情報通信やコンピュータを学びたいということで来日していました。吹野さんからそういう国際交流ができていたことを聞いて、本当に良かったなと思います。

吹野:それが今の自分のベースになっている気がします。当時の友人とは今でも連絡を取り合っていますし、そのマレーシアからの留学生は今、マレーシアのMicrosoftのアジアヘッドクォーターのエンジニアをしています。かなり優秀なエンジニアとして活躍していますよ。

■大学で印象に残っている授業や学びを教えてください。

吹野:基礎科目で言えば、当時、情報通信工学科では、アンプリファイヤ回路などの基本的な回路を触る授業があったのですが、それは今、仕事で生産設備系のことを扱っているので、とても役立っています。あとは、「情報通信概論」を担当されていた先生がけっこうマニアックなことに詳しい方だったので、授業後に控室まで付いて行って、授業と関係ないことを質問していました(笑)。

大野:これまでの吹野さんの話を聞いていると、やはり数学好きというところがすべてにつながっている気がします。数学が制御や回路につながって、良い流れになったのだなと。今、CS学部では授業内で回路などを扱うことはありませんが、研究室によっては、ハードウェアまで扱うこともあります。例えば、松下宗一郎先生の研究室は、自分ではんだごてを使ってセンサをつくり、身体の姿勢を測っています。また、今はIoT(Internet of Things)もキーワードのひとつですから、回路的なことを扱ったり、プログラミングや電子部品の接続で色々な機能を実装できる小さなコンピュータ「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」にセンサを取り付けたりといったことはしています。授業以外のところで、ハードウェアに触れているという感じですね。

吹野:「Raspberry Pi」や「Arduino(アルドゥイーノ)」などは、少しベーシックなハードウェアの知識がないとソフトウェアの力が活かせないので、大学でそういうものを扱う経験は必要なことだと思います。

大野:学部の学びに関連することで言えば、CS学部では学生に外部との接点をたくさん持ってもらえるよう、積極的に働きかけているところです。やはり外部を知ることや、外部の大人と話すといった機会を学生の時にたくさん経験することは、これからのコンピュータサイエンスの中で、色々と革新的なことを進めたいと思った時に重要になってくると思うからです。
例えば、色々なスタートアップのイベントを学生に紹介して、参加するよう促しています。また、「戦略的教育プログラム」という全学的なプログラムの一環で、CS学部内に色々な“道場”を立ち上げています。例えば、Kaggle(カグル)という世界最大のデータサイエンスのコンペティションがあるのですが、そういうものにみんなで挑戦しようという道場や、四足歩行ロボットをその視覚情報や動作情報とAIで自動歩行させようという道場、クラウドコンピューティングやシステム開発を実践的に学ぶ道場など、サークル活動のもっと学部教育に即したものというイメージです。学生たちが自主的に参加でき、それを通して学外へとつなげていく、あるいは学外からメンター(指導や助言をする人)を招いて話をしてもらうといったことを、ここ数年、始めています。

吹野:そういうものに触れる機会は、大事ですよね。僕もそういう機会はどんどんつくるべきだと思っています。

■リンクウィズやご自身の今後の展望をお聞かせください。

吹野:卒業後は地元の静岡県浜松市で就職しました。何か新しいものをつくる会社に入りたいと思って探していて、最終的に入社した会社は、社長が「これから3Dデータがとれるカメラをつくる事業を始める」と話してくださったところでした。この3Dカメラが、私が2015年に起業したリンクウィズの事業につながっています。
リンクウィズは、産業ロボットに高精度な3Dカメラを取り付け、取得した3次元データをもとにロボット自体が自律化するサービスを提供する会社です。例えば、3D-CADという設計ソフトを使うと、1000分の1ナノミリメートルの精度で設計が出来上がります。けれど、その設計を形にする工場は、職人さんが金型を削ってつくっているような世界で、そこに大きなギャップがあるのです。そういうヴァーチャルの設計の世界とリアルの製造現場の間にあるギャップを埋めるにはどうすれば良いかと考えたときに、ヴァーチャルデータを使ってアナログで動くものの一つに産業ロボットがありました。産業ロボットはプログラムされたことをプレイバックする能力しかありませんが、もしそのロボットが自分の周りを認識・判断して、自分のプログラムを自分の状況に合わせてリプログラミングすることができると面白いだろうと思い、つくったのが今の会社です。
リンクウィズの展望としては、なかなか労働集約的なところから抜け出せない日本の製造業に対して、無駄や非効率、非合理的なものをソフトウェアの力で改善し、製造業全体が生き残っていけるようにしたいと考えています。 また、私個人としては、時間が許す限り、教育に関わっていこうと取り組んでいるところです。地域の小学生や中学生、高校生に向けて、勉強の仕方自体がどんどん変わってきているという話をしたり、いくつかの大学でアントレプレナーの講師をしたりしています。

大野:そこではどういう話をしているのですか?

