サッカー選手の生体データ×機械学習でケガを予測⁉
2025年11月5日掲出
医療保健学部 リハビリテーション学科理学療法学専攻 4年 安井翔矢(写真右)
コンピュータサイエンス学部 人工知能専攻※ 4年 福嶋海人(写真左)
※2024年4月より、先進情報専攻[情報基盤コース/人間情報コース/人工知能コース]、社会情報専攻の2専攻3コース体制

今年4月より医療保健学部とコンピュータサイエンス学部の学生による共同研究が始まっています。どのようなテーマで、どう研究を進めているのか、お話を伺いました。
■今回、お二人が取り組んだ研究の概要を教えてください。
安井翔矢さん(以下、安井):太ももの裏側にある、膝を曲げる筋肉をハムストリングスというのですが、その損傷がサッカー選手においては捻挫に次いで多いケガだと言われています。非常に起こる頻度が高いケガであると同時に再発率も高く、一度でもハムストリングス損傷(以下、HSI)になった選手は、30%の可能性で再損傷すると言われるほどです。つまり、選手やチームの成績に大きな損害を与えるケガなのです。そこで、HSIの予防ができればと、サッカー選手の生体データを機械学習で解析して、その発症メカニズムの因果構造を推定する研究をしています。■この研究は、医療保健学部とコンピュータサイエンス学部が協働で取り組んでいるそうですが、どういう経緯で学部を越えた研究が始まったのですか?
安井:本学には、「ヒューマンムーブメントセンター」という研究機関があります。人の動きを科学的・定量的に捉えて、健康に寄与することをミッションとしたセンターです。そこの副センター長であり、僕の所属研究室の先生でもある斎藤寛樹先生から「サッカー選手の生体データがあるのだけど、研究してみないか」とお声がけいただいたのが最初です。
安井:時系列的には福嶋君が先に決まっていて、僕が後だったと思います。伏見先生からサッカーのデータに興味のある学生がいるので、学生を交えて一緒に研究しませんかと斎藤先生に提案があって。そこから斎藤先生が僕に声をかけてくださった形です。僕自身もサッカー経験者で、将来はサッカーチームのスポーツトレーナーになりたいと思っていたので、ぜひ関わらせていただきたいと参加しました。
■研究の役割分担は、どのようにしていたのですか?
安井:データの解析自体は福嶋君の担当で、最初にたくさんあるデータの中から、この部分のデータを解析してほしいとターゲットを絞って、枠組みを作るのが僕の仕事でした。料理で例えるなら、たくさん材料がある中から、どれを使うかを僕が選んで、福嶋君に渡し、それらを料理してもらうみたいな感じです。福嶋:おお! わかりやすい! 僕はサッカー経験者なので、HSI自体がとても深刻なケガだということはもちろん分かっています。ただ、その中のデータの意味や、何がどこに関係しているといった意味までは、分からないことが多いです。特に、体のことに関しては勉強していないと追究できない部分があるので、そこは安井君が最初に絞ってくれたり、色々と選択肢をくれたりして、ありがたかったですね。
安井:僕は人体のことを学ぶ医療保健学部なので、HSIがどういうケガなのか、得られたデータがどういう意味を持つのかなどはある程度、分かります。なので、データの意味付けや方向性を示す役割でした。
福嶋:単語の意味からして分からないので、そこから教えてもらっていた感じです。
安井:逆に僕は、福嶋君が手がけている解析手法のことは全然わからなかったです。かといって全て福嶋君に質問すると負担になると思ったので、実はChatGPTに聞きながら勉強していました。
福嶋:そうだったんだ(笑)。
安井:最初に一度、Zoomでミーティングをして、今後の進め方を話した後は、Discord(ディスコード)というインスタントメッセージアプリを使って、文面でやりとりしていました。普段は医療保健学部がある蒲田キャンパスとCS学部がある八王子キャンパスとで離れているので、頻繁に会って話す機会を持つのは難しいですからね。ただ、やりとりを文章で残せていたことは、すごく良かったです。福嶋君に質問して、返って来た答えに対して、ChatGPTである程度勉強して、さらに分からなかったところをもう一度、質問する形で進めていました。
福嶋:それってChatGPTのとても上手な使い方ですよね。
■では、具体的にどのように研究をしたのか教えてください。
安井:解析対象は、「ヒューマンムーブメントセンター」と外部機関の共同研究で得られたサッカー選手のデータです。シーズン開幕前にスプリント動作、筋力、柔軟性、可動域、体組成などを評価し、それらとシーズン中のHSIの発症有無との関連を調べました。データ解析では因果関係を特定する手法である「Linear Non-Gaussian Acyclic Model(LiNGAM:リンガム)」を用いて福嶋君に解析してもらい、シーズン前の生理学的要素やスプリント距離・回数とHSI発症との因果構造を推定することに取り組んでいます。福嶋:なぜデータを機械学習で解析すると因果関係がわかるのかを説明すると、AIの学習には色々ありますが、特によく対比されるのが、相関関係と因果関係です。相関関係とは、例えば、ひと昔前に「ブロッコリーを食べた人は太る」という研究結果が出たことがありました。そう聞くと、「なぜ?」と思いますよね。ブロッコリーは野菜ですし、カロリーも低そうです。でも、実は「ブロッコリー」と「食べる」の間に、マヨネーズをたくさんかけていたからといった中間的な因果があったりするわけです。つまり、「ブロッコリーを食べると太る」というのは、感覚的にはおかしいと思うけれど、相関関係としての結果は正しい。一方、因果関係を見ると、マヨネーズをたくさんかけていたという中間的な要因があるわけです。今、僕らが取り組んでいるのも、そんなふうに起点と結果の間にある中間的な要因を見つけることです。
今回の研究対象であるスポーツに関して言えば、たくさん走ったり、長距離を走ったりする人がケガをしやすいということは、スポーツ経験者に限らず、誰でも何となく分かることですよね。ただ、そこを因果的に見るという部分が、今回の研究で取り組んでいることであり、一番知りたい部分です。そこで新たな発見をしたいと思っています。
■研究を進める中で、一番苦労した点はどんなところですか?
