大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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「人と機械の間に入る“制御”について体験しよう」

コンピュータサイエンス学部 教授 松尾 芳樹

■先生の研究室での取り組みについて教えてください。

実は、私は2008年4月に本学へ着任し、この10月からコンピュータサイエンス学部(以下CS学部)の3年生で構成する研究室をスタートさせたばかりなのです。ですから具体的な研究テーマはまだ定めておらず、これからこの研究室をどのような方向に進めようかということで3つの教育テーマに実験的に取り組み始めたところなのです。その教育テーマに対する学生たちの関心を見ながら、今後、研究テーマを定めていこうと考えています。

■具体的には、どういった教育テーマを用意されたのでしょうか?

ひとつは、ロボットです。ZMP社の二足歩行ロボット「nuvo」(ヌーボー)を使って、学生自身がプログラミングをし、ロボットを動かしてみるという試みです。CS学部の学生は、プログラミングが得意ですから、自分たちで細かいプログラムを組むことでロボットを好きなように動かす経験をしてもらおうと思っています。また、この「nuvo」に学生が触れることで、ロボットが人とやりとりするための仕組みや実際に部屋の中を動く仕組みを、家庭の中でどう活用すればよいか、学生ならではの発想を出してくれるのではないかと期待しています。これまで工場内で溶接や塗装をするような産業ロボットは発展してきましたが、家庭に入る形で何かの役に立つロボットというのはまだありません。ですから、研究者や専門家ではなく、学生たちの目線からのアイデアを聞いてみたいのです。ふたつめの取り組みは、私が専門分野としている制御工学の基礎知識を学んでもらおうと考えています。ロボットに限らず、コンピュータで何か目に見えるものを動かすには、学問的に必要となるコア(核)の部分があります。それが制御工学です。そこにぜひ興味を持ってもらいたい。制御工学を知ってさえいれば、例えば、乗り物でも家電でも何でも動かしたいと思うものすべてに適用できますからね。
それから三つ目が、人の制御特性の解析です。コンピュータでものを操る場合、その大元は人が何らかの道具を使って行っています。例えば、車の運転が良い例です。車は人が操作して動かしています。ですから車をつくる場合、人が操ることを念頭において、どうつくれば操作しやすくなるかを考え、形にすることが大切になってきます。それをするには、人の特性、つまり人がそれを操作するときに何をしているのかを調べる必要があるのです。この研究室で実際に行おうと考えていることは、簡単な操縦用レバーで動かせる“点”をディスプレイ上に用意します。そして、その点の動き方をプログラムで変えるのです。例えば、とてつもなく重いものを動かしている設定にすると、レバーを動かす角度によって、点はゆっくりと動きますよね。逆に軽く動く設定の場合は、レバーの操作を人が加減しないと点は動きすぎてしまう。その加減するところが“人が制御する特性”なのです。事前にディスプレイ上の点の性質をプログラムしておいて、その性質を変えていきながら、どういうときに、人はどう振る舞うのかということを学生自身に体験してもらい、自分の特性を測ってもらいます。人にはそれぞれ、ある範囲のものは操れるけれど、これ以上のものは操れないという範囲があります。そういう人それぞれの範囲を身を持って知ることで、何か機械を設計するときには人の特性を考えないといけないのだと分かりますし、コンピュータで操るとしたらどうすれば良いかということも分かる。そうした制御工学の基本的な考え方を体験してもらいたいのです。

■制御と聞くとコンピュータや機械ばかりを想像しがちですが、人間もそれと大きく結びついているのですね。

制御は、人と機械の間に入るものですからね。例えば、人と一緒に何か作業をするロボットをつくりたいと思えば、その作業を一緒にする相手は子供なのか、工場の熟練者なのか、あるいは主婦の方なのか。そういうことを考えるときにも制御の考え方は役に立ちます。もちろん自動制御という範囲もあって、それはオートメーションとして工場などの産業分野で非常に発展しています。ただ、オートメーションのように人がいなくても勝手に動く機械をつくるとこは、ある意味では簡単なのです。もっと言えば、人が機械に関わるから難しくなる。だからこそ私としては、“人がいる”ということを前提に考えたいんですよね。そのために私自身のバックグラウンドである制御工学に基づいて、実際に人とロボットが触れ合ったときの感覚、力の感覚、運動の感覚に注目して研究をしているわけです。

■では、先生にとって制御工学の面白さとは何でしょうか?

コンピュータでものを制御するというのは、「柔能く剛を制す」じゃないですが、すごく小さなものや目立たないもので大きなものを操るというイメージがあります。本当に肝になるところをちょっといじると、振る舞いが大きく変わったりする。なんだか良く分からないものなのに、それがないと動かないとか、そこをきちんとつくるとよく動く。制御とはそういうものなのです。そこのところに一番、面白さがあるのではないかと思いますね。

■最後に、今後の展望をお聞かせください。

先にも触れましたが、制御というのは一時期、自動制御として人の代わりをすることで発達してきました。けれども、やはり生産現場では人が手がけた方が良い部分もありますし、人を排除するのではなく、人が楽しく働けるような形をめざす方向にも進んできています。このように人とシステムや機械との関わり方はどんどん見直されてきて、少し前までの人が機械から切り離されていく考えとは違ってきています。そして今後、それらはどんどん人の生活に溶け込んでくるはずです。ですから私の基本的な希望としては、人の性質を良く知って、良いものをつくっていきたいというところですね。また、私の恩師の一人は「制御は騎馬民族だ」と表現していました。自分の畑を耕していくような研究スタイルではなく、自分たちで外にテーマを取りに行かなければならない研究スタイル。何かを制御してみせようと思ったら、その何か対象となるものを自分で探しにいかなければならないのです。例えば「nuvo」というロボットを制御したいと思ったら、まずはロボットについて理解しなければなりません。そこにどっぷりと浸かって知識を得て、2年も経てば、ロボットについて語れるようになっていないといけない。このように制御する対象の世界にもすっと入っていけるフットワークの軽さを求められるところは、制御工学の文化という気がします。CS学部の学生たちもぜひ“騎馬民族”となって、さまざまなものに興味を持ち、手を出してほしいと思っています。自分の守備範囲を決め込まず、苦手な分野があっても挑戦してみてほしい。ロボットに触れて、それを動かすことが、そうした挑戦のきっかけになればと思っています。。
[2008年11月取材]

■自律協調ロボット研究室(松尾研究室)
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com_science_dep/152.html

・次回は2月13日に配信予定です。