吹野:小中高生には、勉強の仕方がもはや理系・文系では分けられなくなっているという話をしています。例えば、アメリカの学会に行くと、勉強の仕方は僕らの世代にあった理系・文系とは全く異なる考え方がなされているんです。具体的には、アートとサイエンスの2つに分かれていて、アメリカの人たちはそれを融合させるところに興味を持っています。そういう話をローグレード(低学年)やハイスクールのときから聞いて育つ子どもたちと、日本のようにいまだに理系・文系で分けている教育では、社会に出たときのスタートラインが違うのではないかという気がしていて。そこをしっかり伝えたいと思っています。

大野:いわゆるSTEAM教育、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの分野を学ぼうという教育概念ですね。

吹野:そうです。ですから私たち世代の考え方、例えば英語が得意だから文系に、数学が得意だから理系に進むという世界観ではなくなってきています。そこの誤りを子どもたちに対して正さないといけないと思って、話しています。今思えば、プログラミングは、IT分野で理系のイメージですが、実際は文系的な記述能力が必要です。そこは理系・文系では分けられないんですよね。もっと言えば、プログラミングや算数は、できる・できないではなく、基本的にできないといけないことであり、リベラルアーツ(一般教養)の一部だと私は思っています。
大学のアントレプレナーで話していることは、やはり起業の話が一番多いですね。起業までのプロセスなどの話もありますし、就職するときの選択肢として、大企業、中小企業、スタートアップに並列で、起業というものがあるだけなので、もう少し柔軟に将来の選択肢を持つようにすれば、したいことが見えてくるのではないかという話をしています。 大野:ぜひ吹野さんに本学で後輩へ向けて話しをしてもらうなど、育成に協力してもらえるとうれしいです。実社会で活躍している先輩からの話は、学生の良い刺激になりますからね。

吹野:機会を頂ければ、いつでも伺います!

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

吹野:日本はなかなか景気が良くならないと言われていますし、高齢化が進んで色々な問題が起きています。そんなふうに問題がたくさんあるということは、逆に言えば、それらを解決するチャンスもたくさんあるということです。また、世界を広く見渡せば、若い国がたくさんあります。インドや東南アジア諸国、フィリピンなど、人口がどんどん増加している国もあります。自分の活躍の場を日本に限らなければ、一個人にとって、チャンスしかないと思うくらいです。ですから、“日本の経済”といった閉じた範囲の中で悲観的になる必要はありません。また、日本は高齢化問題に世界で最初に直面している国であり、その中で産業界は自動化、自律化、IoTなど、色々なもので解決しようと取り組んでいます。そこで得たものを、次に高齢化を迎える国々への解答として日本が提案すれば、それは日本のひとつのビジネスモデルになるはずです。だから僕自身は、希望しかないと感じています。
また、先ほども言いましたが、世界はもう理系・文系の分け方ではなくなっています。そういう枠組み以外のことに考えが及ばないと、今のNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン。唯一無二であることの証明ができる技術)やWeb3.0(分散型インターネット)の文脈を理解することは難しくなるでしょう。そうならないように、みなさんには広い視点、新しい視点で自分の位置や学びを捉えてほしいですね。

大野:CS学部は、2020年のカリキュラム改定により、「価値創造演習」というものを1年生で実施することになっています。1年生全員に社会の問題を洗い出してもらい、それに対してどういう解決方法があるかを考えてもらう演習です。まだスキルのない、低学年のうちからそういう意識を培うことを狙いのひとつとして実施しています。
また、先ほどの吹野さんからの話にもつながりますが、価値創造をする対象に分野は関係ありません。幅広い分野からの発想とアイデアの融合によって新しい価値が生まれるからです。例えば、私たちCS学部のライバルが、実はビジネスを学んでいる経営学部にいるということもあります。そういう中でCS学部の学生は、例えばビジネスや産業の基本知識にプラスしてICTのスキルを持っているとアピールできるようなカリキュラムになっています。つまり、本学部は価値創造をするための技術もあわせて学べるという強みがあるのです。ぜひCS学部で一緒に、新しい価値の創造に挑戦しましょう。
■コンピュータサイエンス学部:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html