福嶋:解析手法に、まだ世の中にない新規性を出さないといけないところで苦労しています。CS学部の場合、卒業研究で何か新しいものを生み出すということは、卒業の必須条件です。今回は、生体データをLiNGAMで解析していますが、これは今までも使われてきた手法です。ですから、そこに何か違う要素を付け加えた上で、結果を出したいと思っています。前期は因果探索ということで、今まであった手法に方向づけができるようにしました。例えば、AとBは確実に交わらない、逆にBとCは絶対に交わってほしいといったことができるようにしたのです。また、今は例えば走った距離が長いからこういう結果になるというように、1つの要因(変数)と結果を結ぶ矢印しかないのですが、その要因を2つ、3つと増やしてグループにし、そのグループがどういう結果と結びつくのか、その強さはどのくらいかといったことを新規性として出したいと考えているところです。安井:僕は、最初にどのデータを使うかを絞るところで苦労しました。解析してもらうにしても、個々のデータの意味はしっかりと伝える必要がありますし、その部分はかなり考えました。どういう方向性で進めるかなどは、斎藤先生とも相談していて。最終目標は、天気予報みたいに障害予測を作ることです。そういうものを作る前に、どういうことをしていかないといけないのかといったことも先生に相談させていただきました。
とはいえ、一番苦労するのはこれからかもしれません(笑)。現状、解析結果は出ているので、これから考察し、意味づけする必要があります。今回、僕らが2人で取り組んでいる研究の中でも、そこは僕の重要な役割です。
■今後の展開について教えてください。
安井:福嶋君から研究では新規性を出さないといけないという話がありましたが、それは僕も同様です。これから先行研究を調べながら、解析で得られた結果から新しさのある考察を導き出し、それを11月に学会で発表する予定です。また、国際学会での発表も予定されています。僕は臨床実習中で行けないので、斎藤先生に参加してもらいます。福嶋:前期では因果探索という部分に取り組んできましたが、後期では因果推論へと進めていくつもりです。例えば、仮想データを入れたときに、こういう人はどのくらいHSIを発症しやすいといったことを機械的に作ったり、因果探索を進めて、どういう練習をすればHSIを予防できるのか、そのためにできる練習があるのかといったところも見つけたりできればと考えています。現段階での研究結果をもう少し詰めて、11~12月あたりで学会発表をし、そのまま卒業論文の執筆へと進めたいです。
安井:それから今回の研究は、今後、それぞれの研究室の後輩が引き継いでくれる予定です。
■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。
福嶋:自分はITとサッカーを組み合わせた研究をしようと、高校2年生くらいから漠然と思っていました。CS学部は、IT分野で新しい技術やサービスを生み出したいという人はもちろん、ITに関わらず興味のある何かとAIを組み合わせて社会のためになるものを作るといったことにも取り組めます。さまざまなバックグラウンドや専門性を持つ先生方の研究室から所属を選べるので、自分のしたいことを学べると思いますよ。また、僕はパソコンにほぼ触れたことのない初心者として入学しました。本当に高校まではサッカーしかやってこなかったくらいなので。入学後、周りはパソコン好きやキーボードを打つのが速い人たちばかりで、最初はついていけるか不安でしたが、日々、学びの中でパソコンを使っているうちに慣れました。しかも、そんなゼロスタートの自分でも今回のような専門性の高い研究ができるのです。今、振り返ってもここを選んで良かったと思うので、みなさんも何より自分がしてみたいと思うことを大切にして大学を選んでください。安井:僕は奨学生入試で合格したので、この大学に決めましたが、選んで良かったと思っています。入学してからすごいなと思ったのは、ここには幅広い分野で、専門性の高い研究をされている先生方がいることです。バレーボール、テニス、野球、サッカーなど、さまざまなスポーツ分野を対象に研究されている先生方がいますし、実際の医療現場で専門性の高い研究をしている先生も多数いらっしゃいます。また、僕も高校までずっとサッカーをしていたので、先ほども言いましたが、将来はサッカー関係の仕事として、トレーナーを考えています。理学療法士を目指す人はスポーツ経験者が多く、将来、メディカル面からスポーツを支えたいという人も少なくありません。その夢をサポートしてくれる環境が整っているので、そういう人たちにとって、ここは最適だと思います。もちろん、入学後に色々なところへ実習に行けるので、スポーツ分野以外の知見も得られ、視野や可能性が広げられます。
■医療保健学部:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/index.html
■コンピュータサイエンス学部:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html
https://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/index.html
■コンピュータサイエンス学部:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html
