大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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「研究はICT社会の新しい可能性を発見する探険ゲーム!」

コンピュータサイエンス学部 田胡和哉 教授

■先生の研究について教えてください。

私は、オペレーティングシステム(OS)やシステムソフトウェアの研究を行っています。ご存知のようにOSというのは、みなさんが普段使っているパソコンの基本ソフトですよね。そのOSの技術は、実はパソコンに限らず、携帯電話やゲーム機、インターネットのシステムといったものすべてに使われているのです。形だけを見ると、携帯電話、ゲーム機と個別のものに感じますが、基本ソフト側から見れば、どれも大差はありません。つまり、基本ソフトをしっかり理解していれば、何にだって応用できるということです。そういうわけで私の研究室では、OSやシステムソフトウェアを研究し、その技術をさまざまな対象に適応・応用させることに取り組んでいます。また、せっかく大学で学ぶのですから全てを自前でつくってみようということで、現在、いくつか開発プロジェクトを進めています。

■具体的には、どういったプロジェクトがありますか?

一つは、Webブラウザをベースに開発している独自OS「Raptor」です。これはさまざまなWebサービスを提供できるようにするための基盤ソフトウェア。極端に言うと、自分でGoogleみたいなものをはじめられるというものです。また、人気のゲーム機「Wii」を使って、本来のゲーム機以上の機能を持たせる研究もしています。それから「工科大ケータイ」(以下、ケータイと表記)というものも、3年ほど前に開発しました。これは、LinuxというオープンソースのOS、つまりプログラムがどうなっているのか、すべて公開されているOSを携帯電話に組み込んで、ユーザーが自由にソフトを入れ替えられるようにした携帯端末です。今でこそ、アプリケーションソフトのカスタマイズが可能なiPhoneやスマートフォンが登場していますが、当時の携帯電話ではそういうことができるものはほとんどありませんでした。それでは面白くないなということで、いろいろなソフトを差し替えられるケータイを開発したのです。このケータイは、さまざまな可能性を試すことができる技術者のための“おもちゃ”のようなものと捉えていただければと思います。新しい機能やアイデアを何でも試してみることができる、一つの道具です。発表した当初は、社会より研究が先行していたためか反響はそれほどなかったのですが、今ではようやく時代が追いつき、企業や開発者の方に開発道具として活用されています。もちろん、私たちの研究室でもケータイを使った新たな試みに挑戦していますよ。

■「工科大ケータイ」の新しい試みとは、どんなものですか?

今、手がけているのは「A four」というケータイと接続して利用する拡張画面です。簡単に言うと、「A four」とケータイをつないで、「A four」の液晶画面にケータイの画面を映し出すというもの。「A four」はA4サイズのノートのようになっていて、開いた右側がタッチパネル、左側が液晶画面です。例えば「本日のスケジュール」や「見積もりの作成」など、ユーザーの用途に合わせてパネル内のボタンを割り当てることが可能です。また映し出すファイルは、ユーザーの会社のパソコン内にある情報です。仕組みは、会社のパソコンとケータイとをインターネットを介して接続し、会社のパソコン内にあるファイルをケータイの画面に引き出すというもの。ただ、ケータイの画面は小さく、操作には不便なので、それを拡大して大きな画面で操作しようというのが「A four」です。ですから、外出先で見積もり書などをつくるときに便利ですね。また、「A four」はファイルを拡大して映すだけですから、それ自体にデータを蓄積することはありません。作成したファイルは、会社のパソコン内で保存されています。つまり、万一「A four」を紛失しても、個人情報や機密情報の漏洩になることはないのです。実用化にはまだ時間が必要ですが、シーンとしては営業職の方や病院のカルテなどで活躍できるだろうと想定して研究を進めているところです。

■この分野を研究する魅力とは、どのようなところにありますか?

ここ20年ほどはパソコンでコンピュータを使うという時代が続いていました。ところがこの数年で劇的に、しかも急速にそれが変わりつつあります。つまりコンピュータといえばパソコンという時代は終わり、それが携帯電話やゲーム機、ネットワークでもどんどん応用されはじめているのです。今は、ちょうど時代の変わり目の時期。近いうちに、きっと想像もつかないものが出てきますよ。車や家の中、歩いているところなどが、すべてネットワークで繋がって、簡単に言えば「いつでも・どこでも」という流れになっていく。そういう将来を見越して、私はOSというものが何の役に立つか、どういうふうにその技術を使えば良いのかということを考えてきました。そうすると、幸いにも大きな変革の時期に居合わせることができた(笑)。この面白い時代に居合わせたことは私だけでなく、これから勉強する人にとっても大きな意味を持ってきます。コンピュータやそれを取り巻く社会を変えるような技術を自分たちで探し、生み出すことができる。ですから、非常に面白い分野であり、面白い時代を迎えているのです。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

今後は、これまで以上にゲーム機に注目していきたいと考えています。ゲーム機でゲームをするというのは古い話で、今やそれはネットワークで繋がっている時代。また、帰宅してソファに座ったときに使うコンピュータと言えば、やはりゲーム機です。それだけ可能性を秘めていると言えます。ですから私の研究室でも、今、学生たちが「Wii」を使って、「囁くコンピュータ」というものを開発しているところです。「Wii」のコントローラの場所を関知して、そのあたりにだけ聞こえるような声でコンピュータが話しかけてくるという装置です。これは例えば、新製品の情報を教えてくれたり、逆にユーザーが話しかけると、それに答えるということにも利用できるでしょう。また、いずれは人格を持つようなコンピュータが登場する可能性もあります。例えば、会話の履歴をコンピュータが全部覚えていて、ユーザーが「昨日の○○、どうなった?」と聞けば、「○○は△になりました」と答えてくれるというように。それは私の一つの夢ではありますが、決して遠い未来の話ではなく、半年も経てば現実味を帯びてくるレベルの話です。本当に我々とコンピュータとの関わり、生活そのものが変わるようなことが起こり得るのです。もしかすると携帯電話やゲーム機、ネットワーク以外にも何かメインとなるハードウェアが登場するかもしれません。そういう意味で言うと、この分野の研究は探険ゲームみたいなもの。面白いものがすぐ傍らにザクザクあります。ぜひ、多くの学生がそのゲームに参加し、次世代のICT社会を担ってくれればと願っています。

[2008年10月取材]

■オープンソースソフトウェアシステム研究室(田胡研究室)
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com_science_dep/60.html

・第12回、第13回は11月14日に配信予定です。