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観測データの解析や重力レンズクエーサーの発見を通して、宇宙の幾何学を解明したい!

2022年2月25日掲出

教養学環 加用 一者 准教授

教養学環 加用 一者 准教授

子供の頃、スペースシャトルの打ち上げを見て、宇宙に興味を持ったという加用先生。大学では、宇宙を題材に物理を研究しようと宇宙理論研究室に所属。大学院卒業後は、重力レンズを研究する研究者仲間の手伝いをしたことから、観測や重力レンズと関わるようになり、現在の研究テーマに取り組むようになったそうです。今回は、先生のご研究内容と八王子キャンパスで担当されている授業についてお聞きしました。

■先生のご研究について教えてください。

 宇宙物理学(天文学)の中の、観測的宇宙論という分野を専門にしています。特に「宇宙大規模構造」を解明するために、コンピュータを用いて観測データを統計解析したり、シミュレーションで再現したりしています。「宇宙大規模構造」とは、宇宙にたくさん散らばっている銀河・銀河団などが網の目のような複雑な形をつくっている、きわめて大きな空間構造物のことです。その形だけを見ていても何もわからないのですが、それが統計的にどうなっているかを調べることで宇宙の幾何学を知ることができれば、宇宙の起源や構造、性質、さらには宇宙を満たすと考えられている「ダークマター」や「ダークエネルギー」といった謎の物質やエネルギーの性質がわかる可能性があります。
 例えば、私たちが空間に三角形を書いたとき、その三角形の内角の和は180度になるということは常識ですよね。ところが宇宙では、そうならない可能性があります。宇宙の幾何学的な構造が私たちの身近な空間とは違っていると考えた方が、自然かもしれないのです。そういうことを明らかにしようと、宇宙の観測データをもとに様々な手法でさかんに研究が行われています。その内のひとつである「宇宙大規模構造」を、私は研究対象としているのです。
 ところで、先ほど宇宙では三角形の内角の和は180度でない方が自然だとお話ししましたが、宇宙での三角形の内角の和を一生懸命測ってみると、なんと180度だったのです。しかし、なぜ180度になるのかは、わかっていません。もし180度になるのであれば、宇宙のエネルギーはこのくらいあると理論的に見積もることができますが、そこに人間の知っているエネルギーを積み重ねても全然足りないのです。人類が知っている物質が4%ほど、あとの20数%がよくわからない「ダークマター」と言われる重力源、残りの70数%はさらによくわからないので「ダークエネルギー」と呼ばれています。足し算の総計はわかっているけれど、内訳がわからないというのが現時点でわかっていることです。

 宇宙の観測データは、世界中にある大型望遠鏡などで観測され、公開されています。例えば、写真データ。今はデジタルデータで公開されています。これはぱっと見ると、いわゆる夜空の写真です。ですが、その中には本当に色々なものが写り込んでいます。それらを研究者や興味を持っている人たちが、ひとつひとつ分析して研究しています。もちろん、このデータは研究者だけのものでなく、色々な人が見て楽しむことのできるようなものです。
 また、スペクトルといって、天体からの光を虹色に分けて、それぞれを詳しく調べたようなデータも膨大にあります。こちらはデータを取るのに手間がかかるため、写真データに比べると少ないですが、天体の情報を知るには極めて重要なデータで、たくさん取られています。そうした観測データをもとに、解析をしています。

 関連して、「重力レンズ」の研究にも取り組んでいます。重力レンズとは、遠くの天体から発した光が、途中にある銀河などの質量の大きい天体の近くを通るとき、その大きな質量によってレンズのようになっている部分で屈折されて経路が曲げられ、地球から見ると複数の像に見えたり、歪んだりする現象のことです。この現象が起きている天体をたくさん見つけると、その発見確率をもとに、やはり宇宙の幾何学が調べられます。
 特に私が探しているのは、重力レンズとなる銀河があって、その奥の背景光がクエーサーと呼ばれるものです。クエーサーとは、銀河の中心が異常に明るく輝いていて、非常に遠くにあっても良く見える天体のことです。それがレンズされているものを見ています。
 この発見数は現在でも200個ほどなので、かなり少ないと言えます。重力レンズそのものはたくさんありますが、重力レンズが起きているクエーサーの見つかる数はかなり少ないのです。なぜそんな数少ないクエーサーに私が注目しているのかと言えば、確率が計算しやすい、つまり最も精度よく確率が計算できると期待しているからです。
 もう少し噛み砕くと、私たちは、重力レンズとなる銀河とその奥の天体がうまく配置する確率に注目しているのです。たくさん配置すれば、たくさん見つかり、そうでなければ見つかりません。銀河とその奥の天体が重なるチャンスは、その天体の多さによります。どのくらいの体積にそれが何個あるのかという密度にもよります。密度は「個数÷体積」なので、つまり、その体積部分がわかることになるのです。ですから、何個天体を観測して、何個実際に重力レンズがあったかという確率を計算することができれば、その天体が存在するところまでの体積がどのくらいあるのかがわかります。体積がわかるということは、「ダークエネルギー」によってどういうふうに体積が膨らんでいるのかということに言及できるのです。

発見されたクエーサーの重力レンズの例。
1つのクエーサーが重力レンズ効果によって4つに見えている (Mikulski Archive for Space Telescopesの公開データより)

■AIを使って重力レンズを探す試みもされているそうですね。

 ディープラーニングという手法を使って、AIに画像認識させ、クエーサーの重力レンズを見つけてもらおうと取り組んでいます。ただ、そもそもクエーサーの重力レンズの画像が少ないため、AIに学習させるデータが少ないという課題があります。ですから疑似データをつくって覚えさせ、夜空の写真データからクエーサーの重力レンズを探してみたのですが、結果としてはあまりうまくいきませんでした。やはり疑似データの精度をもっと高めないといけないようです。というのも地上から望遠鏡で捉えた画像データの場合、大気が揺らいで、本当は点状に見えるだけのクエーサーが複雑な構造を持つように見えてしまうことがあるからです。そういうものはクエーサーの重力レンズではないので、AIが間違って検出しないように考慮する必要があります。
 また重力レンズに関しては、通勤電車の中でスマートフォンを使って、天体画像をチェックして探すということもしています。実はそれによって3年ほど前に興味深いクエーサーの重力レンズらしきものを発見しました。より詳しく観測するために、ハワイにあるジェミニ望遠鏡に観測の依頼を出し、申請が通ったところまではよかったのですが、この1月上旬に望遠鏡が故障したそうで、残念ながら今回の観測は難しくなってしまいました。私が発見したものは、重力レンズとなる真ん中の部分が銀河ではなくクエーサーで、その両サイドにもクエーサーのようなものが見えるという画像なのです。これまでにそういう組み合わせはないので、もしその両サイドにあるものが、本当にクエーサーだとわかれば、初めてのシステムになります。理論的な見積もりはまだしていませんが、そういうことが起こる確率は非常に低いはずです。これが本当にクエーサーによる重力レンズであれば、確率の計算をすると、色々と面白いことが言えるのではないかと思います。
 

■先生は研究の面白さをどういうところに感じていますか?

 研究の面白さは、やはり新しいことに挑戦できるところです。他の人がしていないようなことをする、特に人が取りこぼしたデータに着目して、少し隙間を狙うようなテーマだけれど面白いというところを攻めていければと思っています。
 それには勉強し続けないといけませんが、学ぶこと自体が面白いですし、ありがたいことです。大学教員は、自分の分野もそれ以外も幅広く学び続けることが時間的に許されていますからね。また、リチャード・ファインマンという有名な物理学者も言っていましたが、教えることは最大の学習方法です。私自身、1、2年生を対象に高校数学や物理の復習のような授業を担当していますが、教えるために勉強していると、発見があったりして面白いです。学生に教えようとしたときに疑問が出てきて、そういうときに自分で立ち返って調べたり考えたりすると、理解が深まることが多々ありますから。
 

■先生が八王子キャンパスで担当されている授業「データサイエンス入門」についてもお聞かせください。

 「データサイエンス入門」は、八王子キャンパス全学部の1年生を対象にしている授業です。データサイエンスと一口に言っても非常に漠然としていますし、ほとんどのサイエンスは、データサイエンスだとも言えます。また、本当にデータサイエンスを学ぼうと思うと、数学の知識やコンピュータで何かをするというアイデアが必要になるため、1年生に教えるというのは、なかなか難しいところがあります。
 そこで数学の知識がなくても、少しずつ積み上げられ、統計学の知識やコンピュータのリテラシーがなくても、ある程度は統計解析ができるようにしようと、Excelを用いることにしました。私の研究現場ではExcelで計算をすることはあまりありませんが、卒業研究で使う学生も多いということで、採用しました。いくつかの非常に簡単なExcel操作で、基礎的なパーツを調べてもらっています。加えて、数理的なデータだけでなく、メディア学部の学生などがよく行うアンケート調査やインタビュー調査といった定量化しにくい、人文社会学的調査の方法も教養として知ってもらうため、教養学環の教員で社会学が専門の大山昌彦先生にゲスト講師として話をしてもらっています。また、今年はデータのプライバシーなどを学んでもらえるように、法律の専門家である村上康二郎先生にもお願いしました。さらに、本学におけるデータサイエンスの実用例ということで、私自身が天文学におけるデータの利用について話したり、応用生物学部の浦瀬太郎先生に生物分野でのデータサイエンス的な考え方についてお話しいただいたりしています。それから、一緒にデータサイエンス入門を担当している教養学環の須田拓馬先生にも、専門の天文学分野から、星のデータベース構築の技術的なことについて話してもらいました。
 今後は、もっと「データサイエンス入門」で扱う分野を広げたいと思っています。例えば、工学部やコンピュータサイエンス学部におけるデータサイエンス的な取り組みなど、色々な専門分野の先生に登壇いただく機会を増やしていければと考えています。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 受験生・高校生に加えて、本学の学生にも言えることですが、大学でしてみたいことがある人は、先生を捕まえて質問するなど、積極的に学んでいってほしいと思います。大学の先生にとって質問を受けることは、とてもうれしいことですからね。一方、具体的にしたいことが決まっていない人もいると思います。高校生や大学生がそれまでに生きてきた世界は狭いものですし、それによって築き上げてきた直感は限定的ですから、当然のことでしょう。そういう人は、どうぞ授業を丁寧に受けてみてください。きっと何か興味を持てるものと出合ったり、そのためのきっかけが得られたりするだろうと思います。
 私が専門とする天文学は、5000年ほどの歴史があります。同様に、色々な学問は非常に長い間に、その当時の超天才を中心としてたくさんの人が関わり、築き上げてきた膨大な知の体系です。それを大学では、1、2年という短期間で学習できるようになっているので、ものすごくお得だと言えます。また、不思議なことに、私たち普通の人でも、超天才たちが何千年も繋いできた学問を学習して身に付けることができるのです。そういう築かれてきた学問をたくさん丁寧に学習して、ぜひ生涯、持ち続けられるものとしてください。